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第壱話 再会
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青森の山は太陽が沈むのが早い。東京なら明々としている時間なのに、もう太陽が山に入りかけていた。
何故、こんなことになったかというと、あの電子メール、つまり『日本の ”9 11” だ』というものを発見してしまったからだ。
このようなメールを発見した場合、エシュロン日本支部の定めた、危険メール傍受時対策マニュアルに沿って、行動しなければならない。
まず、SAT、つまりハイジャックや重要施設占拠事案等の重大テロ事件に対応する特殊部隊に対して連絡を入れる。
その後、SATの担当者が到着するまでの間に、そのメールのアドレスを割り出す。
その情報を基に、割り出したメールアドレスを、データベースに登録する。
この作業をこなしながら、特殊部隊の担当者を待たなければならないのだ。
これは、アメリカ本部での教訓を基に作成されたらしい。
やっとのことで、俺が一連の作業を終え、担当者らが待っている緊急会議室に向かった。特殊部隊の隊員なので、どんなに屈強な人が来るのかと思っていたのだが、そこに現れたのは意外な人物だった。
見間違えるはずがない。中学の同級生である九鬼湊、本人だ。俺と彼とは中学の頃の大親友だった。よく一緒に釣りに行ったり、帰りにゲーセンで遊んだりといろんな事をした記憶がある。
また、九鬼はスポーツ万能型で、様々な有名学校がら推薦がきていた。
中学卒業後は家の都合で、陸上自衛隊高等工科学校へ進学していった。俺は仕事が仕事なだけに、同窓会へ行くことももなかったため、それっきりだが、彼の顔には当時の面影が色濃く残っていた。
相手も俺のことに気付いたらしく、十年という月日を感じさせるように、ゆっくりと歩いてきた。
「本当に久々だな。元気だったのか?」
俺は、昔のことを懐かしむように語りかけた。
「ああ、この十年、本当に色々あったよ。でもまあ、元気と言えば元気なのかな」
湊は陰鬱な表情を一瞬見せたが、すぐに笑顔を作る。
「俺はこんな状況だが、お前はどうなんだ?」
「俺はまあまあさ」
彼は大雑把な答えで済ませると、早々に話を切り上げた。
「本当に変わらないな」
俺は呆れた顔で小さくため息をついた。
「それよりも、あのメールは本当なのか」
神妙な面持ちだが、彼らしく好奇心が垣間見えている。
「ああ、本当だよ。まあ、立ち話ってのも悪くはないが、椅子があるんだ。座って話さないか?」
「それもそうだよな。久しぶりに会ったから、つい興味がわいたんだ」
そう言って椅子に腰掛ける。
案の定、すぐさま湊の質問攻めが始まった。
「どうやったらこんな仕事に行き着くんだ! 昔はあの広告大手”○○”に就職するって息巻いていたはずだろ!」
あー、湊の悪い癖だ。一度興味を持ったらとことん追求するんだよな・・・
「いやー、高校の時に交換留学でアメリカに行ったんだけど、そのまま向こうで就職したんだ。ちょうど、アメリカ本部が日本支部へ派遣する技術者を探していたところだったから」
何とか適当な答えで追及を逃れようとするのだが・・・
「アメリカの諜報機関に何で日本人のお前が就職できるんだ! いくら日本支部に配属予定とはいえ、重要な情報くらい扱っているだろ?」
・・・追及の手が緩まることはない。
「ああ、扱ってるよ。でもセキュリティ対策がされているから、お前の危惧するような事は一度もなかったさ」
「じゃあ、今、お前が話している事は不味くないのか・・・ 後々、俺の暗殺計画が浮上したりはしないかと思ってあせったじゃないか」
「そんなことにはならないさ。こんな情報くらい、ちょっと調べればすぐに分かるレベルのものだからな」
「ああ、良かった・・・」
湊は、ほっと胸をなでおろす。
「それよりも、お前は自衛官になったんじゃないのか? 何でテロ対策なんかやってるんだ?」
「俺だって、ブルーインパルスに乗りたくて、防大にも入って、航空自衛隊を選んだんだよ。でも”卒業だ”って言う時に、ちょうど ”SATと自衛隊員による技術向上のための交換配属、第一期生です、” って言われて、こっちに飛ばされたんだ」
「そうだったのか。それは大変だったんだな。
ところで、月倉はどうしてる? 東大の教授とかやってそうだけど?」
そう言うと、一瞬、彼の顔が緩んだ。
「まさか知らなかったんだな。ハッカーコンサルタンズってるよな?」
「ああ、もちろん。業界最大手で、東証一部上場が確実視されている企業だろ? それがどうかしたのか?」
「なんだ、知っているじゃないか。月倉 真雪はその創業者にして、現取締役社長だよ」
俺は一瞬耳を疑った。月倉 真雪は九鬼とは正反対、九鬼がスポーツの才を受けたとするなら、あいつは知能の才を受けたといっても過言ではない。
「そうだったのか。道理で、よくあいつの名前を耳にするわけだ」
俺は疑問に思っていたことがやっと解決し、気分がすっきりとした。
”ピー! ピー! ピー!”
そうしていると、突然、あの警告音が鳴り始めた。
まさか・・・
システムが犯人の危険メールを傍受したのか?
「湊、かなり重要な情報を掴んだかもしれない。
すまないがちょっと待っててくれ!」
そう言うのと同時に、俺はメインルームへ向かって駆け出していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
危険メール発見時における行動マニュアル(日本支部 20XX年度版)
1 警察、公安、自衛隊、もしくは、その他の専門知識を擁する特殊部隊などの政府機関に連絡、もしくは協力要請を行う。
2 電子メール、アクセス履歴等を解析し、メールアドレス、IPアドレスなど個人が特定できるものを割り出す。
3 割り出された情報を基に、情報をデータベースに登録し、監視する。
4 特に重大だと判断されるものに関しては、今後の対策を早急に協議する。
※アメリカ本部へは関連データを全て報告する。
何故、こんなことになったかというと、あの電子メール、つまり『日本の ”9 11” だ』というものを発見してしまったからだ。
このようなメールを発見した場合、エシュロン日本支部の定めた、危険メール傍受時対策マニュアルに沿って、行動しなければならない。
まず、SAT、つまりハイジャックや重要施設占拠事案等の重大テロ事件に対応する特殊部隊に対して連絡を入れる。
その後、SATの担当者が到着するまでの間に、そのメールのアドレスを割り出す。
その情報を基に、割り出したメールアドレスを、データベースに登録する。
この作業をこなしながら、特殊部隊の担当者を待たなければならないのだ。
これは、アメリカ本部での教訓を基に作成されたらしい。
やっとのことで、俺が一連の作業を終え、担当者らが待っている緊急会議室に向かった。特殊部隊の隊員なので、どんなに屈強な人が来るのかと思っていたのだが、そこに現れたのは意外な人物だった。
見間違えるはずがない。中学の同級生である九鬼湊、本人だ。俺と彼とは中学の頃の大親友だった。よく一緒に釣りに行ったり、帰りにゲーセンで遊んだりといろんな事をした記憶がある。
また、九鬼はスポーツ万能型で、様々な有名学校がら推薦がきていた。
中学卒業後は家の都合で、陸上自衛隊高等工科学校へ進学していった。俺は仕事が仕事なだけに、同窓会へ行くことももなかったため、それっきりだが、彼の顔には当時の面影が色濃く残っていた。
相手も俺のことに気付いたらしく、十年という月日を感じさせるように、ゆっくりと歩いてきた。
「本当に久々だな。元気だったのか?」
俺は、昔のことを懐かしむように語りかけた。
「ああ、この十年、本当に色々あったよ。でもまあ、元気と言えば元気なのかな」
湊は陰鬱な表情を一瞬見せたが、すぐに笑顔を作る。
「俺はこんな状況だが、お前はどうなんだ?」
「俺はまあまあさ」
彼は大雑把な答えで済ませると、早々に話を切り上げた。
「本当に変わらないな」
俺は呆れた顔で小さくため息をついた。
「それよりも、あのメールは本当なのか」
神妙な面持ちだが、彼らしく好奇心が垣間見えている。
「ああ、本当だよ。まあ、立ち話ってのも悪くはないが、椅子があるんだ。座って話さないか?」
「それもそうだよな。久しぶりに会ったから、つい興味がわいたんだ」
そう言って椅子に腰掛ける。
案の定、すぐさま湊の質問攻めが始まった。
「どうやったらこんな仕事に行き着くんだ! 昔はあの広告大手”○○”に就職するって息巻いていたはずだろ!」
あー、湊の悪い癖だ。一度興味を持ったらとことん追求するんだよな・・・
「いやー、高校の時に交換留学でアメリカに行ったんだけど、そのまま向こうで就職したんだ。ちょうど、アメリカ本部が日本支部へ派遣する技術者を探していたところだったから」
何とか適当な答えで追及を逃れようとするのだが・・・
「アメリカの諜報機関に何で日本人のお前が就職できるんだ! いくら日本支部に配属予定とはいえ、重要な情報くらい扱っているだろ?」
・・・追及の手が緩まることはない。
「ああ、扱ってるよ。でもセキュリティ対策がされているから、お前の危惧するような事は一度もなかったさ」
「じゃあ、今、お前が話している事は不味くないのか・・・ 後々、俺の暗殺計画が浮上したりはしないかと思ってあせったじゃないか」
「そんなことにはならないさ。こんな情報くらい、ちょっと調べればすぐに分かるレベルのものだからな」
「ああ、良かった・・・」
湊は、ほっと胸をなでおろす。
「それよりも、お前は自衛官になったんじゃないのか? 何でテロ対策なんかやってるんだ?」
「俺だって、ブルーインパルスに乗りたくて、防大にも入って、航空自衛隊を選んだんだよ。でも”卒業だ”って言う時に、ちょうど ”SATと自衛隊員による技術向上のための交換配属、第一期生です、” って言われて、こっちに飛ばされたんだ」
「そうだったのか。それは大変だったんだな。
ところで、月倉はどうしてる? 東大の教授とかやってそうだけど?」
そう言うと、一瞬、彼の顔が緩んだ。
「まさか知らなかったんだな。ハッカーコンサルタンズってるよな?」
「ああ、もちろん。業界最大手で、東証一部上場が確実視されている企業だろ? それがどうかしたのか?」
「なんだ、知っているじゃないか。月倉 真雪はその創業者にして、現取締役社長だよ」
俺は一瞬耳を疑った。月倉 真雪は九鬼とは正反対、九鬼がスポーツの才を受けたとするなら、あいつは知能の才を受けたといっても過言ではない。
「そうだったのか。道理で、よくあいつの名前を耳にするわけだ」
俺は疑問に思っていたことがやっと解決し、気分がすっきりとした。
”ピー! ピー! ピー!”
そうしていると、突然、あの警告音が鳴り始めた。
まさか・・・
システムが犯人の危険メールを傍受したのか?
「湊、かなり重要な情報を掴んだかもしれない。
すまないがちょっと待っててくれ!」
そう言うのと同時に、俺はメインルームへ向かって駆け出していた。
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危険メール発見時における行動マニュアル(日本支部 20XX年度版)
1 警察、公安、自衛隊、もしくは、その他の専門知識を擁する特殊部隊などの政府機関に連絡、もしくは協力要請を行う。
2 電子メール、アクセス履歴等を解析し、メールアドレス、IPアドレスなど個人が特定できるものを割り出す。
3 割り出された情報を基に、情報をデータベースに登録し、監視する。
4 特に重大だと判断されるものに関しては、今後の対策を早急に協議する。
※アメリカ本部へは関連データを全て報告する。
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