ワールドトークRPG!

しろやぎ

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二部

148 ミストブリンガー

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「おおっと!!」

 首筋に冷たい何かが当たる感触に、俺はすかさず横に飛んだ。

「魔法じゃない? ……うおっ!!」

 一体何に攻撃されたのかを確認しようと振り返ろうとすると、今度は背中に殺気が。
 攻撃を確認することもできずにステップを踏んで間合いを――

「――――!?」

 俺が回避のため短く飛んだ最中、ふたたび首筋に冷たい殺気が。

「でぇい!!」

 着地前に身体をねじって前転。そのまま空中で足を跳ね上げ、俺を攻撃してきた者に踵を食らわせる――
 はずだったのだが、手応え。いや、足応えはまるでなかった。
 確かに、首筋には刃物を押し付けられたかのような殺気があった。

 そこで、ひとまず俺に対する攻撃はおさまった。

 気がつけば周囲は真っ白な霧で覆われている。
 自分にかけた《魔防皮膜/ルーンスクリーン》は解除されていないので、これまでの攻撃は魔法によるものではなく、物理的な攻撃なはずだ。
 しかし、盗賊スキル10を持つ俺が、攻撃してきた相手の姿も確認できないとは……

 ふと、視界の端に動くものが――

「この野――って水取りサーヴァントさんか」

 腰に吊るした七つの護符剣セブンタリスマンを抜き打ちで叩きつけようとした先には、俺の作った水取りサーヴァントさん。
 すんでのところで剣を止めることができたが、危うく自分の作ったサーヴァントを叩き壊すところだった。

「今、除湿してやるぞ。《乾燥/ドライスペル》」

 真っ白になっていたダイアトライト製のサーヴァントに乾燥魔法をかけると、即座に透明になっていった。
 一番初めに襲われたとき、確かにサーヴァントの色が変わっていった。
 つまり、この水取りサーヴァントさんがいれば、敵襲がわかるということだ。

 じわり。

 水取りサーヴァントさんの色が変わった。
 
「そこ!!」

 剣を握った身体を畳むように足を入替え、反転する。最小限の動きで背後に芽生えた殺気を振り向きざまに叩く。

 バシュッという音とともに殺気が消える。生身ではないのか?
 水の精霊ウンディーネのような半分霊体の魔物か何かなのだろうか。

 その後、二度ほど感じた殺気は、水取りサーヴァントさんによるレーダーと俺の剣技によって、出かかりを即座に切り伏せられている。

 さらに、霧の中から水を吸ってつやつやの身体になった二体のサーヴァントが現れた。《石人形/ストーンサーヴァント》はある程度の距離であれば、視界が通じなくとも術者のもとに帰ってこさせることが可能だ。

「この魔力の風が触れたのちは、砂漠に咲く薔薇のように潤いを奪い去る。《乾燥/ドライスペル》」

 三体にかけた乾燥の魔法が、俺のレーダーをますます強化した。
 サーヴァント俺から少し離して立っていてくれるだけで、身体の色の変化で攻撃の気配を感じ取ることができる。

 俺は職業属性が魔法使いなので、物理戦闘に向いていない。
 『アャータレウRPG』では、キャラメイキングのときに職業属性を決める。
 戦士。魔法使い。盗賊。賢者。四つの属性が用意されていて、それぞれ判定の際に使うダイスの種類が変わってくるのだ。
 例えば魔法使いの属性があれば、魔法の判定を十面ダイスをふたつ。2D10で決定する。しかし、これが戦闘行為になると2D4。四面ダイスというまきびしのようなダイスふたつしか振ることができない。
 
 つまり、職業属性が魔法使いだと、とことん戦闘には向かないのだ。
 魔法使いの属性なのにメインスキルに戦士を選ぶなど、あえてこのハンデをキャラ立てのために使う者もいるが、正直修羅の道だ。
 『流れ星』シューティングスターの仲間だと、アーティアが賢者の職業属性だったりする。これはある程度戦闘もできて、魔法も少々高い効果が狙える。商人スキルは知識系。つまり賢者系の判定をするので有利だ。だが、盗賊的な行為はまるっきりダメという具合だ。

 それでも盗賊スキルレベル10というのは、俺のステータスの高さもあり、ガチの10レベルファイターとも戦うことができる戦闘力を有している。
 ストブリとかハムとかの戦士が相手じゃなく、隠れて攻撃してくるような盗賊系の戦闘であれば、遅れを取ることはまずない。

「魔術師だからって接近戦で物理殴りすれば倒せると思ったら大間違いだぞ」

 剣もしっかり構えているし、水取りサーヴァントさんのレーダーもある。
 霧にまぎれて手練れが動いているんだろうが、今度こそ大物を……あれ?

 俺を中心とした空間に、ぽっかりと霧が晴れてきた。
 えっ、これだと不意打ちできないよね?

 霧はどんどん俺から遠ざかっていく。

 何だ何だ。撤退か、エデンの町に襲いかかるつもりか。
 だったら俺も町の防御に。

「えっ」

 前触れもなく、俺の鼻先に鋭い槍が。
 しかも、ひとつではない。
 人間の腕ほどもある無数の槍が、俺からほんのすこし離れたところに漂っている。
 前方も、側面も、背後も。
 もちろん頭上も、足元も、乳白色をした槍が穂先を俺に向けている。
 さすがにこれを全部避けきるのは……

「シュトラ様の誘いを断った愚かな男。死して無礼を悔いなさい」

 この声はピニオーリで聞いたあの女の――

「五里霧中の夢破り、逃れ得ぬ死の面影を――」

 俺のぐるりを取り囲む槍に、感知魔法を使わずともわかるほど強力な魔力が注ぎ込まれている。
 
 これは。これはヤバい。

 今、俺の身体は《魔防皮膜/ルーンスクリーン》によって守られている。いかなる魔法もこの皮膜を一撃で破ることはできない。
 それゆえに魔術師最大の危険回避魔法、《転移/テレポート》も自分につかうことができない。もちろん物理攻撃を防ぐ《力の障壁/フォースフィールド》もだ。

 しかも、こうして俺の目の前に逆ハリネズミ状態で待機している槍は、魔法ではなく“魔法の武器”扱いであるようだ。
 となるとこれはもう物理攻撃に相当する。
 特殊能力こそないだろうが、一本一本にアーティファクト級の威力を感じる。
 《力の障壁/フォースフィールド》の防御すら突破されそうな槍が数百本。
 対人攻撃だとしたらオーバーキルすぎる。

「ちょ、待って」
「――血煙に乗せ、再び生命隠す霞となれ」

 呪文とはまた違う詠唱。
 おそらくはアーティファクト固有の起動の言葉。

『晴嵐』ミストルティン――」
いでませい。天を焦がす炎と石壁崩す衝撃よ。爆ぜて散れ《火球/ファイアボール》!!」

 とっさの判断で俺は“自分を中心として”《火球/ファイアボール》を炸裂させる。
 熱波と爆風は数百本の槍を吹き飛ばし――ついでに水取りサーヴァントさんをも木っ端微塵に爆散させた。

 俺といえば、《魔防皮膜/ルーンスクリーン》の効果でかすり傷ひとつない。
 実際のテーブルトークRPGのときにも何度か使ったことがある、半自爆の防御策だ。

「往生際の悪い……」
「どこだコラ! 出てこい!!」
 
 今のはやばかった。直撃を喰らったらどうなるかわかったもんじゃない。

「……シュトラ様に歯向かう魔術師。逃しはしない。初めにいっておくけれど、この霧の中にいる限り《転移/テレポート》は使えない……」

 本当かどうかはわからないが、この霧は《転移/テレポート》も封じるのか。
 もっとも俺こそこいつを逃すつもりはない。

「流れ続ける魔力の波が、わたしをしおから遠ざけるだろう。外界を気に病まず内に閉ざしたわたしの平穏。力では破ること能わず《力の障壁/フォースフィールド》」

 まずは物理攻撃を防ぐ高位の防御魔法。この魔法はテーブルトークRPGのとき、光の剣クラウ・ソラスを使ったハムの全力の一撃ですら、ほんの少ししかダメージを通さなかった魔法。
 しかし、10レベルの専業戦士がマジックアイテムの力を借りた斬撃を、完璧に止めることができないということでもある。
 だが、これが手持ちの中では最大級の物理防御魔法だ。何本かは自力で回避するしかない。

「五里霧中の夢破り、逃れ得ぬ死の面影を――」

 幸い。といってていいのかわからないが、この技は連続して発動できないようだ。
 呪文詠唱の時間というより、大気中の水分を集めて凝固させる時間。
 ゲーム的にはおおよそ三ターンってところか。

「だったらこの魔法で本体を見つけて、次のターンで叩く!! 魔力よ、姿を現せ《魔力感知/ディテクトマジック》……うえっ!?」

 魔力感知の魔法は俺の周囲に存在するすべての魔力の濃淡を調べることができる。だが、この霧はすべて均等に魔力が篭っている。
 いや、正確にいえば、槍ができていく場所のみが異様に魔力の濃い――

「――血煙に乗せ、再び生命隠す霞となれ。『晴嵐』ミストルティン
「チッ。風の精霊シルフ!! この槍を逸らせるか!? 《矢逸し/ミサイルプロテクション》!!」

 霧が固まってできた数百本の槍が俺に襲いかかる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 人前では使わないようにしている精霊魔法まで使ったかいがあり、離れたところから打ち出された槍は風の精霊シルフたちががんばって逸らせてくれた。
 ごく直近から放たれた槍はさすがに無理だったようで、こちらは《力の障壁/フォースフィールド》がはなりの勢いを削いでくれた。

「精霊魔法? 魔術師だとは聞いていたけれど、精霊魔法まで使えるとは……」

 女の声はあいかわらずどこから聞こえてくるのかわからない。

 いくつかの槍は風の精霊シルフたちと《力の障壁/フォースフィールド》を突き破り、俺の腕をかすめて血をにじませた。
 ずきずきと脈打つように右腕が痛む。

 思えばこの世界に来て、はじめてダメージを喰らったのか……?

「わたしの『晴嵐』ミストルティンを受けてそれだけの手傷とは一体? 何者なの、あなた」

 霧の奥から。いや、霧の中から聞こえてくる声が、若干動揺というか、呆れたような響きだ。

「うるせえ。俺はメテオ。お前はミストブリンガーか?」
「戦士と違って名乗りを挙げる趣味はないけど――そうよ。わたしはレゴリスの狂太子ザラシュトラ様に仕える魔術師、アヴェストリア。ミストブリンガーとも呼ばれているわ」
「なんでブリンガーがあんな頭のおかしい王子に仕えているんだ!?」

 俺の言葉に、霧の向こうで何かがピクリと反応した。

「シュトラ様のことを……頭が!! ――死になさい!」

 あっ、やばい。

 怒らせちゃったみたいだ。
************************************************
次回公開は5/3(日)00:00です。

ついに登場、ミストブリンガーさん。
いや、この正確には実力を出しての登場!!
その間じつに30話ぶり!!
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