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第三章 

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「でも、一体どういうことですか?」
突然の指名に私は子爵に詰め寄った。
「今から説明しよう。実は今ミルバーン男爵が取引しているのはダイナン伯爵の御令嬢のナニー、つまり子守りなんだ」
「ダイナン伯爵といえば世紀の恋のか?」
世紀の恋? 私は首を傾げる。
「ああ、そうだ。七年前皇女殿下との恋を実らせて異例の降嫁となったあのダイナン伯爵だ」
「それがなんのスキャンダルがあるんだ?」
「その伯爵の不倫の証拠の手紙を売りたいとナニーが言っているらしい。ご令嬢は今五歳だ。ナニーとして屋敷の外に出るには令嬢の子供同士の集まりがいいということになったらしい。ミルバーンは表向きかなりの慈善家を装っているからな。そういう子供向けのイベントを主催して取引しようとしているわけだ」
「なるほど、そういう場であれば女性と子供が多いですから騎士団などは配置しづらいですね」
ハルトが感心したように頷く。
「だから、僕なんですね」
子供向けのイベント、子供と同伴しなくては入れない場所での取引。そうくれば僕の役割はただ一つだ。
「僕、やります!」
「もう少し考えていい」
「やっと役に立てるんですよね! なんでもやります!」
子爵の目を見て懇願する。一緒に事件に関わることができるなんて信じられなかった。
「おい! 待てよ! そろそろだとは聞いていたがまさかそんな真っ只中に連れて行くつもりなのか? まだ、剣の腕だってさっぱりなんだぞ!」
「逆に子供が剣の腕が凄かったら怪しいだろう。それに取引は子供の目が届かない場所らしい。心配ないだろう」
「しかし……」
カーリッドは難色を示したが、私が強く要望したために最後には頷いてくれた。
そうして私はやっと事件に関わらせてもらえることになった。
「えっと、それで僕は何をしたら良いのでしょうか?」
「そうだな。まずはダイナン伯爵の令嬢と仲良くなってもらおう」
「え?」
「その集まりは紹介制だ。君が彼女と仲良くなり招待してもらわなければしょうがない」
「そうなんですか……」
私はそういうと俯いた。
「どうしたんだ? 君はコミュニケーション能力が高い人間だと評価していたのだが?」
子爵の不思議そうな顔を見て、私はため息を吐く。
「それは年上、特に大人に対してです。孤児院でも同じくらいの子供とは仲良くなったことがありません」
「……成程、君は子供としては異質ということか?」
「そうなるかと思います」
「た、確かにジェイ様はお年の割にしっかりとなさっておりますので、他のお子様は萎縮してしまうのではないでしょうか?」
ロバートが助け舟を出してくれるがそんなことを許してくれる子爵ではなかった。
「必ずその令嬢と仲良くなるのだよ。わかったか? 明日、その令嬢が行くという舞台を予約してある。その席が無駄にならないことを祈るよ」
子爵はそう言うとさっさと部屋から出ていってしまった。そんなことを言われても、中身は何十年も生きてきたのだ。今更子供らしくなど出来るはずもない。
私は頭を抱えて座り込む。
「おい? 大丈夫か?」
流石にカーリッドも心配になったらしい。
「大丈夫ですよ。ジェイ様はあの見た目モテそうではないですか?」
ハルトが顔を引き攣らせてなんとか褒めようとしてくれる。
確かに今世の姿は金髪碧眼の美少年だが、中身はおじさん、いやおじいさんだ。子供は敏感なのできっとその違和感を許してくれない。
そして、私は知っているのだ。ホームズは必要ならばどんな人間にもなれてしまうということを。
それこそ、ホームレスや下男、若者に老人なんにでもなれていた。
「少し、対策を練ります……」
私は肩を落としてそういうと部屋に戻った。そしてベッドの上にバタンと倒れると拳をどんどんと叩きつける。
「全然成長してない!! 私だって今は子供だ。なろうと思えば子供らしくなれるはずだ!!」
なんとか自分を叱咤激励する。
前世でもホームズは私の本気の芝居が必要なときは私さえも騙して芝居していた。もうそんなことは嫌だと考えてしまう。
今度は本当の意味でもパートナーになりたい。
私は立ち上がると部屋にある大きな鏡の前に立った。
鏡に写るのは金髪に青い瞳に少年だ。
にこっと笑ってみる。
うん、イケるかも。
今度は大きく口を開けてニカッと笑う。
こっちのほうが子供らしいか?
前世では叶わなかった容姿なのだ。思いっきり利用しようではないか。
私はそう覚悟を決めると鏡の前で子供らしい仕草を研究する。
確か孤児院でも人気があったユーの仕草を思い出しては真似てみる。
明るく笑い、女の子にはとことん優しい。男の子にはリーダーシップを発揮して……
私の初めての演技研究はその夜遅くまで続いたのだった。

「よし! これで行こう」
私は侍女のマリーと朝から洋服を選んでいた。マリーに聞いたら女性は子供であっても服装から人の印象を決めるらしい。それならばなるべく好印象な服を着ていくべきだろう。
服ならば養子になった時に山程作ってもらっていた。あまり活用していないが中には騎士服を模したようなものまであるのだ。
そんな中で私が選んだのは白いジャケットにブルーのシャツそして揃いの白い半ズボンだった。
どうしても子供は白い服を避ける傾向にあるため、目立つと言われたからだ。
仲良くなるためにはまず目に止まらなければならない。
「きゃーージェイ様、とってもお似合いです!」
マリーは鏡に写る私を見て嬉しそうに手を前に組んだ。
「そうかな? 僕、イケてる?」
「……お話になられないほうがよろしいです」
至極真面目に答えられて私は頷くしか出来なかった。
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