上 下
112 / 156
勇者に出会ってしまった。

20話 亜麻色の髪の少女

しおりを挟む

「……暇だな」
 
 おっさんとの動物園デートから3日後、俺は1人で自室のベットに寝転がっていた。
 
 この3日間、何か青蜜達の手助けになる事は無いかと色々考えたけど結局何も思いつかなかったからだ。

 せめて連絡くらいは取れないかと考えたけど、青蜜達も流れに身を任せて勇者に着いて行ったからか、誰とも連絡は取れなかった。
 
「リアから貰ったスマホも使えないとなれば打つ手なしか……結局俺1人じゃ何も出来ないんだよな」
 
 おっさんもあれから帰ってこないし……こうなったら信じて待つしか無いよな。 
 青蜜達なら何だかんだ上手くやってくれるだろうしな。 
 
「ふぅー、そろそろ時間だし行こうかな」
 
 自分の無力さを痛感しながらも、その気持ちを振り払うようにベットから立ち上がり、勢いのまま俺は外へと出た。
 
 
 
「今日も暑いな。 少し歩いただけなのに汗が止まらん」
 
 20分後、目的の場所へと着いた俺は近くにあるベンチへと腰を下ろす。
 
「11時50分……そろそろか」
 
 青蜜達の事を思い出してから俺は毎日この公園へ来ていた。
 
 リアが教えてくれた地球の走馬灯ってのを見る為だ、それが青蜜達の今の状況を掴める唯一の方法だからな。
 
 ……まぁわざわざ公園まで来なくても家の前で見れるんだけどさ、正直言って結構怖いんだよね。 
 初日なんて思わず叫んじゃったもん、この公園なら結構広いし近くに家もないから、いざって時に大声出しても大丈夫だからな。
 

 さてと一昨日から見てる感じだと、青蜜達の方もあんまり上手くはいって無さそうだったけど今日はどうだろうか。
 
 緊張をほぐす為か、そんな言い訳を考えながら俺はスマホの時計と公園の風景を交互に見ていた。
 
 

 そんな状況から20分程経った頃、俺の目の前には最早見慣れた生物が佇んでいた。
 
 
「……うん、やっぱり青蜜達も大変なんだな」
 
 目の前の生物は、その大きな口を全開にし当然と言わんばかりに俺に近付いてくる。
 

 いつ見ても怖いなこいつ……ってかおかしくない?? 
 あっちも俺の姿見えてるの?? 何で毎回俺の事食べようとしてくるの??
 もしかして俺ってティラノさんにも嫌われてんの?? 
 いくら映像だって言われてもこのシチュエーションだけは絶対慣れないわ!! 
 
 迫り来る最強生物の圧力に俺は身体を一切動かす事が出来ず、なす術も無く頭を差し出した。
 
 恐竜に頭を喰い千切られる体験なんて普通は一回で十分なんだけどな……何で俺だけ4回もしなきゃいけないんだろう。 
 せめてもっと良い走馬灯見てくれないかな、地球さんさぁ。
 
 
 生まれ育った星に不満を抱きながら俺は慣れた手筈で気を失った。
 
 
 

 
「……はっ!!」
 
 俺が再び目を覚ました頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
 
「今日は随分と長い間気を失ってたみたいだな……なかなか耐性なんてものは簡単に付かないもんなんだな」
 
 いや、気絶の耐性なんて要らないか……ま、まぁ、状況判断がすぐ出来る様になったって意味では便利かも知れないな。 
 さて、じゃあ帰るとすっ。
 

「……ようやく起きたと思ったら随分と変な事を言うのね。 まぁ良いわ、それより重いから退いてくれない??」
 
「えっ??」
 
 突然聞こえたその声に俺は素直に驚いた。
 
 誰だ?? いや、それよりも今の声どこから聞こえたんだ?? 
 なんか凄く近くから聞こえた様な気がしたけど。
 
「ねぇ、聞いてるの?? 私は退けてって言ってるんだけど??」
 
 退けて?? 何言ってるんだ?? 俺はベンチに座ってるだけだろ?? 
 ってあれ?? なんか視界が変だな……随分と地面が近く感じる。
 
 俺は困惑しながら声の主を探す。 
 
「ちょっと!! あんまり動かないでよ!! 横よ、横!! とりあえずこっち向きなさい!!」

 横??

 俺はその声に釣られる様に顔を動かした。
 
「……えっーと、誰??」
 
 俺の視線の先に居たのは、見た事も無い少女だった。
 
「だ、誰ですって?? 何なのこいつ!! 信じられない!! 
 目が醒めるまで待ってやってたのに第一声がそれ?? 本当最悪、だから嫌いなのよ!! もうさっさとどっか行ってよ!! 邪魔なんだから!!」
 
 え、何で怒ってんだ?? ベンチに座ってただけでこんなに怒られるなんて納得できなっ……ん?? 
 ってか顔近くない?? それにやっぱり変だぞ??? 
 何でこの子、顔が横向きになってるんだ??
 
 ………あれ?? もしかしてこの状況って。
 
「ひ、膝枕されてる??」
 
「……どうやら今になってようやく状況が理解出来たみたいね。 それで?? いつまでこうしてるつもり??」
 
 その言葉に俺は急いで体勢を変えて立ち上がり、その流れで頭を深く下げた。
 
「ご、ごめん!! いや、すいませんでした!! 本当にっ、本当に申し訳ありませんでした!!」
 
 や、やってしまった!! まさか気を失ってる間にこんな状況になってるなんてっ!! 
 どうしてこうなったのかはわからないけど、とりあえず全力で謝ろう。 
 
 さっきは薄暗くてあんまり見えなかったけど、多分この子は中学生くらいだと思うもん。 こんなの事案だよ、下手したら社会的に終わりだぞ俺。
 
「……はぁー、そんなに謝らなくても別に良いわよ。 元々先に座ってたのはあんたなんだしね。 
 気を失ってたのだって何か理由があるんでしょ?? 怒ってないから顔をあげたら??」
 
「ほ、本当に怒ってないのか??」
 
「本当だってば。 それに私も少し言い過ぎたからこれでお相子って事にしましょう??」
 
 ……よ、良かった。 マジで助かったわ、今の時代にこんな天使みたいな子が居るんっ。
 
 顔をあげた瞬間、俺の思考は完全に止まってしまった。 
 
 俺の目の前には文字通り天使みたいな少女が座っていたからだ。
 
「どうしたの?? 私の顔に何かついてる??」
 
 街灯に照らされたその表情は幼いながらも何処か妖艶な雰囲気を醸し出している。
 
「い、いや、別に……」
 
「そう、なら良いわ。 で?? 貴方は一体何してたの??」
 
 肩にかかる程度の亜麻色の髪を靡かせ、まるで雷が住んで居る様な黄色の瞳を俺を向けた。
 
「えっ?? あぁ、別に何もしてないんだ。 ただベンチに座ってただけで」
 
「な、何もしてない?? 何もしてないのに気を失ってたの?? あははっ、何それ!! 貴方って馬鹿なの??」
 
 うっ……確かに何もしてないのに気絶してたって馬鹿みたいだな。 
 でも正直に言った所で尚更馬鹿にされるだけだしな。 
 ここは我慢しよう。


「まぁ良いわ。 ねぇ、折角だしもう一回ここに座ったら?? 
 丁度私も暇してたの。 お兄さんの話、良かったら色々と聞かせてくれないかしら??」
 
「……えっ??」
 
 
 少女の思い掛けない提案に俺の心はいつも以上に戸惑ってしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...