ワールドトークRPG!

しろやぎ

文字の大きさ
上 下
91 / 265
二部

088 マレウスの書7

しおりを挟む

「オフィーリア、そんなとこにいたのかい」
「ぶにゃ~お」

 オフィーリアと呼ばれ、テーブルの下からに這い出してきたのは、それまで見たこともないほど巨大な白猫だった。

「ゴルルルルル……」

 三人が料理を食べる手を止めてしまうほど、その猫は巨大だった。といってもどこにでもいる白猫の大きさを五、六倍にして、まんべんなく脂肪を蓄えさせただけの姿であったが、それだけで猫とは思いがたい姿だ。
 ノドを鳴らす音すら普通の猫とは変わっている。

「麦粉の入った麻袋のようだ……」
「わたくしには発酵させたパン生地に見えます……あんなに大きなパン生地は見たことありませんが」

 マレウスとルシアが目を丸くしてオフィーリアの白く巨大な姿に驚嘆する。すると猫八の女主人はため息をついた。

「この子も仔猫の頃は普通の白猫だったんだけどねえ。なんでも食べるもんだから冒険者たちが面白がってエサを与えまくった結果さね」
「これだけ太ると病気が心配じゃのう」
「それがこの二十年間、オフィーリアは腹下しひとつ起こさず元気なものさね」
「「「二十年!?」」」

 三人が同時に声を上げた。
 猫の寿命はよくわからないが、二十年もの間生き続けている猫というのは間違いなく長寿といえるだろう。

「あたしがまだ娘時代のころから見ているから間違いないさね。今まで多くの猫を見てきたけど、これだけ太ってこれだけ長生きだなんて珍しい猫だよ」
「ごみゃ~」

 イヴァンのパイを見てオフィーリアが濁った鳴き声を上げた。

「こら、このパイは儂のだ。しっしっ」
「ゴルゴルゴルゴル……」

 邪険にされてもオフィーリアはイヴァンの脛にその巨体をすり寄せて来る。

「うっ、猫とは思えぬ重量感じゃ」

 脛によりかかるオフィーリアはまるで米袋を置かれているかのような感触だったのだ。

「オフィーリアに好かれちまったね。何かもらうまでその子は旦那から離れないよ」
「勘弁しとくれ」

 イヴァンは執拗に脛に額をこすりつけられて辟易とした表情だ。
 思わずマレウスとルシアは笑い声を上げた。

「猫八という名にふさわしいな……かつて、ウォルスタの町にあった猫屋敷という冒険者の宿といい、ユルセールには猫好きが多いようだな」
「なんだい魔術師の旦那。猫屋敷を知っているのかい」

 何気ないマレウスの呟きを猫八の女主人が拾った。

「なっ、なんと! ま、まさかこの店は猫屋敷にゆかりがあるのか!?」
「大ありさ。そもそも『猫八』っていう名前は、この宿の初代がウォルスタの猫屋敷から八匹の猫を貰ったことからきてるんさね」
「――おお、神よ!! やはり書物だけではわからないことばかりだ!! ぜ、ぜひその話を詳しく聞かせてはもらえまいだろうか!?」

 懐から一冊の帳面を出すと、マレウスは鬼気迫る表情で女主人に迫る。
 すでに閉店して長い、伝説の冒険者の宿『猫屋敷』ゆかりの逸話がこんなところで発掘できるかもしれないと、マレウスは興奮気味だ。

「あ、ああ。夜の仕込みだなんだってあるから、仕事をしながらでよければかなわないさね」
「是非とも。よろしくお願いしたい」

 マレウスは愛用の万年筆――しかもこれは魔法の品で、いくら使ってもインクが尽きることがない――を帳面に滑らせ、今日の日付と場所といったデータを書き付けていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...