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第ニ章 婚約

10 婚約

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二人が帰った部屋でハロルドはセイジと話し合っていた。

「おい!何悠長なこと言ってるんだよ!さっさとその知識は何処から得たのかを聞けばいいじゃないか!
そうすれば俺の様な幽霊が他にもいるってわかるか、あの子本人に前世の記憶があるってことだろ。
俺はそれが知りたい。」

セイジは未だ興奮状態で自分以外に日本を知っている存在に会いたいし話したいとハロルドに迫っていた。

「ちょっと待ってくれ。セイジの言うこともわかるが、俺だって将来の為にクリスティーナを逃すわけには行かないんだ。
今問い詰めたら婚約話からも逃げられる可能性が高い。それは駄目だ。」

「でも、あの様子じゃあの子は聞かれたらテレビやカメラの事もペラペラ話すぞ。」

セイジは痛い所をついてきた。

「わかっている。それについては早急に対処が必要なのはわかってるんだが、この国では婚約者でもないと男女が二人で会うなんて許されないんだ。でも、二人でないと話せない内容だし、、、。」

ハロルドは困ったと頭を抱えた。既に父にはクリスティーナとの婚約を進めてほしいと伝えてあるし、ストーン家との婚約自体はそれ程難しくないだろうことは想像できる。
まぁ家族が溺愛してるから多少は渋るだろうが、王家以外に嫁ぐ方が不安があると聡明な公爵家の者達なら直ぐに気づくだろう。
それでも婚約まで早くとも数ヶ月はかかる。下手したら一年後の婚約だ。
その間にクリスティーナが他の貴族と話してその知識を披露すると最悪常識がない魔女呼ばわりだ。

「うーん」

二人はお互いにどうしようかと考え込んだ。

「なぁ、ハロルド。日本の知識があるならそれを利用すれば良いんじゃないか?」

「どういうことだ?」

「日本では婚約の前にお見合いといって紹介者と親と本人同士が一緒に食事をする風習がある。そして大体の場合食事の後にはあとは若いお二人でと二人で散歩をするんだ。まぁ結婚を決める前に本人同士の相性を確認すんだな。」

「成る程、本当にニホンは面白いな。確かにバイオレットストーン家との食事会を開催することは問題ない。ただそれで俺と二人で散歩が実現するかは賭けかもな。」

そう言いながらもルーカスにそのセリフを言わせれば可能かと考えた。


王家から婚約の打診と家同士の食事会開催の知らせがバイオレットストーン家に届いたのはその数日後だった。
今まで五大ストーン家と王家の晩餐会は何度もあったがバイオレットストーン家のみというのは初めての事で婚約の打診と共にバイオレットストーン家を混乱に陥れていた。

初めは婚約などまだ早いと言っていた公爵も王家から毎日のように届く許しを請う手紙に少しずつ軟化していき、王家以外のストーン家や外国の貴族なぞに嫁ぐと会うことすらままならないと、二週間後の食事会までには婚約くらいならと変わりそうな雰囲気になっていた。

実際婚約した方が王宮への勉強通いや他家からの婚約申し込みへの言い訳が立つし、クリスティーナも安全だと判断したのだ。
クリスティーナも初めはまさかわたくしがと恐縮していたが毎日ハロルドからの手紙が届く様になると元々の恋をしていたクリスティーナが婚約を了承するまで然程時間はかからなかった。

ただ、クリスティーナが気になったのはハロルドからの手紙はあくまでもクリスティーナが将来の王太子妃に相応しいという内容と一緒に王国を変えていこうという事ばかりで、好きだとか恋とかは書かれていない事だった。

ハロルド様はわたくしを好きという訳ではないのね。ただ単に一緒に勉強してみて相応しいと思われただけなんだわ、、、。

クリスティーナはすこし悲しい気持ちで婚約を受け入れていた。何故ならまだ自分達は子供でこれからもっとお互いに理解すれば良いのだと自分を慰めたのだ。
また、その話を聞いたアカネがハロルドの心を掴む為に協力してくれると言ったのも大きかった。

「大丈夫よ。クリスティーナ。貴方と王子様は婚約する運命だし、王子の攻略、えっと、好みは大体わかっているのよ。すぐにあなたを好きになるわ。それにお見合いなんて古風でいいなぁ。」

そういうとアカネは元の世界でのお見合いなるものについてクリスティーナに説明したのだった。

ちょうど同じ時、ルーカスもハロルドからの手紙を受け取っていた。それを一読してルーカスは首を傾げた。

「なんなんだ?この「後は若い二人で」って?僕は合図でそう言えばいいのか?相変わらずハロルドは変わってるな。」

ルーカスはハロルドの意図はわからないが取り敢えずやる事だけ頭に入れておいたのだった。

そうして何とか両家の食事会までには婚約内定という状態まで持って行くことができたのだった。

流石に異世界のお見合いを模してはいるがやはり最低でも婚約内定までは決めておかないと二人きりでの散歩は難しいとハロルドは考えていた。

そして食事会当日がやってきた。
クリスティーナは一応婚約内定者となったので、ハロルドの瞳の色であるエメラルドのドレスを身につけて王宮にやってきた。かなり恥ずかしいが本格的なお披露目となると国中の貴族の前で宣誓しなければならないのでこれくらいは頑張らなければと顔を上げて出来るだけ上品に可愛らしく見えるように歩いた。

その様子を寂しそうに父と兄が見ているのを呆れた様にさらに母が眺めるというかなり奇妙なバイオレットストーン家であった。

ハロルドはクリスティーナとは逆に薄紫色の騎士服を身につけて食事会にやってきた。両脇にはこの婚約に乗り気の両親が満面の笑みを浮かべている。

「よく来てくれた。バイオレットストーン公爵。婚約前に食事会という前例のない事で驚かれたと思うが許してくれ。」

「いえ、この度は勿体無いお話を頂きましてありがとうございます。娘共々光栄の至りでございます。」

「その割には少々渋っておったようだがの?」

国王がからかうように言うと公爵はいや、まぁと、更に頭を下げた。

「まぁ、何にせよ。承諾してくれて良かった。中々の良縁だし、クリスティーナ嬢は美しく聡明な令嬢と聞いておる。楽しみな事だ。」

そう言うと王妃を伴って席に着いた。
ハロルドも公爵に黙礼し席に着くと漸く公爵家の面々がそれぞれの席に着いた。

「、、ハハハ、そうか、クリスティーナ嬢は運動は苦手なのか?まぁそれも可愛いらしい欠点だな。」

和やかに進んだ食事会も終盤に差し掛かりデザートを食べながらルーカスが披露したクリスティーナがダンスを習得するまでの道のりを楽しそうに聞きながら王は笑い声をたてた。

その時ハロルドが父王に話しかけた。

「父上そろそろ私はクリスティーナ嬢を庭園に案内したいと思っております。よろしいでしょうか?」

「ん?何だそれは?」

そしてハロルドはルーカスに合図を送った。

「えっと、今市井では後は若い二人でと言って婚約前にお互いの相性を確かめるのが流行っているらしく、、。」

なんとなく自信なさげなルーカスの言葉に国王はクリスティーナを見て確認した。

「そうか。でも、まぁもしクリスティーナ嬢が嫌なようならいかなくても良いぞ。いかがする?」

クリスティーナは一瞬考えたがアカネからお見合いの話を聞いていた事もあり、わたくしは大丈夫です。と頷いた。

「相解った。では、ハロルドよくクリスティーナ嬢をエスコートするように。なんと言ったかな?後は若い二人で?」

「はい。父上。では、クリスティーナ嬢、こちらへ。」

そう言うとハロルドは席を立ち、クリスティーナの手を出して取って優しくエスコートしながら庭園へと案内した。

「クリスティーナ嬢、本当に大丈夫だったかい?正式な婚約はまだ先なのに驚いたんじゃないかい?」

歩きながらハロルドはクリスティーナを見下ろした。

「いえ、本当に大丈夫です。わたしく、お見合いとはそんなものだと聞いておりますので御心配には及びませんわ。それにわたくしも殿下にお聞きしたいことがございますの。」

「そうか。クリスティーナ嬢はお見合いを知っているんだね。」

ハロルドは遠く自分の自室の方を見ながらセイジの作戦勝ちを悟った。

庭園内の東屋までゆっくりと歩いて、少し休暇しましょうとハロルドはクリスティーナを椅子に座らせて、自らも向かいの席に着いた。

「ところでクリスティーナ嬢の聞きたいこととは何かな?」

「あの、、、大変不敬ではあるのですが、何故わたくしだったのでしょう?
ハロルド様は既に多くの令嬢とお会いになっていると思いますので、わたくしよりも相応しい方も数多くいらしたと思うんです。実際この前の授業まではなんというか、、わたくし、ハロルド様からそのような対象として見られていなかったように感じますの。」

そう言ってクリスティーナは首を傾げてハロルドを見上げた。

「そうだね。確かに私はそれこそ、この前再会するまでは友人の妹以上に貴女を意識していなかった。しかし、教育についての意見を聞いて是非伴侶として支えて欲しいと思ったんだ。この国で女性や子供に教育が必要だと考えられる柔軟な思考を持った女性を私はクリスティーナ、貴女以外に知らない。」

そう言ってハロルドはクリスティーナを見つめ返した。
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