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第四十三話 へっぽこパーティ、初勝利……だが

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 レイスは考えている。
 いや、正確には慌てていると言った方が正解だな。
 まだどちらに攻撃しようか決めあぐねていた。
 オーグとバイトスパイダーの距離はもう十五メートルしかないし、レイス達に向かってきているバイトスパイダーに関しては、結構速い速度で距離を詰めてきている。
 見ている俺もちょっとハラハラしてきたし、そろそろ手を出そうかと思った。
 だが、レイスの決断より先に、ミリアが行動した。

「レイスっちのバカ! こんな時に迷ってどうするの!」

 ミリアは後衛を狙うバイトスパイダーの前に立ち、無謀にも木の杖で殴り掛かった。
 あまりにも拙い攻撃だが、バイトスパイダーは足を止めてバックステップで回避した!
 この行動はかなり意味がある。
 ミリアはレイスに対して檄を飛ばす。

「レイスっち! オーグっちの方に撃って、早く!!」

「あ、あぁ!! 《ファイア・ニードル》!!」

 レイスは予め詠唱を完了していた《ファイア・ニードル》を、オーグに迫っていたバイトスパイダーに放った。
 炎の針は鋭く真っ直ぐに飛び、見事蜘蛛の小さな頭を撃ち抜いた。
 頭部を完全に破壊された奴は、ピクリとも動かなくなった。
 うん、これでオーグの方は大丈夫だな。

 俺は次にレオンの方を見る。
 所々にレオンはかすり傷を作ってはいるが、どう見てもバイトスパイダーの方が重症だった。
 左右四本ずつあったはずの足は、レオンが切断したのか合計五本に減っていた。
 レオンの体は魔力を帯びているから、恐らく風魔法である《ブースト》と呼ばれる身体強化魔法を使っているんだろう。

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 レオンは右足を強く前へ踏み込み、下から上へ剣を振り上げた。
 刃はバイトスパイダーの体を通過し、一拍置いて真っ二つに分かれた。
 これでレオンの方も大丈夫だな。

「きゃぁぁぁっ!?」

 はっ!?
 ミリアの悲鳴!?
 俺は声がした方を見ると、ミリアはバイトスパイダーの糸によって、ダンジョンの壁に貼り付けられていた。
 腕も糸に巻き込まれていて、自力脱出は不可能だ。
 ヤバイぞ、これ!
 俺はレイスを見るが、詠唱途中だ。
 レオンは距離があって間に合わない。
 オーグも糸のせいで一切動けない状態だ。
 バイトスパイダーとミリアの距離は、もう二十メートル位しかない。

 俺は剣を抜いて、全速力で駆け抜ける!

 俺が一番奴との距離が近い。
 全速力で走ったら、多分ミリアの元に着く前に仕留められるはず!
 俺はサウンドボールを自分の両足に吸着させ、《遮音》の指示を出した。
 これによって走っている足音は完全になくなった。

 全力疾走したおかげで、気付かれる事なく奴と俺の距離は、剣の切っ先が十分に届く位に縮まった。
 俺は左手で剣を振る動作をする。それでバイトスパイダーは俺の存在にようやく気付いたようだが、もう遅い!
 俺が振り上げた剣は、奴の頭だけを綺麗に跳ねた。
 切り口から緑色の体液を流しながら、バイトスパイダーは息絶えた。

「ふぅ、何とか片付いたな……」

 俺は剣を振って、刃に付いた体液を振り払った。そして、剣を鞘に収める。

「ミリア、無事か?」

「ハルっち……、ありがとうね」

「ったく、無謀な事するなって、後衛がさ! でも、あの時の状況だと、あれが最善だったかもな」

「そうだよ、レイスっちがしっかりしてくれてたら、私があんな事しなくて済んだの!」

 ミリアは貼り付けられている状態で、頬を膨らませて怒る。
 小動物が怒っているようで、可愛いな。
 まぁ和んでいてもしょうがない。
 ここいらで見ていた俺が、皆に対して指摘をする。

「さて反省会かな。まずレイス」

「う、うん」

「後衛は前衛が仕事をしやすいように援護をしなくちゃいけない。本来だったらレオンの横から迫っている奴は、お前が処理しなくちゃいけなかった」

「うっ……」

「そこから全てが狂って、オーグがレオンを庇わざるを得なかった。理解出来るな?」

「はい……」

「それと、あんな極限状態でどっちにしようか迷っていたよな? あの場合はどっちでもよかった。最速で片方を処理して、もう片方を処理すれば、ミリアが貼り付けにされないで済んだ」

「…………」

 俺の指摘にレイスは下を向く。
 多分、涙ぐんでいるだろうな。
 でも申し訳ないがこれは命のやり取り。ちょっとしたミスで死んでしまう。
 しっかり反省をしないと、この先は進めない。

「次にレオン」

「お、おう」

「一匹を退治するのに時間がかかりすぎ! もっと早く仕留めろよ」

「いや、オレ相当頑張ったんだけど……」

「じゃあ頑張りが足りねぇな! モタモタした結果がこれだ。前衛としてはこの結果は最悪だぜ?」

「……うっ」

 レオンも同様に俯いてしまった。
 そんな様子を見て、俺も胸が苦しくなるけど、こいつらの為にも厳しくいかないとな。
 俺はこいつらに絶対に死んで欲しくない。
 異世界での人生で初めて、同じ目標に向かっている仲間に巡り会えたんだからさ!

「オーグ」

「う、うむ」

「お前はもうちょっと体を鍛えろ。さすがに酷すぎる」

「……わかっている」

 多分一番悔しい思いをしているだろうな、オーグは。
 完全にお荷物だ。
 下唇を強めに噛んで、悔しさを顔に出すまいと必死に我慢している。
 でも、こいつは褒めるべき所があった。

「でもな、オーグ。それをわかった上でレオンを庇ったのは、男として最高だったぜ!!」

「……本当か?」

「ああ、本当だ!! 今度は自分で仲間を守れるように、少しでも特訓しようぜ。俺も付き合うからさ」

「……ありがとう、ハル」

「おう!」

 何か今までで一番柔らかい笑顔を見せたオーグ。
 こいつとの仲が深まった気がするな!
 ……糸で身動きが取れていない状態なのが格好付かないが。

「さて、ミリア」

「それは後で聞くから、まずはこの糸を何とかしてよぉ!!」

「あぁ、はいはい」

 俺がミリアに向かって歩き始めた瞬間、彼女が貼り付けにされていた壁が急に回転した!
 まるで忍者屋敷の回転壁みたいな感じだ!!
 当然、糸で貼り付けされたままのミリアは、壁の向こう側だ!

「み、ミリア!?」

 突然の事で、俺も反応が出来なかった。
 俺はすぐに壁に駆け寄り、声を出してミリアを呼んでみるが、一切返事はない。
 くそっ、何がどうなっている!!

「隠し通路だ! ダンジョンは稀にそういう構造を仕込んでくる場合がある!」

 レイスが壁を手で叩きながら、俺に教えてくれた。
 そんなのもあるのか、ダンジョン!
 本当、どういう原理で生まれるんだよ。
 とにかく、このままじゃヤバイな!

 俺はサウンドボールを生成し、壁の向こう側へ放る。
 そして、そいつには《糸電話》と《集音》の指示を出している。
 これでお互いに会話できるはず。

「おいミリア、聞こえるか!」

『えっ、ハルっち!? どうして声が聞こえるの!?』

「俺の魔法だよ! そんな事より、無事か!?」

『今のところは大丈夫だけど、どうしよう!』

 俺とレイスにレオン、そしてレオンのおかげで解放されたオーグがほっとひと安心する。
 
「とりあえず、壁をまた元通りに出来ないか調べてみる。ちょっと時間が掛かるかもしれないが、待っててくれ」

『うん、待ってる! 真っ暗で何も見えなくて怖いから、このままお話ししてて!』

「あいよ!」

 とにかく、仕掛けがあるなら、それを作動させる仕掛けもあるはずだ。
 俺達は手分けして、壁の周辺を探る。
 すると、サウンドボールからミリアの声がした。

『えっ、向こうから明かりが……えっ、近づいてくる?』

「ど、どうしたの、ミリア!?」

 ミリアの不安そうな声が聞こえた瞬間、レイスが慌てて反応する。
 明かり?
 松明か?
 つまり、人か知能がある……魔物?
 嫌な予感しかしないぞ……。

『嘘、何で……何でゴブリンがいるの!! 嫌、いやぁぁぁぁぁぁ!!』

 ゴブリンだって!?
 父さんに一度話を聞いた事がある。
 ゴブリンは、最低最悪の魔物だって。
 俺も前世の記憶でゴブリンの知識を仕入れているけど、この世界のゴブリンはそれ以上にヤバイ存在だ!
 他の皆も顔面が蒼白になる。
 ゴブリンの最悪さを、皆知っているんだろうな……。
 レイスは必死になって壁を叩いてミリアを呼んでいる。だが、答えは帰ってこない。
 俺とレオンとオーグは、必死になって壁の周りに仕掛けがないか探す!
 くそっ、どうしても焦っちまう!!

『えっ、私を何処へ連れていくつもりよ! 離して、離してぇ!!』

 なっ!
 ミリアを連れていくのか!?
 くそっ、何処だよ仕掛け、何処なんだよ!!
 ミリアの悲鳴がどんどん遠ざかっていく!
 仕掛け壁の向こうの奥へ連れていかれているのは間違いない!
 俺は咄嗟に、先程まで糸電話の役割を持たせていたサウンドボールに、別の指示を与えた。
 まずはミリアに吸着、その後に《集音》と《伝播》の指示を与えた。
 今まで試した事がない、サウンドボールの使い方だけど、この《伝播》が上手くいっていれば後を追える!!

 ちくしょう、ダンジョンにこんな仕掛けもある事を知っていれば、反省会なんざしなかった!
 いや、これは俺も魔物を倒した事で気を緩めてしまったのが原因だ。
 ちくしょう、ちくしょう!
 もう父さんの時のようなヘマはしたくないのに!!
 頼む、ミリア、無事でいてくれよ!!



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