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「おい!」
たった今まで繋いでいた小さな手が、ほんの一瞬離れたと思ったら、突然現れた穴に引きづり込まれて行く。
その穴が収束していく寸前に傘を突っ込んだ。
「オスカーー! 何があった! アンジュちゃんはどこだ!」
オスカーは駆け寄ってくるジェームスや息子達を無視して、今別の空間につながっているであろう傘に意識を集中する。
こんな高度な黒魔法はお目にかかったことがない。
傘に聖魔法を流し込みながら、少しずつ穴を広げていく。
そんなオスカーを見て、ジェームスが黙って自らの剣も穴に突っ込む。
「説明は後だ。この先にいるんだな?」
「ああ、そうだ」
オスカーが頷いたと同時に、ジェームスから護衛達への指示が飛ぶ。
「おい! お前達、この周辺の道路を閉鎖しろ! 黒魔法が暴発する可能性がある」
「はい!」
「聖魔法を使える者はこっちに来い」
「はっ!」
オスカーが押さえ込んでいる黒魔法で開いた穴に向かって聖魔法を纏わせた剣をグイグイと差し込んでいく。
すると、少しずつ穴が広がって行くのがわかった。
「いいぞ! この調子だ!」
ジェームスの言葉にオスカーは頷いて、傘を更に押し込んだ。
「来るぞ!!!」
黒魔法に聖魔法を押し込んだことで起こる反発を腕に感じた。
一斉に手を引くと同時に穴が爆発したのだ。
オスカーとジェームスは穴へ躊躇なく潜り込む。
この先にはアンジュがいるのだ。
爆発に伴う煙の向こうで見覚えのある少女が倒れているのが見えた。
オスカーの体にカッと熱が走る。
その熱は体中を駆け巡り、出口を求めて指先に集まってくるのを感じる。
思考は止まり、視線は倒れている娘の姿から逸らすことはできない。
しかし、その場にいる人数と場所は手に取るようにわかる。
もう二度と自分と共にいる者を、失う訳にはいかない。
そう自分に誓ったし、そのための訓練は積んだ。
「覚悟しろ!!」
指先に集まった熱を三人に向かって放つ。
「ぐはっ!」
「きゃぁぁぁ」
「ぎゃ!」
足に打ち込んだ魔法で動きを止めると、今度は頭に向かって放つ……
「止めろ!!」
その瞬間、腕をグイッと掴まれた。
ジェームスが真面目な顔で、オスカーの手を掴む。
「放せ! 生かしてはおけない」
「気持ちはわかるが、話を聞く必要がある。ここで止まれないのなら、過剰防衛となる」
「しかし! 見ろ! アンジュが!!」
アンジュは騎士に抱えられているが、ぐったりとしているように見える。
「怪我はない。気を失っているだけだ。お前だって、今回は囮のつもりで歩いていただろう? 思い出せ」
「しかし!! もし!」
「大丈夫だ。アンジュちゃんは死なない。死なないんだ」
ジェームスの言葉に、オスカーの腕が下がる。
「お前が抱いてやれ」
ジェームスは騎士を呼ぶとアンジュを、オスカーに渡すよう指示を出した。
すぐにオスカーの元に運ばれたアンジュは確かに怪我もない。
オスカーは、ガラス細工でも持つように慎重にアンジュを抱えると、ギュッと抱きしめた。
その姿にジェームスは安堵のため息を吐いて、今は動けなくなっている犯人達に向かう。
「お前ら、死にたくなかったら答えろ」
「ヒイイィぃ」
「何故あの子を攫ったんだ!」
「依頼されたからだよ!」
「俺たち、ただ金が欲しくて…….」
「ゆ、許して頂戴!!」
三人は足の痛みからか、泣きながら答える。
「答えろ! 誰の依頼だ?」
「よ、よくわからねぇ」
「なんだと!!」
ジェームスは一人の男の胸ぐらを掴んだ。
「ほ、本当よ。いつもローブを着ていたし、顔は見えなかったのよ!!」
女が足を押さえながら、答える。
「そ、そうだ。確かエリザベスって人からの話だって言ってました!!」
もう一人の男が床に額を押し付けるようにしながら、答える。
嘘だとは思えないが、エリザベス?
ジェームスはオスカーの顔を見る。
「おい、どうする?」
「好きにしろ」
そういって、オスカーは未だに繋がったままの穴に向かって歩き出す。
ジェームスは頭を掻き分けながら、息を吐いた。
「捕まえろ。死なれたら困るから治療してから牢にぶちこめ」
「はっ!」
「ここの場所を特定するんだ。黒魔法の痕跡を見逃すな」
「はっ!」
「応援を呼ぶんだ。塵一つでも見逃すな。いいな!」
「「はっ!」」
ジェームスは部下達に指示を出すと、オスカーの後を追う。
穴を潜ると、そこはサンドール村の教会の前だ。
そして、オスカーはアンジュを抱えて歩いている。
どんどん遠くなる後ろ姿をネイトとサイラスと共に追いかける。
「アンジュは大丈夫ですか?」
サイラスが、我慢できないという顔で聞いてくる。
「え? あいつに聞かなかったのか?」
「公爵様に話しかけても無言で……」
「ああ、そうか……アイツどこに向かってるんだ?」
「馬車だと思う。公爵家の馬車は常に北に待機するように支持しているから」
ネイトの言葉にジェームスは頷いた。
「わかった。二人はここで待ってくれるか? オスカーとアンジュちゃんのことは任せてくれ」
二人は不安そうに顔を見合わせるが、一度頷くとジェームスの顔を真っ直ぐに見る。
「よろしくお願いします。俺たちだとアイツは何も話さないだろうから…….」
「ああ、わかった。必ず後で話すからな」
「「はい」」
ジェームスはそういって、二人の肩を叩くと走り出した。
オスカーの心情は計り知れない。
アイツは一緒にいた妻を亡くしている。
それをトラウマと言わずになんというのか。
更に犯人達の言葉だ。
「エリザベス……あの子の母親の名前だよな」
やはり犯人一味なのか?
頭はグルグルしているが、まずはオスカーをなんとかしないとな。
そう決めると、オスカーの肩に手を置いた。
「止まれよ」
「放せ。あの場から離れないと……もっともっと遠くに……そうしないと……そうしないと……」
これはパニックと言ってもいいだろう。
ジェームスは、今度はオスカーの前に回り込んだ。
「おい! しっかりしろ!! まずは医者だ。そうだろ? 心配なんだろ? 医者に診てもらう。いいな?」
「……医者。そうだ。医者だ……」
「こっちだ。行くぞ」
未だに目の焦点が合っていないオスカーの背を押して、この村唯一の診療所に向かったのだった。
たった今まで繋いでいた小さな手が、ほんの一瞬離れたと思ったら、突然現れた穴に引きづり込まれて行く。
その穴が収束していく寸前に傘を突っ込んだ。
「オスカーー! 何があった! アンジュちゃんはどこだ!」
オスカーは駆け寄ってくるジェームスや息子達を無視して、今別の空間につながっているであろう傘に意識を集中する。
こんな高度な黒魔法はお目にかかったことがない。
傘に聖魔法を流し込みながら、少しずつ穴を広げていく。
そんなオスカーを見て、ジェームスが黙って自らの剣も穴に突っ込む。
「説明は後だ。この先にいるんだな?」
「ああ、そうだ」
オスカーが頷いたと同時に、ジェームスから護衛達への指示が飛ぶ。
「おい! お前達、この周辺の道路を閉鎖しろ! 黒魔法が暴発する可能性がある」
「はい!」
「聖魔法を使える者はこっちに来い」
「はっ!」
オスカーが押さえ込んでいる黒魔法で開いた穴に向かって聖魔法を纏わせた剣をグイグイと差し込んでいく。
すると、少しずつ穴が広がって行くのがわかった。
「いいぞ! この調子だ!」
ジェームスの言葉にオスカーは頷いて、傘を更に押し込んだ。
「来るぞ!!!」
黒魔法に聖魔法を押し込んだことで起こる反発を腕に感じた。
一斉に手を引くと同時に穴が爆発したのだ。
オスカーとジェームスは穴へ躊躇なく潜り込む。
この先にはアンジュがいるのだ。
爆発に伴う煙の向こうで見覚えのある少女が倒れているのが見えた。
オスカーの体にカッと熱が走る。
その熱は体中を駆け巡り、出口を求めて指先に集まってくるのを感じる。
思考は止まり、視線は倒れている娘の姿から逸らすことはできない。
しかし、その場にいる人数と場所は手に取るようにわかる。
もう二度と自分と共にいる者を、失う訳にはいかない。
そう自分に誓ったし、そのための訓練は積んだ。
「覚悟しろ!!」
指先に集まった熱を三人に向かって放つ。
「ぐはっ!」
「きゃぁぁぁ」
「ぎゃ!」
足に打ち込んだ魔法で動きを止めると、今度は頭に向かって放つ……
「止めろ!!」
その瞬間、腕をグイッと掴まれた。
ジェームスが真面目な顔で、オスカーの手を掴む。
「放せ! 生かしてはおけない」
「気持ちはわかるが、話を聞く必要がある。ここで止まれないのなら、過剰防衛となる」
「しかし! 見ろ! アンジュが!!」
アンジュは騎士に抱えられているが、ぐったりとしているように見える。
「怪我はない。気を失っているだけだ。お前だって、今回は囮のつもりで歩いていただろう? 思い出せ」
「しかし!! もし!」
「大丈夫だ。アンジュちゃんは死なない。死なないんだ」
ジェームスの言葉に、オスカーの腕が下がる。
「お前が抱いてやれ」
ジェームスは騎士を呼ぶとアンジュを、オスカーに渡すよう指示を出した。
すぐにオスカーの元に運ばれたアンジュは確かに怪我もない。
オスカーは、ガラス細工でも持つように慎重にアンジュを抱えると、ギュッと抱きしめた。
その姿にジェームスは安堵のため息を吐いて、今は動けなくなっている犯人達に向かう。
「お前ら、死にたくなかったら答えろ」
「ヒイイィぃ」
「何故あの子を攫ったんだ!」
「依頼されたからだよ!」
「俺たち、ただ金が欲しくて…….」
「ゆ、許して頂戴!!」
三人は足の痛みからか、泣きながら答える。
「答えろ! 誰の依頼だ?」
「よ、よくわからねぇ」
「なんだと!!」
ジェームスは一人の男の胸ぐらを掴んだ。
「ほ、本当よ。いつもローブを着ていたし、顔は見えなかったのよ!!」
女が足を押さえながら、答える。
「そ、そうだ。確かエリザベスって人からの話だって言ってました!!」
もう一人の男が床に額を押し付けるようにしながら、答える。
嘘だとは思えないが、エリザベス?
ジェームスはオスカーの顔を見る。
「おい、どうする?」
「好きにしろ」
そういって、オスカーは未だに繋がったままの穴に向かって歩き出す。
ジェームスは頭を掻き分けながら、息を吐いた。
「捕まえろ。死なれたら困るから治療してから牢にぶちこめ」
「はっ!」
「ここの場所を特定するんだ。黒魔法の痕跡を見逃すな」
「はっ!」
「応援を呼ぶんだ。塵一つでも見逃すな。いいな!」
「「はっ!」」
ジェームスは部下達に指示を出すと、オスカーの後を追う。
穴を潜ると、そこはサンドール村の教会の前だ。
そして、オスカーはアンジュを抱えて歩いている。
どんどん遠くなる後ろ姿をネイトとサイラスと共に追いかける。
「アンジュは大丈夫ですか?」
サイラスが、我慢できないという顔で聞いてくる。
「え? あいつに聞かなかったのか?」
「公爵様に話しかけても無言で……」
「ああ、そうか……アイツどこに向かってるんだ?」
「馬車だと思う。公爵家の馬車は常に北に待機するように支持しているから」
ネイトの言葉にジェームスは頷いた。
「わかった。二人はここで待ってくれるか? オスカーとアンジュちゃんのことは任せてくれ」
二人は不安そうに顔を見合わせるが、一度頷くとジェームスの顔を真っ直ぐに見る。
「よろしくお願いします。俺たちだとアイツは何も話さないだろうから…….」
「ああ、わかった。必ず後で話すからな」
「「はい」」
ジェームスはそういって、二人の肩を叩くと走り出した。
オスカーの心情は計り知れない。
アイツは一緒にいた妻を亡くしている。
それをトラウマと言わずになんというのか。
更に犯人達の言葉だ。
「エリザベス……あの子の母親の名前だよな」
やはり犯人一味なのか?
頭はグルグルしているが、まずはオスカーをなんとかしないとな。
そう決めると、オスカーの肩に手を置いた。
「止まれよ」
「放せ。あの場から離れないと……もっともっと遠くに……そうしないと……そうしないと……」
これはパニックと言ってもいいだろう。
ジェームスは、今度はオスカーの前に回り込んだ。
「おい! しっかりしろ!! まずは医者だ。そうだろ? 心配なんだろ? 医者に診てもらう。いいな?」
「……医者。そうだ。医者だ……」
「こっちだ。行くぞ」
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