ライバルで婚約者

波湖 真

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王の思惑

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エミリアは遅い朝を迎えていた。それでも眠気が襲ってきたがいつもより強い日の光を浴びながらドレスに着替えアルバートとのお茶会を開く事をハーミットに伝えた。

「ハーミット、アルバート様に本日午後のお茶会に来ていただけるようお願いしてきて頂戴。アルバート様はお時間あるかしら?」

お前なら知っているだろうと暗に込めて言うとハーミットは素知らぬ顔で答える。

「そうですね。午前中はモラン伯爵との会談ですが午後は街道筋の領主の方との謁見のみですのでお茶の時間にはいらっしゃれると思います。もちろん一応確認してご報告致します。」

エミリアはそういえばそうだったと昨夜の話を思い出し、やはりハーミット良くできた側近だと笑みを深める。

「ええ、よろしく。」

そういうとエミリアは身を翻し、父王の執務室に向かった。何故なら、エミリアでさえ気づいたカルスト国の思惑を父王が気づかないはずないのだ。父王の思惑も確認しなければならない。もし自分自身の私益の為に国に迷惑がかかっては元も子もないのだ。
公私をキッチリ分けようとするエミリアの考えにハーミットは満足気に頷くと王の執務室への先触れとアルバートへのお茶会への招待状を手配した。

「、、、して、お前の考えはどうなのだ?」

粗方アルバートとカルスト国の狙いについての考察を披露したエミリアに父王から質問が飛んだ。
父王を前に再度アルバートについての考えを話すと言う行為は頭の中が整理されて新たな考えも浮かんでくる。ここに来るまでは国に影響さえなければアルバートに街道整備はしないと伝えてそれで終わりと考えていた。なんと言っても彼らはそちらの方を欲しているのだから。
街道整備しないと明記されたままで王配となっても自国の利益は殆どなく王配になる必要もなくなるのだ。そのかわりカルスト国は発展に時間がかかるようになりこのサンディール王国の脅威となることはない。

しかしと父王と話しながらエミリアは考えた。女王となるべき自分が自国のみを考え隣国に全く目を向けなくて良いのだろうか?
カルスト国は小国で貧しい。最近は徐々に発達してきているがサンディール王国と比べたらまだまだだ。エミリアの判断でこの婚約を破棄すれば、カルスト国の民の生活レベルにも影響をおよぼすことになるだろう。
そこまで考えると一概に婚約破棄や街道整備はしないとは言えない。

言葉の出ないエミリアを満足そうに見つめて父王は自らの考えを述べる。

「私はカルスト国はもう少し便利なっても良いと考えている。アルバート王子に会ってその考えは確信に変わったよ。名君と名高い現王とあの王子の兄ならば早々馬鹿な事はすまい。但し何の利もなく他国を助けるいわれもない故、お前との婚約を認めたのだ。」

父王の瞳には施政者としての覚悟と広い視野が見受けられ、エミリアは如何に自分が狭い考えの中でぐるぐる回っていたのかに気づいた。

「お前が周りに目を向けるきっかけとなったのならそれだけでも今回の婚約に意味があったのかもしれんな。もし、お前がどうしてもアルバート王子は認めらないと言うのなら今回の婚約はなかったことにしても良い。その慰謝料として街道整備に協力してやればあちらも文句は言うまい。後はお前の好きなようにしなさい。」

そう言ってエミリアをそのままに父王は次の公務に向かうため退出した。

エミリアは今女王としての自分自身に目覚めた始めたのかもしれない。
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