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 二日前と同じ風景が過ぎていく。
 ゲリンとマイネは山賊に襲われた森を抜け、薬剤師の家に着くと、玄関扉を叩いた。

 二日前に来たばかりのゲリンとマイネの姿にリサは「どうしたの?」と訝しげに言う。
 
 ゲリンは「ちょっと聞きたいことがあって」と部屋の中へと入り、マイネも後に続いた。

マイネはリサからもらった薬が役に立ったことを、思い出し礼を言う。

「この前の帰り、山賊に襲われてリサがくれた解毒薬で助かったんだ。ありがとう」
「二人が帰った後に山賊が捕らえられたらしけど。やっぱりゲリンが退治したの?」

 マイネが頷く。

 椅子に腰を下ろしたゲリンが、話を遮るようにリサに問いかけた。
「それよりもガッタからアンゼル王国に来た時のことを聞きたいんだ。どういう経緯で、ここに住むようになったんだ?」
 
 リサの肩に力が入ったようにに見えたのは、思い過ごしだろうか。

「どうしたの?今更、そんなことを聞かれるとは思ってなかったわ。覚えてないことの方が多いかもしれない」

「それでもいい。アンゼルの王家から薬剤師として招かれたと聞いたけど間違いない?」
 マイネがそう言うとリサが答える。

「間違いないよ」
「ガッタ出身なの?」
「アンゼル出身よ。ガッタには十年間移住してただけ」

 やはりリサはガッタの王女ではない。
 
「ルシャード殿下に会ったことはあるか?」
 ゲリンが質問を続ける。

「覚えてないけど会ったことがあるかもしれない。ゲリンの質問の意図がわからないんだけど」

 突然、玄関扉が開く。
 見たことのない女性が部屋に入ってきた。

 その女性はマイネとゲリンを見て、足を止める。
「あら、ごめんなさい。お客が来てるとは思わなくて」

 銀髪を三つ編みにした三十半ばぐらいの人間の女性だ。
 リサが女性を手招きして、二人に紹介した。

「私の妻のエリだよ。会うのは初めてだよね。それでこっちがエモリーのとこのマイネとゲリン」

 マイネは初めて会うエリに既視感を覚える。
 エリの山吹色の瞳が、誰かに似ているのかもしれない。
 
「リサが既婚者だとは知らなかった。いつ結婚したんだ?」
 ゲリンがエリをじっと見た。

「あぁ、今、話をしていた四年半前だよ。エリもアンゼル出身で二人でガッタに移住して、アンゼルに戻った日に結婚したの」

 女性同士の結婚も珍しくない。
 ガッタからやって来たリサとエリ。

 マイネが知りたいルシャードの婚約者とは関係がなさそうだが、エモリーの話では王家と繋がりがある人物は、この二人以外にはいないらしい。

「アプトに来た日に結婚したと言ったが、何月何日だ?記念日だから覚えてるだろ?」

 ゲリンの言葉に、はっとした。

 マイネが王都を逃げ出したのは三月だ。
 正確な日付は記憶にないが、月の真ん中あたりだったはずだ。

「三月十六日よ」
 リサが答えた。

 あの日、マイネが王都から逃げた日。
 間違いない。
 
 ルシャードが出迎えた王女は、この二人だ。
 しかし二人ともガッタの王女ではない。

「その時、マイネはルシャード殿下の事務官だったらしい」
 唐突にゲリンが言った。
 
「えっ」と呟いたのはエリだった。
 マイネと目が合う。
 そして、誰と似ているのかわかってしまった。

 でも、まさか。
 マイネは大きな誤解をしていたのか?
 
 エリの目はカスパーに似ていた。
 いや、ルシャードに似ているのか。

 ルシャードに似た王女。

「あなた生きてたの?あなたルシャードが探してた子でしょ?」

 エリが興奮したように言う。
 リサがエリの失言に諦めたような表情をした。

「まさか……まさか…エリーゼ殿下?」
 マイネが呟く。

 アンゼル王国の王女エリーゼは、十五年前に亡くなっている。
 国境の視察中に川の氾濫により二十二歳の若さで命を落とした王女だ。

 エリーゼも生きていたというのか。
 エリが頷いた。

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