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しろやぎ

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二部

176 精霊王の炎

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「ハム様! あの銀色の竜は一体!?」
「俺たちにもよくわからん」

 アーティアとビショップ。そしてシェイラと合流したふたりは、さっそくビショップからごく当然な質問を向けられた。
 しかしそれに答えられるはずもなく、ハムは淡々とビショップとシェイラに続ける。

「馬は呼べば戻ってくるか? ふたりとも一度下がってレオン王のもとに戻れ」
「馬は口笛を吹けば戻ってくるように仕込んであります……しかし、流れ星シューティングスターの皆様はまさか残られると?」
「少ないほうが回復がしやすい」

 無茶だ。ビショップもシェイラもそう思ったが、先程から流れ星シューティングスターの面々には驚かされっぱなしだ。この人たちであれば……という思いが、常識的な言葉をひっこめた。

「……承知しました、ご無事で。シェイラ、行くぞ!!」
「メテオ様にお会いしたらこの旨すぐに伝えます!!」

 ビショップとシェイラが戦線から離脱すると、アーティアはじとっと仲間のふたりとイーフリートを睨みつける。

「こっちに向かってくるの、古代龍エルダードラゴンじゃないの。勝てないわよ?」
「メテオが来るまで持たせればいい」
「……そうね。メテオが気づいてくれれば、最悪《転移/テレポート》で逃げられる」
「案外、今のメテオなら龍にでも勝てるかもしれない」
古代龍エルダードラゴンは神々に等しい力を持っているって話よ。いくらメテオでも――」
「ふたりとも、もう追いついてきたぞ。さすがは古代龍エルダードラゴン。しかも銀色。あの身体でどう飛んでいるんだか……」

 リーズンがふたりに注意を促した。

「参ったな。もうロクに魔法を使えん。《大地震/アースクエイク》に力を込めすぎた」

 ムダとは知りながらもリーズンは弓に矢をつがえた。リーズンがこうして弓矢を扱うということは、本当に精神力に余裕がないのだ。
 
「《精神賦活/インスティルメンタルエナジー》で心の力を分けてほしい?」
「アーティア。それがムダなことはお前がよく分かっているだろう。その分《回復/ヒーリング》に回してくれ」

 アーティアの一応の申し出を断るリーズン。一度二度、精霊魔法が使えたとしても、銀龍が相手では焼け石に水だ。
 リーズンはせめて、イーフリートがこちらの世界に顕在化するのをやめないためだけに、ここにいる。イーフリートはこちらの世界で消滅しても、しばらくすれば精霊界で復活する。怖いのは封印系の魔法だが、銀龍といえどもそんな特殊なことはしてこないだろう。

「リーズン。そして、ハム。アーティアよ」
「どうしたのイーフリート? わたしに話しかけるだなんて珍しい」

 アーティアは驚いた。別に仲が悪いというわけではないが、イーフリートがリーズン以外と積極的に会話するのは稀なのだ。

「別におぬしだけに語りかけているわけではない。炎の精霊王イーフリート。いかに人間界だとはいえ、古代龍エルダードラゴンに一撃も浴びせず退場とあっては王の沽券にかかわる――」
「イーフリート? 何をする気だ」
「リーズン。しばらく我はおぬしの呼びかけにも応じられぬかもしれぬが、気を悪くしないでもらおう」
「……イーフリート?」

 炎に包まれた巨体を銀龍の方へと向け、イーフリートはぶっきらぼうに締めくくった。

「我は炎の精霊王イーフリート。人間界であろうとせめて一撃。あの長物に浴びせてくれる――」

 炎の竜巻となってイーフリートは空高く舞い上がる。高速で近づいてくる銀龍と相まみえるのもすぐだろう。

「リーズン。イーフリートが勝手に行動するなんて、今までなかったと思うけど?」
「あいつとは友達みたいなものだが、一応契約しているようなものだからな。勝手に行動しようと思えばできるはずだが、それは本来ならば精霊のルール違反だ」
「しかし、あいつ。楽しそうだったな」
「ハムにはそう見えたのか?」
「ああ」

 イーフリートが楽しそうにしているのは、何かを焼きつくしているときだけ。少なくともリーズンは今までそう感じていたのだが。

「いわれてみれば……あいつ笑っていたか?」
「いつもどおりの鬼の顔だったわよ」

 アーティアは反論の余地なくぴしゃりと断言した。




(古代龍エルダードラゴンよ! 銀龍よ!! 誇り高き龍が無様だな!!)

 イーフリートは空中で銀龍に心の声で問いかけた。精霊同士の会話であれば言葉は不要。きわめて高い存在であり、神にも匹敵するといわれる古代龍エルダードラゴンならば通じるのではないかと思ったのだ。

(……炎の精霊王。人間ごときに呼び出された精霊風情が!! わたしを無様と罵るのであれば、そなたも同様なのである!!)

 銀龍もまた心の声でイーフリートに言葉を返す。しかしその調子には余裕が感じられなかった。

(我を呼び出したるはエルフの精霊使い。だが、今は自らの意思でおぬしを止めに来た)
(自らの意思でだと? 仮にも炎の精霊王がなにゆえ人間界で起こることに介入するのである!?)

 こうしている間にも銀龍はイーフリートに接近してくる。
 銀龍は意思に反して全身をがんじがらめに支配されていた。
 あともう少し、間合いを詰めれば銀龍は神をも殺すことができる銀色の吐息.ブレスを炎の精霊王に浴びせかけることになっている。
 精霊界の力を発揮できない精霊王には、足止めもできずに自分の世界へと還って貰うことになるだろう。

(止められるものなら止めるのである!! 銀龍の神殺しの吐息ブレスを耐え切れればな!!)

 銀龍は全身をぶるりと震わせると、カッと顎を開いた。
 銀色の鱗が逆立ち、太陽を浴びてぎらぎらと煌めいたと思うと、その光がふいに消失する。
 その光は槍衾のような銀龍の牙の奥に現れたかと思うと、ぶよぶよとした光でできた銀色の塊を口内いっぱいに作った。
 銀龍はそれを鋭い牙で噛み砕こうとする。

(銀龍よ。精霊界の真なる炎を馳走しよう――《爆轟/デトネイション》)

 銀龍が銀色の塊を噛み砕いたのと、イーフリートが文様の入った太い両腕を突き出したのはまったくの同時であった。

 無音のまま炸裂した銀の閃光。
 そしてイーフリートの両の手のひらから生み出されたのは轟音と高熱の炎の炸裂。

 およそこの地上では体験することができない光と熱が、精霊王と古代龍エルダードラゴンのはざまで生み出された。




「な、何よ……今の……魔法?」

 イーフリートと銀龍が向かい合ったところで、今まで見たこともない閃光と、今まで聞いたことがない爆発音が炸裂し、アーティアは一瞬意識を失っていた。

「目が……耳が……――《五感回復/キュアーファイブセンス》」

 意識を取り戻したところで目も見えず、耳も聞こえないアーティアは混乱しかけたが、すぐさま自分に五感の失調を回復する神聖魔法、《五感回復/キュアーファイブセンス》 をかけると、呆然と立っているリーズンとハムを目にし、次に草木のないのっぺらぼうになった平原を見た。

「ハム! リーズン!! あなたたち目と耳は大丈夫なの!?」

 あの閃光と衝撃波でどうにかならないわけがない。アーティアはふたりに駆け寄ると腕を引っぱる。

「――アーティアか。回復してもらっていいか?」

 ハムはあの衝撃に意識を失わずにいたのだろう。しかし、光と衝撃波は確実に視力と聴力を奪っていた。アーティアはハムに《五感回復/キュアーファイブセンス》をほどこすと、反応のないリーズンの前に回った。

「リーズン! あなた大丈夫なの!? ――リー……ズン?」
「イーフリートが……イーフリートの気配が……消えた」

 リーズンの前に回ったアーティアが見たものは、おそらくは見えていない両目から、血の涙を流したリーズンだった。 
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なんとか期日前に確定申告を終わらせ、ぶじ投稿できました…(ずだぼろ)
今週は出張で愛知県に三日ほどお仕事。
ますます執筆ペースが落ちるので、いまだ予断を許さぬ状況です、ドクター。
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