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ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。

8話 二人目の聖女候補

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 死にたい……。 
 まさかまた声に出して叫んでいたとは、こんな事今まで一回も無かったのに……。
 
 青蜜に頬をビンタされるまで全く気付かなかった。 
 今回ばかりは暴走を止めてくれた青蜜には感謝せざるを得ない。 
 
「ま、まどかよ。 そ、そんな顔をするでない。 過ぎてしまった事は仕方ないではないか。
 それにお主はまだ高校生なのじゃし、あれぐらい普通だと思うぞ?」
 
「そ、そうですよ! 私は何とも思ってないですし、むしろ褒められて嬉しかったですよ?」
 
「ほ、本当に??」
 
「ええ、あっ! でも流石に褒めすぎですよ! ……私も恥ずかしかったんですからね!」
 
 可愛い。
 顔を赤らめて言う彼女の可愛さは、俺の人生最大の失態を塗りつぶすには十分な程に眩しかった。
 
「ありがとう、結衣ちゃん」
 
「い、いえ!! とんでもないです!
私の方こそありがとうございます」
 
 優しい。
 本当に優しくて良い子だ。 こんな人間が存在して居るなんて中学生の時は考えられなかった。
 
「なぁ、まどかよ。 わしにはお礼はないのか?」
 
 刻惣ときふさ結衣ゆい
 初めてその名前を見た時は、難しい漢字の子だなとしか思っていなかったけど、今なら目を瞑っても漢字で書ける。
 
「え? 無視? 酷くない??」
 

 彼女も青蜜と同じく俺のクラスメイトだ。
 活発的な青蜜ほど注目を集めてはいないが、もし彼女が違う学校に通っていたなら確実に青蜜よりも人気になっていただろう。

 入学当初、色眼鏡で見られていた俺に最初に話しかけてくれたのもこの結衣ちゃんだった。
 
「……もう駄目じゃなこれ。 すまんのぅあかね殿。 もう一発お願いできるか??」

 勘違いして欲しくないのは、俺は結衣ちゃんに恋愛感情を持っているわけではない。 
 純粋に尊敬しているのだ。

「基本は青蜜みたいなビッチばかりのあの学校で、いや世の中全ての学校を見てもこれほどまでに清純さを保っている女子高生など他には存在しないだろう。
 その奇跡が素晴らしい!!

 俺は彼女を一人の人間としてではなく、もはや神の様な存在と思ってるのだ。 

 あぁ! 神様、さっきは青蜜如きを贔屓してるなどど言って申し訳ありません! 
 貴方様が作った最高傑作は間違えなく目の前にいる聖女!!
 刻惣ゆいでしっ」
 
「誰がビッチだぁ! この腐れ童貞がぁ!!」
 
「ごぼぁっ!!」
 
 急に目の前に現れた拳は俺の左側頭部を完璧に捉えた。 

 その衝撃はさっきのビンタとは比べ物にならない程強く、俺の意識は一瞬この世界から飛ばされかけた。
 
「なっ、何しやが」
 
 いきなりの出来事に文句の一つでも言ってやろうと思ったが、それ以上続きの言葉が出て来なかった。

 俺の視線の先には一人の女が、いや鬼が居たからだ……。
 
「まどかちゃんさ、調子乗るのもいい加減にしときなよ? 
 普段は物静かの癖に今日はなんだか、随分とおしゃべりじゃない?

 それに今、事もあろうか私を事を青蜜ごときですって呼んだかしら??」
 
「あ、いや、その……」
 
「何??」
 
「す、すいませんでした! 大人しくしているので許してください!!」
 
「お願いしますは??」
 
「お、お願いします!!」
 
 こ、こえぇ。 なんだこの威圧感……こいつ絶対何人か殺してるだろ!!
 
「分かれば良いわ。 だけどもし次に私を馬鹿にする言動をとった時は」
 
「し、しません! 絶対に! 二度と!!」
 
 俺はひたすら頭を下げた。 
 
 今になっておっさんの気持ちが痛いほどよくわかる。 
 自分でも情けなくて惨めだと分かっていても人は恐怖には勝てないのだ。
 
「ふんっ」
 
 青蜜は俺から視線を外し、そのまま背を向けて元いた場所に戻っていく。

 どうやら今回は許してくれたみたいだ……よ、良かったぁ。
 
 それにしてもまたも頭の中で考えていた事が声に出ていたみたいだ。  

 流石に三回目となると何かおかしくないか? 
 いや、そもそも一回目からおかしいのでは??
 
「さ、さてと。 まぁ色々あったがとりあえず一段落ついたと言う事にして、そろそろ本題に移ろうではないか!」
 
 おっさんは俺の事を気遣ってか、咳払いをして場の空気を調整してくれた。

 なんだかんだ優しい所もあるよな、このおっさん。 
 
 それにおっさんの言う通りだ。
 今は取り合えず最初の目的をついて話すのが先決だ!

 俺の疑問についてはまた後で確認する事も出来るだろうしな。
 
「やっと始まったわね。 で、一体これはなんの集まりなの? こいつを含めてだけど一様、聖女が三人集まったからこれからの予定でも話し合うって事なのかしら?? まぁでも正直言って聖女の仕事も世界を救うのも私一人居れば十分だと思うけどね」
 
 本当にやる気十分だな、こいつ。

 それにこれは俺が言えた事じゃないが、良くこんな恥ずかしい台詞を真顔で言えるな……。
 数年先に後悔しても知らないからな。

 はっ! やばい!! 今の俺は気付かないうちに思った事を口に出す可能性が
あるんだ。
 青蜜に対する意見は心の中であっても禁句にしておくべきだ。

 ……まぁそんな事出来ないと思うが、とりあえず意識だけはしておこう。

「まぁ、そう言わずに聞いてくれ!
 そうじゃなー。 く、詳しくはまどかくんから話して貰おうかのぅ??
 今回、皆に集合を呼び掛けたのは彼じゃからな」  
 
 おっさんの言葉にその場の全員が俺に視線を向ける。 
    
「……は?」
 
「ほ、ほれ、まどかくん後は頼んだぞ」
 

 ……こ、このくそじじい。 全部俺に丸投げしやがった!! 

 随分優しくしてくれてると思ったらこれが目的だったのか!

 どうやら俺はおっさんの事を一つも理解出来てなかったみたいだ……。

 おっさんはただのポンコツじゃなかった。
 悪知恵の働くセコいポンコツだったのだから。
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