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「じゃあ、オスカーとアンジュちゃんは手紙の送り主の家に向かいながら、村の中を歩き回るってことでいいかな」
ジェームスの言葉に私とパパは頷いた。
「はい!」
「ああ」
「二人の後ろから俺とネイト、サイラスは離れてついて行く。ああ、護衛は目立つから、更に離れるぞ」
「問題ない」
そう言って、パパはステッキをくるりと回した。
すると、木のステッキだったものが古ぼけた雨傘に変わる。
「くもりなら持っていても問題ないだろう?」
そう言ったパパは、少しだけ格好いい。
目の端で、ネイトが再び悔しそうな表情をしているが、まぁ、いいかな。
「よし! じゃあ、出発だ。ああ、オスカー、もし誰かが話しかけてきてもお前は話すなよ。貴族ってのがバレバレだ。アンジュちゃん、君が対応するんだ。出来るかい?」
「はい! 大丈夫です!」
「いい子だ」
ジェームスはそういうと、私の頭を撫でる。
私は少しくすぐったくて目を閉じた。
「……行くぞ」
パパはそんな私の手をグイッと引いてドアに向かった。
「そうそう、そうやって手を繋げよー」
ひらひらと手を振るジェームスはとても楽しそうだ。
私も笑顔でみんなに手を振る。
「行ってきまーす」
「パパ、痛いです」
手を強く引かれたままだった私は、パパに訴える。
「え? ああ、すまん……」
パパはそういうと掴んでいた手を離して、手を差し出した。
私は首を傾げてから、パパを見上げる。
「えっと、なんですか?」
「ジェームスも言っていただろう? 手を取れ」
私はパパの顔と手を見比べてからそっと手を掴んだ。
パパの手は大きくてゴツゴツしている。
ママとは大違いだ。
その温かさを感じてから、周りを見渡す。
ここは村の大通りらしく、結構な人が歩いている。
もちろん親子連れも多い。
私は、自分の手とパパの手、そして、パパの顔を見てからニコリと微笑んだ。
実は憧れていた。こうやって、父親と手を繋いで歩く子供が羨ましかった。
私にはママしかいなかったし、ママの頭の中は絵のことでいっぱいだ。
こうしてのんびりと歩くことはなかった。
「何を笑っているのだ?」
パパの不機嫌な声に、その手をギュッと握ってしまう。
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はない。ただ、危険も潜んでいる可能性があるのだ。注意を怠るな」
「……はい」
そう言って、パパは私の手を握り返してくれる。
私はハッとしてパパを見て、俯いた。
嬉しかった。
パパが私の手を握り返してくれたのが、ただ単純に嬉しかった。
「へへへ」
「気味が悪いな」
「いいんです。あっ! パパ、あそこに教会が見えてきました!」
私が指差すとパパもそちらを向いた。
「ああ、……行ってみるか?」
「いいんですか?」
「まぁ、あの絵の確認だ」
「やったー」
私達は周り見物しながら、教会に向かう。
多分、いや、完璧に私は浮かれていた。
ここに何故やってきたのかということを、本当はもっと気にするべきだった。
それは突然の出来事だった。
ほんの一瞬、パパの手を離してしまった。
教会の前の露店に大好きな飴を見つけた。
ただそれだけだ。
その一瞬に口と目を塞がれて、闇の中に手を引かれた。
「? おい! どこだ!」
遠くからパパの声が聞こえるが、どんどん声が小さくなる。
なんというか、別の世界へ連れ去られるような感覚に包まれる。
目を塞がれる直前に見えたのは露天の横に現れた黒い穴だ。
そこから伸びてきた腕に拐われてしまった。
目と口には布を巻かれて、手足は縛られた。
私は冷たい床に転がされているようだ。
「ん、んーー」
なんとか声を出そうとするが、無理だった。
そして、周りには人の気配はするのに、物音ひとつしない。
「んんん、んーー」
取り敢えず動かせそうな場所は全部動かすが、どうにもならない。
今は焦っちゃ駄目だ。
お兄様達やジェームス、護衛の騎士達、そして、何よりパパが一緒なのだ。
きっと大丈夫。大丈夫だ。
私はガタガタと震えそうになる体をなんとか抑えながら、周りに気を配る。
どうもこの場所には三人いるみたいだ。
歩き方が違うから、すぐにわかる。
三人もいたら、どんなに暴れても逃げ出すことは出来ないだろう。
でも、誰一人として話をしない。
きっと私に、聞かせないためだろう。
私は、一気に体の力を抜いた。
「気絶したようだ」
まず聞こえてきたのは、男性の声だ。
「ほんと?」
今度は若い女性の声。
「お前とは違ってお嬢様はか弱いんだよ」
若い男性の声もする。
私は気絶した振りをしながら、彼らの声に耳を傾ける。
「おい! 黒魔法でゲートは閉じたんだろうな!」
「ああ、でも、本当にこの子でいいのか?」
「そうよ。私だってこんな小さな子だって聞いてないわよ」
「桃色の髪の子供だぞ。この子以外いなかっただろうが! つべこべ言わずに連れて行くぞ。報酬さえもらえれば良いんだからよ」
「今どき、豪勢よね。黒魔法ゲートまで用意してくれるんだから。ウェスティンからサンバードまで一瞬だったわ」
「俺もビビったよ。黒魔法って悪って感じだったけど便利だよなぁ」
「おい、ごちゃごちゃ言ってねえで、早く行くぞ」
「はーい」
「じゃあ、俺がこの子運んでいくわ」
「おう……」
その時、バリバリバリという音が響いた。
「な、な、な、な、なんだ!!」
「ゲートが閉じてねぇじゃねぇか!!」
「知らないわよ! ゲートなんて初めてなのよ! うそ、まだ繋がってるの? 嫌だ。どんどん大きくなるわ」
女性の焦ったような声と、爆発音は殆ど同時に聞こえた気がする。
しかし、私が覚えているのはここまでだ。
何故なら、爆発による衝撃で、本当に気絶してしまったのだった。
ジェームスの言葉に私とパパは頷いた。
「はい!」
「ああ」
「二人の後ろから俺とネイト、サイラスは離れてついて行く。ああ、護衛は目立つから、更に離れるぞ」
「問題ない」
そう言って、パパはステッキをくるりと回した。
すると、木のステッキだったものが古ぼけた雨傘に変わる。
「くもりなら持っていても問題ないだろう?」
そう言ったパパは、少しだけ格好いい。
目の端で、ネイトが再び悔しそうな表情をしているが、まぁ、いいかな。
「よし! じゃあ、出発だ。ああ、オスカー、もし誰かが話しかけてきてもお前は話すなよ。貴族ってのがバレバレだ。アンジュちゃん、君が対応するんだ。出来るかい?」
「はい! 大丈夫です!」
「いい子だ」
ジェームスはそういうと、私の頭を撫でる。
私は少しくすぐったくて目を閉じた。
「……行くぞ」
パパはそんな私の手をグイッと引いてドアに向かった。
「そうそう、そうやって手を繋げよー」
ひらひらと手を振るジェームスはとても楽しそうだ。
私も笑顔でみんなに手を振る。
「行ってきまーす」
「パパ、痛いです」
手を強く引かれたままだった私は、パパに訴える。
「え? ああ、すまん……」
パパはそういうと掴んでいた手を離して、手を差し出した。
私は首を傾げてから、パパを見上げる。
「えっと、なんですか?」
「ジェームスも言っていただろう? 手を取れ」
私はパパの顔と手を見比べてからそっと手を掴んだ。
パパの手は大きくてゴツゴツしている。
ママとは大違いだ。
その温かさを感じてから、周りを見渡す。
ここは村の大通りらしく、結構な人が歩いている。
もちろん親子連れも多い。
私は、自分の手とパパの手、そして、パパの顔を見てからニコリと微笑んだ。
実は憧れていた。こうやって、父親と手を繋いで歩く子供が羨ましかった。
私にはママしかいなかったし、ママの頭の中は絵のことでいっぱいだ。
こうしてのんびりと歩くことはなかった。
「何を笑っているのだ?」
パパの不機嫌な声に、その手をギュッと握ってしまう。
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はない。ただ、危険も潜んでいる可能性があるのだ。注意を怠るな」
「……はい」
そう言って、パパは私の手を握り返してくれる。
私はハッとしてパパを見て、俯いた。
嬉しかった。
パパが私の手を握り返してくれたのが、ただ単純に嬉しかった。
「へへへ」
「気味が悪いな」
「いいんです。あっ! パパ、あそこに教会が見えてきました!」
私が指差すとパパもそちらを向いた。
「ああ、……行ってみるか?」
「いいんですか?」
「まぁ、あの絵の確認だ」
「やったー」
私達は周り見物しながら、教会に向かう。
多分、いや、完璧に私は浮かれていた。
ここに何故やってきたのかということを、本当はもっと気にするべきだった。
それは突然の出来事だった。
ほんの一瞬、パパの手を離してしまった。
教会の前の露店に大好きな飴を見つけた。
ただそれだけだ。
その一瞬に口と目を塞がれて、闇の中に手を引かれた。
「? おい! どこだ!」
遠くからパパの声が聞こえるが、どんどん声が小さくなる。
なんというか、別の世界へ連れ去られるような感覚に包まれる。
目を塞がれる直前に見えたのは露天の横に現れた黒い穴だ。
そこから伸びてきた腕に拐われてしまった。
目と口には布を巻かれて、手足は縛られた。
私は冷たい床に転がされているようだ。
「ん、んーー」
なんとか声を出そうとするが、無理だった。
そして、周りには人の気配はするのに、物音ひとつしない。
「んんん、んーー」
取り敢えず動かせそうな場所は全部動かすが、どうにもならない。
今は焦っちゃ駄目だ。
お兄様達やジェームス、護衛の騎士達、そして、何よりパパが一緒なのだ。
きっと大丈夫。大丈夫だ。
私はガタガタと震えそうになる体をなんとか抑えながら、周りに気を配る。
どうもこの場所には三人いるみたいだ。
歩き方が違うから、すぐにわかる。
三人もいたら、どんなに暴れても逃げ出すことは出来ないだろう。
でも、誰一人として話をしない。
きっと私に、聞かせないためだろう。
私は、一気に体の力を抜いた。
「気絶したようだ」
まず聞こえてきたのは、男性の声だ。
「ほんと?」
今度は若い女性の声。
「お前とは違ってお嬢様はか弱いんだよ」
若い男性の声もする。
私は気絶した振りをしながら、彼らの声に耳を傾ける。
「おい! 黒魔法でゲートは閉じたんだろうな!」
「ああ、でも、本当にこの子でいいのか?」
「そうよ。私だってこんな小さな子だって聞いてないわよ」
「桃色の髪の子供だぞ。この子以外いなかっただろうが! つべこべ言わずに連れて行くぞ。報酬さえもらえれば良いんだからよ」
「今どき、豪勢よね。黒魔法ゲートまで用意してくれるんだから。ウェスティンからサンバードまで一瞬だったわ」
「俺もビビったよ。黒魔法って悪って感じだったけど便利だよなぁ」
「おい、ごちゃごちゃ言ってねえで、早く行くぞ」
「はーい」
「じゃあ、俺がこの子運んでいくわ」
「おう……」
その時、バリバリバリという音が響いた。
「な、な、な、な、なんだ!!」
「ゲートが閉じてねぇじゃねぇか!!」
「知らないわよ! ゲートなんて初めてなのよ! うそ、まだ繋がってるの? 嫌だ。どんどん大きくなるわ」
女性の焦ったような声と、爆発音は殆ど同時に聞こえた気がする。
しかし、私が覚えているのはここまでだ。
何故なら、爆発による衝撃で、本当に気絶してしまったのだった。
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