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第二章 最初の事件

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「マイクさんはハルトさんやカーリッドさんと話したことはある?」
私は馬小屋にやって来て馬の世話をしているマイクに話しかける。
「坊っちゃん、あっしは馬番です。秘書の方と話すことなんで殆どありゃしませんよ」
「でも、ハルトさんもカーリッドさんも馬車を使いますよね。よく伯爵家に行くって聞きました」
「へえ。そりゃそうですが。話す言葉なんで馬車の用意を頼まれて、出来ましたって言うくらいですよ」
「そうなの? 二人に何か変わったところとかある?」
「うーーん、そうですねぇ。そういや何度かハルト様とクロード様が言い合ってるのを見たんでさ」
何かを思い出したようにマイクが空を見上げた。
「それはいつ?」
「そうですねぇ。確かハルト様が秘書になってすぐだったような。そんなことが何回もあったんで、あっしは秘書になるのも大変だと思ったんでさ」
「ふーん。そうか。ああ、そういえばこの子爵家に沢山の養子候補が来ただろう?」
「へぇ」
「どんな感じだったか教えてくれないか?」
「そうですねぇ。皆様さすが伯爵家のお坊ちゃんだと思いましたでさ」
「それはどうして?」
「普通は子供なんて騒いだりするもんじゃないですか? それなのにあっしが馬車に乗せても皆おとなしいこと。びっくりしやした」
「そうなんだ」
「それくらいしかあっしにはわかりませんでさ」
「うん、ごめんなさい。仕事の邪魔しちゃったよね」
私はそう言って馬小屋を離れた。ハルトはクロードに怒られていた? いやマイクは言い合いと言っていた。ということは何らかの意見の相違があったはずだ。でもクロードからは何も聞いていない。
「なんで執事が秘書と言い合うんだ? 仕事内容も全然違うのに。でも、秘書に成りたてで子爵様への態度や言葉遣いを直されることはあったのか? でも、さっき会ったハルトさんは態度も言葉遣いも全く問題ない感じなんだよな」
私はブツブツと独り言を言いながら、屋敷の裏手に回る。
すると今度女性たちのかしましい声が聞こえてきた。
「だから絶対ジェイ様は旦那様のお子様ですよ!!」
「あんたまたそんなことを言ってるの? デー様のときもそういってたじゃない!!」
「それはデー様は声がそっくりだったんだもの。仕方がないわ」
「今度は本物よ! だって私は見たんだもの。あの旦那さまがジェイ様を抱っこしてたのよ!!」
「「ええええええ」」
「信じられないでしょう? 今までの坊ちゃま達は初日に一回、十日後に一回、後次の養子先に行かれる前の一回の計三回しか旦那様に会っていないのよ! それなのにジェイ様は今日もお食事をご一緒されたんだもの。これは本物よ!!」
「でも、だったらわざわざ養子候補になんかならないで実子といえばいいじゃないの」
「それねぇ。私もそれは不思議なのよねぇ」
私はもっと話を聞こうと一歩踏み出そうとした瞬間自分の名前が聞こえてきて固まった。
「でも、ジェイ様って可愛らしいわよね」
「そうそう、この前お着替えをお手伝いしようとしたら「自分でできます!」っていったのよ。顔も真っ赤で可愛かったわ!!」
居た堪れない気持ちで私は木の後ろに隠れてしまった。
「それにほら……マリアのときだって犯人証拠を探してお庭を歩き回ってくださったのよ。お優しいわ」
「マリアも変なことしなければ良かったのに」
「本当よねぇ」
「でも、マリアって読み書き出来なかった?」
その言葉に私は身を乗り出した。聞きたかったのはこれだ。
「そうなのよね。クロード様は知らなかったんじゃないかしら? 確か実家からの手紙を受け取っていたと思うのよね。マリアは」
「私も手紙を持ったマリアを見たことあるわ」
そう言いながら仕事が終わったのか大きな籠を抱えた三人はその場を後にした。
私は結局木の陰から話を聞いただけだが、かなりの情報を得ることができた。
私の恥ずかしい話を抜きにしてもマリアが読み書き出来たかもしれないという話は重要だ。そして、それをクロードが知らなかったなんてことはあるだろうか?
私の中でクロードに対する信頼がほんの少し揺らぎ始めていた。
クロードは抜いて考えていたが、この事件の中心には彼がいたではないか?
秘書と言い合っていたらしいし、マリアのことも隠していた可能性がある。
少しクロードについて調べてみる必要があるのかもしれない。
そう考えると私は一旦自分の部屋に戻ることにした。
答えはクロードなのだろうか?
でも、マリアが刺されたときのクロードの慌てようは本物だと思うんだよなぁ。
もう少し確証が必要だよな。
私はとりあえず今わかっていることをまとめることにしたのだった。
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