34 / 52
33
しおりを挟む
マイネがエリーゼの存命を知ってから四日が経った。
誰にも秘密を明かさないと約束し、あれからゲリンともエリーゼのことは忘れたかのように口にしなかった。
「領主館に王弟殿下がいらっしゃって、マイネを呼んでるそうだ。屋敷で待ってるらしい」
そう言って、仕事の途中のマイネをゲリンが呼び止めた。
「王弟殿下?」
ルシャードの顔が浮かぶ。
マイネは病院隣の領主の屋敷に急いだ。
一人で遊ぶカスパーを入口で見かけたが、はやる気持ちが抑えられず声をかけなかった。
玄関ホールに入ると、家令がマイネとゲリンを屋敷の奥の部屋に案内する。
部屋の前に近衛騎士がいた。
マイネの知らない顔だ。
家令がノックしゆっくりと扉を開けると、そこにいたのはルシャードではなく。
「マイネ!」
跳ねるように立ち尽くしたのは、次弟のオティリオだ。
マイネだけ部屋に入ると、扉を閉めた。
ゲリンが「部屋の外で待ってる」と言ったのが、心強い。
四年半ぶりに会うオティリオは、快活さが影を潜め、暗い表情をしていた。
マイネを見ると、緊張が解けたようにソファに背中を預け、両腕を交差して目元を隠す。
オティリオの頬に涙が流れた。
泣いている。
困惑するマイネは、オティリオの前を避けてソファに座った。
しばらくして、鼻を啜るオティリオが血の気を失った顔で、濡れた瞳を大きく揺らしマイネを見た。
「マイネが生きているってハンから聞いて……どうしても謝りたくて……マイネ、すまなかった。僕はマイネに嘘を吐いた」
そうだ。嘘を吐いていたのはオティリオだけだ。
ルシャードもハンもミラも嘘を吐いてない。
オティリオだけが、はっきりと嘘を吐き、ルシャードの結婚を捏造したのだ。
「もう知ってます。と言っても、四日前に知ったんですけど」
マイネは冷静に告げた。
オティリオが嘘を吐かなければ、王宮を逃げ出すことはなかったかもしれない。
いや、ルシャードの子を妊娠したマイネは同じように逃げ出していたかもしれない。
「……マイネ、すまなかった。こんなに長く苦しめるつもりはなかったんだ」
オティリオは沈んだ声で言うと、頭を下げる。
「どうして、あんな嘘を吐いたんですか?」
マイネはオティリオを信用していた。
「マイネがいなくなる前、金ノ宮でマイネに近づた僕は、すぐにオメガの匂いとアルファのマーキングの匂いに気づいた。マイネは、オメガだったんでしょ?僕は騙されてたんだと思ったら、かっとなった……マイネの首に跡が残ってるのを見て怒りが湧いてきた」
マーキングの匂い。
マイネにはわからないが、ルシャードが残したアルファのマーキングは強力だったらしい。
「だから、ガッタの王女と兄上が結婚すると誤解しているマイネにひどいことを言ってしまった」
オティリオが、苦渋の表情で訴えた。
「でも明日になれば、姉上が王宮に来て、僕の嘘はすぐにバレて終わると思ったんだ」
オティリオの言う通り、もしマイネが王宮にいたならば次の日に嘘だとわかったはずだが、そうはならなかった。
「まさかマイネが王都から逃げ出すだなんて考えなかったんだよ。まして自殺なんて……川に流されたって聞いて、僕のせいで自殺したんだって思った。それなのに、僕はマイネにひどいことをしたのに、誰にも告げることができなかった。すまない」
マイネはオティリオの後悔と謝罪を聞いても、胸のむかつきが増すだけで、許せそうもなかった。
オティリオはマイネのルシャードを好きな気持ちを殺したのだ。
王都を出ると決めた時の胸の痛みは、まだ忘れることができない。
マイネが唇を噛みしめて睨むように見据えると、オティリオは潤んだ瞳を苦しげに細めた。
突如、部屋の外から領主館には不似合いな慌ただしい足音が響く。
誰にも秘密を明かさないと約束し、あれからゲリンともエリーゼのことは忘れたかのように口にしなかった。
「領主館に王弟殿下がいらっしゃって、マイネを呼んでるそうだ。屋敷で待ってるらしい」
そう言って、仕事の途中のマイネをゲリンが呼び止めた。
「王弟殿下?」
ルシャードの顔が浮かぶ。
マイネは病院隣の領主の屋敷に急いだ。
一人で遊ぶカスパーを入口で見かけたが、はやる気持ちが抑えられず声をかけなかった。
玄関ホールに入ると、家令がマイネとゲリンを屋敷の奥の部屋に案内する。
部屋の前に近衛騎士がいた。
マイネの知らない顔だ。
家令がノックしゆっくりと扉を開けると、そこにいたのはルシャードではなく。
「マイネ!」
跳ねるように立ち尽くしたのは、次弟のオティリオだ。
マイネだけ部屋に入ると、扉を閉めた。
ゲリンが「部屋の外で待ってる」と言ったのが、心強い。
四年半ぶりに会うオティリオは、快活さが影を潜め、暗い表情をしていた。
マイネを見ると、緊張が解けたようにソファに背中を預け、両腕を交差して目元を隠す。
オティリオの頬に涙が流れた。
泣いている。
困惑するマイネは、オティリオの前を避けてソファに座った。
しばらくして、鼻を啜るオティリオが血の気を失った顔で、濡れた瞳を大きく揺らしマイネを見た。
「マイネが生きているってハンから聞いて……どうしても謝りたくて……マイネ、すまなかった。僕はマイネに嘘を吐いた」
そうだ。嘘を吐いていたのはオティリオだけだ。
ルシャードもハンもミラも嘘を吐いてない。
オティリオだけが、はっきりと嘘を吐き、ルシャードの結婚を捏造したのだ。
「もう知ってます。と言っても、四日前に知ったんですけど」
マイネは冷静に告げた。
オティリオが嘘を吐かなければ、王宮を逃げ出すことはなかったかもしれない。
いや、ルシャードの子を妊娠したマイネは同じように逃げ出していたかもしれない。
「……マイネ、すまなかった。こんなに長く苦しめるつもりはなかったんだ」
オティリオは沈んだ声で言うと、頭を下げる。
「どうして、あんな嘘を吐いたんですか?」
マイネはオティリオを信用していた。
「マイネがいなくなる前、金ノ宮でマイネに近づた僕は、すぐにオメガの匂いとアルファのマーキングの匂いに気づいた。マイネは、オメガだったんでしょ?僕は騙されてたんだと思ったら、かっとなった……マイネの首に跡が残ってるのを見て怒りが湧いてきた」
マーキングの匂い。
マイネにはわからないが、ルシャードが残したアルファのマーキングは強力だったらしい。
「だから、ガッタの王女と兄上が結婚すると誤解しているマイネにひどいことを言ってしまった」
オティリオが、苦渋の表情で訴えた。
「でも明日になれば、姉上が王宮に来て、僕の嘘はすぐにバレて終わると思ったんだ」
オティリオの言う通り、もしマイネが王宮にいたならば次の日に嘘だとわかったはずだが、そうはならなかった。
「まさかマイネが王都から逃げ出すだなんて考えなかったんだよ。まして自殺なんて……川に流されたって聞いて、僕のせいで自殺したんだって思った。それなのに、僕はマイネにひどいことをしたのに、誰にも告げることができなかった。すまない」
マイネはオティリオの後悔と謝罪を聞いても、胸のむかつきが増すだけで、許せそうもなかった。
オティリオはマイネのルシャードを好きな気持ちを殺したのだ。
王都を出ると決めた時の胸の痛みは、まだ忘れることができない。
マイネが唇を噛みしめて睨むように見据えると、オティリオは潤んだ瞳を苦しげに細めた。
突如、部屋の外から領主館には不似合いな慌ただしい足音が響く。
1,408
お気に入りに追加
2,015
あなたにおすすめの小説
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _)
※感想欄のネタバレ配慮はありません。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
夫が不倫をしているようなので、離婚します。もう勝手にすれば?いつか罰が当たるから
hikari
恋愛
シャルロッテはストーム公爵家に嫁いだ。しかし、夫のカルロスはタイパン子爵令嬢のラニーニャと不倫をしていた。
何でもラニーニャは無機物と話ができ、女子力もシャルロッテよりあるから魅力的だという。女子力があるとはいえ、毛皮に身を包み、全身宝石ジャラジャラで厚化粧の女のどこが良いというのでしょう?
ラニーニャはカルロスと別れる気は無いらしく、仕方なく離婚をすることにした。しかし、そんなシャルロッテだが、王室主催の舞踏会でランスロット王子と出会う事になる。
対して、カルロスはラニーニャと再婚する事になる。しかし、ラニーニャの余りにも金遣いが荒いことに手を焼き、とうとう破産。盗みを働くように……。そして、盗みが発覚しざまあへ。トドメは魔物アトポスの呪い。
ざまあの回には★がついています。
※今回は登場人物の名前はかなり横着していますが、ご愛嬌。
※作中には暴力シーンが含まれています。その回には◆をつけました。
尿で育てた触手に伴侶にさせられた研究員の話
桜羽根ねね
BL
触手を育てることになった研究員の梅野はかりと、餌をもらってすくすく育つ触手の、タイトル通りのハートフル()エロコメです♡
触手に自我が宿るよ。
過去に書いた話を改変しました。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる