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第一章
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しおりを挟む「だって、それはっ
事故、みたいなもので…」
そうだ、彼らは知っているんだ
僕達の罪を
「だとしても、何も知らなければ
言われても仕方ない事だ
一応、当時の状況を説明はしたが
理解できないと言われた」
さすがのシリルもため息を吐いた
僕達は、一度サラを捨てた
あの時の事を思い出し、腹の底に沈んでいた何かが
ドロリと蠢きだす
凍てついた洞窟
肌を刺す冷たい空気
白い服を着て横たわるサラ
松明の炎が消えてしまえば真っ暗で
水の滴る音だけが耳元で響く
ピチャン ピチャン ピチャン
「カミュ、大丈夫か?」
肩に置かれた手の温もりに
過去に沈んでいた意識が引き戻される
だけど、ドロドロした何かが蠢いていて
体を這い回る不愉快感に顔が歪む
「すまない、あの時一番心を痛めていたのは
お前だったな」
あの時受けた衝撃は忘れられなくて
こうも簡単にあの日の記憶に飲み込まれてしまう
「シリルの、せいじゃ、ないから…」
何とか声を絞り出す
手をポンポンと叩かれ、自分の手が白くなる程
握りしめていた事に気づく
「あの時程、己の無力さを感じた事は
なかったな…」
シリルでも、そんなこと思うんだなと
憂える顔をぼんやりと眺めた
「幸い、サラは生きて帰ってきた
何もできずに後悔した分、これからはなんでも
するつもりだ」
すぐに気持ちを切り替えたシリルが
こちらをまっすぐ見つめて言い切った
強い意志を宿す、その目
蠢いていた何かが、鳴りを潜めた
何もできずに、後悔…
思い浮かぶのは彼らの事
もう会わなかったら、後悔、するかな?
後悔するぐらいなら、彼らに会ってもいいのかな…
シリルの役にも立てるなら
頑張って、みようかな
「やっぱり、二人に会いに行こうかな…」
「無理はしなくていいんだぞ?」
「うん、シリルに虐待されてないって
伝えるのも、立派な理由でしょ?」
「違いない」
いい言い訳ができたとほくそ笑むと
シリルも同じように笑い返してくる
「では、支度でき次第行くか」
・・・今日もこの展開なんだね…
シリルが出ていき、代わりに入ってきたロウに
身支度を手伝ってもらう
おかしな所がないか、鏡の前に立って
チェックしていると、青白い肌に痩けた頬をした
いつもの顔がこちらを見ていた
痩せているせいで目だけがギョロッと大きく見える
ロウがこまめに手入れしてくれているおかげで
髪にはまだ艶があるが、少しダボついた服から
のぞく首や手は細く筋張っている
これじゃあ、虐待されてると思われても
仕方ないよね
彼らに、何とか伝えなきゃ
ロウにもOKをもらい、隣の部屋に行くと
シリルが悠然と座って待っていた
「できたか」
切長の目がこちらを見る
エメラルドグリーンに輝く瞳は生気に溢れ
艶めく亜麻色の長い髪が上品に顔を縁取る
血色の良い肌に、均整のとれた体格
鏡に写った自分との違いに愕然とした
これまでも、羨ましいと思うことはあった
その度に、仕方ないと言い聞かせてきたのに
今日は、なぜかこんなにも胸を抉る
並びたく、ない…
「カミュ、どうした?
体調が悪いのか?」
「あっ、なんでもないよ
ちょっと会いに行くのが不安になっただけ」
ドロドロした醜い感情を悟られたくなくて
とっさに笑顔を貼りつける
「本当に大丈夫なんだな?」
「うん、大丈夫」
いつも通りを心がけるけど
うまくできているか不安になる
こんな時、僕はどんな顔をしていただろうか…
いつも通りにしようとすればする程
どうしていたか、わからない
「・・そうか、
では、行くか」
シリルが背を向け、ほっと息を吐く
こうして、どんどん偽りを積み重ねていく
いつまで続くのだろうと、気持ちが沈む
だけど考えるのが怖くて
不安から逃れるように歩き出した
客人の部屋の前、シリルがノックしようとする
その手を見て思い出す
「あっ」
シリルの手が止まった
「どうしました?」
「えっと、急に開けるのはびっくりしないかな…」
あぁ、と納得した顔をして今度こそノックをした
コンコンコン
「カミュ様をお連れした
開けるぞ」
扉を開けようとするシリルの腕に
ガシッとしがみつく
「あのっ、返事するまで待った方が…」
「お言葉ですが、返事を待っていたら
いつまでも入れませんよ?」
「そうなの?」
ガチャッと扉が開く
「入るが良い」
「あ、うん」
扉の前で話していたからか
ディーを抱えた彼が迎えてくれた
シリルが引いてくれたイスに腰掛けると
彼らは僕の正面に座った
やっぱりディーは膝の上で、決して離れない
「熱、下がったか」
「あっうん、大丈夫
ディーは、まだ具合悪いの?」
「寝てる」
「そっか、ご飯は食べれてる?」
「あぁ、其方、食べているか?」
「僕?
えっと、食べてるんだけど、あんまり
量食べられないんだ…」
「・・何故、洞窟来た」
穏やかに話せていたのに
一気に心が凍りつく
「言えぬか?」
「あっ…」
語気が強まり、彼の苛立ちを感じる
だけど理由を言えば、そんなはずないだろうと
笑われるだろうか
それとも、嘘を吐くなと怒らせる?
彼の反応が怖くて、声が出ない
「サラの泣く声が聞こえたそうだ」
ヒュッと、息を飲む
なぜかシリルが答えてしまった
「本当か」
嘲りも怒りも感じない声は、彼が何を
考えてるのかわからない
でも、誤魔化しようもなく、恐る恐る頷いた
「そうか」
「えっ?」
「何故、驚く?」
「えっと、信じて、くれるの?」
おずおずと彼を伺えば、無表情のままで
相変わらず感情が読めない
「幼な子泣く声、聞いた」
彼にも聞こえたという事だろうか
「でも、ここじゃあ聞こえないと思う…」
「血族有る事だ」
血族?
それならばシリル達の方が近いけど…
「・・そう、なんだ」
これ以上聞いたら、ややこしくなりそうで
考えるのをやめた
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