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マイネが身に纏っている婚礼の真っ白な装いは、ルシャードと揃いで、見返りのある襟元に豪華な宝石が散りばめられていた。
袖にはレース模様の白金の刺繍が輝き、背中側の裾は翼のように長いデザインだ。
一週間で用意したとは思えないほど、マイネにぴったりだった。
「よく似合ってる」
ルシャードは、正装のマイネの姿をじっと眺めて褒めてばかりだ。
アーチの列柱が並ぶ長い回廊を渡り、巨大な両扉の前で止まる。
その重そうな両扉が開くと、目に飛び込んできたのはアーチ状の天井に王冠の形をした巨大なシャンデリアだ。
漆喰装飾を施した精緻な壁と天井に囲まれた空間は、玉座の間と呼ばれる。
玉座に鎮座するのは、ディアーク王。
ディアーク王は王太子だった頃に、二度だけ会ったことがあるが、以前とは違い王の威厳が醸し出され堂々としていた。
圧倒されるマイネの腰にルシャードが腕を回し、年老いた大神官の前まで近寄る。
ルシャードとマイネは寄り添って佇んだ。
「これより王弟ルシャードの婚姻の儀を執り行う」
大神官を厳かに告げた。
マイネとルシャードの両側には、若い神官達が立ち並び祈りを捧げるなか、大神官は歴代の王の名を列挙し「祝福を与えたまえ」と唱えた。
盃を渡され、小さな白い花びらが浮かぶ無色透明な水を同時に飲み干す。
すると。
「前へ」
ディアーク王が威厳のなる声を轟かせた。
ルシャードとマイネが王の眼前に近寄り一礼すると、ディアークが高らかに言った。
「王弟ルシャード・フォン・ヴァイツゼッカーとマイネ・オズヴァルドが結ばれたことを、ここに宣言する」
これでルシャードとマイネの婚姻が成立し、番になることができる。
長い遠回りをして、ここまで辿り着いた。
ルシャードと視線が合うと、優しく微笑まれた。
結婚は、明日にでも国民に公表され、近いうちに祝賀会も予定されている。
玉座の間を出ると、扉の外で待っていたハンが、深いお辞儀をした。
「御結婚おめでとうございます」
マイネの顔は、緊張で強張っていたに違いない。
「ルシャード殿下は、まだ手続きが残ってます。マイネは先に金ノ宮に戻りますか?」
ルシャードは、カスパーを養子ではなく実子だとする手続きが残っていた。
ルシャードはマイネを抱きよせた。
「先に戻って休んでくれ。疲れただろ。急かせてすまない」
確かに、王宮に到着してからニ時間しか経っていない。
そもそも、ルシャードと番となる約束してから一週間しか経っていないのだ。
ディアーク王をも急かしたことは明白だった。
ルシャードが、これほどまでに急ぐ理由はカスパーの存在ではないだろうか。
ハンに促され、マイネは長い回廊を引き返す。
金ノ宮に戻ると入口で出迎えられ「おめでとうございます」と家令から祝福を受けた。
着替えようと足を向けたところ、マイネ付きとなった侍従のクリアに呼び止められた。
「宰相のミラ様がいらっしゃってます。マイネ様にお会いしたいそうです」
クリアに案内された部屋に入ると、ミラが待っていた。
「御結婚おめでとうございます。王弟妃殿下」
呼び慣れない呼称に戸惑いながら、マイネはソファに腰を下ろした。
ハンもその隣に座る。
「お久しぶりですね。あの時以来です。あの時、妊娠していると知っていたら、絶対に引き止めていました。マイネ様がオメガだったことも知らなかったので想像もできませんでしたが」
ミラが言うあの時とは、マイネが王都を逃げると決めた時だろう。
「ご迷惑をおかけしました」
マイネは死亡したことを望んでおきながら、結局、王宮に帰ってきてしまった。
「なんの話ですか?」
ハンが訊き、ミラは四年半前にマイネの死亡を偽装したことを告げた。
「マイネに最後に会ったのはミラ様だったのですね。あれが偽装だったなんて考え及びませんでした」
「偽装するのは二回目だったから慣れたものだ。王弟妃殿下は北に逃げると言われたから、南の川に流されたことにした」
ハンは、息を吐く。
「騙されて、南の方ばかり探してました」
「そうだろ。だから、半年前に北にいる情報を流したのは私なんだ。ルシャード殿下が、まだ探してると知って……黙っていられなくなったんだよ」
「ごめんなさい」
マイネが謝ると、突如、ハンが涙を浮かべる。
「ありがとうございます。ずっとルシャード殿下も私もマイネを生きていると信じて探していました。ルシャード殿下の執着を見ていたら、このような結果は予想していました。本当によかった」
会えなかった四年と半年の間、ルシャードがどのように過ごしたか、いつか教えてもらえるだろうか、とマイネは思った。
袖にはレース模様の白金の刺繍が輝き、背中側の裾は翼のように長いデザインだ。
一週間で用意したとは思えないほど、マイネにぴったりだった。
「よく似合ってる」
ルシャードは、正装のマイネの姿をじっと眺めて褒めてばかりだ。
アーチの列柱が並ぶ長い回廊を渡り、巨大な両扉の前で止まる。
その重そうな両扉が開くと、目に飛び込んできたのはアーチ状の天井に王冠の形をした巨大なシャンデリアだ。
漆喰装飾を施した精緻な壁と天井に囲まれた空間は、玉座の間と呼ばれる。
玉座に鎮座するのは、ディアーク王。
ディアーク王は王太子だった頃に、二度だけ会ったことがあるが、以前とは違い王の威厳が醸し出され堂々としていた。
圧倒されるマイネの腰にルシャードが腕を回し、年老いた大神官の前まで近寄る。
ルシャードとマイネは寄り添って佇んだ。
「これより王弟ルシャードの婚姻の儀を執り行う」
大神官を厳かに告げた。
マイネとルシャードの両側には、若い神官達が立ち並び祈りを捧げるなか、大神官は歴代の王の名を列挙し「祝福を与えたまえ」と唱えた。
盃を渡され、小さな白い花びらが浮かぶ無色透明な水を同時に飲み干す。
すると。
「前へ」
ディアーク王が威厳のなる声を轟かせた。
ルシャードとマイネが王の眼前に近寄り一礼すると、ディアークが高らかに言った。
「王弟ルシャード・フォン・ヴァイツゼッカーとマイネ・オズヴァルドが結ばれたことを、ここに宣言する」
これでルシャードとマイネの婚姻が成立し、番になることができる。
長い遠回りをして、ここまで辿り着いた。
ルシャードと視線が合うと、優しく微笑まれた。
結婚は、明日にでも国民に公表され、近いうちに祝賀会も予定されている。
玉座の間を出ると、扉の外で待っていたハンが、深いお辞儀をした。
「御結婚おめでとうございます」
マイネの顔は、緊張で強張っていたに違いない。
「ルシャード殿下は、まだ手続きが残ってます。マイネは先に金ノ宮に戻りますか?」
ルシャードは、カスパーを養子ではなく実子だとする手続きが残っていた。
ルシャードはマイネを抱きよせた。
「先に戻って休んでくれ。疲れただろ。急かせてすまない」
確かに、王宮に到着してからニ時間しか経っていない。
そもそも、ルシャードと番となる約束してから一週間しか経っていないのだ。
ディアーク王をも急かしたことは明白だった。
ルシャードが、これほどまでに急ぐ理由はカスパーの存在ではないだろうか。
ハンに促され、マイネは長い回廊を引き返す。
金ノ宮に戻ると入口で出迎えられ「おめでとうございます」と家令から祝福を受けた。
着替えようと足を向けたところ、マイネ付きとなった侍従のクリアに呼び止められた。
「宰相のミラ様がいらっしゃってます。マイネ様にお会いしたいそうです」
クリアに案内された部屋に入ると、ミラが待っていた。
「御結婚おめでとうございます。王弟妃殿下」
呼び慣れない呼称に戸惑いながら、マイネはソファに腰を下ろした。
ハンもその隣に座る。
「お久しぶりですね。あの時以来です。あの時、妊娠していると知っていたら、絶対に引き止めていました。マイネ様がオメガだったことも知らなかったので想像もできませんでしたが」
ミラが言うあの時とは、マイネが王都を逃げると決めた時だろう。
「ご迷惑をおかけしました」
マイネは死亡したことを望んでおきながら、結局、王宮に帰ってきてしまった。
「なんの話ですか?」
ハンが訊き、ミラは四年半前にマイネの死亡を偽装したことを告げた。
「マイネに最後に会ったのはミラ様だったのですね。あれが偽装だったなんて考え及びませんでした」
「偽装するのは二回目だったから慣れたものだ。王弟妃殿下は北に逃げると言われたから、南の川に流されたことにした」
ハンは、息を吐く。
「騙されて、南の方ばかり探してました」
「そうだろ。だから、半年前に北にいる情報を流したのは私なんだ。ルシャード殿下が、まだ探してると知って……黙っていられなくなったんだよ」
「ごめんなさい」
マイネが謝ると、突如、ハンが涙を浮かべる。
「ありがとうございます。ずっとルシャード殿下も私もマイネを生きていると信じて探していました。ルシャード殿下の執着を見ていたら、このような結果は予想していました。本当によかった」
会えなかった四年と半年の間、ルシャードがどのように過ごしたか、いつか教えてもらえるだろうか、とマイネは思った。
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