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新しい家族

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奇跡、いや因縁の再会を果たしてから数ヶ月後、私はやっとお座りが出来るようになっていた。ムカつくのはあいつはもう随分前に座れていたことだ。私は悔しくて悔しくて慣れない体で頑張った。どうもこの体はあいつよりも弱いみたいだ。成長がイマイチ遅れ気味だった。
それでも私は話題を攫ってみせた。私のお座りでメイドさんたちが大興奮だ。私はふんっと胸をはった。
「まぁ! 姫様がお座りされているわ!」
「本当だわ! 陛下にお知らせしなくては!」
今メイドさんたちの話題に出た陛下というのは私達の父親のことだ。
あまり良くわかっていなかった今私が置かれている立場について判明したことがいくつもあった。陛下が父親だということもその一つだ。
なぜなら私とあいつとは喧嘩しながらもお互いに情報を交換しているのだ。まぁある意味休戦協定というものだ。喧嘩はするが、お互いに気づいたことは共有する約束を交わした。
相変わらず私の体は病弱であの後も何回か熱を出し、生まれた当初過ごしていた病室に何度も連れて行かれたが、あいつはずっとここにいるので情報を得やすい。
あいつが言うには私達はこの国の国王の子供らしい。確かに皆私のことを『姫様』って呼ぶものね。
父親の陛下って人はあまり見たことはない。多分私達に会いに来たことは数える程だろう。
いくら忙しくてもそれは親としてはアウトだ。
そして、これは私しか知らなかった情報だが、母親は亡くなっているみたい。
私が熱を出して死にかけた時に世話をしてくれていたメイドさん達が「王妃様が呼んでいらっしゃる」と言っていたから。
まぁ、医学が然程進んでいなさそうだから双子を出産するのは命懸けだったのかもしれない。
会ったこともないのであまり悲しくもなく、あーそうですかという感じだ。
そして、これまたあいつの情報では兄だか姉だか他にも兄弟がいるらしい。ただ、部屋の外から声が聞こえるだけだからよくわからないみたい。
そしてこれが最大のニュースだ。ここは地球ではないらしい。メイドさんが言った国名は地球には存在しないとあいつが断言したからだ。あいつは性格は最悪だが、頭は抜群なのであいつが違うと言ったら違う。そうか、ここは宇宙のどこかの星なのかも知れない。なんだかSFチックなファンタジーだな。
そして、今日も私達は隣に座って情報交換を行っていた。
「お前、やっと座れたのか? 鈍臭いやつ」
「うるさいわね。あんたより病弱なんだから仕方がないでしょ。赤ちゃんなのに何回死にかけたと思ってるのよ!!」
「…‥何回だ?」
突然の真面目な声に聞き返した。
「え?」
「あ、いや、体も鈍臭いのな。相変わらず」
「もう!! いい加減にしてよ!! うるさいなぁ」
「それより、何か新しい情報はないか?」
「それより、根本的に私達はなんでこんなところに生まれかわったの? あんたは知ってる?」
「なんでだよ。知るわけないだろう。俺だって突然起きたらここにいたんだ」
「やっぱり? 私もよく覚えていなんだ。あっちの私はどうしたのかな? 折角大学に合格したのになぁ」
そう言って私は少し残念に思う。食べていた美味しいご飯を突然下げられた気分なのだ。
「お前なんかが入れる大学なんて大したことないだろ」
「なによ! 確かにあんたの大学よりも見栄えはしないかもしれないけど、行きたかった大学なの! …‥もう、行けないけどさ……」
しゅんとした私の頭に硬い何かが当たる。
「痛!! ちょっとブロック投げるのやめてよ!!」
私は頭を手で庇おうと両手を上げた。しかし、この不安定な体は手を上げると後ろに倒れてしまうのだ。
「あっ! きゃー」
そのまま後ろに倒れたらさっきあいつが投げたブロックの上だ。私は痛みを予想してギュッと目を閉じる。
フワッとした感触に目を開けた。
「あれ?」
「あー残念。お前にぶつけようと思ったのにズレたな」
そう言ったあいつはフンッとハイハイして離れていく。ハイハイ……。また、先を越されたのね。私は悔しさを胸に再びお座りにチャレンジする。
そして、倒れた私の背後にはあいつが投げつけたクマのぬいぐるみがあったのだった。
偶然とはいえこのクマのお陰で痛い思いをしなかったのだ。
私はまだ上手く動かない手でクマを引っ張る。なかなか重い。
よいしょとクマを起こすとなんと私と同じくらいの大きさだった。
こんな大きなものを投げつけるなんてやっぱりあいつは性格悪い。
私は腹いせにクマのお腹をボスンと叩いた。
「まぁ姫様、そのくまさんがお気に召したのですか?」
メイドさんは私をクマごと抱き上げる。
「あっそうだ。今日は姫様に鏡を御覧いただきましょうね」
鏡!! 確かに初めて見る。
あいつを見ているから大体の顔はわかっている。黒髪に鮮やかな緑の瞳のはず。
顔の造形こそ外国人だが、黒髪のおかげなのかあいつが違和感なく感じているのだ。双子なんだから私もきっと同じ……
「え?」
鏡の前に座らされて私は目を見張った。
まだ短くて頭の上に二つに結ばれている髪が綺麗な金髪だったのだ。
「双子なのに違う顔……」
私は思わず身を乗り出して鏡に手をついた。そんなことってある? 双子なのに顔が、色が違うだなんて!
そうなのだ。あいつの顔はキリリとした顔なのに私の顔はスイートに甘い顔だった。唯一同じなのは鮮やかな緑の瞳。キラキラとした若葉の緑だ。
「姫様、姫様はとってもとっても可愛らしいですよねぇ」
私の隣に座ってわたしの頭ナデナデしながらメイドさんが話しかけて来た。
私は鏡の自分を指差して「違う」と言ってみる。この国の言葉ではなかったが、メイドさんには意図が伝わった。
「ああ、王子様とははっきりと違う色ですよねー。王子様の色は陛下と同じなんですよー」
そう、確かに虫の息の私を覗き込んだ陛下は髪が黒かった。だからこそ、私も自分の髪が黒いと思っていたのだ。
私は自分の髪を手で掴んで引っ張った。まだ短い髪が自分の視線に入ってくることはない。
「あらあら、そんなに引っ張ったら痛くなりますよぉ~」
メイドさんに優しく手をつかまれる。思った以上にショックだった。前世でも顔だけはそっくりだったのに。ここで双子の神秘は働かなかったってこと?
もちろん男女の双子なんだから一卵性ってことはないのは知ってるけれど、自分と似ていないあいつがいることが許せないっていうか‥‥違和感があるっていうか……
鏡の前でうーうー唸っている私を不審に思ったのだろう。メイドさんが慰めるように話し出す。
「姫様の髪は特別なんですよー。オークマンセル王国で金髪は女神のお使いと言われているんです。王妃さまもそれは見事な金髪でした。姫様は王妃さまの生写しですよぉ」
私はそんな話聞いていなかった。なにそれ女神って。こわ!
私は両手を広げてメイドさんに抱っこをせがむ。もう鏡は見たくなかった。
「はいはい、もうお眠むですかぁ? って、姫様またお熱が!!! だ、誰か! 姫様が!!」
そういえば少し体が熱くてだるいかも……
自覚するともっとダルくなる。私はコテンとメイドさんに寄りかかる。
「きゃーー 姫様! しっかりなさってください!! 誰か! 早くお医者様を呼んで頂戴!!」
私を抱いて大声で指示を出すメイドさんの声を聞きながら私は人生何度目ともしれない生死の戦いに向かったのだった。
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