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第43話 熟練の飛行艇マニア
しおりを挟む急ぎオンディーヌへ戻った俺たちはビアンカたちと分かれ、シルフィードから借り受けた飛行艇で空を駆けている。
ビアンカ率いる『荒天瀑布』は『大聖典』跡地から大量の魔物発生に対処しているアリス女王の援護に向かった。
俺たちも向かいたいところだが、急ぎ国境へも兵を送らなければならない。
今は戦力を一箇所にまとめるのは得策ではない。
この状況で一国の王が自ら魔物の討伐を優先したということは、恐らく魔物の討伐の方が早く解決できると判断してのことだろう。
ビアンカたちの救助もあれば何とかなるはずだ。
問題は国境の方。
恐らくレギオンが指揮を取っているはず。
魔物の群れよりタチが悪い。
サラマンドを追放されてから初めてサラマンドの魔導士と対面することになる。
父上やヴィゴーと会うことに戸惑いがないと言えば嘘になるが、後悔させる絶好の機会であることもまた確かだ。
何せ父上たちは今の俺を知らない。
「飛行艇の操縦できるなんてすごすぎですぅ!!」
「ちょっ?! 危ないだろ!」
「真剣な顔がカッコ良かったのでつい~。えへへ」
「えへへじゃない」
危ない危ない。
飛行艇の舵はちょっとした動きでもすぐにブレるから神経遣うのだ。
「そっか。ハンナはヴィンセントの運転見たことなかったもんね」
「わたくしも飛行艇の操縦はお手のものですが、ヴィンセント様の技術はシルフィードの技師と比較しても全く退けをとりません」
「ふふふ。さすが私のパートナーです」
「なんで当然のようにあんたまでいるのよシルヴァーナ」
フフ。実に気分がいい。
これでも飛行艇マニアを自負しているからな。飛行艇の操縦なんて朝飯前。
実を言うと飛行艇の操縦は子供の頃からしていた。
幼い頃、本で飛行艇の存在を知った俺は、どうしても飛行艇を操縦してみたかった。
毎日のように父上にせがんだ。
飛行艇は小型でも家が一軒建つくらいの値段だ。そんなのは当然無理な話。
ある日そんな様子を見ていたノーランド王が贈答品として使用されなくなった小型の飛行艇を一機送ってくれた。
それからというもの、専属の操縦士のもとで操縦の訓練に明け暮れ徹底的に極めた。
これはその血の滲む努力の賜物なのだ。
「それよりあんた。ヘンリーのそばに居なくて良かったの? せっかく助けられたのに」
「大丈夫ですぅ。ああ見えてもヘンリーは私たちのギルド『幻楼の白波』の副リーダーですから♪」
「そうは言っても病み上がりでしょうに・・・」
「もう。本当に大丈夫ですって。ヘンリーはとっても強いんですよ。『幻楼の白波』を動かすにもリーダーが不在だと困りますし」
「じゃあ余計リーダーのあんたが離れちゃダメでしょ」
どうやらフランの突っ込みは聞こえていないらしい。
ハンナは俺が運転中で手が離せないことをいい事にこれ見よがしに抱きつき身体中の匂いを嗅ぎ回る。
その奇行に悪寒が走る。
「やめろって! 冗談抜きで墜落するっ!」
「はぁ・・・ あんたリーダーでしょ。ギルドとしてどうなのそれ」
フランよ。
君が『大賢者の系譜』のリーダーっていうのも不安しかないんだけどな。
「これからは私も『大賢者の系譜』の一員です。よろしくお願いしますねヴィンセント様」
「あんたはダニエラ様のギルドでしょ?! いつの間に加入したのよ?!」
「あなた方がオンディーヌ城で女王とお話しされている間に町のギルドハウスで」
「行動はやっ!」
「シルヴァーナがメンバーになってくれるのは心強い。よろしく頼む」
「もちろんでございます。といってもこれ以上人件費が嵩んでも大変です。必要とあらばすぐにでもコストカットしますよ」
シルヴァーナは挑発するようにフランに微笑みかけた。
「上等よ。真っ先にあんたをカットしてあげるわ」
「役に立たないとんがりメイジさんは引っ込んでいなさいな。いい機会です。私が引導を渡してあげましょう」
二人の間にローズが割って入る。
「ふふふ。アテナはお二人を偉く気に入っています。あなた方ならきっと良い養分となるでしょう」
「そろそろ国境に着く。喧嘩してる場合じゃないぞー」
相変わらずこの方々は空気というものを・・・
どうして俺の周りの女の子は皆んな血の気が多いんだ。
「醜い争いですねぇ。私には関係ありませんけどぉ♪」
まとわり付くハンナの嗅ぎ周りが一層激しくなり、舵を取る手が大きくブレる。
「バ、バカやめろ!」
その瞬間、飛行艇が大きく揺さぶられ、衝撃で壁に衝突した。
もみくちゃになり皆が俺の上に重なった。
「い、痛いですぅ」
「ちょっと離れなさいよ女狐」
「私はヴィンセント様がそばに居てくださればそれで・・・」
「そんな事より旦那様! 操縦を!」
「とりあえず皆んな退いてくれるか。し、死ぬ・・・」
女の子に囲まれて死ねるなら本望ではある。
が、今はちょっと待ってほしい。
「ふぅ。死ぬかと思った・・・」
「旦那様! 安心している場合では!」
「大丈夫だ。心配しなくていい」
俺が指差すと、ローズは驚いた様子で口に手を当てた。
「簡易的なものだから長くは持たないけど、安全を考えて自動操縦にしてあったんだ」
「自動、操縦? 一体どうやってそんな事が・・・」
「飛行艇の操縦に必要なのは、舵を構成するマナの振動数に操縦者のマナ振動数を一致させることと、安定したマナの流れを供給することの二つだ。一度その流れが分かってしまえばあとは循環するように書き換えたマナを切り離し、振動数を調節したマナを舵にはめ込めばいい」
「ちなみに今は必要じゃないからやらないけど、切り離す時に同じ振動数のマナをもう一つ自分の中に作っておけば遠隔操作もできるぞ」
おっと。
少し熱が入りすぎた。
変だと思われてないよな?
「な、何を言っていますの? 飛行艇はその繊細なマナコントロール精度が求められるから専門の操縦士がいるのです。マナを切り離してなお振動数を一致させるなんて熟練の操縦士でも不可能ですわ。ましてや遠隔操作など未だ研究段階で実証されていない技術であり、実際に試行した人もいません。 あなたがしていることは遥か未来の技術ですわ」
「そうなのか? 今度シルフィードの皆んなに教えようか。ノーランド様にはお世話になってるし」
チャンスとばかりにフランが抱きついてくる。
「フフフ! よく分かんないけどさすが私のヴィンセント♪」
だから何でフランが得意気なんだ。
「うーん・・・ それにしても妙だ」
「何が?」
「いくらハンナの妨害があったとはいえ、そこまで航路がブレないようにコントロールしていたはずなんだ」
「ふ~ん。そうなんだ」
その時、地震のような衝撃が再び飛行艇を襲った。
またか。ここまでマナがブレるのはどう考えてもおかしい。
窓から下の様子を伺う。
無数のマナの流れを感知した。
・・・そういうことか。
サラマンドとオンディーヌの軍勢。
両国の大軍が放ちぶつけ合う魔法の衝撃が揺らした大気が上空まで届いていたんだ。
「皆んな。降下の準備を急いでくれ」
俺たちは急いで甲板へ向かった。
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