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第四章

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「心で考えろ……か」
私は夜中に目を覚ましてカーリッドの言葉を考えていた。
事件自体は本当に解決したらしい。
子爵達はミルバーン男爵がいるときを見計らって踏み込んだのだ。
そんな怪しい組織と共にいたミルバーン男爵は当然のように騎士団に連行されていった。そして、その後の捜査で様々な貴族のスキャンダルの証拠物件がミルバーン男爵の部屋から見つかった。
そうなればあの男はもう終わりだ。証拠の品は極秘とされ、本人へ返される予定とのことだ。
「後に残ったのは、マイケルと僕。そして、子爵様と僕の関係だけか……」
三日も眠っていた体は早々眠くなってはくれないようだ。
私は体を起こすとバルコニーに向かう。
月が綺麗だった。
マイケルとはどうとでもなるだろう。カーリッドがいうにはかなりショックを受けて反省しているらしいから。これからのこともあるし、今回は大きな貸しとして仲直りだな。このまま私が子爵家を継ぐなら伯爵家を継ぐマイケルとはある程度仲良くした方がいいだろう。
「あとは、子爵様だよなぁ」
私の独り言が開けた窓から溢れる。
「……なんだ?」
突然の声にビクッとした。
私は辺りを見渡すと隣の部屋のバルコニーで子爵がワインを飲んでいた。
「あ……子爵様」
「眠れないのか?」
グイッとワイングラスを傾ける子爵に私は焦ってしまう。
全てが計画通りに進む中、私だけが不確定要素だったのだ。更には捜索という追加の仕事まで増やしてしまった。
バツが悪いのは仕方がない。
「あの……すみませんでした!!」
「?」
「僕が余計なことをしたので手間が増えましたよね? 折角養子にしてもらったのにご迷惑をおかけしました!!」
そう言って私は隣のバルコニーに頭を下げる。
暫く沈黙が続く。そして、突然子爵が話し始める。
「カーリッドが、言っていた」
「はぁ?」
「大切なものは大切にしなくては無くしてしまうらしい」
「は?」
「私には特に大切なものはなかった。退屈で退屈で探偵だって暇つぶしだ」
「はぁ……」
何言ってるんだこの人?
「だが、私もよくわからないが私は君が大切らしい」
「え?」
「カーリッドに言われたことを考えていると、確かに君が危険な目に遭うのは心臓に悪い。深刻な症状だ。不快感がこの上ない」
「えっと、子爵様?」
「君は私の遥か昔の友人を思わせる」
そう言ってフッと笑みを浮かべた横顔は懐かしい友人によく似ていた。
「子爵様も僕の友人によく似ています」
「? 孤児院のか?」
「……ええ、まぁ」
前世を告白してもよかったが、それはやめた。
「ふん、私は子供ではないぞ」
「僕だっておじさんではありません」
「だが、これから良き友にはなれるかもしれん」
その言葉に私の涙腺が緩む。
そうだ。私はこの人と友になりたかったのだ。保護者でも、親でも、上司でもなく、友人に。
「……嬉しいです」
グズっと鼻水を啜り上げながら答える。
「私のことはこれからシャリアンと呼べ。私もジェイと呼ぶ」
「はい」
「私が呼んだら、用事がなければすぐに来てほしい」
「はい」
「……」
シャリアンが一瞬首を傾げる。
「いや、違うな。用事があってもすぐに来てくれ」
その言葉を聞いて私の涙がブワッと溢れ出す。
その言葉はかつての友に言われた言葉だ。
私はパジャマの袖で涙を拭うと笑顔を作る。
「はい!! 僕はシャリアンの助手兼相棒兼友人、そして、家族になりたいです!!」
前世関係に家族を付け加える。この新たな関係をプラスして、私はこの世界での私達の関係がしっくりとハマるのを感じる。
多分私達はこの関係のままこの生を全うするだろう。
今、それはとてつもなく楽しい日々になると心から思える。
シャーロック改めシャリアン。
これからもよろしくお願いします!
私は感極まって深々と頭を下げた。
そして、そんな私を見てシャリアンは前世のシャーロックではあり得ないような快活な笑い声をあげたのだった。
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みんなの感想(2件)

emanon
2022.05.03 emanon

初めまして。
原作大好きなので、とても楽しく拝見しました。
雰囲気もいい感じで続きが楽しみです。

波湖 真
2022.05.04 波湖 真

お読みいただきありがとうございます!

原作様に最大の敬意を持って更新していきたいと思います。

これからもよろしくお願いします!

解除
此寺 美津己

続きが楽しみです。
あの兄とかあの人とかも転生してるのかなあ。あのワンちゃんとかは。

波湖 真
2022.05.03 波湖 真

お読みいただきありがとうございます!

これからも原作様には敬意を持って更新していきたいと思います。
誰がいるのかはお楽しみです。

よろしくお願いします!

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