17 / 40
第二章 最初の事件
16
しおりを挟む
「マイクさんはハルトさんやカーリッドさんと話したことはある?」
私は馬小屋にやって来て馬の世話をしているマイクに話しかける。
「坊っちゃん、あっしは馬番です。秘書の方と話すことなんで殆どありゃしませんよ」
「でも、ハルトさんもカーリッドさんも馬車を使いますよね。よく伯爵家に行くって聞きました」
「へえ。そりゃそうですが。話す言葉なんで馬車の用意を頼まれて、出来ましたって言うくらいですよ」
「そうなの? 二人に何か変わったところとかある?」
「うーーん、そうですねぇ。そういや何度かハルト様とクロード様が言い合ってるのを見たんでさ」
何かを思い出したようにマイクが空を見上げた。
「それはいつ?」
「そうですねぇ。確かハルト様が秘書になってすぐだったような。そんなことが何回もあったんで、あっしは秘書になるのも大変だと思ったんでさ」
「ふーん。そうか。ああ、そういえばこの子爵家に沢山の養子候補が来ただろう?」
「へぇ」
「どんな感じだったか教えてくれないか?」
「そうですねぇ。皆様さすが伯爵家のお坊ちゃんだと思いましたでさ」
「それはどうして?」
「普通は子供なんて騒いだりするもんじゃないですか? それなのにあっしが馬車に乗せても皆おとなしいこと。びっくりしやした」
「そうなんだ」
「それくらいしかあっしにはわかりませんでさ」
「うん、ごめんなさい。仕事の邪魔しちゃったよね」
私はそう言って馬小屋を離れた。ハルトはクロードに怒られていた? いやマイクは言い合いと言っていた。ということは何らかの意見の相違があったはずだ。でもクロードからは何も聞いていない。
「なんで執事が秘書と言い合うんだ? 仕事内容も全然違うのに。でも、秘書に成りたてで子爵様への態度や言葉遣いを直されることはあったのか? でも、さっき会ったハルトさんは態度も言葉遣いも全く問題ない感じなんだよな」
私はブツブツと独り言を言いながら、屋敷の裏手に回る。
すると今度女性たちのかしましい声が聞こえてきた。
「だから絶対ジェイ様は旦那様のお子様ですよ!!」
「あんたまたそんなことを言ってるの? デー様のときもそういってたじゃない!!」
「それはデー様は声がそっくりだったんだもの。仕方がないわ」
「今度は本物よ! だって私は見たんだもの。あの旦那さまがジェイ様を抱っこしてたのよ!!」
「「ええええええ」」
「信じられないでしょう? 今までの坊ちゃま達は初日に一回、十日後に一回、後次の養子先に行かれる前の一回の計三回しか旦那様に会っていないのよ! それなのにジェイ様は今日もお食事をご一緒されたんだもの。これは本物よ!!」
「でも、だったらわざわざ養子候補になんかならないで実子といえばいいじゃないの」
「それねぇ。私もそれは不思議なのよねぇ」
私はもっと話を聞こうと一歩踏み出そうとした瞬間自分の名前が聞こえてきて固まった。
「でも、ジェイ様って可愛らしいわよね」
「そうそう、この前お着替えをお手伝いしようとしたら「自分でできます!」っていったのよ。顔も真っ赤で可愛かったわ!!」
居た堪れない気持ちで私は木の後ろに隠れてしまった。
「それにほら……マリアのときだって犯人証拠を探してお庭を歩き回ってくださったのよ。お優しいわ」
「マリアも変なことしなければ良かったのに」
「本当よねぇ」
「でも、マリアって読み書き出来なかった?」
その言葉に私は身を乗り出した。聞きたかったのはこれだ。
「そうなのよね。クロード様は知らなかったんじゃないかしら? 確か実家からの手紙を受け取っていたと思うのよね。マリアは」
「私も手紙を持ったマリアを見たことあるわ」
そう言いながら仕事が終わったのか大きな籠を抱えた三人はその場を後にした。
私は結局木の陰から話を聞いただけだが、かなりの情報を得ることができた。
私の恥ずかしい話を抜きにしてもマリアが読み書き出来たかもしれないという話は重要だ。そして、それをクロードが知らなかったなんてことはあるだろうか?
私の中でクロードに対する信頼がほんの少し揺らぎ始めていた。
クロードは抜いて考えていたが、この事件の中心には彼がいたではないか?
秘書と言い合っていたらしいし、マリアのことも隠していた可能性がある。
少しクロードについて調べてみる必要があるのかもしれない。
そう考えると私は一旦自分の部屋に戻ることにした。
答えはクロードなのだろうか?
でも、マリアが刺されたときのクロードの慌てようは本物だと思うんだよなぁ。
もう少し確証が必要だよな。
私はとりあえず今わかっていることをまとめることにしたのだった。
私は馬小屋にやって来て馬の世話をしているマイクに話しかける。
「坊っちゃん、あっしは馬番です。秘書の方と話すことなんで殆どありゃしませんよ」
「でも、ハルトさんもカーリッドさんも馬車を使いますよね。よく伯爵家に行くって聞きました」
「へえ。そりゃそうですが。話す言葉なんで馬車の用意を頼まれて、出来ましたって言うくらいですよ」
「そうなの? 二人に何か変わったところとかある?」
「うーーん、そうですねぇ。そういや何度かハルト様とクロード様が言い合ってるのを見たんでさ」
何かを思い出したようにマイクが空を見上げた。
「それはいつ?」
「そうですねぇ。確かハルト様が秘書になってすぐだったような。そんなことが何回もあったんで、あっしは秘書になるのも大変だと思ったんでさ」
「ふーん。そうか。ああ、そういえばこの子爵家に沢山の養子候補が来ただろう?」
「へぇ」
「どんな感じだったか教えてくれないか?」
「そうですねぇ。皆様さすが伯爵家のお坊ちゃんだと思いましたでさ」
「それはどうして?」
「普通は子供なんて騒いだりするもんじゃないですか? それなのにあっしが馬車に乗せても皆おとなしいこと。びっくりしやした」
「そうなんだ」
「それくらいしかあっしにはわかりませんでさ」
「うん、ごめんなさい。仕事の邪魔しちゃったよね」
私はそう言って馬小屋を離れた。ハルトはクロードに怒られていた? いやマイクは言い合いと言っていた。ということは何らかの意見の相違があったはずだ。でもクロードからは何も聞いていない。
「なんで執事が秘書と言い合うんだ? 仕事内容も全然違うのに。でも、秘書に成りたてで子爵様への態度や言葉遣いを直されることはあったのか? でも、さっき会ったハルトさんは態度も言葉遣いも全く問題ない感じなんだよな」
私はブツブツと独り言を言いながら、屋敷の裏手に回る。
すると今度女性たちのかしましい声が聞こえてきた。
「だから絶対ジェイ様は旦那様のお子様ですよ!!」
「あんたまたそんなことを言ってるの? デー様のときもそういってたじゃない!!」
「それはデー様は声がそっくりだったんだもの。仕方がないわ」
「今度は本物よ! だって私は見たんだもの。あの旦那さまがジェイ様を抱っこしてたのよ!!」
「「ええええええ」」
「信じられないでしょう? 今までの坊ちゃま達は初日に一回、十日後に一回、後次の養子先に行かれる前の一回の計三回しか旦那様に会っていないのよ! それなのにジェイ様は今日もお食事をご一緒されたんだもの。これは本物よ!!」
「でも、だったらわざわざ養子候補になんかならないで実子といえばいいじゃないの」
「それねぇ。私もそれは不思議なのよねぇ」
私はもっと話を聞こうと一歩踏み出そうとした瞬間自分の名前が聞こえてきて固まった。
「でも、ジェイ様って可愛らしいわよね」
「そうそう、この前お着替えをお手伝いしようとしたら「自分でできます!」っていったのよ。顔も真っ赤で可愛かったわ!!」
居た堪れない気持ちで私は木の後ろに隠れてしまった。
「それにほら……マリアのときだって犯人証拠を探してお庭を歩き回ってくださったのよ。お優しいわ」
「マリアも変なことしなければ良かったのに」
「本当よねぇ」
「でも、マリアって読み書き出来なかった?」
その言葉に私は身を乗り出した。聞きたかったのはこれだ。
「そうなのよね。クロード様は知らなかったんじゃないかしら? 確か実家からの手紙を受け取っていたと思うのよね。マリアは」
「私も手紙を持ったマリアを見たことあるわ」
そう言いながら仕事が終わったのか大きな籠を抱えた三人はその場を後にした。
私は結局木の陰から話を聞いただけだが、かなりの情報を得ることができた。
私の恥ずかしい話を抜きにしてもマリアが読み書き出来たかもしれないという話は重要だ。そして、それをクロードが知らなかったなんてことはあるだろうか?
私の中でクロードに対する信頼がほんの少し揺らぎ始めていた。
クロードは抜いて考えていたが、この事件の中心には彼がいたではないか?
秘書と言い合っていたらしいし、マリアのことも隠していた可能性がある。
少しクロードについて調べてみる必要があるのかもしれない。
そう考えると私は一旦自分の部屋に戻ることにした。
答えはクロードなのだろうか?
でも、マリアが刺されたときのクロードの慌てようは本物だと思うんだよなぁ。
もう少し確証が必要だよな。
私はとりあえず今わかっていることをまとめることにしたのだった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる