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二部
088 マレウスの書7
しおりを挟む「オフィーリア、そんなとこにいたのかい」
「ぶにゃ~お」
オフィーリアと呼ばれ、テーブルの下からに這い出してきたのは、それまで見たこともないほど巨大な白猫だった。
「ゴルルルルル……」
三人が料理を食べる手を止めてしまうほど、その猫は巨大だった。といってもどこにでもいる白猫の大きさを五、六倍にして、まんべんなく脂肪を蓄えさせただけの姿であったが、それだけで猫とは思いがたい姿だ。
ノドを鳴らす音すら普通の猫とは変わっている。
「麦粉の入った麻袋のようだ……」
「わたくしには発酵させたパン生地に見えます……あんなに大きなパン生地は見たことありませんが」
マレウスとルシアが目を丸くしてオフィーリアの白く巨大な姿に驚嘆する。すると猫八の女主人はため息をついた。
「この子も仔猫の頃は普通の白猫だったんだけどねえ。なんでも食べるもんだから冒険者たちが面白がってエサを与えまくった結果さね」
「これだけ太ると病気が心配じゃのう」
「それがこの二十年間、オフィーリアは腹下しひとつ起こさず元気なものさね」
「「「二十年!?」」」
三人が同時に声を上げた。
猫の寿命はよくわからないが、二十年もの間生き続けている猫というのは間違いなく長寿といえるだろう。
「あたしがまだ娘時代のころから見ているから間違いないさね。今まで多くの猫を見てきたけど、これだけ太ってこれだけ長生きだなんて珍しい猫だよ」
「ごみゃ~」
イヴァンのパイを見てオフィーリアが濁った鳴き声を上げた。
「こら、このパイは儂のだ。しっしっ」
「ゴルゴルゴルゴル……」
邪険にされてもオフィーリアはイヴァンの脛にその巨体をすり寄せて来る。
「うっ、猫とは思えぬ重量感じゃ」
脛によりかかるオフィーリアはまるで米袋を置かれているかのような感触だったのだ。
「オフィーリアに好かれちまったね。何かもらうまでその子は旦那から離れないよ」
「勘弁しとくれ」
イヴァンは執拗に脛に額をこすりつけられて辟易とした表情だ。
思わずマレウスとルシアは笑い声を上げた。
「猫八という名にふさわしいな……かつて、ウォルスタの町にあった猫屋敷という冒険者の宿といい、ユルセールには猫好きが多いようだな」
「なんだい魔術師の旦那。猫屋敷を知っているのかい」
何気ないマレウスの呟きを猫八の女主人が拾った。
「なっ、なんと! ま、まさかこの店は猫屋敷にゆかりがあるのか!?」
「大ありさ。そもそも『猫八』っていう名前は、この宿の初代がウォルスタの猫屋敷から八匹の猫を貰ったことからきてるんさね」
「――おお、神よ!! やはり書物だけではわからないことばかりだ!! ぜ、ぜひその話を詳しく聞かせてはもらえまいだろうか!?」
懐から一冊の帳面を出すと、マレウスは鬼気迫る表情で女主人に迫る。
すでに閉店して長い、伝説の冒険者の宿『猫屋敷』ゆかりの逸話がこんなところで発掘できるかもしれないと、マレウスは興奮気味だ。
「あ、ああ。夜の仕込みだなんだってあるから、仕事をしながらでよければかなわないさね」
「是非とも。よろしくお願いしたい」
マレウスは愛用の万年筆――しかもこれは魔法の品で、いくら使ってもインクが尽きることがない――を帳面に滑らせ、今日の日付と場所といったデータを書き付けていった。
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