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続き③
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抵抗らしい抵抗も出来ず連れ込まれたのはもちろん、課長の寝室。そこは寝室らしく寝る為だけに作られた部屋で、必要最低限の物しか置かれていなかった。部屋の中央には大きなベッド。箪笥は見当たらない。きっと衣類などはクローゼットに全て仕舞われているんだろう。
明るい日が差す中、ベッドに落とされた私はようやく悲鳴をあげた。
「待って、マジで待って! こんなに明るいうちからなんて、無理だからっ!」
「無理? 何故」
何故って! それを訊くなよ!
顔を赤らめたままテンパる私の上に、課長は自然な動作でベッドの上に乗り上がる。ベッドのマットレスが重みで少し沈んだ。
課長は私に覆い被さり真っ直ぐ視線を向けてくる。その眼差しの強さに、思わずずりっと後退りたくなった。ベッドボードの方へ動こうとした私を、彼が手首を掴んで引き戻す。
「往生際が悪い子だ」
「生まれつきです」
「セレネは自分から俺を望んだのに」
「一緒にされては困りますっ」
「そうだな。だから今度は俺が君を望むんだ」
「……っ!」
艶やかにくすりと笑う姿を直視して、私の心臓はヤバい位早鐘を打った。鼓動がおかしくなってしまいそうなほどに。
だから、どうしてそんな事を直球で言うの!
そっと私の頬に触れてくる手の感触に、反射的に目を閉じる。前髪をかき上げてあらわになった額に彼は口づけを落とした。まるで洋画などで見る、外国の家族がする親愛の証のように。
柔らかい唇を額に感じて驚きから目を開けたと同時に、今度は唇が塞がれる。先ほど味わった課長の味だと思い出した時はもう遅い。連鎖的に、身体の熱が再発する。静まったと思っていた身体の奥の熱は、彼のたくみな舌使いによって容易く引きずり出された。
ついばむように触れて来た彼の唇は、その内深さを求めてくる。彼の舌が私の唇をノックした。ざらりとした舌で唇を数回舐められるだけで、じわじわと体温が上昇する。
意地でも口を開けたくない。でもその先に待っている気持ち良さを既に知っている。待ち受ける甘さを、本能が求めずにはいられなかった。
絡められる舌に意識が遠のきそうだ。口腔内を蹂躙する彼の舌が、先ほどよりも濃厚で気持ちいい。溢れる唾液が飲み込めきれず、唇の端から零れ落ちた。そんな状況が気にならないほど理性が溶けかけるキスなんて、私のそう多くない経験の中でもあまりない。
……というか、ここまで溺れそうなほど感じるキスなんて、やっぱり初めてなんだけど!
はあ、と一息ついた時は、思考が再び霞がかっている。呼吸が整わず、胸が上下に動いた。そんな私を至近距離で見下ろす課長は、口の端から零れた唾液を舌で舐めとる。
「ん……っ、!」
濡れた唇が耳朶を優しく食み、思わず声が漏れてしまう。耳の裏をねっとりと舐められれば、身体が敏感に反応する。
「耳、やっ……」
「へえ、弱いのか」
あ、今意地悪く微笑んだわね!?
くすりと笑った気配を感じ取った後、執拗に同じ箇所を攻められて、逃れようと彼に背を向ける。が、無防備になったうなじに今度は口づけが落とされた。きつく吸われると、ちりっとした痛みが走る。
「肌が白いと赤が映えるな」
耳にささやきかけられた声の破壊力に、陥落スレスレだ。ぞわりと背筋に震えが走る。身体の熱がどんどん籠り、お腹の奥がずくんと疼いた。
だ、ダメだ。認めたくないけど私ってばもう流されてる!
「ダメ、痕なんてつけたら……」
「何故? 俺はつけたい」
チュ、と今度は首筋を強く口づけられる。着ているVネックのニットをずらされて、肩が露わになった。首筋から肩までゆっくり肌を堪能され、私は声が漏れないように片手で口を押さえる。
そんな強情な私がいつまで抗い続けられるか、課長は楽しんでいるのだろう。後ろから覆い被さるようにゆっくりニットをずらしながら、徐々に表れる肌を撫でては舌で舐めていく。
触れられる箇所が熱い。唇と舌の感触に身体がぴくりと反応してしまう。その手で撫でられるだけで、声で囁かれるだけで、キスマークの刺激を与えられるだけで、どんどん身体が熱く火照り敏感になる。
気づけばニットはほとんど脱がされ、腰の辺りに下ろされていた。中に着ていたキャミソールを、上にたくしあげられる。背骨を上下に指でつーっとなぞられれば、堪えていた嬌声が口から漏れた。
「我慢するな、まひる。ここには俺しかいないんだから」
「そっ、れも、恥ずかしい……んっ!」
キャミソールは上から脱がされ、肩甲骨を舐められる。ざらりとした舌の感触に、肌が粟だった。
ああ、ヤバい。これは本格的に陥落寸前だ。
プチンとブラのホックが外される音が聞こえた直後、ぐるんと彼は私を仰向けにさせた。
「もう抵抗はお終いか?」
脇腹を撫でた手がそのまま上に這い上がり、ブラのカップを押し上げる。形と感触を確かめるように下から胸を救い上げられた。咄嗟に声が出ないよう口許を手で覆う。恨めしそうに目だけで彼を睨めば、課長は情欲を称えた瞳で私を見つめ返した。
「ふ、思った通り、柔らかくていいな」
そんな感想聞きたくないわよ!
セレネよりボリュームはないとわかっている。日本人の平均ほどしかない胸は、彼の片手ですっぽり覆ってしまえる大きさだ。大きさより形だと思いたいが、恥ずかしくてもう反論できない。
光が入って来る明るい部屋で、何て事をしてるんだろう。全てが見られている羞恥に駆られ、私の目は恥ずかしさのあまり赤く潤んでいる。その姿が彼をより興奮させるなんて気づくはずもなく、私は与えられる刺激に流されないようなけなしの理性を働かせていた。
優しく寄せては感触を楽しんでいた課長が、既に感じて存在を主張する胸の頂きに触れて来る。触れられただけで身体中に電流が流れた。
「ヤ、ぁッ」
小さな悲鳴が漏れるのも、どうやら彼を煽るだけ。乳輪を指でなぞられた後、胸の頂きを歯で甘噛みされる。
「っ……!?」
びくん! と背中がのけ反った。こ、この鬼畜男が……!
心底楽しげに喉で笑う男に、いつか仕返ししてやりたい。……いつになるかは、わからぬが。
「君は感じやすいんだな。キスだけで感じるくらいだしな?」
「う、るさい……」
嬌声を堪えて抗議する。課長はそんな私を見下ろしながら、上半身の至る箇所に口づけの嵐を降らせた。
肌には無数の赤い花が咲いた事だろう。小さな刺激に耐え続ける間も、彼の胸への愛撫は止まない。
「物欲しそうな顔してるな」
私の顔を覗きこんだ男は、片手で必死に声を抑えている私の手を強引にどかし、熱い舌をねじ込む。既に何度目のキスだろう。淫靡な唾液音に更に煽られて、私の身体はどんどん溶かされていく。
情熱的なキスは、残っていたなけなしの理性すら奪うらしい。熱に浮かされた目で至近距離の男を見やれば、彼はうっとりと私に微笑みかけた。
履いていたジーンズも、腰のあたりで引っかかっていた私のニットも全て取られ、ショーツ一枚の姿になった。明るい部屋でほぼ全裸を晒している事に、もはや羞恥を感じている余裕はない。
おへその辺りをゆっくりと掌全体で撫でる課長は、そのささやかな感触にすら感じている私に囁きかける。
「もう何も考えるな。本能に従え。君が俺を求める事は、罪じゃない」
甘いバリトンが耳に届くと同時に、スッと汗ばんだ私の手が握られる。持ち上げられた手は、彼の胸に持って行かれた。いつの間に課長も服を脱いだのだろう。上半身裸になっていた彼は、私の手を胸に触れさせる。
ルードヴェルトお兄様が刺された傷痕が、転生した課長の胸に残っていた。薄ら古傷に見える痕。触ればその皮膚の表面は、縫い合わせられたようなおうとつがある。
「これは生まれた時からあった傷だ」
ああ、そうか。疑う余地すらもうなかったけれど、やはり課長は紛れもなく、ルードヴェルトお兄様の生まれ変わり……
指で感触を確かめていると、その手を彼の口許に持って行かれる。指先をくちゅりと舐められた。その湿った口と舌の感触に、子宮がキュウっと疼く。
「まひる――、俺が今から君を抱く。心も身体も全部俺に委ねて、堕ちて来い」
身体の奥が、ぞくりと震えた。
カラカラに水分が枯渇し潤いを求めるように、心が訴えてくる。
欲しい、欲しいの。早く私を潤わせて――
これから与えられる快楽の予兆に、身体も心も期待している。
それはセレネが求めているのではない、まひるが望んでいるのだと今ならわかる。
そもそも私は、今まで一度もセレネの人格に乗り移られた事はなかった。記憶が戻った直後、気持ちが雪崩れ込んで来て頭は混乱したが、時が経てば冷静になれた。
前世の記憶が甦っても、まひるとして生きている。ただ過去の思い出として時折思い出す程度であり、彼女の人格に身体が支配される事はない。
課長が何度も私を好きだと言うのは、私を安心させて信じてもらいたいから。まひるを通してセレネを見ているわけではないのだと。
ああ、でも。私がセレネだろうとまひるだろうと、正直どっちでもいい。昔も今も、彼が変わらず私を好きで愛してくれると言うのなら。それ以上に何を望む事があるんだろう。
急速に、際限なく溢れてくるこの感情に、名前をつけるとしたら一つだけ。
”愛おしい。”
見つめられる眼差しが優しくて、触れられる熱が嬉しくて、再び抱き合える喜びはまさしく奇跡。
お兄様から宝物のように慈しまれてきたセレネ。それに負けず劣らず、課長はまひるの存在を確かめながら愛しげに触れて来る。
「愛してるよ、まひる」
その言葉を、どうして否定できるだろうか。
私は縋り付くように、重怠い腕を上げて彼の首を抱き寄せた。
「好き……」
掠れた声で紡がれた言葉は、しっかり耳に届いたらしい。軽く目を瞠った課長は、ふっと頬を綻ばせる。私に深く口づけては、きつく抱きしめた。
「いけないお姫様だ。すぐに俺を煽ってくれる」
情欲に濡れた瞳で見つめられて、私の心臓は大きく高鳴った。
もう止められない。止まらない。抗う事なんて、出来るはずがない。
最後の砦だったショーツが脱がされる。濡れて使い物にならないそれは、床の上に落とされた。感じきっている証拠を指で確かめれば、彼は小さな微笑を零す。
「ゆっくり解していきたいのに、あまりにも煽ってくれるからその余裕がなくなった。まったく、どうしてくれるんだ」
濡れそぼっている秘所に指が一本挿入された後、すぐに二本目が侵入してくる。久しぶりだからと思っていたが、すんなり私の身体は彼の指を飲み込んだ。
中をこすられる刺激が気持ち良くてもどかしい。花芽を親指でコリッと押されただけで、あっけなく達してしまった。
「あ、あっ……!」
「気持ちよさそうに吸いつくな、君の中は」
達した後に三本目の指を挿入されて、びくんと背中がのけ反る。パラパラと動かされると、快楽の波が再び押し寄せてきた。
正直、今まで付き合って来た人とセックスしてもイッた事がなかったのに。課長に肌を触れられるだけで感じきってしまい、身体が反応するとか。心も身体も正直すぎる。
高まる熱が籠って苦しい。もっと強い刺激が欲しい。
貪欲に身体が快楽を求めてくる。そして心は早く彼と繋がりたいと訴えていた。
蕩けきった顔で、壮絶な色香を放つ彼を見つめる。こくりと乾いた喉に唾液を流し込み、口を開いた。
「頂戴……? 早く私を、染めて……」
――あなたの色に。
小さく嘆息した彼は、一言「まいった」と呟く。苦笑した直後、準備を施した彼の屹立が、蕩けきった秘部にあてられた。
「本当に、俺を煽るのがうまいお姫様だ――」
一気に奥まで貫かれて、あまりの衝撃に呼吸が止まった。
蕩けきってはいたが、暫くご無沙汰だった為少々苦しい。圧迫感が半端なく、首をのけ反らせて声にならない叫びをあげる。
だが苦しさはほんの数秒で治まった。代わりに湧きあがるのは、じわじわとした快楽。そして繋がれた事への喜び。
心が満たされていく。求めていた熱が私の中にある。その嬉しさを一体何と表現したらいいのだろう。
律動を開始されて、あまりの刺激の強さに私は思わず叫んでいた。
「ぁ、あ……! お兄様……っ!」
「っ……!」
ぽろりと口から飛び出たその単語に、反応したのは彼の楔。ドクン、と質量が増した。その圧迫感に、私は頭の片隅で疑問符を浮かべる。
じんわりとした汗を浮かべ、課長はくつりと苦笑した。
「普段呼ばれるのは腹立たしいのに、事の最中に呼ばれると、背徳的過ぎて興奮する――」
……何変態発言してんの!?
冷静であればそうツッコミを入れるのに。燃え上がらせてしまったらしい私に、それを言う余裕はない。
奥をずんずん突かれて、結合部分からはひっきりなしに水音が漏れる。内壁をこすられる刺激と最奥まで突かれる刺激に、私は耐えず嬌声を上げていた。
「ん、あぁっ、はげしッ……、!」
彼の背中に、無意識に爪を立てる。その事を咎めるわけでもなく、課長は私の名前を呼んだ。
「まひるっ、……お兄様もいいが、賢人と呼べ」
ぐちゅぐちゅと中をかき混ぜられながら告げられる。頭は働かず快楽だけを貪る私は、言われた事を素直に繰り返した。
「け、ん……っ」
「賢人」
「けん、と……ぁあっ……!」
嬉しそうに微笑んだ顔を見たのが最後。ラストスパートをかけた彼の激しすぎる抽挿に私はイカされまくり、快楽の坩堝に落とされる。
悩ましげな声を耳で拾い、薄れゆく意識の中で彼が欲望を吐き出した事を悟った。
激しい快楽に飲まれながら、目を閉じる。夢の世界に旅立つ直前、艶めいたバリトンが耳朶を打った。
「まひる、一度で終わりだと思っていないよな?」
「……っ!?」
――強制的に意識を繋ぎ止められた私は、この後も散々お兄様の激しく重い愛につき合わされる羽目になった。
そして懸念していた通り、土日の休日で避妊具を一箱全部使い切った後。抱きつぶされた私は月曜日に病欠を使う羽目になり、不在にしていた一日で社内に寿賢人との婚約が広まっているなど知る由もなく。ようやく出社出来た火曜日に、その事実を知って驚愕した。
「時枝さん、寿課長の所に嫁入りするんだって? まさしく寿退社じゃない、おめでとう」
「はあ!?」
女子社員の嫉妬と羨望の眼差しの嵐に課長が笑顔で対処し、疲れ切っている私に、にこにこ顔を向けるお兄様……もとい課長様は、「うちに嫁ぐなら寿がぴったりだな」とほざきやがった。何だそれは、シャレかよ!
退社時期はまだ未定だが、入籍はすぐにでもすると宣言されて、開いた口が塞がらない。しがない事務社員だとしても仕事にプライドがないわけでもなく、いきなり辞めろと言われるのは納得がいかないと訴えれば、彼はしれっと告げた。
「俺は自分の宝物は、極力人の目に触れられないよう隠す主義だ」
薄らと漂うヤンデレ臭に、もしや私セレネがあの時計塔に軟禁状態だったのはお兄様も関与していたのでは……? と、冷や汗が浮かぶ。
だが、私の自由も尊重する事を約束してくれただけ、少しばかり安堵した。
ああ、でも女神様に一言だけ文句を言いたい。
ヤンデレ絶倫オプションは心底いらなかった――と、重すぎる愛を受け止める私まひるは痛む腰をさすりながら、心の中で女神に悪態をつくのだった。
明るい日が差す中、ベッドに落とされた私はようやく悲鳴をあげた。
「待って、マジで待って! こんなに明るいうちからなんて、無理だからっ!」
「無理? 何故」
何故って! それを訊くなよ!
顔を赤らめたままテンパる私の上に、課長は自然な動作でベッドの上に乗り上がる。ベッドのマットレスが重みで少し沈んだ。
課長は私に覆い被さり真っ直ぐ視線を向けてくる。その眼差しの強さに、思わずずりっと後退りたくなった。ベッドボードの方へ動こうとした私を、彼が手首を掴んで引き戻す。
「往生際が悪い子だ」
「生まれつきです」
「セレネは自分から俺を望んだのに」
「一緒にされては困りますっ」
「そうだな。だから今度は俺が君を望むんだ」
「……っ!」
艶やかにくすりと笑う姿を直視して、私の心臓はヤバい位早鐘を打った。鼓動がおかしくなってしまいそうなほどに。
だから、どうしてそんな事を直球で言うの!
そっと私の頬に触れてくる手の感触に、反射的に目を閉じる。前髪をかき上げてあらわになった額に彼は口づけを落とした。まるで洋画などで見る、外国の家族がする親愛の証のように。
柔らかい唇を額に感じて驚きから目を開けたと同時に、今度は唇が塞がれる。先ほど味わった課長の味だと思い出した時はもう遅い。連鎖的に、身体の熱が再発する。静まったと思っていた身体の奥の熱は、彼のたくみな舌使いによって容易く引きずり出された。
ついばむように触れて来た彼の唇は、その内深さを求めてくる。彼の舌が私の唇をノックした。ざらりとした舌で唇を数回舐められるだけで、じわじわと体温が上昇する。
意地でも口を開けたくない。でもその先に待っている気持ち良さを既に知っている。待ち受ける甘さを、本能が求めずにはいられなかった。
絡められる舌に意識が遠のきそうだ。口腔内を蹂躙する彼の舌が、先ほどよりも濃厚で気持ちいい。溢れる唾液が飲み込めきれず、唇の端から零れ落ちた。そんな状況が気にならないほど理性が溶けかけるキスなんて、私のそう多くない経験の中でもあまりない。
……というか、ここまで溺れそうなほど感じるキスなんて、やっぱり初めてなんだけど!
はあ、と一息ついた時は、思考が再び霞がかっている。呼吸が整わず、胸が上下に動いた。そんな私を至近距離で見下ろす課長は、口の端から零れた唾液を舌で舐めとる。
「ん……っ、!」
濡れた唇が耳朶を優しく食み、思わず声が漏れてしまう。耳の裏をねっとりと舐められれば、身体が敏感に反応する。
「耳、やっ……」
「へえ、弱いのか」
あ、今意地悪く微笑んだわね!?
くすりと笑った気配を感じ取った後、執拗に同じ箇所を攻められて、逃れようと彼に背を向ける。が、無防備になったうなじに今度は口づけが落とされた。きつく吸われると、ちりっとした痛みが走る。
「肌が白いと赤が映えるな」
耳にささやきかけられた声の破壊力に、陥落スレスレだ。ぞわりと背筋に震えが走る。身体の熱がどんどん籠り、お腹の奥がずくんと疼いた。
だ、ダメだ。認めたくないけど私ってばもう流されてる!
「ダメ、痕なんてつけたら……」
「何故? 俺はつけたい」
チュ、と今度は首筋を強く口づけられる。着ているVネックのニットをずらされて、肩が露わになった。首筋から肩までゆっくり肌を堪能され、私は声が漏れないように片手で口を押さえる。
そんな強情な私がいつまで抗い続けられるか、課長は楽しんでいるのだろう。後ろから覆い被さるようにゆっくりニットをずらしながら、徐々に表れる肌を撫でては舌で舐めていく。
触れられる箇所が熱い。唇と舌の感触に身体がぴくりと反応してしまう。その手で撫でられるだけで、声で囁かれるだけで、キスマークの刺激を与えられるだけで、どんどん身体が熱く火照り敏感になる。
気づけばニットはほとんど脱がされ、腰の辺りに下ろされていた。中に着ていたキャミソールを、上にたくしあげられる。背骨を上下に指でつーっとなぞられれば、堪えていた嬌声が口から漏れた。
「我慢するな、まひる。ここには俺しかいないんだから」
「そっ、れも、恥ずかしい……んっ!」
キャミソールは上から脱がされ、肩甲骨を舐められる。ざらりとした舌の感触に、肌が粟だった。
ああ、ヤバい。これは本格的に陥落寸前だ。
プチンとブラのホックが外される音が聞こえた直後、ぐるんと彼は私を仰向けにさせた。
「もう抵抗はお終いか?」
脇腹を撫でた手がそのまま上に這い上がり、ブラのカップを押し上げる。形と感触を確かめるように下から胸を救い上げられた。咄嗟に声が出ないよう口許を手で覆う。恨めしそうに目だけで彼を睨めば、課長は情欲を称えた瞳で私を見つめ返した。
「ふ、思った通り、柔らかくていいな」
そんな感想聞きたくないわよ!
セレネよりボリュームはないとわかっている。日本人の平均ほどしかない胸は、彼の片手ですっぽり覆ってしまえる大きさだ。大きさより形だと思いたいが、恥ずかしくてもう反論できない。
光が入って来る明るい部屋で、何て事をしてるんだろう。全てが見られている羞恥に駆られ、私の目は恥ずかしさのあまり赤く潤んでいる。その姿が彼をより興奮させるなんて気づくはずもなく、私は与えられる刺激に流されないようなけなしの理性を働かせていた。
優しく寄せては感触を楽しんでいた課長が、既に感じて存在を主張する胸の頂きに触れて来る。触れられただけで身体中に電流が流れた。
「ヤ、ぁッ」
小さな悲鳴が漏れるのも、どうやら彼を煽るだけ。乳輪を指でなぞられた後、胸の頂きを歯で甘噛みされる。
「っ……!?」
びくん! と背中がのけ反った。こ、この鬼畜男が……!
心底楽しげに喉で笑う男に、いつか仕返ししてやりたい。……いつになるかは、わからぬが。
「君は感じやすいんだな。キスだけで感じるくらいだしな?」
「う、るさい……」
嬌声を堪えて抗議する。課長はそんな私を見下ろしながら、上半身の至る箇所に口づけの嵐を降らせた。
肌には無数の赤い花が咲いた事だろう。小さな刺激に耐え続ける間も、彼の胸への愛撫は止まない。
「物欲しそうな顔してるな」
私の顔を覗きこんだ男は、片手で必死に声を抑えている私の手を強引にどかし、熱い舌をねじ込む。既に何度目のキスだろう。淫靡な唾液音に更に煽られて、私の身体はどんどん溶かされていく。
情熱的なキスは、残っていたなけなしの理性すら奪うらしい。熱に浮かされた目で至近距離の男を見やれば、彼はうっとりと私に微笑みかけた。
履いていたジーンズも、腰のあたりで引っかかっていた私のニットも全て取られ、ショーツ一枚の姿になった。明るい部屋でほぼ全裸を晒している事に、もはや羞恥を感じている余裕はない。
おへその辺りをゆっくりと掌全体で撫でる課長は、そのささやかな感触にすら感じている私に囁きかける。
「もう何も考えるな。本能に従え。君が俺を求める事は、罪じゃない」
甘いバリトンが耳に届くと同時に、スッと汗ばんだ私の手が握られる。持ち上げられた手は、彼の胸に持って行かれた。いつの間に課長も服を脱いだのだろう。上半身裸になっていた彼は、私の手を胸に触れさせる。
ルードヴェルトお兄様が刺された傷痕が、転生した課長の胸に残っていた。薄ら古傷に見える痕。触ればその皮膚の表面は、縫い合わせられたようなおうとつがある。
「これは生まれた時からあった傷だ」
ああ、そうか。疑う余地すらもうなかったけれど、やはり課長は紛れもなく、ルードヴェルトお兄様の生まれ変わり……
指で感触を確かめていると、その手を彼の口許に持って行かれる。指先をくちゅりと舐められた。その湿った口と舌の感触に、子宮がキュウっと疼く。
「まひる――、俺が今から君を抱く。心も身体も全部俺に委ねて、堕ちて来い」
身体の奥が、ぞくりと震えた。
カラカラに水分が枯渇し潤いを求めるように、心が訴えてくる。
欲しい、欲しいの。早く私を潤わせて――
これから与えられる快楽の予兆に、身体も心も期待している。
それはセレネが求めているのではない、まひるが望んでいるのだと今ならわかる。
そもそも私は、今まで一度もセレネの人格に乗り移られた事はなかった。記憶が戻った直後、気持ちが雪崩れ込んで来て頭は混乱したが、時が経てば冷静になれた。
前世の記憶が甦っても、まひるとして生きている。ただ過去の思い出として時折思い出す程度であり、彼女の人格に身体が支配される事はない。
課長が何度も私を好きだと言うのは、私を安心させて信じてもらいたいから。まひるを通してセレネを見ているわけではないのだと。
ああ、でも。私がセレネだろうとまひるだろうと、正直どっちでもいい。昔も今も、彼が変わらず私を好きで愛してくれると言うのなら。それ以上に何を望む事があるんだろう。
急速に、際限なく溢れてくるこの感情に、名前をつけるとしたら一つだけ。
”愛おしい。”
見つめられる眼差しが優しくて、触れられる熱が嬉しくて、再び抱き合える喜びはまさしく奇跡。
お兄様から宝物のように慈しまれてきたセレネ。それに負けず劣らず、課長はまひるの存在を確かめながら愛しげに触れて来る。
「愛してるよ、まひる」
その言葉を、どうして否定できるだろうか。
私は縋り付くように、重怠い腕を上げて彼の首を抱き寄せた。
「好き……」
掠れた声で紡がれた言葉は、しっかり耳に届いたらしい。軽く目を瞠った課長は、ふっと頬を綻ばせる。私に深く口づけては、きつく抱きしめた。
「いけないお姫様だ。すぐに俺を煽ってくれる」
情欲に濡れた瞳で見つめられて、私の心臓は大きく高鳴った。
もう止められない。止まらない。抗う事なんて、出来るはずがない。
最後の砦だったショーツが脱がされる。濡れて使い物にならないそれは、床の上に落とされた。感じきっている証拠を指で確かめれば、彼は小さな微笑を零す。
「ゆっくり解していきたいのに、あまりにも煽ってくれるからその余裕がなくなった。まったく、どうしてくれるんだ」
濡れそぼっている秘所に指が一本挿入された後、すぐに二本目が侵入してくる。久しぶりだからと思っていたが、すんなり私の身体は彼の指を飲み込んだ。
中をこすられる刺激が気持ち良くてもどかしい。花芽を親指でコリッと押されただけで、あっけなく達してしまった。
「あ、あっ……!」
「気持ちよさそうに吸いつくな、君の中は」
達した後に三本目の指を挿入されて、びくんと背中がのけ反る。パラパラと動かされると、快楽の波が再び押し寄せてきた。
正直、今まで付き合って来た人とセックスしてもイッた事がなかったのに。課長に肌を触れられるだけで感じきってしまい、身体が反応するとか。心も身体も正直すぎる。
高まる熱が籠って苦しい。もっと強い刺激が欲しい。
貪欲に身体が快楽を求めてくる。そして心は早く彼と繋がりたいと訴えていた。
蕩けきった顔で、壮絶な色香を放つ彼を見つめる。こくりと乾いた喉に唾液を流し込み、口を開いた。
「頂戴……? 早く私を、染めて……」
――あなたの色に。
小さく嘆息した彼は、一言「まいった」と呟く。苦笑した直後、準備を施した彼の屹立が、蕩けきった秘部にあてられた。
「本当に、俺を煽るのがうまいお姫様だ――」
一気に奥まで貫かれて、あまりの衝撃に呼吸が止まった。
蕩けきってはいたが、暫くご無沙汰だった為少々苦しい。圧迫感が半端なく、首をのけ反らせて声にならない叫びをあげる。
だが苦しさはほんの数秒で治まった。代わりに湧きあがるのは、じわじわとした快楽。そして繋がれた事への喜び。
心が満たされていく。求めていた熱が私の中にある。その嬉しさを一体何と表現したらいいのだろう。
律動を開始されて、あまりの刺激の強さに私は思わず叫んでいた。
「ぁ、あ……! お兄様……っ!」
「っ……!」
ぽろりと口から飛び出たその単語に、反応したのは彼の楔。ドクン、と質量が増した。その圧迫感に、私は頭の片隅で疑問符を浮かべる。
じんわりとした汗を浮かべ、課長はくつりと苦笑した。
「普段呼ばれるのは腹立たしいのに、事の最中に呼ばれると、背徳的過ぎて興奮する――」
……何変態発言してんの!?
冷静であればそうツッコミを入れるのに。燃え上がらせてしまったらしい私に、それを言う余裕はない。
奥をずんずん突かれて、結合部分からはひっきりなしに水音が漏れる。内壁をこすられる刺激と最奥まで突かれる刺激に、私は耐えず嬌声を上げていた。
「ん、あぁっ、はげしッ……、!」
彼の背中に、無意識に爪を立てる。その事を咎めるわけでもなく、課長は私の名前を呼んだ。
「まひるっ、……お兄様もいいが、賢人と呼べ」
ぐちゅぐちゅと中をかき混ぜられながら告げられる。頭は働かず快楽だけを貪る私は、言われた事を素直に繰り返した。
「け、ん……っ」
「賢人」
「けん、と……ぁあっ……!」
嬉しそうに微笑んだ顔を見たのが最後。ラストスパートをかけた彼の激しすぎる抽挿に私はイカされまくり、快楽の坩堝に落とされる。
悩ましげな声を耳で拾い、薄れゆく意識の中で彼が欲望を吐き出した事を悟った。
激しい快楽に飲まれながら、目を閉じる。夢の世界に旅立つ直前、艶めいたバリトンが耳朶を打った。
「まひる、一度で終わりだと思っていないよな?」
「……っ!?」
――強制的に意識を繋ぎ止められた私は、この後も散々お兄様の激しく重い愛につき合わされる羽目になった。
そして懸念していた通り、土日の休日で避妊具を一箱全部使い切った後。抱きつぶされた私は月曜日に病欠を使う羽目になり、不在にしていた一日で社内に寿賢人との婚約が広まっているなど知る由もなく。ようやく出社出来た火曜日に、その事実を知って驚愕した。
「時枝さん、寿課長の所に嫁入りするんだって? まさしく寿退社じゃない、おめでとう」
「はあ!?」
女子社員の嫉妬と羨望の眼差しの嵐に課長が笑顔で対処し、疲れ切っている私に、にこにこ顔を向けるお兄様……もとい課長様は、「うちに嫁ぐなら寿がぴったりだな」とほざきやがった。何だそれは、シャレかよ!
退社時期はまだ未定だが、入籍はすぐにでもすると宣言されて、開いた口が塞がらない。しがない事務社員だとしても仕事にプライドがないわけでもなく、いきなり辞めろと言われるのは納得がいかないと訴えれば、彼はしれっと告げた。
「俺は自分の宝物は、極力人の目に触れられないよう隠す主義だ」
薄らと漂うヤンデレ臭に、もしや私セレネがあの時計塔に軟禁状態だったのはお兄様も関与していたのでは……? と、冷や汗が浮かぶ。
だが、私の自由も尊重する事を約束してくれただけ、少しばかり安堵した。
ああ、でも女神様に一言だけ文句を言いたい。
ヤンデレ絶倫オプションは心底いらなかった――と、重すぎる愛を受け止める私まひるは痛む腰をさすりながら、心の中で女神に悪態をつくのだった。
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