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異世界を救ってしまった。

6話 もう始まってんのかい

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「おっ、どうやら目を覚ましたみたいだな?? 体調は大丈夫か?? 随分とうなされていたみたいだけど」
 
「……何のつもりだ??」
 
 意識を取り戻した男は怪訝そうな表情を浮かべながら俺を睨む。
 
「何のつもりって……目の前で急に倒れたんだ、普通は心配くらいするだろ??」
 
「心配だと?? 俺はお前を殺そうとしたんだぞ?? それなのにっ」
 
「そんなの別に大した事じゃないさ。 この通り、俺は元気なままなんだからな」
 
 男の言葉を遮って俺は出来る限り余裕そうに振る舞った。
 
 
 正直、めちゃくちゃ大した事だけどな。
 殺そうとしたってか実際2回くらい殺されたし!! 
 言っとくけど今でも自分の首が本当に繋がってるのか不安なんだからね??
 こいつが目を覚ます前に何度逃げ出そうと考えた事か!!
 
 ……まぁでも折角、人に会えたんだ。 
 今はとにかく情報が欲しい、こいつが俺の力を勘違いしているうちに聞ける事は聞いておきたいからな。

 う、上手くいけば俺の偵察任務も終わるかも知れないしっ。
 
 
「大した事じゃないか……ははっ、あんた見た目によらずとんでもない奴なんだな」
 
 俺の言葉に男は少年の様な笑みを溢す。
 
 
 し、慎重に話を進めよう。 何処に地雷があるかわからないからな。
 
 
「た、体調は大丈夫なのか??」
 
「ん?? あぁ、あんたのお陰で少し休めたし問題ないよ、ありがとうな。 
 それから……悪かったな、こんな場所で人に会うとは思ってなかったから少し混乱してたみたいだ」
 
「気にしなくて良いさって言いたい所なんだけど、良かったら少しだけ話を聞かせて貰えないか??」
 
「話??」
 
「あ、あぁ。 実はさ、俺はここが何処だが全く知らないんだよね」
 
「知らないだとっ?? この場所を??」
 
 俺の質問に男は目を丸くして続ける。
 
「も、もしかして本当にこの国の人間じゃないのか?? 
 だとしたら一体どこなんだ??」
 
「うっ……それはっ」
 
 
 どうしよう?? もういっそ正直に話そうかな?? いや、流石に全部話すのは不味いか?? 
 とは言え下手に説明しようとすればボロが出そうだしなぁ……異世界転移して来ましたくらいなら大丈夫か??
 ここを統治してる奴も転生者なんだしある程度は通じるだろ。

 ……良しっ!!  目が覚めたら異世界転移してましたって設定で行こう!! 記憶は曖昧ですって感じで!!
 
 
 呼吸を整え男の顔色を伺いながら話す。
 
 
「ま、まぁ隠す意味も無いよな。
 俺はこの国の人間どころかこの星の人間じゃないんだ、多分全く別の世界からここへっ」

「ば、馬鹿な。 あ、ありえないっ!! この星に異世界から人が来れる訳ないだろ??
 あの選別結界を通り抜けて来たって言うのか??」
 
「選別結界??」
 
「そうだ。 本来どの世界の人間、いや人間に限らず命を宿す者には必ず少量の魔素が組み込まれてる。 
 選別結界はその僅かな魔素を測定し部外者を決して通したりはしない!!
 無理に通れば身体の内側から魔素を吸い取り、対象者を絶命させる。 それ程に強力な結界なんだぞ??」
 
「へ、へぇー、凄い結界なんだな」
 
 

 ……魔素に嫌われてる俺しか行けないってのは本当だったんだな。  
 ってか命を宿す者には必ずあるってやめてくれない?? その説明だと俺、最初から死んでるみたいじゃん。
 こんなレアリティ嬉しくないんだけど。
 
 
「ほ、本当なのか?? まさかあの結界をすり抜けて来るとはっ……あれは父上が作った最高傑作とも呼べる魔法。 
 神でさえ干渉できないと言われていたのにっ」
 
 男は口元に手を当て、「信じられない」と「ありえない」を交互に何度も呟いていた。
 
 
 ……やっぱ異世界転移してきましたなんて言うべきじゃ無かったかも。 
 なんか大事になりそうだし、何より結構ショック受けてる様に見えるもんな。 
 
 まぁお父さんの最高傑作が俺みたいなただの人間に突破されたら誰だってっ……お、お父さん??
 

 不意に聞こえたその単語に俺の額から一気に汗が噴き出す。
 

「よ、良かったら名前を聞いても良いかな??」
 
「えっ?? あぁ、これはすまない。
 まだ名乗ってなかったな、俺の名前は『アザミレア・ユーノスター』ここで会えたのも何かの縁だ、気軽にユーノって呼んでくれて構わない」
 

 ……アザミレア?? アザミレアってあのアザミレア?? ラスボス候補のアザミレア?? うわぁ、なんかゲシュタルト崩壊しそう。
 

 って今はそんな事考えてる暇ないだろ!! えっ?? つまり俺は敵の息子にエンカウントしたってこと?? 
 いやいやいや、どんな確率だよ。 そんな訳ないだろ、たまたま名前が同じだけでっ。
 
 
「どうした?? 顔色が悪いぞ?? も、もしかして君がいた星も父上に??」
 

 その瞬間、俺とユーノの間に不穏な空気が流れ始める。
 

 
 うん、もう間違いないね。 こいつ完全に敵じゃん、目が覚めるまで待たなきゃ良かった……こんなの絶対殺されるじゃん。 
 思いっきり地雷を踏み抜いちゃっ。
 
 
「す、すまなかった!!」
 
「えっ??」
 
 
 今度こそ死を覚悟していた俺にユーノは勢い良く頭を下げる。
 
 
「お、俺なんかが謝って済む問題ではないのはわかっている。 
 俺の父は数々の異世界を蹂躙した、その反応を見るに君の星もその内の一つなんだろう?? 父の暴走を止める事が出来なかった事、本当に申し訳なく思っている!!」
 
「止める??」
 
「……あぁ、信じてもらえるかはわからないが俺は父の政策には反対なんだ。
 この国だけでも十分に豊かな生活が出来るのに父上の欲望は留まる事を知らない。 全ての星と国を手中に治めようなどと傲慢な考えをっ」
 
 ユーノは下唇を噛み悔しそうに言葉を詰まらせる。 
 
 
 な、なるほど、この国にも色々あるんだな、それにしてもまさか息子が反対派だったとは……た、助かったぁー。
 
 
「ユーノが謝る事じゃないさ、全ては父親の責任だろ?? ユーノは関係ない」
 
 
 ビビっていた内心を悟らせない様に俺は優しく語りかける。
 
「……優しいんだな、なぁ、君の名前も良かったら教えて貰えないか??」
 
「ご、ごめん、俺の名前は福吉円人。 円人って呼ばれる事が多いな」
 
「良い名だな、でも折角だから他の人とは違う呼び方にさせて貰うよ。 
 そうだな、まどかなんてどうだい??」
 
 
 ……何故??
 
 
「嫌だったか??」
 
「あっ、嫌ってわけじゃ無いんだけどっ」
 
「じゃあ決まりだな。 宜しく頼むよ、まどか」
 
「お、おう」
 
 爽やかな笑顔を浮かべるユーノに俺は頷く事しか出来なかった。
 
 

 
「ひょっとしてまどかは日本人なのか??」
 
「ん?? あぁ、そうか。 アザミレアも元は俺と同じ日本人なんだもな」
 
「その通りだ。 少し疑問なんだが父上はまだ地球とやらには行ってなかったと思うんだが、まどかは一体何処で父上の話を??」
 
 
 す、鋭いな、まぁでも今なら全部話しても良いか。 ユーノが嘘を言っている様には見えかったしな。
 それにもしかしたらこれは俺史上最大の幸運な気がする。
 ユーノならアザミレアのこれからの動きを知っている可能性は高いからな。
 
 
「実はっ……」
 
 
 俺は今回の異世界転移の経緯をユーノへと説明した。
 
 
「……なるほど。 まどかは父上の動きを探る為にここへ来たのか。
 なら俺は出来る限りの協力を約束しよう、俺にわかる事なら何でも答えるさ」
 
「ほ、本当か??」
 
「あぁ、俺がやりたかった事もまどかと同じだからね」
 
「同じ??」
 
「異世界への侵略を止める事さ!! 流石に今回は間に合わないかも知れないけど次は必ず止めてやる!! 
 これ以上あの暴君の犠牲者を増やしたくないんだ」
 
「あ、ありがとう!!」
 
 
 俺はユーノへ頭を下げた。 
 
 
 ま、まさかこんな簡単に目的を達成出来るなんて!! 
 
 今までの異世界での出来事が嘘みたいだ、考えればこんなに運が味方をした事なんて無かったもんな!! 
 もしかして選別結界ってのと相性が良いのか?? ユーノは神でさえ干渉出来ないとか言ってたし!! 
 

 はんっ!! 見たか、異世界の神様とやら!! お前らが居なきゃ俺だって幸運を得られるんだからな!!
 

 今までの鬱憤を晴らす様に俺は天に向けて心の中で叫んだ。
 
 
「ど、どうした?? 何かあったのか??」
 
「あっ、ごめん。 急にムカつく相手を思い出して」
 
「そうか……まぁ良いか。 じゃあ早速だがまどかが居た星の名前を教えて貰えるかな??」
 
「あぁ、それはっ……」

 
 俺はその続きの言葉が出なかった。
 
 
 あの星の名前を知らない事に今更気付たけど、問題はそっちじゃない。
 

 ……さっきのユーノの奴『今回は間に合わない』って言ってなかったか??
 
 
「ち、因みにだけどさ、ユーノはさっき今回は間に合わないって言ってたよね?? それって何処の星なんだ?? 本当にもう間に合わないの??」
 
 俺は恐る恐るユーノへ訪ねた。
 
「す、すまない、名前は私も知らないんだ。
 ただ、昔この国に来た魔女が作ったとされる星だと聞いている」
 

 ま、魔女ねぇ。
 
 
「そしてこれも申し訳ない話なんだが、間に合わないのも事実だ。
 既に父上は軍を率いてこの国を出発したからな、恐らくもう戦いは始まっているだろう」
 
 
 つまり、俺と入れ違いって訳だ。



 ……あれ?? 俺ここに何しに来たんだ??
 

 
 全然幸運な状況じゃない事を悟った俺は天に向けて頭を垂れた。
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