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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部《交錯する戦場》
23話 Aランク冒険者 漆黒のユウ
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皇帝を始め、各国の代表が集まる広間である。
その様な場所で剣を抜けばどうなるかは考えるまでも無い。
各国の代表の背後に控えていた護衛達は代表達を背に庇い剣を構えた。
「ふふ」
自分に向けられた切っ先を見たリゼッタは、剣を手の中でくるりと回すと地面に突き立てた。
瞬間、リゼッタの剣から閃光が走り護衛の騎士や冒険者の間を駆け抜ける。
風の上位属性である雷属性の拘束魔法、サンダーバインドが広間の中に居た者の動きを縛る。
回避できた者は数人だけだった。
「はっ!」
ギンッ!
リゼッタは、サンダーバインドを回避した1人であるユウの真っ白な戦斧を受け止める。
「どう言うつもりですか、リゼさん!」
「ちょっと大人しくなって貰っただけよ」
薄く微笑むリゼッタの左右から槍を構えた騎士と剣を振り上げた冒険者が迫る。
ユウを押し返したリゼッタは、上半身を反らし槍を回避すると、その槍を掴み騎士ごと冒険者に叩きつけた。
一緒になって吹き飛ばされた騎士と冒険者だったが、リゼッタのサンダーバインドを回避する程の実力者である。
すぐさま立ち上がり、2本の戦斧を流れる様に繰り出すユウと、それ1本の剣で受けきっているリゼッタの下に向かう。
しかし、2人の前にリゼッタと共にやって来たクルスと獣人が立ちふさがった。
「クルスさん!」
「クルス!」
それを見て驚いたのはユウと、ミルミット王国の国王と共にミノス砦に訪れていた皇太子レオンハルトだった。
声こそ上げてはいないが、皇太子妃であるシンシアも信じられないと言う顔をしている。
クルスは、その声を無視して騎士の槍を両手に持った短剣でさばいて行く。
「龍装『黒龍戦斧』」
ユウは、深淵属性の魔力を凝縮した薄い鱗を幾重にも重ね、暴虐の塊と化した戦斧をリゼッタに振り下ろす。
「第3の刃、アビス」
リゼッタの剣が瞬時に黒く染め上がりユウの戦斧を止める。
極限まで圧縮された破壊の魔力同士の衝突は、無駄な衝撃などは無く、拮抗した威力は停滞を作り出した。
「悪いけどユウちゃんも少し静かにしててちょうだい」
「なっ!」
ユウの周りにいくつもの拘束魔法が発動する。
だが、ユウは退くことは出来ない。
今、少しでも退けば、力の拮抗が崩れてリゼッタの剣はユウに襲い掛かる。
結果、ユウも皇帝や国王達同様に拘束されてしまった。
「くっ!」
「無駄よ、いくらユウちゃんでも6属性の多重拘束はそんなに簡単には解除出来ないわ」
ユウから離れたリゼッタはクルスや獣人が足止めしていた騎士と冒険者をユウと同じ様に拘束した。
「さて、ようやく静かになったわね」
「………………リゼッタ、お前の目的は何だ。
至高の冒険者とまで言われたお前が何故こんな事をした?」
ミルミット王国の国王フリードリヒが静かに尋ねる。
「頼まれたからよ」
「頼まれた?」
「ええ…………これで良いのでしょ?」
リゼッタが尋ねたのは一緒に居たエルフの男だった。
「ああ、ご苦労だった」
エルフの男は広間の中心、半円に座る王達の中心に移動する。
その背後にはクルスと獣人が付き従っている。
パチン!
エルフの男が指を鳴らすとその姿が一変する。
「お、お前は⁉︎」
拘束された各国の代表達がざわざわと騒ぎ出した。
エルフと獣人、そして人間だったクルスの姿が魔族へと変わってしまったからだ。
「く、クルス……」
「そんな……クルスさんが魔族だったなんて……」
クルスは、ショックを受けるレオンハルトとシンシアに少しだけ悲しそうな視線を向けたが、言葉を発することは無かった。
驚く皇帝の前に進み出た魔族は、洗練された美しい所作で礼を表す。
「お初にお目にかかる人族の指導者達よ。
私の名はシルバリエ……魔族を統べる5人の魔王の1人、魔王シルバリエだ」
「………………」
「………………」
「……………ま、魔王」
沈黙が満ちる広間に、誰かの呟きがやけに大きく響いた。
「先ずはこの度の非礼を詫びよう。
だが、こちらにもこうしなければならない理由があったのだ」
「細かい話は結構、単刀直入に要件を聞きたい」
連合の盟主であるグリント帝国の皇帝ハイランドは、シルバリエの話を遮りそう尋ねた。
「うむ、そうだな要件とは此度の戦争の事だ」
シルバリエはそこで言葉を区切る。
「我々魔族は人類連合に対して、全面的に降伏する」
この日、戦争は終わった。
最低でも半年は続くと予想された人類と魔族の大戦争は、たった3日で幕を降ろしたのだった。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部 完
その様な場所で剣を抜けばどうなるかは考えるまでも無い。
各国の代表の背後に控えていた護衛達は代表達を背に庇い剣を構えた。
「ふふ」
自分に向けられた切っ先を見たリゼッタは、剣を手の中でくるりと回すと地面に突き立てた。
瞬間、リゼッタの剣から閃光が走り護衛の騎士や冒険者の間を駆け抜ける。
風の上位属性である雷属性の拘束魔法、サンダーバインドが広間の中に居た者の動きを縛る。
回避できた者は数人だけだった。
「はっ!」
ギンッ!
リゼッタは、サンダーバインドを回避した1人であるユウの真っ白な戦斧を受け止める。
「どう言うつもりですか、リゼさん!」
「ちょっと大人しくなって貰っただけよ」
薄く微笑むリゼッタの左右から槍を構えた騎士と剣を振り上げた冒険者が迫る。
ユウを押し返したリゼッタは、上半身を反らし槍を回避すると、その槍を掴み騎士ごと冒険者に叩きつけた。
一緒になって吹き飛ばされた騎士と冒険者だったが、リゼッタのサンダーバインドを回避する程の実力者である。
すぐさま立ち上がり、2本の戦斧を流れる様に繰り出すユウと、それ1本の剣で受けきっているリゼッタの下に向かう。
しかし、2人の前にリゼッタと共にやって来たクルスと獣人が立ちふさがった。
「クルスさん!」
「クルス!」
それを見て驚いたのはユウと、ミルミット王国の国王と共にミノス砦に訪れていた皇太子レオンハルトだった。
声こそ上げてはいないが、皇太子妃であるシンシアも信じられないと言う顔をしている。
クルスは、その声を無視して騎士の槍を両手に持った短剣でさばいて行く。
「龍装『黒龍戦斧』」
ユウは、深淵属性の魔力を凝縮した薄い鱗を幾重にも重ね、暴虐の塊と化した戦斧をリゼッタに振り下ろす。
「第3の刃、アビス」
リゼッタの剣が瞬時に黒く染め上がりユウの戦斧を止める。
極限まで圧縮された破壊の魔力同士の衝突は、無駄な衝撃などは無く、拮抗した威力は停滞を作り出した。
「悪いけどユウちゃんも少し静かにしててちょうだい」
「なっ!」
ユウの周りにいくつもの拘束魔法が発動する。
だが、ユウは退くことは出来ない。
今、少しでも退けば、力の拮抗が崩れてリゼッタの剣はユウに襲い掛かる。
結果、ユウも皇帝や国王達同様に拘束されてしまった。
「くっ!」
「無駄よ、いくらユウちゃんでも6属性の多重拘束はそんなに簡単には解除出来ないわ」
ユウから離れたリゼッタはクルスや獣人が足止めしていた騎士と冒険者をユウと同じ様に拘束した。
「さて、ようやく静かになったわね」
「………………リゼッタ、お前の目的は何だ。
至高の冒険者とまで言われたお前が何故こんな事をした?」
ミルミット王国の国王フリードリヒが静かに尋ねる。
「頼まれたからよ」
「頼まれた?」
「ええ…………これで良いのでしょ?」
リゼッタが尋ねたのは一緒に居たエルフの男だった。
「ああ、ご苦労だった」
エルフの男は広間の中心、半円に座る王達の中心に移動する。
その背後にはクルスと獣人が付き従っている。
パチン!
エルフの男が指を鳴らすとその姿が一変する。
「お、お前は⁉︎」
拘束された各国の代表達がざわざわと騒ぎ出した。
エルフと獣人、そして人間だったクルスの姿が魔族へと変わってしまったからだ。
「く、クルス……」
「そんな……クルスさんが魔族だったなんて……」
クルスは、ショックを受けるレオンハルトとシンシアに少しだけ悲しそうな視線を向けたが、言葉を発することは無かった。
驚く皇帝の前に進み出た魔族は、洗練された美しい所作で礼を表す。
「お初にお目にかかる人族の指導者達よ。
私の名はシルバリエ……魔族を統べる5人の魔王の1人、魔王シルバリエだ」
「………………」
「………………」
「……………ま、魔王」
沈黙が満ちる広間に、誰かの呟きがやけに大きく響いた。
「先ずはこの度の非礼を詫びよう。
だが、こちらにもこうしなければならない理由があったのだ」
「細かい話は結構、単刀直入に要件を聞きたい」
連合の盟主であるグリント帝国の皇帝ハイランドは、シルバリエの話を遮りそう尋ねた。
「うむ、そうだな要件とは此度の戦争の事だ」
シルバリエはそこで言葉を区切る。
「我々魔族は人類連合に対して、全面的に降伏する」
この日、戦争は終わった。
最低でも半年は続くと予想された人類と魔族の大戦争は、たった3日で幕を降ろしたのだった。
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