上 下
51 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

47話 決着とわたし

しおりを挟む
  「そろそろ終わりにする」そう言ってリゼさんは木剣を正眼に構えました。

「私は体現する!」

  詠唱と共にリゼさんに大量の魔力が集まり始めます。
  魔法は自らの体内にある魔力を利用するのが一般的ですが一部の上級魔法や儀式魔法などは自分の魔力を呼び水に、自然界の魔力を利用する物が有ります。
  しかし、それは魔方陣や触媒などの補助がある事が前提です。
  リゼさんは個人で扱える量を遥かに超える魔力を集めています。
  それでも魔力を完全に制御したリゼさんは詠唱を続けます。

「それは勇気!」

  その詠唱は誓いのようで

「それは愛!」

  渇望のようで

「それは栄光!」

  叫びのようで

「見よ、我が同胞よ!」

  まるで魂を揺さぶるかの様な詠唱によって、莫大な魔力がリゼさんの持つ木剣に凝縮されていきます。

「此れこそが希望だ!」

  詠唱が終わり、魔力が安定した時、リゼさんの手に握られていたのは、1本の剣でした。
  それはまるで選ばれし勇者が神様や精霊から賜わった聖剣であるかの様に、どこまでも力強く、理解できないほど恐ろしく、目が離せないほど美しい、太陽の光を束ねかの様に輝く、光の剣です。
  その剣を目にしたわたしは、自分でも気が付かないうちに涙を流していました。
  なぜ泣いているのか、自分の気持ちが理解出来ません。
  感動と喜びと恐怖を混ぜた様な気持ちです。

「ユウちゃん、全力で防御しなさい」

!!
  リゼさんに声を掛けられて、ようやく思考が戻りました。
  慌てて防御を取ります。
  
「大地の眷属よ 緑の子らよ 守り育め ウォール・フォレスト」

  トレントの魔石を触媒にした木属性の上級防御魔法を唱えます。
  わたしとリゼさんの間に大木によって森の様な壁が現れました。
  魔力で強化された木の壁はガストの外壁にも劣らない強度が有ります。
  
「凍てつき 連なれ アイスピラー」

  ウォール・フォレスト前に何本もの氷柱を出します。
  白雪姫スノーホワイトの効果で強化された氷柱は魔鋼並の強度が有る筈です。
  それでもわたしの頭の中では危機察知スキルが今までに無いほどの警報を鳴らしています。
  金剛の剣を取り出し限界まで魔力を注ぎ、超魔力強化により防御力を最大まで引き上げます。
  わたしの防御が整うと(恐らく待ってくれていたのでしょう)リゼさんは特に気負った所も無く、剣を振ります。

「第1の刃、エア」

  軽く振られた光の剣から放たれた魔力を伴った風は、瞬く間に破壊神の化身の様な暴風となり、わたしの渾身の防壁を紙屑の様に削り飛ばし、わたしを飲み込みました。
  上も下も分からない様な暴風の中、最早痛みすら認識出来ないわたしは、ただひたすら魔力を集めて、耐えるしか有りませんでした。
  ようやく風が収まった後には、抉れた大地とズタボロになったわたしだけが残っていました。

「ぐっ……」

  自分に診断スキルを使います。
  右腕は折れていますね。あばらも何本か折れています。
  切り傷多数、血も流し過ぎました。
  魔力も殆ど残っていません。

「そこまで!」

  模擬戦の終了を告げるフューイ代理の声を聞いたところでわたしの意識は途切れてしまいました。


  わたしが目を覚ました時、そこは平原ではなくどこかのベッドの上でした。
  身体中の切り傷は跡すら残らず治療されています。右腕やあばらも痛みは有りません。
  恐らくフューイ代理の治療魔法でしょう。
  わたしが身体を起こして直ぐにフューイ代理とリゼさんが部屋に入って来ました。

「あら、起きたのね。気分はどう?痛い所とかある?」

「いえ、大丈夫です。痛みも有りません」

「そうですか。しかし、今日は1日、安静にしていて下さい。
  傷は塞いで有りますが多くの血を流していますし、魔力も殆ど使い切っていましたからね」

「はい、あの、ここはどこですか?」

「ここはギルドの医務室よ。
  今日は泊まれる様にしてあるからゆっくり休んでね」

「ありがとうございます。
  試験の方はどうなりましたか?」

「ユウさんは問題なく合格ですよ」

  そう言ってフューイ代理はBランクになったわたしのギルドカードを渡してくれました。

「所でBランクに上がる人はみんなアレを受けるのですか?」

「ははは、そんな訳無いじゃない」

「はぁ、その辺の冒険者がアレを正面から受けたら塵一つ残らず消し飛びますよ」

  最近、わたしのなかでフューイ代理のイメージは『ため息』になりつつ有ります。
  苦労しているのですね。

「それでリゼさんは何者なんですか?」

「ん? わたしは美人で優しいギルドのお姉さんよ」

「リゼさん、そう言う所を直して欲しいと言っているんです。
  ユウさん、彼女はこのガストの街の冒険者ギルドのギルドマスターであり、この大陸に3人しかいないSランク冒険者の1人、『至高の冒険者』リゼッタ・エンシェント・ドラゴン殿です」


しおりを挟む
感想 890

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...