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四十三輪目
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「あれ? 朝、車で行ったっけ?」
「ううん。もう日も暮れてきたからこっちの方が安全だと思って」
マンションを出て、すぐ近くにいるという場所へ向かえば。
そこには車に乗った夏月さんの姿が。
仕事場が近くの時は車じゃなく公共機関を使うと聞いていて、今日は近場だから車は乗っていかなかったと記憶していたけども。
助手席に座り、話を聞いてみればわざわざ一度家に帰って、車で迎えに来てくれたっぽい。
「ありがとね」
「私が好きでしてることだから」
これまでも買い物に行く時など何度かこうして乗せてもらっているが、未だに慣れない。
頻度が少ないというのもあるけど、このシチュエーションが自分にブッ刺さる。
俺は車に興味が微塵も湧かず、特に必要性も感じていないので免許は取っていないため。
逆のパターンは永遠に来ないのだが。
「家帰ってからご飯作り始めることになるから、遅い時間になるし……どこか食べに行く?」
「んー、今日は遅くなっても優君のご飯が食べたい気分!」
「なるべく早く作るよう頑張るよ」
手料理が食べたいと言ってくれるのは嬉しいが、早く作れるものとなると今の自分じゃだいぶ限られてくる。
野菜炒めかチャーハンか。
昼と一緒になるけど麺類もあるな。
どうするか迷っているうちに、あと五分とかからず家に着いてしまう。
もともと一駅隣と大して距離もないため、仕方ないと言えば仕方ない。
冷蔵庫の中を見てパッと閃いたものを作ろう。
昼と似通った感じになってしまったが、夕食のメニューにはカルボナーラとコンソメスープ、簡単なサラダを。
ペペロンチーノとかスパゲッティの方がもっと早くできたが、カルボナーラがふと食べたくなってしまったのだ。
夏月さんは大変満足した様子であったが、それは夕食のメニューが良かったというよりも俺が作ったからだと思ったのは自意識過剰だろうか。
「あ、夏月さん。こっち」
「えぅ?」
食事も済み、風呂も食べる前に入っている。
いつでも寝られるよう皿の片付けや洗濯物など、夏月さんと二人でさっさと終わらせたはいいが、寝るにはまだ早い時間。
『あ、優君に渡したいものがあるんだ』
と口にして渡したいものとやらを取りに行き、戻ってきた夏月さんが隣に座ろうとするのを止め。
自身の股の間に座らせ、後ろから腰に手を回して抱き締める。
「え、あ、ゆ、優君? んふっ……んんっ、コホン」
普段こういったことをそんなにしないからか、驚きと照れでテンパっているのが伝わってくる。
かくいう俺もそれほど余裕があるわけでは無い。
同じシャンプーやボディーソープを使っているはずなのに、なぜ夏月さんからはこんなにもいい匂いが香ってくるのだろうか。
「えへ、えへへ。優君、今日は甘えん坊さんな気分なのかな」
「うん、そうかも。……ごめんね、疲れてるのに」
「全然! もっとしてくれてもいいんだよ? ……ゆ、優君が嫌じゃなければ私からもしていい、かな?」
「大丈夫だよ」
「ふへっ……ん、明日からのやる気も出てきた!」
むんっ、とやる気を出している可愛らしい夏月さんだが。
ふと、手に持っている紙に目がついた。
「夏月さん、それは?」
「あ、そうだった。これ、優君に」
力を込めて持っていたからか、少しシワのできている紙を受け取って見てみれば。
「え、これって」
「そう、関係者用のチケット。優君にも生で見て欲しくて、話したら貰えたの」
それは六月末の土日に行われるライブのチケットであった。
嬉しいと思う反面、なんだかズルいようにも思えてしまう。
「ありがとう。楽しみにしてるね」
でも、俺に見て欲しくて夏月さんがしてくれたことなのだ。
抱く後ろめたさなど些細なことである。
☆☆☆
二週間が経ち、六月も半ば。
『Hōrai』のライブまで残り二週間となったのだが。
『月居秋凛、医師より適応障害の診断を受け、一定期間活動休止』
ふと目に止まったネットニュースに、このような事が書かれていた。
「ううん。もう日も暮れてきたからこっちの方が安全だと思って」
マンションを出て、すぐ近くにいるという場所へ向かえば。
そこには車に乗った夏月さんの姿が。
仕事場が近くの時は車じゃなく公共機関を使うと聞いていて、今日は近場だから車は乗っていかなかったと記憶していたけども。
助手席に座り、話を聞いてみればわざわざ一度家に帰って、車で迎えに来てくれたっぽい。
「ありがとね」
「私が好きでしてることだから」
これまでも買い物に行く時など何度かこうして乗せてもらっているが、未だに慣れない。
頻度が少ないというのもあるけど、このシチュエーションが自分にブッ刺さる。
俺は車に興味が微塵も湧かず、特に必要性も感じていないので免許は取っていないため。
逆のパターンは永遠に来ないのだが。
「家帰ってからご飯作り始めることになるから、遅い時間になるし……どこか食べに行く?」
「んー、今日は遅くなっても優君のご飯が食べたい気分!」
「なるべく早く作るよう頑張るよ」
手料理が食べたいと言ってくれるのは嬉しいが、早く作れるものとなると今の自分じゃだいぶ限られてくる。
野菜炒めかチャーハンか。
昼と一緒になるけど麺類もあるな。
どうするか迷っているうちに、あと五分とかからず家に着いてしまう。
もともと一駅隣と大して距離もないため、仕方ないと言えば仕方ない。
冷蔵庫の中を見てパッと閃いたものを作ろう。
昼と似通った感じになってしまったが、夕食のメニューにはカルボナーラとコンソメスープ、簡単なサラダを。
ペペロンチーノとかスパゲッティの方がもっと早くできたが、カルボナーラがふと食べたくなってしまったのだ。
夏月さんは大変満足した様子であったが、それは夕食のメニューが良かったというよりも俺が作ったからだと思ったのは自意識過剰だろうか。
「あ、夏月さん。こっち」
「えぅ?」
食事も済み、風呂も食べる前に入っている。
いつでも寝られるよう皿の片付けや洗濯物など、夏月さんと二人でさっさと終わらせたはいいが、寝るにはまだ早い時間。
『あ、優君に渡したいものがあるんだ』
と口にして渡したいものとやらを取りに行き、戻ってきた夏月さんが隣に座ろうとするのを止め。
自身の股の間に座らせ、後ろから腰に手を回して抱き締める。
「え、あ、ゆ、優君? んふっ……んんっ、コホン」
普段こういったことをそんなにしないからか、驚きと照れでテンパっているのが伝わってくる。
かくいう俺もそれほど余裕があるわけでは無い。
同じシャンプーやボディーソープを使っているはずなのに、なぜ夏月さんからはこんなにもいい匂いが香ってくるのだろうか。
「えへ、えへへ。優君、今日は甘えん坊さんな気分なのかな」
「うん、そうかも。……ごめんね、疲れてるのに」
「全然! もっとしてくれてもいいんだよ? ……ゆ、優君が嫌じゃなければ私からもしていい、かな?」
「大丈夫だよ」
「ふへっ……ん、明日からのやる気も出てきた!」
むんっ、とやる気を出している可愛らしい夏月さんだが。
ふと、手に持っている紙に目がついた。
「夏月さん、それは?」
「あ、そうだった。これ、優君に」
力を込めて持っていたからか、少しシワのできている紙を受け取って見てみれば。
「え、これって」
「そう、関係者用のチケット。優君にも生で見て欲しくて、話したら貰えたの」
それは六月末の土日に行われるライブのチケットであった。
嬉しいと思う反面、なんだかズルいようにも思えてしまう。
「ありがとう。楽しみにしてるね」
でも、俺に見て欲しくて夏月さんがしてくれたことなのだ。
抱く後ろめたさなど些細なことである。
☆☆☆
二週間が経ち、六月も半ば。
『Hōrai』のライブまで残り二週間となったのだが。
『月居秋凛、医師より適応障害の診断を受け、一定期間活動休止』
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