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第二章 冒険者活動編

第50話 田舎者弓使いの一日 其の三

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 ゴブリンとの戦闘は、特段言う事はない。
 何故なら、相手に気が付かれないまま全滅させたからである。
 一匹射殺されて当然他のゴブリンは警戒するが、何せ相手の姿や気配が全くしないのだ。
 しかもリュートのいやらしい所は、一射毎に音を立てないように枝から別の木の枝に移動し、狙撃ポイントを若干ずらしているのだ。
 そうする事で狙撃位置を特定されなくなり、六匹のゴブリンは訳が分からず命を失う事になった。

(……こんなもんだな。後は、耳を削がねぇとな)

 討伐の証はゴブリンの耳だ。
 腰に下げていたナイフで六匹のゴブリンの死体から耳を剥ぎ取り、血がしたたり落ちない内部が完全防水になっている袋に詰める。そして、足早にその場を離れる。
 ゴブリンを餌にする魔物も存在するので、彼らの死体からする血の匂いで別の魔物が寄ってくる可能性があるからだ。

 既にこの森はリュートの庭と言っても過言ではない。
 大まかに薬草の群生場所も把握しているし、どんな魔物が出るかもわかっている。
 しかも薬草に関してはまた生えてくるように全て刈り取らないようにしている。
 そうする事で、依頼の片手間で常に薬草を採取する事が可能となっている。
 他の冒険者だと、その場が剥げてしまう程刈り取るので、依頼を受けても見つかりませんでしたという事も頻繁に起きている。
 それを防ぐ為、森の奥地で基本的に採取をしている。
 言わばリュート専用の採取ポイントだ。
 リュートは知識がないが、決して馬鹿ではなく普通に賢い。
 自分の利益になるように知恵を絞って、且つ効率的な行動を取るようにしている。
 
(さて、そろそろいい時間だべ、けぇるか)

 空が茜色に染まって来た頃、リュートは早々と森を出て王都に戻り、寄り道をせずに冒険者ギルドへ向かって最速で受付嬢の所へ向かう。

「三つの依頼、終わらせただよ。手続き頼むだ!」

 いつも通り、リュートが冒険者ギルドに来ると、喧噪にまみれていたギルドは一瞬静まり返り、リュートに注目する。
 彼の行動や会話を見て、どうしてここまで早く銀等級になれたのかを探る為である。
 だが、良い成果は得られていない。

「――はい、ドブ掃除と薬草採取、後ゴブリン討伐ですね? ゴブリンに関しては規定値を三匹分多めに討伐して頂きましたので、追加報酬が発生致します。いつもありがとうございます」

 受付嬢から帰って来た言葉は、駆け出しの冒険者が受ける依頼ばかり。
 何故そんな簡単な依頼を、銀等級にもなったリュートが受けるのか?
 それでそんなに早く昇格できるのだろうか?
 そう思ってしまい、真似する気が起きないのだ。
 ここで真似を少しでもしておけば、皆が言う簡単な依頼を受ける理由の一端を垣間見る事が出来たかもしれないが、ちっぽけなプライドが邪魔をしてしまった。

 経験点と報酬を受け取った後、受付嬢は勇気を出してリュートに話し掛ける。

「あ、あの! この後お時間……空いていますか? 美味しい、その、料理屋が出来たみたいなので、そのぉ、リュート様と、行きたいと……思って」

(あの受付嬢が、リュートに突撃したぁぁぁぁぁぁ!!!)

 リュートにこのような誘いをする受付嬢は滅多にいない。
 皆、互いに牽制し合って、リュートへ直接誘いに行けないようにしている。
 しかし今回、彼女以外の受付嬢は他の冒険者の対応に追われていて、牽制する暇がなかった。

(しまった、隙を突かれた!?)

 さて、リュートの答えは如何に?

「すまねぇだよ、オラ、この後どうしても外せねぇ用があるだ。また機会があったら誘ってけろ」

 そしてリュートは駆け足気味でギルドを去っていく。
 勇気を出して誘った受付嬢は「そ、そんなぁ」と今にも泣きそうな表情をして、立ち尽くしていた。

「あの受付嬢もかなり可愛いよな?」

「ああ、可愛い。めっちゃ可愛い」

「そんな子の誘いを断って、足早に帰ったって事は……」

「あり得る、あり得るぞ。もしかしたら既に彼女がいるかもしれねぇ」

 とある冒険者の一言で、場の空気が凍るような錯覚に陥る。
 それもそうだ、ギルド内には受付嬢も含め、相当数の女性がいる。
 皆、リュートに恋慕しており、「彼女がいるかもしれない」という言葉で、一気にギルド内の空気が張り詰めたのだ。
 それに、本当に凍ったかのように女性全員がびしっと動かなくなり、終いにはその場で崩れ落ちる。
 受付嬢全員もそのような状態に陥り、ギルドの業務が止まってしまったのだ。

「え、えっ、あれ? 何、これ?」

 異様な空気を察したギルド長のハーレィが、ギルド長室から出てきて、予想以上の意味不明な光景が眼前に広がっていて、ただ戸惑うしかなかった。

 ちなみに、勝手な推測で彼女がいる事にされてしまったリュートだが、彼には彼女はいない。
 そして、急いでいる理由は、全く別のものであった。
 
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