Non Piangere

針野えんじゅ

文字の大きさ
上 下
29 / 41
第八章 交錯

従者の意思

しおりを挟む
 「リウ様に会えないって、どういう事ですか!」
 牢へ続く扉の前、シュレアの声が響き渡る。シュレアは扉の前に立つ兵、リクシュアーレと対峙していた。彼女は殺気を隠す気もなく、邪魔をするなら殺すとでも言うかのような形相であった。
 しかし、それに対しリクシュアーレはあくまで冷静に、淡々と事情を説明した。
 「これはリウ様がうちの兵に言ったことだそうだ」
 そこまで言って、ああ、と思い出したように付け加える。
 「今は"リウ様"じゃなくて、"七百四番"だったか」
 「リウ様をそんな数字なんかで呼ぶな!!!!リウ様は…リウ様は…!」
 シュレアが掴みかかり、叫ぶ。リクシュアーレはそれをただ見下ろし、口を開いた。
 「シュレア、お前の思いは痛いほど分かるさ。俺だって信じられないんだから。けれど、彼女は今は罪人なんだ。罪人は番号で呼ばれる。お前だってよく知っているだろう?」
 「…っ!!」
 シュレアは言い返すことが出来なかった。シュレアも以前はこの城に捕えられた"犯罪者"であったから。
 今から5年前。当時、15歳であったシュレアは指名手配犯として城に捕えられていた。罪状は、ミレイユにおいて、王族に次ぐ権力を持つ貴族を殺そうと試みたことであった。しかし、それは冤罪であり、その事に気づいた当時12歳のリウが、リクシュアーレ協力のもと、冤罪を証明し、シュレアを釈放。また、当時裏路地で寝床もろくに無い生活をしていたシュレアを城で働けるように掛け合ったのだ。
 この件についてリウに聞くと、「夢で"冤罪の女の子が捕まった"って教えて貰ったの」と口にして、周りがそんな馬鹿なと何度も聞いてみたが、答えが変わることは無かった。
 冤罪が証明されたとはいえ、裏路地出身の者がいきなり城で働くことになり、しかも姫のお気に入りということが周りに不満を抱かせ、城内でシュレアに対するいじめが起きていたが、リウがシュレアの腕にあった傷に気づいて対応。そして今現在の、姫付きの従者として働くに至っている。
 言ってしまえば、リウはシュレアにとっての恩人であったし、見ず知らずの自分にそこまでしてくれたリウに依存してしまっていた。
 そんな彼女が捕えられ、自分と同じような扱いを受けているのだと思うと、シュレアはいてもたってもいられない気持ちだった。
 「そうだ、リクシュアーレ!リウ様を牢から連れ出しましょう!リウ様が私を助けてくださった時みたいに!」
 「それは、姫による命だったからできたことで、そもそも、七百四番はあんたとの面会を拒否してる。それがどういう意味か、考えてみろ」
 自分の恩人が、自分との面会を拒否する理由。それはきっと、自分に何か問題があるからで。そこまで考えると、思考が停止する。それ以上を考えられない。考えたくないと脳が拒絶反応を起こす。体が小刻みに震え、額に汗が浮かぶ。
 シュレアのその様子を見たリクシュアーレは声をかけた。
 「今は待て。あんたは彼女を信頼しているんだろう?彼女にだってなにか考えがあるかもしれない。あんたが今出来ることは、信じて待つことだ」
 その声を聞いて、シュレアの脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
 "私がシュレアを守ってあげる"
 それは、シュレアを専属の従者につけた時のリウの言葉。リウが約束を違えるはずが無いと、そう信じて、シュレアは自分の両頬をバチンと叩いた。
 「切り替えたか?」
 「信じたくないですけど、あなたのおかげでスッキリしました」
 「そりゃよかった」
 いくつかリクシュアーレと言葉を交わして、シュレアはその場を後にした。
 今、自分に出来ることは、リウが帰ってきた時、いつもと変わらない笑顔でお会い出来るように振る舞うこと。ここで自分が動揺してしまっては、周囲にリウの罪を肯定することになる。
 シュレアは背筋を伸ばし、まだじんじんと主張する頬の痛みを感じながら、堂々と廊下を歩き、業務に戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...