上 下
19 / 23

18、救出

しおりを挟む
由梨が体を固くしたまま運ばれた先は講堂の裏にある小さな中庭だった。
人通りの少ないこの中庭は声も響きにくくなっており普段はスピーチの練習などに使われていた。

地面に降ろされると由梨の目の前に8人程の女子生徒がやってきて由梨を見下ろした。

「ふん。あなたが鏑木由梨?なんだか暗い子ね。なんであなたがあの秋里様の関心を集めているのか全然わからないわ。」

「本当に!ちょっと可愛いからって調子に乗ってるんじなないわよ!あなたのせいで秋里様はクラスにも来られなくなったのよ!」

「ちょっとなんとか言ったらどうなの?」

そう言って由梨の制服を引っ張って立ち上がらせた。その時由梨の中で何かが弾けた。

「皆様、黙って聞いていれば言いたい放題ですわね。一度キチンと鏡を見てから発言して頂きたいですわ。よくその容姿で秋里様に近寄れますわね。私だったら恥ずかしくて人前に出られませんわ!よく心は目を見れば分かると言われておりますが本当だったのですわね!皆様の瞳がくすんでいて泥沼のようでしてよ。汚らわしい。触らないでくださる?」

「何ですって~!!」

そう言って由梨の頬を平手打ちしようと手を挙げた時後ろからガシッと腕を掴まれた。
そこには普段の優しげな雰囲気が一切ない抜き身の刀のような鋭さを放つ優司が立っていた。

「あ、あ、あきさと様」

由梨を取り囲んでいた女子生徒は悲鳴をあげてその場を後にしようとしたが待機していた学園の警備員に捕まり指導室に連れていかれた。由梨を連れ去った男は既に圭一郎達に取り押さえられ地面に這いつくばっていた。

優司が腕を掴んでいた女子生徒に向かって感情のまま言い放つ。

「おい!お前!自分が何をしたのかわかっているんだろうな?はっきり言っておくが俺から話しかけたいのも、笑いかけたいのもお前じゃない!いい迷惑なんだよ!好意の押し売りは!」

そういうと乱暴に腕を払い警備員に引き渡すと、立ち尽くす由梨に慌てて駆け寄った。すると由梨の体からガクリと力が抜けて優司の胸に倒れこんで来た。その顔は蒼白で意識を失っているようだった。その由梨の様子を確認すると優司は警備員に連れられた生徒達に向かってさけんだ。

「お前達がした事は俺を怒らせたぞ。この学園にもこの日本にも親子共々いられゆないと覚悟するんだな。」

初めて見た優司の姿にすっかりすくみ上った女子生徒達は泣きながらその場を後にした。優司は由梨を横抱きにして医務室に急いだのだった。


由梨がいないとわかってからの優司の行動は早かった。すぐに学園側の警備室に連絡を取り場所は予め予想していた講堂裏の中庭に直行したのだ。中庭に近づくと由梨の勇ましい声が響いていたが恐怖症の症状を知っている優司から見るとそれは悲痛なSOSに聞こえて胸が締め付けられる気がした。
漸く由梨と周りを取り囲む女子生徒達が見えてきた時一人の生徒が手を上げて由梨に向かって振り下ろそうとしているのがわかりスピードを上げてその腕を掴んだのだった。何とか平手打ちは阻止出来たが、由梨は気を失って倒れてしまった。優司は由梨を守りきれなかった事に深い後悔を滲ませて力の抜けた由梨を運んだのだった。
優司が駆けつけた時の由梨の小さな呼びかけが何度も優司の頭の中に響いていた。

由梨は医務室で怪我などはないことを確認したがやはり精神的な負荷が高すぎて気を失ったと診断された。医務室には直ぐに海斗も駆けつけて由梨を確認すると優司とは目も合わせずに車を手配して由梨を家に連れ帰ってしまった。
優司は海斗に何も言えず、ただ見送るだけしか出来なかった。

由梨のいない医務室に佇む優司の肩を叩き、退出をうながした圭一郎は今回の事件の犯人や背景についてのありったけの情報を優司に渡したのだった。

優司が医務室を後にしようとすると養護教諭が優司を呼び止めた。

「これ、、あの子が落としたみたいね。渡しておいて頂戴。」

そう言われて渡されたのは昨日優司が由梨に渡した真珠のバレッタだった。
優司は由梨がこのバレッタをどんな気持ちで身につけてくれたのか、その後どんなに恐ろしい思いをしたのかを考えるだけでその目に涙が滲んできた。
優司はバレッタを握りしめて医務室を後にしたのだった。

「優司、、、、。」

後には圭一郎のみが残された。圭一郎は擁護教諭に礼をすると初めて見た優司の涙に深い後悔を感じとり己のやるべき事をやりに外に出た。
圭一郎はそのまま警備室の一室に向かった。そこには先程取り押さえた男が警察の到着を待っていたからだ。
圭一郎は警備員達に生徒会として確認があると伝え外に出てもらうと普段チャラ男は封印して後ろ手に縛られた男の頭を掴んだ。

「お前に彼女の誘拐を依頼したのは誰だ!!お前の手口は鮮やかすぎる。プロの人攫いなんだろ!お前自身は確かに連れ去っが敷地内から出ていないし、どう見ても計画した訳ではないから大した罪にもならないしな!それを見越しての誘拐だったよな!一体誰がお前に報酬を払うのキッカリ聞かせてもらう!」

男は圭一郎を一瞥して割りに合わないなと呟くと依頼人の情報を圭一郎に素直に明かした。
その後男は到着した警察が連れて行ったのだった。

圭一郎は男を見送り今の情報を手に優司の元に足早に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Kingの寵愛~一夜のお仕事だったのに…捕獲されたの?~ 【完結】

まぁ
恋愛
高校卒業後、アルバイト生活を続ける 大島才花 すでに22歳の彼女はプロダンサーの実力がありながら プロ契約はせずに、いつも少しのところで手が届かない世界大会優勝を目指している そして、今年も日本代表には選ばれたものの 今年の世界大会開催地イギリスまでの渡航費がどうしても足りない そこで一夜の仕事を選んだ才花だったが… その夜出会った冷たそうな男が 周りから‘King’と呼ばれる男だと知るのは 世界大会断念の失意の中でだった 絶望の中で見るのは光か闇か… ※完全なるフィクションであり、登場する固有名詞の全て、また設定は架空のものです※ ※ダークな男も登場しますが、本作は違法行為を奨励するものではありません※

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...