194 / 265
二部
190 レベルアップ?
しおりを挟む宴はユルセール城の大広間で行われた。
祝賀会は各騎士団団長など、ユルセールの要職にある者と、その要職にある者が認めた者が集まっていた。さすがにすべての者を一集めてというわけにはいかず、一般の騎士たちは別のところで騒いでいるようだ。
お偉いさんがいたんじゃ騒げないだろうから、そのほうがお互いのためだろうな。
騎士だけではなく文官のみなさまも集っていて、その数はなにげに武官よりも多い。俺はチョビのおっちゃんくらいしか知らないので、自然と仲間うちで固まって飲み食いをしていた。
すでに宴もたけなわ。というところを過ぎて、あちこちでお偉いさんたちがコロニーを作ってはグラス片手に話をしている。おおむね、政治的な話やら何やらなのだろう。
俺たちはそういうものに巻き込まれないよう、リ=ハン湖を望めるバルコニーのひとつに陣取る。月夜を写した湖を眺めながらちびちびと酒を飲んでいる。
ときおりお偉いさんが来ては、俺たちのことを褒めては帰っていく。流れ星が俺を含めて5人。エステルたち北極星が4人。大広間から等間隔に張り出したバルコニーは、ひとつひとつがそれほど大きくない。
代わる代わるやってくるお偉いさんたちは、満員のバルコニーに居心地の悪さを感じてか、すぐに退散していく。
「……なんか俺たち。国のお偉いさんたちを邪険に扱ってないか?」
「わたしたちが愛想を振りまかなくちゃいけない場面でもないから、いいのよ」
俺がなんとなく悪いなあと思ったことを口にすると、アーティアはすました顔でグラスを傾けた。中身は深い色をした赤ワインだ。かなりのヴィンテージもので、蒸留酒派の俺もワインばかり飲んでいる。
「そうだな。俺たちもあとはウォルスタに帰るだけだし」
そこでふと思い出した。
今回のことでがっぽり経験点入ってるんじゃないか!?
「よーしみんな! キャラシート出してレベルアップを確かめるぞ!!」
「キャラシート、ですか? あいにくそういったシートは持っておりませんが……」
事情がわからずぽかんとしているのはリコッタだ。ロマーノはお偉いさんたちに囲まれるのがイヤだったらしく、今はリコッタが表に出ている。
このメンバーの中では、俺がキャラクターシートと上書きしてレベルアップさせることができるのを知らないのは、リコッタとロマーノ。そしてケイシャだけだ。
「お師匠様は、人間の能力を一覧にした羊皮紙を作ることができるの。それまでに積んだ経験も数値化されていて、それを使って力を増すことも」
「な、なんなんですか!? その神々の技のような力は!!」
「俺もこの力についてはよくわからないんで、絶対に秘密にしておいてくれ」
エステルが完璧な説明をしてくれたので、俺はひととおりの感知系魔法を発動させる。盗み聞きとかされたら面倒だからな。
皆にテーブルを囲ませると、俺は十枚のキャラクターシートを虚空から取り出した。
「それじゃあ全員自分のキャラシートを受け取ってくれ。俺たちはもう一度やってるからわかるだろうから、エステルたちはリコッタとケイシャと……ロマーノにパラメーターの更新の仕組みを教えてやってくれ」
驚いたことにリコッタとロマーノのキャラクターシートは別用紙でそれぞれ存在した。経験値とかの入り方はどうなってるんだろう?
「……あの。お師匠様」
北極星チームのリーダーであるエステルが、全員分のキャラクターシートを並べて首をかしげた。
「メルのぶんですが、もうレベルが上がっているみたいです」
「何だって?」
=====
メル・アーケイダ 獣人(猫) 女 16歳
STR=19
DEX=18
AGE=20
INT=15
VIT=19
MND=16
戦士Lv9
猟兵Lv9
狩人Lv5
経験値=2330
=====
本当だ……
俺が前回見たメルの戦士レベルは8だった筈だ。しかも、VITとMNDも2づつ増えているようだった。
何より経験点が2000点くらいになっているので、明らかに消費した形跡がある。
「わーい! メルの戦士レベル上がってるの! VITとMNDもちょっぴり!!」
「ねえ、メテオ」
「まさかそっちもか?」
「リーズンだけは変わりないようだけど」
アーティアがリーズン以外のキャラシートを見せた。
=====
アーティア・ソルディア 人間 女 27歳
STR=16
DEX=16
AGI=16
INT=18
VIT=18
MND=31
神官 Lv10(商業の神)
戦士 Lv6
商人 Lv9
経験点=970
=====
=====
ガルーダ リトルフィート 男 (推定)24歳
STA=20
DEX=24
AGE=24(+6)
INT=12
VIT=30
MND=26
盗賊 Lv11
吟遊詩人Lv9
猟兵 Lv10
道化師 Lv8
経験点=1580
=====
=====
ハム・ボーンレス 人間 男 36歳
STR=24
DEX=24
AGI=24
INT=14
VIT=42
MND=18
戦士 Lv11
賢者 Lv5
吟遊詩人 Lv5
蒐集家(武具) Lv8
司令官 LV5
経験点=5530
=====
アーティアはMNDが4と商人レベルが1上昇している。
ガルーダはSTRとVITががっつり上がっている。
そしてハムはそれまでなかった司令官レベルというものが増えている。しかもレベル5だ。
「リーズンはどうなってるんだ?」
「経験点とやらは増えているが、その他は変わりないようだ」
===
リーズン・エル=フィランド エルフ 男 218歳
STR=11
DEX=19
AGI=21
INT=18
VIT=16
MND=24
精霊使い 10Lv
猟兵 Lv8
賢者 Lv5
領主 Lv6
経験点=15770
=====
確かに経験点は増えているが、他のパラメーターに変化はない。
「ちょっとエステルたちのキャラシートも見せてくれ」
「どうぞ、お師匠様。わたしもリーズン様と同じで経験点だけが増えているようです」
=====
エステル・ローゼンロード 人間 女 16歳
STR=11
DEX=12
AGI=13
INT=21
VIT=14
MND=19
魔術師 Lv7
賢者 Lv7
吟遊詩人 Lv1
料理人 Lv5
経験値=14990
=====
=====
リコッタ・セントクロア ハーフエルフ 男 17歳
STR=9
DEX=12
AGI=16
INT=21
VIT=16
MND=20
精霊使い Lv7
接客 Lv6
経験点=21350
=====
=====
ロマーノ・セントクロア ハーフエルフ 女 17歳
STR=12
DEX=19
AGI=18
INT=13
VIT=16
MND=20
盗賊 Lv7
吟遊詩人Lv6
経験点=19920
=====
=====
【神の子】 ケイシャ・ソルディア 人間 女 10歳
神官 Lv7
STR=8
DEX=10
AGI=10
INT=13
VIT=11
MND18
経験点=2120
=====
「……どういうことなんだ?」
「メテオが知らなければわからないわよ」
そりゃそうだ。
初めて見たが、ケイシャのキャラシートの名前欄には【神の子】ってあるぞ。しかもこれ、レベルが上がっているっぽい。
リコッタとロマーノのキャラシートも所見だが、こちらは経験点の入り具合からどうも勝手にレベルアップはしていないようだが。
「むー。原因はわからないんだが、ひとまず経験点がある分だけ、レベルアップを済ませておくか」
勝手に上がってしまったものは仕方ない。前回、皆の能力値やスキルは俺が手を入れなくちゃ上がらなかったんだがなあ。
「メテオ様ー メルはこのままで気に入ってるのー」
「そうか? ならいいんだが」
メルはどうやら戦士のレベルを極めたいようだな。だったら寄り道はしないほうがいい。
「わたしもとくに不満はないわ」
「おいらも」
「俺もだ」
アーティアとガルーダ。そしてハムも能力の上がり方には異論はないようだ。
何かがきっかけで、頭打ちだった才能みたいなのが勝手に開花したのか?
「それじゃあエステルとリーズンはどうだ?」
「わたしは魔術師スキルが上がれば嬉しいです」
「俺も精霊使いのレベルが11になればいいんだが」
俺はそれぞれのキャラシートを覗き込む。
惜しい。エステルはあと10点あれば8レベルに上がれたものを。
リーズンの精霊使い11レベルは、魔術師レベルの10に匹敵する。まだまだ手持ちの経験点では道は長い。
「残念だがふたりとも上がらない。とくにリーズンがレベル11に上がるのはまだぜんぜん足りない。他に上げたいものとかはあるか?」
「いえ。わたしは魔術師の力を伸ばしたいので」
「……俺もだ」
そうか。ということはこのふたりも、自分が望む経験点の残し方をしていることになるな。
「ケイシャも自動的に上がっているみたいだ。残りの経験点が少ないからできることは少ないが、パラメーターを上げるか?」
「だ、だいじょ、ぶ。です」
ケイシャも保留だ。しかしアーティアから聞いていたケイシャの使える神聖魔法の最大はレベル5の《聖水/ブレスウォーター》だったはず。それが今ではレベル7。《再生/リジェネレーション》まで使えるようになっている。
「こ、幸運神の魔法が、あ、新しく使えるようになったみたい、なん、です」
「やっぱり神の子……だったのね」
アーティアは神妙な顔で呟く。
「神の子には何かしらの試練がつきまとうわ。ケイシャ。この先、辛いことがあるかもしれないけど、エステルたちの力も借りて頑張りなさい」
「は、はい!!」
ケイシャの身体能力はまだまだ低い。しかし、これは年齢がもう少し上がれば自然と増えるだろう。今俺が下手にいじらないほうがいいだろう。
【神の子】なんて称号持ちの神官がいるパーティか……
エステルたちの冒険も並大抵じゃなさそうだな。
「それじゃあリコッタと……ロマーノもこの会話は聞こえているのか?」
「はい、問題なく聞こえています」
「なら、お前たちは何の力を伸ばしたい? 書き直しはできないから、今から説明することを聞いて慎重に決めてくれ」
俺はパラメーターとスキルについてざっくり説明すると、リコッタはしばらく目を閉じて考えこんだ。ロマーノと相談をしているのかもしれない。
「……決まりました。わたしが精霊使い。ロマーノが盗賊のスキルを上げたいと思います」
「わかった」
ふたりの経験点はそれぞれの希望通り、スキルをひとつづつ上げることができる。
俺は空中から消しゴムとシャープペンシルを取り出すと、ふたりのキャラシートを――
「……暗くて見づらいな」
「でしたらわたしが――光よ。《光明/ライト》……あれ、失敗」
エステルのやつ一ゾロを出したな。あ、でもということは――
「お、お師匠様! 頭の中に突然――」
魔法に失敗したエステルがわたわたと頭を抱えている。
俺にはなんとなく予想ができた。
エステルのキャラシートを覗き込む。
=====
エステル・ローゼンロード 人間 女 16歳
STR=11
INT=21
DEX=12
AGI=13
VIT=14
MND=19
魔術師 Lv8
賢者 Lv7
吟遊詩人 Lv1
料理人 Lv5
経験値=0
=====
「おめでとう、エステル。魔術師レベルが上がったぞ」
「ほ、本当ですか!? いえ、なんとなくそうじゃないかとは思ったんです!! 突然、今まで使えなかったはずの魔法が使えるっていう確信が湧いてきて!!」
テーブルトークRPG『アャータレウ』。
それには一ゾロを出したときの“絶対失敗”と、最高目のゾロ目が出た時の“完全成功”がある。
いずれも名前の通りだが、失敗には残念賞として。成功には芸術点として経験点が10点入ることになっている。
わずかな経験点だが、塵も積もればなんとやら――
その塵がまさに今、山の頂に達したということだ。
「あ、ありがとうございます! お師匠様!!」
「いや、今回俺は何もしてない」
だが、やはり勝手にレベルアップしているようだ。
何かが変わって、勝手にレベルアップしている。けれどもその勝手具合は、当人たちの望み通りの方向性に進んでいるようだ。ならばひとまずは放っておこう。
「あ、もう一回《光明/ライト》を使いますね」
今度のエステルの魔法は無事に成功した。
生み出された光がはっきりとリコッタとロマーノのキャラシートの文字を浮かび上がらせる。
俺は迷うことなく消しゴムをかけ、リコッタとロマーノのレベルを上げる。
「どうだ、リコッタ?」
「はい……精霊の力を今までに増して強く感じられるようになりました。不思議ですね」
これでリコッタもレベル8の精霊使い。リーズンの大好き《炎の嵐/ファイアストーム》も使えるようになったって訳か。
「どれ……俺はしばらくレベルが上がらないんだか経験点の確認だけでも――」
「メテオ、レオン王との話が終わったのだ」
やってきたのは銀龍カトラ――の人間バージョン。巫女服のようなものを着た、銀髪銀目の少女だ。
「どうだった?」
俺は瞬時にキャラクターシートを消す。
いくら秩序側の龍とはいえ、俺の最大の秘密をむやみに明かしたくはない。
接近してくるのはその直前に俺の感知魔法でわかっていたので、見られてはいない。
「ふむ、おおむね良好といったところなのだ」
宴の間中、レオンの隣に同等の椅子に座って話をしていたカトラは、満足気に頷いた。
************************************************
もうすこしで二部もおしまい。
感慨深くなってきました…
0
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる