神々の間では異世界転移がブームらしいです。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

122話 犯行とわたし

  煙が晴れた時、すでに怪人108面相の姿は有りませんでした。
  わたしのマッピングスキルにも異変はありません。
  恐らく、隠密系の上位スキルか、マジックアイテムを使っているのでしょう。
  神様から貰ったマジックアイテムが姿や気配を隠す代物なのかも知れません。

「逃げられたわね」

「予告日の前日に侵入して来るなんて怪盗の風上にも置けない奴です。
  しかし、テレサ様もすごいですね。
  まさか、呼び方ひとつ怪人108面相の変装を見破るなんて」

  わたしはまるで、探偵物の作品を観ているようで少し感動しました。

「ああ、あんなのは出まかせよ。
  全然分からなかったわ」

「え？」

「どうも、毎回、内部の情報が漏れているみたいだったのよ。
  だから、見取り図を借りに来たマリルにカマを掛けたの」

「ほ、本物だったらどうするのですか⁉︎」

「大丈夫よ、マリルならあれくらい難なく避けるわ…………多分ね」

  なんてバイオレンスな人なのでしょう！
  恐ろしいです。
  脳筋ですね。
  こうは成りたくないものです。
  


  今日は、犯行予告当日です。
  昨日はしてやられたので、今日こそは叩き切ってやりましょう。
  分かっています。
  もちろん生け捕りにしますよ？
  少しだけです。
  先っちょだけだから大丈夫です。
  ポーションも用意していますし、問題ないです。

  わたしは現在、カーネス子爵邸の庭の中心で仁王立ちしています。
  特に理由はありません。
  暇です。
  犯行予告の時間まであと約1時間くらいあります。
  周りの冒険者達の間には緊張感が満ちて来ていますが、まだ気を張るのは早いと思います。

「お疲れ様です、ユウ様」

「マリルさん、如何されたのですか？」

「冒険者の皆様にテレサ様からの支援物資を届けに参りました。
  ユウ様もどうぞ」

「ありがとうございます」

  マリルさんからバスケットに入ったサンドイッチと竹筒の様な水筒に入った紅茶を、貰いました。
 
「マリルさんは…………本物ですよね？」

「はい、かの怪盗が私に変装していた事はお聞きしました。
  ですが私は本物です。ご安心下さい」

  大丈夫みたいですね。
  根拠は有りませんが。
  マリルさんはこのままここで怪人108面相の出現を待ち、奴が現れた時にはそれをテレサ様に報告する役目があるそうです。
  テレサ様は今、この街の高級宿に居ます。
  王女様が自らただの貴族の屋敷の警備に参加する訳には行きません。
  怪人108面相と何度も刃を交えたと言う噂を聴きましたが、それはかなり尾ひれのついた噂だった様です。
  テレサ様は、指揮を執ってはいましたが、直接闘ったのはマリルさんに変装した怪人108面相を見破った時が初めてだったそうです。
  今まではテレサ様が用意した警備（ザル）を抜け、テレサ様がいる宿や領主邸の部屋に悪事の証拠を投げ込むと言うのがパターンだったらしいのです。
  話を聞くと、やはりテレサ様は怪人108面相をあまり本気で捕まえる気は無い様です。
  捕まえらたらラッキーくらいの考えの様ですね。
  マリルさんと雑談を交わして時間を潰します。
  意外とマリルさんはユーモアのある方です。
  人は見かけによらないです。

「そろそろでございますね」

「そうですね」

ドッゴン‼︎

  わたしとマリルさんがそう言った所で屋敷の端、様々な物資を積んであったあたりで大きな爆発が有りました。
  爆発と言っても攻撃魔法の様な物ではなく、花火の類いです。
  そして、煙が晴れた後には、タキシードにシルクハット、仮面とステッキの変態の姿がありました。