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拘束された犯人は近衛騎士に地下牢に連行された。
デールの兄だとわかったが、王弟を刺した罪は重いだろう。
オティリオは手術室に運ばれ、幸い臓器の損傷はなく致命傷には至らなかった。
領主館で一番豪華な客間の大きなベッドに寝かされたオティリオは五時間眠ったままだ。
ベットの傍らの椅子に座るカスパーは、オティリオが目を開けるのを、ずっと待っている。
ようやく、オティリオの指が動いた。
「お父さん、きて。動いたよ」
カスパーがマイネを呼んだ。
マイネがオティリオを覗き込むと、一瞬、痛みに顔を歪め、うっすらと目を開ける。
オティリオはカスパーと目を合わせた。
寝たままのオティリオにスプーンで水を飲ませると、喉が渇いていたようで、マイネは何度も繰り返し与えた。
「カスパー。目を覚ましたってエモリーに伝えてきてくれないか」
マイネが頼むと、カスパーは「わかった」と言って、ぴょんっと椅子から下り部屋から出る。
「カスパーっていうの?」
オティリオが掠れた声で訊いた。
マイネは「はい」と返事をすると、押し黙る。
次に問われることはわかっていた。
「兄上の子だよね?」
逡巡しながら、マイネは首を縦に動かし認める。
言い逃れができないほど、二人は似ていた。
「兄上は知ってるの?」
マイネは口ごもる。
「…まだ」
オティリオは、眉尻を下げた。
「ごめんね。僕のせいで言えなかったよね」
その通りだとも言えず、マイネは話しを逸らした。
「刺された背中に傷が残るかもしれないそうです」
「……僕の背中には翼がないでしょ。聖獣じゃないから。だから、この背中が大嫌いだったのだけど、傷が残るなら好きになれるかもしれない」
そう言うと、オティリオがかすかに笑った。
聖獣でないことにオティリオが劣等感を持っているとは知らなかった。
王家の血を継ぐオティリオはアルファでありながら、人間に産まれたため聖獣になれない。
カスパーがエモリーを連れて戻ってきた。
「気分はどうですか?頭が痛いとか吐き気とかありませんか?」
エモリーが体温を測る。
「今のところはない」
「もしかしたら、今夜あたり熱が出るかもしれません」
カスパーがオティリオの指を握った。
「助けて、くれて、ありがと」
オティリオは瞬きをして、ルシャードに似たカスパーを眺める。
「カスパーに怪我がなくて良かった」
「僕の、名前、知ってるの?」
「マイネに教えてもらった」
「ふーん。お父さんの、友達?」
「そうだよ。マイネに会いにきたんだよ」
オティリオにカスパーのことを知られてしまった。
もうルシャードにも隠してはおけないだろう。
マイネはそっと部屋を出た。
深いため息を吐き出す。
そして、懐かしい顔に会った。
近衛騎士として扉の前にいたのは顔見知りのヨシカだった。
「ヨシカさん!」
「話をするのは久しぶりだな」
ヨシカは意味ありげに言った。
「やっぱり俺のこと見張ってたのってヨシカさんだよね?」
マイネを見張る獅子獣人がいることはわかっていた。
「うん。ルシャード殿下からマイネの護衛を頼まれてた。今日はオティリオ殿下の近衛も来てたし、少し離れて様子を見てたのが失敗した」
カスパーのことは報告したのだろうか、とマイネが不安げにすると、ヨシカが声をひそめた。
「あの子のことなら報告してない。俺が伝えていい話じゃないだろ。でも、ずっと黙っておくことはできないからな」
「……わかってる」
カスパーの存在をルシャードに告げるのは勇気がいるが、もう秘密にしておくことはできないようだ。
デールの兄だとわかったが、王弟を刺した罪は重いだろう。
オティリオは手術室に運ばれ、幸い臓器の損傷はなく致命傷には至らなかった。
領主館で一番豪華な客間の大きなベッドに寝かされたオティリオは五時間眠ったままだ。
ベットの傍らの椅子に座るカスパーは、オティリオが目を開けるのを、ずっと待っている。
ようやく、オティリオの指が動いた。
「お父さん、きて。動いたよ」
カスパーがマイネを呼んだ。
マイネがオティリオを覗き込むと、一瞬、痛みに顔を歪め、うっすらと目を開ける。
オティリオはカスパーと目を合わせた。
寝たままのオティリオにスプーンで水を飲ませると、喉が渇いていたようで、マイネは何度も繰り返し与えた。
「カスパー。目を覚ましたってエモリーに伝えてきてくれないか」
マイネが頼むと、カスパーは「わかった」と言って、ぴょんっと椅子から下り部屋から出る。
「カスパーっていうの?」
オティリオが掠れた声で訊いた。
マイネは「はい」と返事をすると、押し黙る。
次に問われることはわかっていた。
「兄上の子だよね?」
逡巡しながら、マイネは首を縦に動かし認める。
言い逃れができないほど、二人は似ていた。
「兄上は知ってるの?」
マイネは口ごもる。
「…まだ」
オティリオは、眉尻を下げた。
「ごめんね。僕のせいで言えなかったよね」
その通りだとも言えず、マイネは話しを逸らした。
「刺された背中に傷が残るかもしれないそうです」
「……僕の背中には翼がないでしょ。聖獣じゃないから。だから、この背中が大嫌いだったのだけど、傷が残るなら好きになれるかもしれない」
そう言うと、オティリオがかすかに笑った。
聖獣でないことにオティリオが劣等感を持っているとは知らなかった。
王家の血を継ぐオティリオはアルファでありながら、人間に産まれたため聖獣になれない。
カスパーがエモリーを連れて戻ってきた。
「気分はどうですか?頭が痛いとか吐き気とかありませんか?」
エモリーが体温を測る。
「今のところはない」
「もしかしたら、今夜あたり熱が出るかもしれません」
カスパーがオティリオの指を握った。
「助けて、くれて、ありがと」
オティリオは瞬きをして、ルシャードに似たカスパーを眺める。
「カスパーに怪我がなくて良かった」
「僕の、名前、知ってるの?」
「マイネに教えてもらった」
「ふーん。お父さんの、友達?」
「そうだよ。マイネに会いにきたんだよ」
オティリオにカスパーのことを知られてしまった。
もうルシャードにも隠してはおけないだろう。
マイネはそっと部屋を出た。
深いため息を吐き出す。
そして、懐かしい顔に会った。
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カスパーのことは報告したのだろうか、とマイネが不安げにすると、ヨシカが声をひそめた。
「あの子のことなら報告してない。俺が伝えていい話じゃないだろ。でも、ずっと黙っておくことはできないからな」
「……わかってる」
カスパーの存在をルシャードに告げるのは勇気がいるが、もう秘密にしておくことはできないようだ。
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