・・その狂気は伝染する・・

第三章 狂気と共に明ける明治維新

15代将軍徳川慶喜の決断127

　住職は温かいお茶を慶喜に差し出した。

　「慶喜様、このお茶の茶葉は徳川吉宗公所縁の物でございます。吉宗公は質素倹約令を出し家臣、民の支出を抑えさせそのぶん蓄えをしてもらうという奨励をしたのはご承知でしょう？しかし、そのぶん楽しみを増やそうと江戸のあちこちに桜を植え梅の木を植え、そしてお茶を栽培し、人々に提供したのです。その茶葉を使ったお茶です。」

 慶喜は話しを聞きながら茶をすすった。

　「俺なんかと違う立派な名君だったんだろうな。徳川吉宗は。俺はいったい何をしてきたんだろうか、今更手遅れだが・・」

 慶喜の目から涙が滲み出はじめやがて大粒の涙となり、人目をはばからず大声で泣き出した。

　「慶喜様、慶喜様、泣きたいなら思いっきり泣きなされ。」

 住職は全てを悟ったかのように慶喜の背中をさすりながら言った。

　外にいる警護の兵士らは何事かと中を見るとその我等の主君が大声で泣いてる姿を見て愕然としていた。

　「お、おい、慶喜統領が泣いてるぞ。」

    「なんて姿だよ。哀れだな・・警護なんか馬鹿らしくなってきたな。やめておっ母がいる家に帰るわ。」

 そう言うと一人また一人と警護の兵士らが武器を置いて寛永寺から逃げるように各々の家へと帰っていった。