上 下
51 / 59

第43話 熟練の飛行艇マニア

しおりを挟む


急ぎオンディーヌへ戻った俺たちはビアンカたちと分かれ、シルフィードから借り受けた飛行艇で空を駆けている。

ビアンカ率いる『荒天瀑布カスケード』は『大聖典』跡地から大量の魔物発生に対処しているアリス女王の援護に向かった。

俺たちも向かいたいところだが、急ぎ国境へも兵を送らなければならない。

今は戦力を一箇所にまとめるのは得策ではない。

この状況で一国の王が自ら魔物の討伐を優先したということは、恐らく魔物の討伐の方が早く解決できると判断してのことだろう。

ビアンカたちの救助もあれば何とかなるはずだ。

問題は国境の方。

恐らくレギオンが指揮を取っているはず。

魔物の群れよりタチが悪い。

サラマンドを追放されてから初めてサラマンドの魔導士と対面することになる。

父上やヴィゴーと会うことに戸惑いがないと言えば嘘になるが、後悔させる絶好の機会であることもまた確かだ。

何せ父上たちは今の俺を知らない。

「飛行艇の操縦できるなんてすごすぎですぅ!!」
「ちょっ?! 危ないだろ!」
「真剣な顔がカッコ良かったのでつい~。えへへ」
「えへへじゃない」

危ない危ない。

飛行艇の舵はちょっとした動きでもすぐにブレるから神経遣うのだ。

「そっか。ハンナはヴィンセントの運転見たことなかったもんね」
「わたくしも飛行艇の操縦はお手のものですが、ヴィンセント様の技術はシルフィードの技師と比較しても全く退けをとりません」
「ふふふ。さすが私のパートナーです」
「なんで当然のようにあんたまでいるのよシルヴァーナ」

フフ。実に気分がいい。

これでも飛行艇マニアを自負しているからな。飛行艇の操縦なんて朝飯前。

実を言うと飛行艇の操縦は子供の頃からしていた。

幼い頃、本で飛行艇の存在を知った俺は、どうしても飛行艇を操縦してみたかった。

毎日のように父上にせがんだ。

飛行艇は小型でも家が一軒建つくらいの値段だ。そんなのは当然無理な話。

ある日そんな様子を見ていたノーランド王が贈答品として使用されなくなった小型の飛行艇を一機送ってくれた。

それからというもの、専属の操縦士のもとで操縦の訓練に明け暮れ徹底的に極めた。

これはその血の滲む努力の賜物なのだ。

「それよりあんた。ヘンリーのそばに居なくて良かったの? せっかく助けられたのに」
「大丈夫ですぅ。ああ見えてもヘンリーは私たちのギルド『幻楼の白波ホワイト・ホース』の副リーダーですから♪」
「そうは言っても病み上がりでしょうに・・・」
「もう。本当に大丈夫ですって。ヘンリーはとっても強いんですよ。『幻楼の白波ホワイト・ホース』を動かすにもリーダーが不在だと困りますし」
「じゃあ余計リーダーのあんたが離れちゃダメでしょ」

どうやらフランの突っ込みは聞こえていないらしい。

ハンナは俺が運転中で手が離せないことをいい事にこれ見よがしに抱きつき身体中の匂いを嗅ぎ回る。

その奇行に悪寒が走る。

「やめろって! 冗談抜きで墜落するっ!」
「はぁ・・・ あんたリーダーでしょ。ギルドとしてどうなのそれ」

フランよ。

君が『大賢者の系譜グランド・ウィザーズ』のリーダーっていうのも不安しかないんだけどな。

「これからは私も『大賢者の系譜グランド・ウィザーズ』の一員です。よろしくお願いしますねヴィンセント様」
「あんたはダニエラ様のギルドでしょ?! いつの間に加入したのよ?!」
「あなた方がオンディーヌ城で女王とお話しされている間に町のギルドハウスで」
「行動はやっ!」
「シルヴァーナがメンバーになってくれるのは心強い。よろしく頼む」
「もちろんでございます。といってもこれ以上人件費が嵩んでも大変です。必要とあらばすぐにでもコストカットしますよ」

シルヴァーナは挑発するようにフランに微笑みかけた。

「上等よ。真っ先にあんたをカットしてあげるわ」
「役に立たないとんがりメイジさんは引っ込んでいなさいな。いい機会です。私が引導を渡してあげましょう」

二人の間にローズが割って入る。

「ふふふ。アテナはお二人を偉く気に入っています。あなた方ならきっと良い養分となるでしょう」
「そろそろ国境に着く。喧嘩してる場合じゃないぞー」

相変わらずこの方々は空気というものを・・・

 どうして俺の周りの女の子は皆んな血の気が多いんだ。

「醜い争いですねぇ。私には関係ありませんけどぉ♪」

まとわり付くハンナの嗅ぎ周りが一層激しくなり、舵を取る手が大きくブレる。

「バ、バカやめろ!」

その瞬間、飛行艇が大きく揺さぶられ、衝撃で壁に衝突した。

もみくちゃになり皆が俺の上に重なった。

「い、痛いですぅ」
「ちょっと離れなさいよ女狐」
「私はヴィンセント様がそばに居てくださればそれで・・・」
「そんな事より旦那様! 操縦を!」
「とりあえず皆んな退いてくれるか。し、死ぬ・・・」

女の子に囲まれて死ねるなら本望ではある。

が、今はちょっと待ってほしい。

「ふぅ。死ぬかと思った・・・」
「旦那様! 安心している場合では!」
「大丈夫だ。心配しなくていい」

俺が指差すと、ローズは驚いた様子で口に手を当てた。

「簡易的なものだから長くは持たないけど、安全を考えて自動操縦にしてあったんだ」
「自動、操縦? 一体どうやってそんな事が・・・」
「飛行艇の操縦に必要なのは、舵を構成するマナの振動数に操縦者のマナ振動数を一致させることと、安定したマナの流れを供給することの二つだ。一度その流れが分かってしまえばあとは循環するように書き換えたマナを切り離し、振動数を調節したマナを舵にはめ込めばいい」
「ちなみに今は必要じゃないからやらないけど、切り離す時に同じ振動数のマナをもう一つ自分の中に作っておけば遠隔操作もできるぞ」

おっと。

少し熱が入りすぎた。

変だと思われてないよな?

「な、何を言っていますの? 飛行艇はその繊細なマナコントロール精度が求められるから専門の操縦士がいるのです。マナを切り離してなお振動数を一致させるなんて熟練の操縦士でも不可能ですわ。ましてや遠隔操作など未だ研究段階で実証されていない技術であり、実際に試行した人もいません。 あなたがしていることは遥か未来の技術ですわ」
「そうなのか? 今度シルフィードの皆んなに教えようか。ノーランド様にはお世話になってるし」

チャンスとばかりにフランが抱きついてくる。

「フフフ! よく分かんないけどさすが私のヴィンセント♪」

だから何でフランが得意気なんだ。

「うーん・・・ それにしても妙だ」
「何が?」
「いくらハンナの妨害があったとはいえ、そこまで航路がブレないようにコントロールしていたはずなんだ」
「ふ~ん。そうなんだ」

その時、地震のような衝撃が再び飛行艇を襲った。

またか。ここまでマナがブレるのはどう考えてもおかしい。

窓から下の様子を伺う。

無数のマナの流れを感知した。

・・・そういうことか。

サラマンドとオンディーヌの軍勢。

両国の大軍が放ちぶつけ合う魔法の衝撃が揺らした大気が上空まで届いていたんだ。

「皆んな。降下の準備を急いでくれ」

俺たちは急いで甲板へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...