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第三部

8.甘い金曜日の夜

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イチャラブの回です。
苦手な方は回避してください。
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 月曜から木曜までは響と一緒に過ごす。そして金曜から日曜までは白夜と過ごす。これが新しく決まった私の生活スタイルだ。正式に結婚発表するまでの期間限定だが。

 そして今日は入籍してからようやく二人で過ごす金曜日。
 東条セキュリティを白夜と共に出て、外で夕ご飯を食べた後。私は一旦荷物を家に取りに行くことなどせず、直接白夜と共に高級マンションの最上階へ向かった。夜景が一望できる素晴らしい見晴らしのリビングまであと少し・・・というところで、さっそく動きを拘束されている。もちろん、白夜の腕によって。

 「ふ・・・っんん・・・!」
 身体を玄関の扉に押し付けられて、両手を拘束されて。身動きが取れない状態で情熱的なキスをされているこの状況・・・脳まで蕩けそうな甘いキスの味に酔いしれそうになる。
 お互いの唇の感触を確かめあうだけの優しいキスじゃなくて、本当に食べられてしまうんじゃないかと錯覚させられる、そんなキス。いつになく性急に求められていると本能で悟った。
 さっき食べた桃のシャーベットの味はすっかり消えているはずなのに、白夜はまるで甘いデザートを貪るように、息をつく暇も与えず口内を暴く。唾液を分け合い、唇の端から零れようとも気にせず、舌を絡めあい吸い取る。抵抗らしい抵抗なんてする暇もなく、白夜は繋がりをもっと、もっとと求めてくる。
 彼の舌にすっかり翻弄されて、私の身体はもう力が入らないくらいへろへろだ。気づけば手首の拘束はほどかれていて、私は身体を支える為に白夜の首回りに腕をまわしていた。まるで縋り付くように。
 
 「はっあ・・・びゃく、や・・・」
 唇が離れて潤んだ視界で目の前の秀麗な顔を見つめると、いつもの余裕を感じさせる笑みではない、熱を孕んだ視線で見つめ返された。黒曜石のような瞳は薄らと濡れていて、目の奥は情欲が隠しきれていない。静かな炎が燻っているようだ。
 壮絶な美貌。
 すっとしたきれいな二重とまっすぐ伸びた黒い睫に滑らかな肌。冬に出会った頃よりも若干伸びた前髪がさらりと流れた。至近距離で見つめられるだけで、これでもかって位心臓がドキドキと主張を激しくする。じっと見つめてくる目の前の美形は、微笑みを消して再び私の唇を塞いだ。
 
 首筋に白夜の指が触れる。人差し指でゆっくりと上下になぞられて、その感触にぴくりと反応してしまった。キスに翻弄されている間、白夜はブラウスのボタンを半分まで外していく。その事に気付いたのは、ゆっくりと白夜がキャミソールの上から私の胸に触れた時だった。

 って、本当いつの間に・・・!?
 相変わらず手早すぎる!!

 あっさりとブラウスを脱がされて上半身をキャミソール一枚にさせられた。むき出しになった肩には冷たいドアの感触が。身体が火照り始めた今はその冷たさが気持ちいいくらいだけど、同時にこの場所がまだ玄関だと気づかされる。
 首筋に這うように白夜の唇が触れて、その感触に身体が震えた。気を付けないと口から零れるのは甘さを含んだ吐息だけだ。キャミソールが捲れ上げられそうになった時、咄嗟に「待って!」と告げた。

 「あの、ちょっと待った・・・! まだここ、玄関だから・・・ここで脱がされるのはちょっと・・・」
 「・・・そうですね・・・では」
 動きを止めてくれた白夜にほっとする間もなく。彼は難なく私を抱え上げた。当然、お姫様抱っこで。

 「ひゃ!?」
 重さを感じさせない足取りで白夜は広いリビングを過ぎて寝室へ直行しよとうとする。器用にエアコンをつけながら。

 って、このまま寝室へ行ったら、当然さっきの続きが始まるだろう。
 求められる事は素直に嬉しい。最初に肌を重ねてから片手で数えるほどもしていないから、私のドキドキも未だに慣れない。白夜に我慢はさせたくないけれど、でもちょっと待ってほしい。せめて、はじめにシャワーは浴びたい!

 スタスタと寝室の中央に置いてあるベッドへ直行する白夜に再度「待った」をかける。ぴたりと歩みを止めた彼に、上目遣いでお願いした。

 「あの、先にシャワーを・・・」
 「待てません」

 言い終わる前にあっさりと断られた。・・・って、いやいやいや!

 「だって今日も暑かったから汗かいたし、絶対汗臭いし! そんな汚いまま白夜に愛されるのは嫌だ」
 「私は気にしません」
 私が気にするんだよ!!

 必死にお願いビームを発射させて(そんなの通じるかわからなかったけど)、結果的には白夜は渋々私の要求を呑んでくれた。ただし、いろいろと条件がついたけど。

 「15分以内で出てこなかったら私も入りに行きますからね」
 「10分で出てきます!!」

 一緒にシャワーなんて冗談じゃない!!
 女の子にはいろいろと準備ってものもあるんだって、わかってほしい。
 猛ダッシュで浴室まで駆け込んで、鍵をかける。鍵をかけてたって、15分以上かかれば白夜は絶対に入ってきそうな気がするけれど・・・。そう、半端ないスペックをお持ちの方だもの。鍵の一つや二つ、あっさり開けられるだろうよ。なんていったって、セキュリティ会社の社長だし。そんな特技があっても私は今更驚かないと思う。

 熱すぎない丁度いい温度のシャワーを身体にかける。髪も洗いたいけれど、髪まで洗ってたら時間がかかるし、仕方がない。どうせ後でまた入ると思うし、今はあきらめよう。そして後で入る時は今度こそ白夜に甲斐甲斐しく世話をさせられないように、気を付けたいと思う・・・

 身体をピカピカに磨いて、ささっとバスタオルで水気を吸い取る。常備されている私のバスローブに袖を通した。
 さて、ここで気になるのは・・・下着はどうしようか・・・
 どうせすぐ脱がされちゃうわけだけど、バスローブの下に何も身に着けていないのは心もとない。というか、なんか抵抗が!

 「って、ああしまった! どっちみち、新しい下着はここにはないや・・・」
 浴室のどっかに置いておいた方がいいんじゃないか? ・・・今度下着&パジャマ入れを置かせてもらおう。 
 
 「うう・・・仕方がない。このまま出るしかないか・・・」
 バスローブをしっかりと着込んで紐で縛って、時間を確認すれば最短記録の9分50秒!
 私は余裕の笑みで浴室を後にした。

 ◆ ◆ ◆

 「早かったですね」と驚く白夜に、ふふんと微笑み返せば、「そんなに私と抱き合いたかったとは嬉しいですね」と言われて腰を引き寄せられた。って、待った待った!
 
 「白夜もほら、シャワー浴びてゆっくりしてきて! 私は飲み物でも漁ってるから!」
 ぐいぐいと浴室へ押し込んで、扉が閉まった事を確認してほっと一息ついた。よし、この内にパンツだけでもはいておこう。ブラはつけなくても下まで何もないのはやっぱり落ち着かないし。

 私専用になりつつあるウォークインクローゼットに向かい、下着を取り出して身に着けた。バスローブはそのままで、キッチンに行って冷蔵庫を開ける。
 いつ見てもきっちりしているよね、白夜って・・・
 主婦の鑑か! と言いたくなるくらい、きれいに整理整頓されている冷蔵庫。ここ最近は忙しかったからか、いつもより食材は少ないけれど。最低限の物は入っている。冷凍庫もタッパーにちゃんと小分けにして収められているし、野菜類なども細かく切ってジップロックに入れて冷凍されている。こうすれば料理する時に楽だからとか。

 「やばい・・・私、花嫁修業とかすっかり忘れていたけど、少しは習った方がいい気がしてきた・・・」
 家に戻ったらせめて家庭料理位はできるようになっておこう。
 結婚してもレパートリーが鍋か、切って煮るだけの料理は流石に飽きる。特に夏は困るだろう。

 「よし、今度響に料理教わるか!」
 なんだかいろいろ間違っている気がするけれど、気にしない事にしよう。料理上手な弟をもって、お姉ちゃん大変助かります! うちの弟はいつでもお嫁に行けるから安心だ。

 無難に缶ビールを開けて飲んでいたら。あっという間に白夜が出てきた。後ろからビールを飲んでいた私の手をつかみ、ビールごとそのまま自分の口に持っていく。ごくんと嚥下して喉仏が上下に動く様に何だかドキっとした。
 再びビールをもう一口飲んだ白夜はそのまま私の後頭部を引き寄せて、上を向かせる。目を見開く私の口に、ほんのりと温くなったビールが流し込まれた。苦い独特な味が流れてきて、こぼさないように飲み込む。っていきなりでびっくりするじゃないか!

 「おいしいですか?」と訊かれたけれど、ビールは生温いと微妙だよ、白夜・・・けど、口移しで飲まされるのに慣れていない私は、味なんてどうでもいい。不意打ちは卑怯だ。

 ことん、と缶がカウンターの上に置かれて、そのまま抱き上げられる。驚く間もなく再び寝室へ逆戻りさせられて、今度こそベッドの上に落とされた。端整な顔がすぐ間近で迫ってきて、仰向けに押し倒される。こめかみや瞼にキスをされて、段々と緊張がほぐれてきた。

 白夜がまっすぐ私を見ている・・・

 彼の瞳に映っているのは私だけで、私も彼以外もう目に入らなくて。愛しい旦那様を独占できる幸せな時間が始まろうとしている。それがどうしようもなく嬉しくて、心が満たされるようだ。

 しゅるりとバスローブの紐がほどかれた瞬間。耳元で白夜が囁いた。

 「先に謝っておきます、麗。今夜はあまり優しくできない」
 「え?」
 壮絶な色気を放ちながら首筋にキスを落とす彼に戸惑って問いかければ、紳士とは言いがたい熱の籠った視線で見つめられた。

 「明日は一日ベッドから起き上がれないかもしれませんが・・・私がちゃんと面倒をみますので、安心してくださいね」
 「え? え!? って、うきゃ・・・!」
 
 再び荒々しいキスの嵐に見舞われて、抗議の声も問いかける声も上げる事が出来ずに、私は白夜に啼かされ続けた。まるで自分が彼専用の楽器になったかのように、一際甲高い声を上げる場所を探られ続けて、翻弄されて。白夜が触れる箇所すべてに反応して、思考が奪われる。
 
 バスローブなんていつの間に脱がされたのかまったくわからないまま、気づいたらお互い裸で肌を密着させていた。優しくできないと言った彼はそれでも十分私の中をほぐしてくれて、けれど余裕は感じさせない動きで性急に求められた。
 まだ痛みはあるかって訊かれたけれど、慣れない圧迫感を感じるだけですっかり痛みは消えている。そして私の身体は白夜が与える快感に溺れ始めていた。

 何度も何度も達して、意識が遠のきそうになるたびに繋ぎ止められて。白夜が与える熱と快楽の波に流されそうになる。
 私を気遣って以前は一度でやめてくれたこの行為も、今夜は予想通り一度で終わる気配がしない。
 身体も脳もドロドロになって、甘い毒に浸りながら必死に白夜にしがみつく。その声で私の名前を呼んで、その瞳に私だけを映して。声も目も、身体も心も、あなたのすべてが欲しいと強欲な私が顔をもたげた。

 「びゃくや・・・びゃく、や・・・すき・・・」
 「私も、あなただけです・・・麗。愛してます・・・」
 「っぜんぶ、ぜんぶ・・・ちょうだい・・・っ!・・・びゃくやの全部を、私に」
 「ええ、あげますよ・・・愛しいあなただけに、私を丸ごと・・・だから、あなたの全ても、私のものです・・・」

 どこにも行かせないし、離さない。

 そう耳元で囁かれて、じんわりと胸に甘く響いた。その独占欲と執着心が甘くて心地いい。まるで麻薬に酔いしれるように、この日の私は白夜に酔いしれ続けた。


 空が白み始めるまで二人で愛を囁いて睦みあって。
 彼の宣言通り、翌日の私はベッドから起き上がる事が出来ず、一日のほとんどを寝室で過ごす羽目になったのだった。


 
 
 
 



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