49 / 51
四十九輪目
しおりを挟む
気が付けば俺は病院のベッドにいた。
ここに至るまでずっと起きていたから経緯は分かるのだが、少し衝撃の大きなことがあって現実として受け入れられていない。
「…………」
だがいつまでもそうしているわけにはいかないため、ベッドに横たえていた上体を起こし。
自分のペースを取り戻そうと果物籠からバナナを一つもぎり、皮を剥いて一口。
……………………うまっ。
食べ慣れない美味さに衝撃を受けながらも、先ほどよりは少し落ち着いたと思う。
なので一先ず、現在の状況から目を逸らすのを止めようかなと。
一番グレードの高い(と思われる)病院の個室がホテルのスイートルームばりに豪華な件について。
いや、ホテルのスイートルームとか泊まったことないので、テレビで見た印象のままだ。
二部屋、三部屋とあるわけじゃなく、一室なのだが無駄に広すぎる。
リビングに置いてあるようなテーブルやイスとか必要ないでしょ。
窓際にはフカフカなイスもあった。
……あれが一番要らないと思う。
過去、高校生くらいの時に一泊だけ入院した事があるけど、その時はベッドの上で食べた記憶がある。
四人部屋だったから他にも入院患者がいて、カーテンで仕切られている感じだ。
たかだか一泊なので、あれはあれで十分満足できるものである。
他にはでかいテレビがベッドの正面にあり、さらにはネット環境まで整っている。
それは正直なところ有り難いが、何故ここまで良い待遇なのだろう。
少し免疫が落ちたことによる発熱なだけで、それもほぼ下がっている。
今更だが、バナナとか勝手に食べてよかったのだろうか。
置いてあるからたぶん大丈夫だと思うのだが、後で請求されるのかな?
「失礼するよ。気分はいかがかな?」
ドアがノックされたので返事をすれば、なんともまあ綺麗な女医さんが入ってくる。
「まあ、元気です。広すぎてちょっと落ち着かないですけど」
「話に聞いていた通りではあるが、珍しい事を言うもんだね」
何を言ってるのかよく分からないが、なんとなく頷いておく。
体温計を渡されたので受け取り、脇に挟みつつ質問するため口を開く。
「このテレビでライブの有料配信を見ることって出来ますか?」
「ああ、出来るよ。時間までには見れるようやっておくよ」
「ありがとうございます」
現地参戦できないのは残念だが、リアルタイムで見れるだけマシだと思おう。
性能がいいのか短時間で計り終えたので抜いて見れば、37℃前半と殆ど治ったもんである。
「37.3℃か。検査もあるから退院は早くて明日の午後……いや、明後日だな。本来なら体調を崩した時点で来てもらいたいものだが」
「ただの発熱ですし、そこまでしなくても」
「ただの発熱でも、だよ。……君に常識が無いのは知っていたが、ここまでとは」
どストレートに酷い言われようである。
二十歳を超えたいい大人であるため、そこそこ常識はあるつもりである。
「高熱によって種無しになるってのは、男にとって致命的だと思うのだが」
「あー…………聞いたことありますけど、それってなる時はなりますし、ならない時はならないもんですよね」
「それを言われると、こちらとしてはおしまいだ」
ははは、と困ったように笑う女医さんの言う通りであった。
常識があるのは変わる前の世界のことで、今の世の中についてはもしかしたら小学生よりも知識がない。
少しずつ理解していってるが、実際に体験しながらなのでなんともいえない。
それに加えて男女比率や常識が多少違うだけなので、普通に過ごしているとよく忘れるのだ。
今でもふとした時に推しと同居している事実を改めて認識し、この世界になった事を感謝してる。
何故、こうなったのか。
また、ふとした時に戻るのか。
たまにそれらを考えることもあるけれど、そうなったらまたその時に考えよう。
「熱が下がったからといっても、まだ完全に治っていないのだから大人しく寝ているように。何かあったり物が欲しい時はそのボタンを押せば誰かが来るから」
「分かりました」
女医さんが出て行って一人となり、暇になってしまう。
そういえばスマホ……は、よく見たら果物籠の隣に置いてあった。
あるならいいか。と、そのまま置いておき、また横になる。
先ほどは気付かなかったがこのベッド、すごく良いものなのではないだろうか。
夏月さんと一緒に寝ているベッドも良いものなのだが、また違った良さというか。
庶民なので言語化は難しいが、この包まれるような安心感は良い……。
目を閉じると、どこまでも沈んでいくような感覚がした。
それに抗うことなく身を任せれば、夢の世界へと旅立っていた。
ここに至るまでずっと起きていたから経緯は分かるのだが、少し衝撃の大きなことがあって現実として受け入れられていない。
「…………」
だがいつまでもそうしているわけにはいかないため、ベッドに横たえていた上体を起こし。
自分のペースを取り戻そうと果物籠からバナナを一つもぎり、皮を剥いて一口。
……………………うまっ。
食べ慣れない美味さに衝撃を受けながらも、先ほどよりは少し落ち着いたと思う。
なので一先ず、現在の状況から目を逸らすのを止めようかなと。
一番グレードの高い(と思われる)病院の個室がホテルのスイートルームばりに豪華な件について。
いや、ホテルのスイートルームとか泊まったことないので、テレビで見た印象のままだ。
二部屋、三部屋とあるわけじゃなく、一室なのだが無駄に広すぎる。
リビングに置いてあるようなテーブルやイスとか必要ないでしょ。
窓際にはフカフカなイスもあった。
……あれが一番要らないと思う。
過去、高校生くらいの時に一泊だけ入院した事があるけど、その時はベッドの上で食べた記憶がある。
四人部屋だったから他にも入院患者がいて、カーテンで仕切られている感じだ。
たかだか一泊なので、あれはあれで十分満足できるものである。
他にはでかいテレビがベッドの正面にあり、さらにはネット環境まで整っている。
それは正直なところ有り難いが、何故ここまで良い待遇なのだろう。
少し免疫が落ちたことによる発熱なだけで、それもほぼ下がっている。
今更だが、バナナとか勝手に食べてよかったのだろうか。
置いてあるからたぶん大丈夫だと思うのだが、後で請求されるのかな?
「失礼するよ。気分はいかがかな?」
ドアがノックされたので返事をすれば、なんともまあ綺麗な女医さんが入ってくる。
「まあ、元気です。広すぎてちょっと落ち着かないですけど」
「話に聞いていた通りではあるが、珍しい事を言うもんだね」
何を言ってるのかよく分からないが、なんとなく頷いておく。
体温計を渡されたので受け取り、脇に挟みつつ質問するため口を開く。
「このテレビでライブの有料配信を見ることって出来ますか?」
「ああ、出来るよ。時間までには見れるようやっておくよ」
「ありがとうございます」
現地参戦できないのは残念だが、リアルタイムで見れるだけマシだと思おう。
性能がいいのか短時間で計り終えたので抜いて見れば、37℃前半と殆ど治ったもんである。
「37.3℃か。検査もあるから退院は早くて明日の午後……いや、明後日だな。本来なら体調を崩した時点で来てもらいたいものだが」
「ただの発熱ですし、そこまでしなくても」
「ただの発熱でも、だよ。……君に常識が無いのは知っていたが、ここまでとは」
どストレートに酷い言われようである。
二十歳を超えたいい大人であるため、そこそこ常識はあるつもりである。
「高熱によって種無しになるってのは、男にとって致命的だと思うのだが」
「あー…………聞いたことありますけど、それってなる時はなりますし、ならない時はならないもんですよね」
「それを言われると、こちらとしてはおしまいだ」
ははは、と困ったように笑う女医さんの言う通りであった。
常識があるのは変わる前の世界のことで、今の世の中についてはもしかしたら小学生よりも知識がない。
少しずつ理解していってるが、実際に体験しながらなのでなんともいえない。
それに加えて男女比率や常識が多少違うだけなので、普通に過ごしているとよく忘れるのだ。
今でもふとした時に推しと同居している事実を改めて認識し、この世界になった事を感謝してる。
何故、こうなったのか。
また、ふとした時に戻るのか。
たまにそれらを考えることもあるけれど、そうなったらまたその時に考えよう。
「熱が下がったからといっても、まだ完全に治っていないのだから大人しく寝ているように。何かあったり物が欲しい時はそのボタンを押せば誰かが来るから」
「分かりました」
女医さんが出て行って一人となり、暇になってしまう。
そういえばスマホ……は、よく見たら果物籠の隣に置いてあった。
あるならいいか。と、そのまま置いておき、また横になる。
先ほどは気付かなかったがこのベッド、すごく良いものなのではないだろうか。
夏月さんと一緒に寝ているベッドも良いものなのだが、また違った良さというか。
庶民なので言語化は難しいが、この包まれるような安心感は良い……。
目を閉じると、どこまでも沈んでいくような感覚がした。
それに抗うことなく身を任せれば、夢の世界へと旅立っていた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
CREEPY ROSE:『5000億円の男』
生カス
SF
人生のどん底にいた、何一つとりえのない青年ハリこと、梁木緑郎(はりぎ ろくろう)は、浜辺を歩いていたところを何者かに誘拐されてしまう。
連れ去られた先は、男女比1:100。男性がモノのように扱われる『女性優位』の世界だった。
ハリはそんな世界で、ストリートキッズの少女、イトと出会う。
快楽と暴力、絶望と悔恨が蔓延る世界で繰り出される、ボーイミーツガールズストーリー。
※小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n4652hd/
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる