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第百十一話 予定の詰まった一日 ――親友再会編3――

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『かんぱーいっ!』

 俺達は再会を祝って乾杯をした。
 この中では唯一成人になっているミリアはお酒、それ以外は皆オレンジジュースが入ったジョッキを軽くぶつけた。

「ぷっは~~~っ!! たくさん歌った後のお酒、超美味しい!!」

 親父臭いぞ、この十二歳……。

「あまり飲み過ぎちゃダメだよ、ミリア」

「うん、この後もバンド……だっけ? その打ち合わせやるんだから、抑えるよ!」

 おうおう、レイスがミリアの事を常に気に掛けてる。
 もう幸せオーラ出まくりで、ちょっと本当に爆ぜて欲しいと思ってしまうわ。

 しっかし、皆本当大人っぽくなったよなぁ!
 やっぱりこの世界の人間は成長がとっても早い。
 前世の日本人で例えるなら、大学生って言っても信じれる位だからなぁ。そう考えると本気で成長速度が早すぎる。
 そういう俺自身も成長速度が早く、容姿だけなら大学生って感じになっていた。それにこの三人程じゃないが、俺も男前に成長しているからありがたい。

 でも、オーグが食事会の会場を選んだって聞いたから、てっきり豪華な場所なのかなって思ったがそうでもなかった。
 オーグに連れてこられたのは、普通の大衆酒場だった。
 仕事終わりの大人達が仲間を連れて、酒を片手に楽しく飲み始めていた。多分まだ宴会は始まったばかりで、皆そこまで酔っぱらっている人は少なかった。
 俺達は飲み物を楽しみつつ、自身の近況を報告してくれた。
 トップバッターは、レイス。

「えっと、音楽学校を無事卒業した後、リューンを優しく奏でる事で有名な《ロバート・カルデナ》氏に弟子入りしたんだ。色々技術を教えて貰っていて、毎日がとても充実しているよ」

「えっ、あのロバート氏か? すごいじゃんか!」

 どうやらそのロバートって人は有名人らしく、レオンが驚いていた。
 俺は全く知らない。というか、自分の事で精一杯で、他の音楽家の名前なんていちいち覚えていられねぇんだって!

「もう一つ、報告する事があるだろう?」

 おっと、オーグが突っ込んだ質問をしてきたぞ。
 しかもニヤニヤしながら。
 こいつもただの堅物じゃなく、こんな風に接する事が出来るようになったんだなぁ。

「え~っ……。最近、ミリアと婚約をしたんだ。俺が成人してから結婚するつもりでいるよ」

「「「ひゅーっ、お熱いねぇ!」」」

 レイスが照れながら報告し終わると、俺とオーグとレオンで同時にからかってやった。
 隣にいたミリアも恥ずかしいのか酔っぱらっているのか、顔を赤くして俯いていた。
 確かレイスは俺と同い年の十歳だから、後約二年後かぁ。
 まぁ今のこの二人を見る限りだと、全然問題なく続きそうだな。

 次はレオンが近況報告を始めた。

「オレはもうちょっとで卒業試験なんだよ♪ あれから結構リューンの腕を磨いているから、恐らく問題なく卒業出来るって感じかな♪」

 容姿もチャラさが増して、言動も当時のままだからまさに『ザ・チャラ男』を体現しているレオン。
 俺より一つ歳上だが、当時は学年が一緒の一年生だった。

「後は放課後に《ベアトリス・マクベイン》先生の所で色々教えてもらってるんだ♪」

「あぁ! すごいじゃないか! あの人なかなか弟子を取らないらしいじゃないか!」

「らしいね。そこの娘さんがオレに惚れちゃったようでね♪」

「……そうかい」

 レオンも学校が終わった後に有名な先生の元で修行をしているらしいな。
 その人がどれだけ凄いか知らないが、レイスの反応で何となく凄い人ってのはわかった。
 しかし、弟子になった理由がなんともまぁ、チャラい!
 そういやぁレオン、前の占拠事件で犠牲になった彼女さんの形見である剣を付けてないな。どうしたんだ?

「レオン、お前あの剣はどうした?」

「ん? ……ああ。暗い話になるけど、いいか?」

「俺は一向に構わないが、他の皆は?」

 俺が皆に聞いてみると、全員無言で頷いた。

「大丈夫みたいだぜ?」

「わかった。……あの時さ、ハルが敵を取らせてくれたよな?」

「ああ、そうだったな」

《武力派》の連中が音楽学校を占拠し、俺がその事件の首謀者をボコボコにした後、レオンに止めを譲った事があった。
 その時の話のようだった。

「あの時のさ、人を斬ってしまった感触がさ、めっちゃくちゃ不愉快で気持ち悪くてさ。それからまともに剣を握れなくなっちゃったんだ」

 何故俺が人を斬れるのか。
 それは『斬る覚悟』と『斬られる覚悟』があり、『絶対に生き延びる』という信念があるからだ。
 戦いってのは基本的に両極端で、生きるか死ぬかだけだ。
 俺はまだまだやりたい事がたくさんあるから、斬り殺しても罪悪感がないし、むしろ剣を向けてきたら相手も死ぬ覚悟はあるだろうっていう暗黙の合意の上だと考えている。
 いちいち人を斬って罪悪感を覚えていたら、間違いなく俺が斬り殺されるし、まだまだ死にたくないからな。
 対してレオンは、その覚悟がなかったんだ。
 ただ相手が憎いという憎悪だけで相手を斬った。
 意外と人間ってのはどんな悪であろうと、同族や人型の生物を斬るのに抵抗を感じる。憎しみがその抵抗すらも凌駕して復讐に心を支配されている間は問題ないが、気持ちが落ち着いた時にきっと罪悪感が沸いてきてしまったんだろう。
 さらにレオンの場合、人を斬った感触を不快だと思った。
 ストレートに言って、レオンは戦争や剣士、戦士には全く向いていない性分だって事だ。

「オレは、今後剣は握らない。いや、握れない……。その代わり、リューンを握って、必死に音楽の世界で生き抜いてみせる!」

「……レオンは、そっちの方が向いているかもな」

「オレもそう思うよ」

 弱々しい笑顔を俺に向けてきた。
 いや、逆にリューンで頑張っているレオンの方が輝いているように思える。
 どうやら形見の剣は、自室にちゃんと飾ってあるらしい。
 ちなみに毎年彼女さんの命日に足を運んでいるらしいのだが、彼女さんの両親が「君は我が娘に捕らわれず、新しい娘と結ばれるがいい」と、優しくレオンを気遣ってくれたらしく、それから付き合う前の女好きに戻ったのだとか。
 あまりの変化に流石に彼女さんの両親は苦笑したそうだが、それが本来のレオンだったらそのままでいてくれと言ってくれたのだとか。
 
 さて、最後にオーグだ。

「私は学校に在籍する予定だったのだがな、陛下から勲章も貰ったから特例で首席卒業でいいとアーバイン様から言われてな。今は王都に工場を建築してそこでピアノの製造兼販売をしている」

「何、特例?」

「ああ。私は勲章を頂いた際に男爵の爵位も頂いてな。本来は父上の家督を継いで貴族になる予定だったのだが、私個人が貴族になってしまった。そうなると頂いた領地を運営して利益を出さないといけなくなるから、特例の卒業って訳なのだ」

「いやいや、学校に通いながら運営すればいいじゃね?」

「運営はそこまで甘くない。学生と両立はほぼ不可能だったから、アーバイン様に相談したらそのようになったのだ。ちなみに領地は王都で土地を頂いて、ピアノの工場にしたのだ」

 へぇ、こいつ自分で爵位を貰ったんだ。
 それは手紙とかでも書いてなかったから、今知った事実でびっくりだ。
 でもそれほど領地運営って大変なのか。
 いや、大変か。金を産み出して国にある程度利益を渡さないといけないからな、ある種の会社の雇われ社長みたいな感じだろうな。
 だけどオーグの表情は今、かなりイキイキとしている。
 どうやらオーグの親父さんも、オーグの事をかなり自慢にしているようだし、売上の一部を実家に納めているようなんだ。
 しっかりと親孝行していて、ちょっとオーグの事を尊敬している。
 俺も、自身の売上の一部を両親に仕送りしよっと。

 そして俺の近況も報告した。
 父さんに剣で勝った事、音楽の家庭教師で結構な収入を得る予定である事、リリルとレイの事……。
 最後の事に関しては、逆に励ますんじゃなくて皆でいじり倒してきたから、俺は落ち込まないで笑い飛ばす事が出来たんだ。
 ああ、いいよな、こういう風に笑い合える友達ってさ。
 
 楽しい時間は過ぎていき、俺達は店を出て、俺の家へ向かう事になった。
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