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「ゲリン!」
「すまない…大丈夫だ…」

 ゲリンの肩に腕を回して持ち上げると、隠れる場所を探し、えぐれた地面に身を潜めた。

 横たわったゲリンの右足から矢を抜き、懐から解毒薬を出して飲ませる。
 幸い矢は深く刺さっていない。

 人型に変化したゲリンの額にびっしりと汗が浮く。
 薬が効いてくるのを待つしかなかった。
 早く効いてくれ。

 しばらく、何も異変はなかった。 
 しかし、ゲリンの耳が動いた。
 目を見開く。

「マイネ、近づいてくる。逃げろ」

 朦朧とするゲリンがマイネを庇うように前に出た。

 息を殺す。

 マイネにも足音が聞こえ始める。
 一人。二人。

 山賊の姿を木立に身を潜めて確認した。
 リサの言った通り人間だ。

 鞄の背面に隠した短剣をマイネは鞘から抜く。

 ゲリンも腰に帯びた剣を構えた。
 すると、足を引きずっているとは思えない速さで動いた。

 ゲリンは一人目を不意をついて叩き斬り一斬で倒すと、二人目と対峙する。
 剣を握り直し、体重を右に移動させ相手の剣をかわし一歩下がった。

 平常のゲリンに比べたら鈍い動きかのようにも見える。
 だがそれでも相手に劣っていない。

 その時、マイネの背後にざっと動く影があった。
 油断したマイネの首に太い腕が巻きついた。
 ひゅっと息が詰まる。

 もう一人いたのだ。

 大きな男が背後からマイネの頸を絞めた。
 足がわずかに浮く。

 咄嗟に、その腕をマイネは短剣で突き刺した。
 すると投げ飛ばされる。

 腰を強かに打ちつけ顔を顰めながらゲホゲホと息を吸った。
 地面に両手をついて荒い息を繰り返す。

 大男の返り血がマイネの頬についていた。

「痛いだろぉが」
 大男が腕に刺さった短剣を無造作に抜き、振り上げてマイネに襲いかかる。

 その大男の背中を、ゲリンの鋭い剣先が右から左下へと斜めに走った。
 絶叫する大男は頸から血を吹き崩れ落ちる。

 見れば、二人目も地面に突っ伏していた。
 ゲリンの息は荒い。

「こっちだ」
 ゲリンがマイネの手首を掴み、針葉樹の間を走り出す。

 だが、すぐに足を止めた。
 ゲリンがぐるりと辺りを見渡す。

「まずい。囲まれてる」
 ゲリンの言葉にマイネは震えた。

 四方から男達がじりじりと近づく気配。

「何人?」
「九人」

 若い男が先陣を切って飛び出し、ゲリンに剣を向ける。

 その一撃をゲリンは、剣で受け止めると、素早く身体を沈め、返した刃で男の腕を斬りさいた。

 そして血を流した男の胸倉を掴むと、背後から向かってくる太った男に投げ飛ばす。

 太った男が若い男とともに倒れこむと、ゲリンが飛び上がって二人まとめて突き刺した。

 息つく間もなく、マイネを狙った男をゲリンが察知し斬りかかる。

 だが、もう一人、頭上の木の枝から痩せた男がマイネを狙っていた。
 その男はマイネの背中の鞄に音もなく飛び移る。

 マイネは背中の重みに堪らず尻餅をついた。

 力任せに奪おうとする男に、地面を引きずられたマイネは小さく悲鳴をあげる。
 腹を蹴られた。

「めんどくせぇな」
 痩せた男が短剣をマイネの腹に突き刺すかと思えたその時。

「マイネ!」
 名前を呼ぶあの人の声が聞こえた。

 同時に痩せた男が腹から血を吹き出し倒れる。

 マイネは顔を上げて見上げた。

 金色の髪。
 逞しい背中。
 怒りで強張った肩。

 なぜ、ここに。
 紛れもなく、その姿はルシャードだった。

 ルシャードは、無駄のない動きで剣をふるい、次の山賊の息の根を止める。

 呆然としたマイネは、その優雅にも見える卓越した剣技を眺め続けた。

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