・・その狂気は伝染する・・

第三章 狂気と共に明ける明治維新

15代将軍徳川慶喜の決断51

　「慶喜様、しっかりなさってください。さあ、早く出航命令を！」

 容保はそう言うと慶喜の手を引っ張った。その時、慶喜の座ってるベットの横に箱らしき物があるのに気が付いた。

　「そ、その箱は慶喜様、それはどこから持ってこられたのですか？」

 「船の船倉室にあった。そちの家臣が持ち込んだものであろう。容保、この箱は曰く付きの箱。そちも気が付いておったであろう？その目は一度この箱を見たことある目をしている。」


 「仰せの通りでござりまする。その箱は京都の会津屋敷にて見つけ、不吉な予感と寒気がし、家臣に埋めるように指示を出したのですが・・」

 なぜか箱が出てきた事に不思議がる容保をよそに徳川慶喜は恐ろしい事を言い出した。

　「容保よ、世の対局は薩長に傾いたのは決定的、幕府の人間だった者は全て追放され、この慶喜もお前も全て新しい政府の職に就く事はもはやかなわず・・それどころか先祖から受け継いだ徳川の領地もほぼ帝に取られることになる。このような事は例え帝でも許せぬとは思えぬか？されとて戦はもはやできぬ。ならば、この箱から呪縛を解き放ち、薩長とそれに従う全ての藩、朝廷も消してしまえばよい。そして、再び余力を温存している我等が台頭し徳川政府を作ればよいであろう。」

 松平容保はその言葉に息を呑む。