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第七章 王族の力

59、魔法の授業(シモン視点)

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僕がアリアドネおば様から古代魔法を教わり始めて一週間が過ぎた。
「では、シモン王子今日は準備運動に移動魔法をやりましょう!」
この一週間でわかったことはアリアドネおば様は化け物だということだ。
いや言い方が悪い。天才だ。普通移動魔法は準備運動にするものではなく、移動魔法自体を習得するのに膨大な年月がかかるものなのだ。
まぁ、僕は習得済みだが。
「はい、わかりました。アリアドネおば様」
早速僕は移動魔法でおば様の指定した場所まで移動した。
「シモン王子! お見事ですわ!!」
そう言って手を叩くアリアドネおば様を見つめて少しだけ得意げに顎を上げた。
「では、今度は屋敷の応接間までいらしてくださいね」
ニコニコとそう言って練習していた裏庭から一瞬で消えたアリアドネおば様をポカンと見送る。
おいおい、屋外で障害物のない目に見える範囲への移動と屋内で壁やドア、家具などがある見えない範囲への移動では難易度が天と地だ。
僕も出来るかどうかわからない。もし家具の間に移動してしまったら大変なことになる。
僕はゴクリ吐息を飲む。
「やらなきゃ……ダメ……か?」
「きゃー、シモン王子申し訳ございません!!」
突然目の前に現れた美魔女に息が止まる。
「アリアドネおば様…….」
「わたくしったらシモン王子にどこにあるのか知ってる魔法がお出来になるかお聞きしておりませんでしたわ」
「どこに? ……魔法?」
聞いたことのない魔法に首を傾げる。
「まぁ、わたくしったらまた自分だけの名前を使ってしまいましわ。えっと確か今は探索魔法と呼ばれておりますわ」
探索魔法といえば暗闇や洞窟などで障害物を見つけ出す超難易度の魔法だったはずだ。
「……出来ません」
僕が悔しさを滲ませて答えるとアリアドネおば様は心底驚いたように手を口元に当てた。
「えぇ、本当ですか? どこにあるか……探索魔法ですよ? もしかしてあまりにマイナーなのでご存知ありませんでしたか?」
「……いえ、まだ習得しておりません」
アリアドネおば様は少し困ったように天を仰いだ。なんだか僕が悪いことをしているようだが、探索魔法を使えるのは騎士団の魔法士の中でもほんの一握りのはずなんだが……。
僕は不満げにアリアドネおば様を見つめた。すると気を取り直したように顔を上げるとおば様はにっこりと微笑んだ。
「わかりましたわ。シモン王子の魔法力では確かに古代魔法の影響を跳ね飛ばせるものではありませんのね。ワザとではないとわかって安心いたしました」
「はぁ」
僕は訳がわからず相槌を打つ。
「きっと今のまま古代魔法について、お話ししても理解できないかもしれませんわ。まずは基礎的な魔法からお教えしますわ。構いませんでしょうか?」
アリアドネおば様から落第点をもらったようで僕はがっくりと肩を落とした。これでも魔法については天才と言われているのだ。それなのにこの扱い……。
「おば様、探索魔法はまだ開発されてから間もなく、出来る人もあまりいないと聞いています」
僕は現状をおば様に伝えてみるがあまり気にされていないようだ。
「まぁ、そうなのね。作った時は便利だと思ったのにあまりお役に立たなかったのかしら?」
「え?」
僕は驚いて顔を上げた。
「探索魔法や移動魔法の理論はわたくしがまだ城にいた頃に作りましたのよ。ご存知ありませんてした?」
僕はアリアドネおば様の美しい顔を凝視した。そんな馬鹿な……。魔法を新たに作るのはそうそう出来るものではない。
それなのに……。作った?
「あの、おば様が開発されたと?」
「ええ、そうなのよー。当時の王室魔法士に説明したのだけど……。どこかで難しくなってしまったのかしら?」
僕は自分が魔法の天才だと思っていたことに羞恥心を抱く。無理だ。天才とはこの化け物のようなおば様のことをいうのだ。プライドも何も地に落ちた僕におば様が追い討ちをかける。
「これではこんなに長く古代魔法の影響をうけるのも仕方がないですわね。わたくしは一週間くらいで跳ね返せると思っておりましたの。これから特訓いたしましょう!」
おば様から古代魔法を跳ね飛ばさないとこれからもコーデリアに暴言を吐いてしまうらしい。それは困る。ただでさえ首の皮一枚で繋がっている婚約なのに更なる失言は避けなければならない。
そして、あののほほんとしたアリアドネおば様の脅威的な魔法の実力に驚きも隠せない。
それでも、コーデリアに自分の気持ちを直接伝えたいと思ってるのだ。
僕は改めて膝をついて頭を下げた。
「おば様、どうか僕に魔法についてお教えください」
「はい! 分かっております。コーデリアの幸せのため精一杯努めますわ!!」
アリアドネおば様の笑顔がこれからの授業のキツサを物語っていたが僕は覚悟を決めた。
僕は僕の可愛い婚約者を僕自身からも守るのだ。そのためには僕が強くならなくてはいけない。
僕は明日からの授業に想いを馳せた。
早く古代魔法を跳ね飛ばさなければならないのだ。
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