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第ニ章 婚約

7 お披露目パーティー

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お披露目パーティー当日の朝バイオレットストーン公爵家には朝から落ち着かない雰囲気が漂っていた。
会場の準備も料理も楽団も既に手配済みで後は始まるのを待つばかりとなっているが流石に王家と五大ストーン家が集まるとなると中々の緊張感に包まれていた。

クリスティーナも朝から湯浴みにマッサージにと、侍女に急き立てられるようにされるがままにされていた。
漸く侍女から解放されて一息つけた時には既に昼過ぎなっていた。
十ニ歳のお披露目パーティーなので夜会ではなく少し早めに開始されるので後三時間で開始時間となる。

クリスティーナは先日試着した薄紫のドレスを身につけて、普段はしない化粧を少し施すと妖精のような可愛らしさだった。髪型も銀に光る巻き毛をハーフアップに編み込んで少女らしさを感じられて思わず微笑んでしまいたくなる可憐さだった。
パーティーの前に気を落ち着ける為にテラスで軽食を取っていると初めに兄のルーカスがやってきて自分も黒の光沢のある夜会服を着こなしているにも関わらずクリスティーナを褒めちぎってから一緒にお茶を席に着いた。
その後も父や母もやって来て、ひと通りクリスティーナを褒めると一緒にお茶を楽しんだ。その様子は仲睦まじく四人の笑い声がテラスに響いていた。


「キングストーン王国第一王子ハロルド・キングストーン殿下!」

全ての招待客が会場入りした最後にハロルドの名前が呼ばれて十四歳のハロルドが入場した。これで招待客が全て揃い、いよいよ本日の主役であるクリスティーナの入場となった。

クリスティーナは緊張した様子で兄のルーカスの肘に手を添えて初めてのお披露目を迎えた。
クリスティーナとルーカスは扉が開くと優雅に礼を取り、招待客の拍手の中を一段高くなっている主催者席に向かって歩いた。そうすると周りからほぅという声と共に二人を褒める言葉が聞こえてきた。

「なんて、可愛らしいんでしょう!」

「バイオレットのドレスがよくお似合いだわ。」

「これは明日からでも懇意にしていただきたいな。」

二人が壇上に上がると父親の公爵が先に挨拶を述べた。

「この度は我が娘クリスティーナの披露目パーティーにお越し頂きありがとうございます。何分まだ幼少ですので拙い所もございますが、暖かく皆様のお仲間としてお迎え頂きたくお願いいたします。」

そう言って一礼すると顔を上げて右手を振った。すると楽団から軽快なワルツが流れてきて場を和ませた。

「それでは皆様お楽しみください。」

掛け声と共にクリスティーナとルーカスのファーストダンスを踊り始め、パーティーの始まりを告げた。

クリスティーナが次々と申し込まれるダンスをなんとかこなしていると先程まで兄のルーカスと話していたハロルドがダンスを申し込んできた。

「クリスティーナ嬢、私とも一曲踊っていただけますか?」

クリスティーナは一旦兄を見てルーカスが頷いたのを確認すると恥ずかしそうにその手を取った。

「喜んで。こちらこそよろしくお願いいたします。ハロルド殿下」

二人が手を取り合って中央に進みでるとサッと周りが居なくなり、ほぼ二人きりとなった後、楽団による曲が始まった。
二人の息のあったダンスを見ながら感心しているものや嫉妬をつのらせるもの、微笑ましく見ているものもいた。

「クリスティーナ嬢、お披露目おめでとうございます。あんまり可愛らしいので私はびっくりしましたよ。妖精のようですね。」

優雅にダンスをリードしながらハロルドが褒める。

「そ、そんなことありませんわ。でも、ありがとうございます。殿下に褒めてもらうだなんで、それだけで良い思い出となります。」

可愛らしく頬を染めて、恥ずかしいそうにしているクリスティーナを見て、ハロルドは目を見張る。そして、ハロルドはそれはそれは優しそうにふわりと微笑んだのだ。それを見たクリスティーナはふわふわと夢見心地でダンスを踊った。

あっという間にダンスは終わり、その途端他の待ち構えていたストーン家の少女達にハロルドは囲まれてしまったのを見てクリスティーナは壁際の兄の元に帰ってきた。

「おにいさま、酷いわ。わたくしに殿下がこんなに素敵な方だなんて隠していらしたのね?」

「ちょっ、クリスティーナ!何を言っているんだい?ハロルドが素敵って?お前、、、まさか、、、?」

ルーカスがクリスティーナの顔を見てそこに少女らしい恥じらいを認め頭を抱えた。

「まさか!お前、ハロルドに恋してしまったのかい?
まだ一曲踊っただけだろう?だから、嫌だったんだよ。ハロルドにクリスティーナをエスコートささせるのは!
あいつがどうしてもっていうから仕方なしに許したのに、、、。」

兄のルーカスは未だ他のストーン家の令嬢と踊っているハロルドを見つめ、いや、睨みつけた。その途端、ハロルドがビクッとなりこちらを見つめてきたがそれは無視してクリスティーナを休憩室に連れて行くことした。


休憩室についてもクリスティーナは夢見心地だった。あんなに素敵な方から可愛いと褒められたのだと思うと小さな胸が高鳴った。ルーカスはクリスティーナを一旦ソファに座らせると飲み物を取りに出て行った。

「クリスティーナ、あなたハロルド王子に恋に落ちたの?」

突然話しかけられたクリスティーナはふわふわと空中を漂うアカネを見つめた。

「アカネ!わたくしあんなに素敵な方初めてみたわ!恋?恋?!恋!そうだわ。わたくし確かに恋に落ちたのかもしれませんわ!」

「でも、それはこのお披露目パーティーで気持ちが高ぶってるからかもしれないわよ?だって、あなたまだ十ニ歳じゃない?」

「アカネ!!違いますわ。これは絶対に恋ですの!運命の恋ですの!」

クリスティーナの興奮した様子に溜息をついてアカネはフッとその場から消えた。すると入れ替わるように兄と両親が休憩室に入ってきて心配そうにクリスティーナに話しかけた。

「クリスティーナ!どうしたんだい?ルーカスが突然呼びに来たから気分でも悪いのかと心配したよ。」

「そうよ。クリスティーナ。どうかして?」

両親に話しかけらたクリスティーナは自分がハロルドに恋をしたと目を輝かせて話した。両親は顔を見合わせると頷き合いクリスティーナに話しかけた。


「わかったよ。クリスティーナ。でも、今はまだお披露目パーティーの最中だ。後でもう一度話を聞くから、今は自分の役目を果たすんだよ。今日の主役はお前しかいないのだからね。」

父親にそう言われると、すっかりのぼせ上がっていたクリスティーナもハッとして俯いた。

「ごめんなさい。、お父様、お母様、おにいさま、折角のパーティーを台無しにしてしまう所でした。」

そういうと、少し落ち着いたクリスティーナは反省してまたゆったりとした雰囲気を保ちながらルーカスのエスコートで会場に戻っていった。 

クリスティーナの両親はクリスティーナの恋心をしり、また、その相手を知り、これは前途多難な恋になりそうだと顔を見合わせると気持ちを切り替えて自分達も会場に戻ったのだった。
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