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 マイネがエリーゼの存命を知ってから四日が経った。
 誰にも秘密を明かさないと約束し、あれからゲリンともエリーゼのことは忘れたかのように口にしなかった。
 
「領主館に王弟殿下がいらっしゃって、マイネを呼んでるそうだ。屋敷で待ってるらしい」
 そう言って、仕事の途中のマイネをゲリンが呼び止めた。

「王弟殿下?」
 
 ルシャードの顔が浮かぶ。
 マイネは病院隣の領主の屋敷に急いだ。

 一人で遊ぶカスパーを入口で見かけたが、はやる気持ちが抑えられず声をかけなかった。

 玄関ホールに入ると、家令がマイネとゲリンを屋敷の奥の部屋に案内する。

 部屋の前に近衛騎士がいた。
 マイネの知らない顔だ。

 家令がノックしゆっくりと扉を開けると、そこにいたのはルシャードではなく。
 
「マイネ!」
 跳ねるように立ち尽くしたのは、次弟のオティリオだ。

 マイネだけ部屋に入ると、扉を閉めた。
 ゲリンが「部屋の外で待ってる」と言ったのが、心強い。
 
 四年半ぶりに会うオティリオは、快活さが影を潜め、暗い表情をしていた。
 マイネを見ると、緊張が解けたようにソファに背中を預け、両腕を交差して目元を隠す。

 オティリオの頬に涙が流れた。
 泣いている。

 困惑するマイネは、オティリオの前を避けてソファに座った。

 しばらくして、鼻を啜るオティリオが血の気を失った顔で、濡れた瞳を大きく揺らしマイネを見た。

「マイネが生きているってハンから聞いて……どうしても謝りたくて……マイネ、すまなかった。僕はマイネに嘘を吐いた」

 そうだ。嘘を吐いていたのはオティリオだけだ。
 ルシャードもハンもミラも嘘を吐いてない。

 オティリオだけが、はっきりと嘘を吐き、ルシャードの結婚を捏造したのだ。

「もう知ってます。と言っても、四日前に知ったんですけど」
 マイネは冷静に告げた。

 オティリオが嘘を吐かなければ、王宮を逃げ出すことはなかったかもしれない。
 いや、ルシャードの子を妊娠したマイネは同じように逃げ出していたかもしれない。

「……マイネ、すまなかった。こんなに長く苦しめるつもりはなかったんだ」

 オティリオは沈んだ声で言うと、頭を下げる。

「どうして、あんな嘘を吐いたんですか?」
 マイネはオティリオを信用していた。
 
「マイネがいなくなる前、金ノ宮でマイネに近づた僕は、すぐにオメガの匂いとアルファのマーキングの匂いに気づいた。マイネは、オメガだったんでしょ?僕は騙されてたんだと思ったら、かっとなった……マイネの首に跡が残ってるのを見て怒りが湧いてきた」

 マーキングの匂い。
 
 マイネにはわからないが、ルシャードが残したアルファのマーキングは強力だったらしい。

「だから、ガッタの王女と兄上が結婚すると誤解しているマイネにひどいことを言ってしまった」

 オティリオが、苦渋の表情で訴えた。
「でも明日になれば、姉上が王宮に来て、僕の嘘はすぐにバレて終わると思ったんだ」

 オティリオの言う通り、もしマイネが王宮にいたならば次の日に嘘だとわかったはずだが、そうはならなかった。

「まさかマイネが王都から逃げ出すだなんて考えなかったんだよ。まして自殺なんて……川に流されたって聞いて、僕のせいで自殺したんだって思った。それなのに、僕はマイネにひどいことをしたのに、誰にも告げることができなかった。すまない」

 マイネはオティリオの後悔と謝罪を聞いても、胸のむかつきが増すだけで、許せそうもなかった。
 オティリオはマイネのルシャードを好きな気持ちを殺したのだ。

 王都を出ると決めた時の胸の痛みは、まだ忘れることができない。

 マイネが唇を噛みしめて睨むように見据えると、オティリオは潤んだ瞳を苦しげに細めた。

 突如、部屋の外から領主館には不似合いな慌ただしい足音が響く。

 
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