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心の雪解け

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「アーデルハイド・グランデカール公爵令妹、貴女の訴えをどうぞ」
「私は被告人により大階段から突き落とされ殺されました。そして、奇跡的に黄泉がえった後、家族を操られ再び身の危険に晒されました。更には先程も階段から突き落とされたのです!!」
私は検査官に訴える。
「幸いクラウス王太子殿下に助けていただきましたが、被告人により私の家族は破壊されました。今は生きておりますが心は何度も殺されました。到底許すことなど出来ません。極刑を望みます」
私はそう言うと膝をついて話を聞いている王弟殿下を睨みつけた。
「ファビアン、申し開きはあるか?」
国王陛下が王弟殿下に声をかける。すると、ずっと下を向いていた王弟殿下が顔を上げた。そして、その目には国王陛下しか映っていなかった。
「兄上、私は兄上のために……。兄上もこの婚約に難色を示していたでは無いですか!! 私は兄上のために!!」
「ふぅ、お前の話しは聞くに耐えん。連れて行け」
国王陛下はため息を吐くと王弟殿下を連行させた。そして、今度は私に向かって頭を下げる。
「アーデルハイド嬢、愚弟が本当に申し訳なかった。其方の望むものを償いとして与えよう」
「陛下……」
私は頭を下げたままの国王陛下に何も言えなかった。今はなにをもらっても意味はないし、時は戻らない。
「いいえ、結構です。私はなにも望みません」
国王陛下は頭を上げると頷いた。
「そうか、わかった。だが、もし、私に何かできる様ならなんでも言いなさい」
私はその言葉に淑女の例を返した。
「ご理解いただきありがとうございます」
「ファビアンには生涯を北の塔に幽閉させる。もう二度とこの様なことを起こさせない」
私は自分が望んだ罰ではないが、王族を処刑することは出来ないだろうとは思っていたので頷いた。
「ありがとうございます」
「ところで、そなたとクラウスの婚約だがどう考えいるのか教えてほしい。王族からこの様な仕打ちを受けたのだ受け入れ難いこともあるだろう。この婚約についてそなたに全ての権限を委譲する。好きにするといい。よいな? クラウス」
「はい」
「……はい」
私は突然渡された婚約の行く末に困惑を隠せなかった。確かにクラウス様と一緒にいたいがこの王家に嫁ぎたいかと言われると一歩を踏み出せない自分がいたのだ。
「但し、期限は一か月だ。その間に答えを教えてほしい」
国王陛下の言葉に私は顔をあげてしっかりと目を合わせた。
「はい、ご配慮に感謝いたします」
私は礼を取るとそのまま席に戻った。なんともスッキリしない裁判だったが、とにかくこれで事件は全て解決したのだった。あとは私とクラウスの関係をもう一度見つめる必要があるということだ。
クラウス様と結婚する。これは嬉しい。
王家に嫁ぐ。嬉しくない。
国王陛下の義娘になる。なんだか胸がゾワゾワする。
「一体どうすればいいの?」
私がそう呟くと近くにいたベルナンド様が怪訝そうな顔をする。
「どうしましたか?」
「なんだか、混乱してしまって」
「? 良かったではないですか? お嬢様の好きに出来るんですから。クラウス殿下のこと、お好きでしょう?」
「え? あの……なんでそんなことを……」
「そりゃ見てればわかりますよ。なにが問題なんですか?」
「私も今気づいたのですが、結婚は本人だけではなく、家同士の繋がりもあるということです」
すると後ろでベルナンド様が暫し考えている様だった。
「まぁ、確かに。私もクラウス殿下のことは信頼していますが王族の方全てかと言われると……」
「ですよね。私も同じです」
私はハハハッと乾いた笑い浮かべたのだった。
そうこうしているうちに裁判は終わり王弟殿下の幽閉が確定した。これからは本当に無能力のままで厳しい生活になるらしい。とりあえず、私は溜飲を無理矢理にでもさげた。

「アーデル!!」
お兄様が戻り、裁判後に両親と会うことが決まった私達は公爵家に向かう馬車に向かって歩いていた。まずは家族のことから始めようと思ったのだ。その時後ろからクラウス様が追いかけてきた。
「クラウス様」
クラウス様は私の前でピタリと立ち止まる。
「アーデル、君はどうするつもり?」
手を伸ばせば届く位置でクラウス様は私の瞳を覗き込む。ドクンと私の心臓が高鳴る。やっと想いを伝えて、やっと恋人になれたのだ。本来ならばお互いに手を伸ばすはずの僅かな距離。それでも、私達は手を伸ばすことができない。
クラウス様は私の気持ちを尊重するために、私はクラウス様ごと王族という一族を受け入れる覚悟を決めるために。
「クラウス様、私はクラウス様と一緒にいたいと思っています。でも、正直ここに嫁ぎ、ここで暮らし、あの方々を家族と呼ぶことに戸惑いがあります」
クラウス様は脇に下ろしていた手をギュッと握る。
「私達王族の醜態を晒してしまった日に言うべきではないが、私は君を愛していることに変わりはない。今だって君を抱きしめたいと思っている。だが、今度は私が待つ番だと理解もしているよ」
クラウス様はそう言って寂しそうに微笑んだ。私はその笑顔を見て胸がギューっと締め付けられる。
「クラウス様……」
「よく考えてくれ。私はもう君を無理矢理連れて来たりはしたくない。君が必要だと側にいて欲しいと言ってくれるまで待つよ」
「あ……」
思わず手を伸ばしそうなった瞬間から私はお兄様に肩を引かれた。
「クラウス殿下、今日はアーデルも疲れた様です。これにて失礼いたします」
お兄様はそう言うと私の肩を抱いたまま馬車に向かった。
「ああ、そうだな」
クラウス様はそう言ってそのまま軽く手を上げた。
「さぁ、父上と母上が待っている。私達も家に帰ろう」
「…………はい。お兄様」
私は後ろ髪を引かれる思いのまま馬車に乗り込んだ。ガダゴトと動き始めた馬車の側でクラウス様はずっとこちらを見つめていた。私はその姿を目に焼き付ける様に見つめ続けたのだった。
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