上 下
19 / 82
第三章 王子改造計画

18、シモンという王子(シモン視点)

しおりを挟む
シモンは馬車に乗ると今おば様事、公爵夫人から受け取った手紙を見つめていた。
そして、目の前に座る護衛兼側近のハーモンにポイッと投げ渡した。
「ハーモン、これ読んで内容を教えてくれる?」
シモンは今までの公爵家での態度とは全く違う人に命令する事に慣れた口調で話し始めた。
「はぁ、わかりました。しかし、この手紙はどなたからですか?」
窓枠にもたれかかったままシモンが面倒くさそうに答える。
「ああ、あの、なんだったっけ? コーデリア? 僕を初対面でぶっ叩いて来た令嬢からだよ」
すると手紙を無造作に持っていたハーモンが掲げるように持ち直すとシモンの方を恨みがましげに見つめたのだ。
「シモン殿下! これは殿下宛の女性からのお手紙ですよね? しかも、御婚約者様からの!!」
「まぁ、そうかな?」
「そういう物はご自分でお読みになってお返事をお書き下さい!」
「でもなぁ、僕は興味ないんだよねぇ。彼女は我が儘そうだったし、気も強そうだったし……」
「それでもです! マナーはお守りください!」
ハーモンのその一言にシモンは投げやりに頷いた。
初めて公爵家に行くことになった二年前は、どんなに拒絶しても行かされた公爵家であり、いい子でいろ、婚約者と仲良くなれと散々言われたのだった。
一週間ゴネてみたが結局は無理矢理連れて行かれたというのが現実だった。
ただ、両親も兄達も護衛に側近からも、お前の為だから公爵家とは仲良くしろと命じられていたので、その通りにしていたにすぎなかった。
現王家は先の王位継承時に前王から殆どクーデターのように王位を簒奪したと考えるものも多い。
その経緯に反発する前王派という派閥もあるくらいなのだ。
それはまだ五歳のシモンにも容赦なく向けられている。
それでもシモンがコーデリアと婚約して、今は午前中だけでも公爵家に通っているという事実が、はっきり言って救いとなっているのだ。
前王の娘に敬意を示していると感じた前王派からの風当たりが和らいだりもしている。
シモンの気持ちとは別に、だからこその婚約であり、公爵家通いが二年も続いている理由でもあったのだった。
三歳の時は理解できなかったそんな事情を、今はしっかりと自覚して、なるべく公爵家で気に入られるように行動しているシモンだった。
そんなシモンの演技には全く気づく事なく、可愛がってくる公爵家の面々はシモンにとって、とても扱いやすい人達だった。
そんな公爵家での異質な存在がコーデリアなのだ。
二年もの間全く接触をしてこなかったのだから、シモンが演技している事に気付いているのかもしれない。
だからこそのお手紙なのか?
怪しいし、奇妙だ。
そんな気持ちを抱えつつシモンはコーデリアからの手紙を胡乱げにつまみ上げると表と裏を確認してから胸ポケットに仕舞い込んだ。
「シモン殿下、もう直ぐ王宮に着きます」
ハーモンの言葉に頷いてから、公爵家で見せる子供らしい表情を全て覆い隠して、王宮での第三王子シモンとしての表情となった。
常に厳しい目を向けられる王宮においては隙を見せる事は絶対に出来ないし、その様に厳しく教育されているのだ。
両親が三歳まで甘やかしていたのにも理由があった。
この国の王族では、三歳までは両親の保護下で守られるが、それ以降は教育係や側近が周りを固めるのだ。
その為、両親は別れるその日まではシモンを自由にさせていた。
公爵家に通い始めると、シモンは両親の暮らすエリアを離れて一人王子宮で暮らし始めた。
その後、側近や教育係から自分の置かれている現状や国の内政、現王家の立場を厳しく教えられたのだ。
それに伴って公爵家の大切さを理解してのあの猫被りの態度に変化していった。
公爵家の人々は、性格矯正と言っているが、どちらかというと完全なるリスク管理の言動といっていい。
そんな中での一番の面倒が婚約者であるコーデリアだった。
今まで通り会いも話しもしなければ、問題なかったのに今更仲良くと言われても困るという感じだった。
もし万が一、コーデリアに嫌われても、逆にシモンが嫌いになっても前王派を刺激してしまうと言われている。
「今のまま、好きでも嫌いでもなく、当たり障りない関係が一番いいんだけどな」
シモンの独り言が、誰もいなくなった馬車の車内に響いていた。

「ハーモン、僕はこのまま王子宮に戻るよ」
馬車から降りると早速ハーモンに話すとシモンはスタスタと歩き出した。
「シモン殿下! 今日はこの後国王夫妻との謁見がございます」
「ああ、それか……疲れたからキャンセルしてもらえるかな? ほら、コーデリア嬢からの手紙を読んで返事を書かないと折角繋いだ公爵家との絆が壊れちゃうからね」
「は、はあ」
「父上だって、今は公爵家とことを構えることは出来ないだろう? どちらを優先させるべきかはすぐわかるよ」
それだけ言うとシモンは急ぎ足で部屋に向かった。
今はコーデリアからの手紙に何が書かれているのかが気になってしょうがないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公受けな催眠もの【短編集】

霧乃ふー 
BL
 抹茶くず湯名義で書いたBL小説の短編をまとめたものです。  タイトルの通り、主人公受けで催眠ものを集めた短編集になっています。  催眠×近親ものが多めです。

【本編完結】転生モブ少女は勇者の恋を応援したいのに!(なぜか勇者がラブイベントをスッ飛ばす)

和島逆
ファンタジー
【後日談のんびり更新中♪】 【ファンタジー小説大賞参加中*ご投票いただけますと嬉しいです!】 気づけば私は懐かしのRPGゲームの世界に転生していた。 その役柄は勇者の幼馴染にして、ゲーム序盤で死んでしまう名もなき村娘。 私は幼馴染にすべてを打ち明け、ゲームのストーリーを改変することに。 彼は圧倒的な強さで私の運命を変えると、この世界を救う勇者として旅立った。前世知識をこれでもかと詰め込んだ、私の手作り攻略本をたずさえて――……! いやでも、ちょっと待って。 なんだか先を急ぎすぎじゃない? 冒険には寄り道だって大事だし、そもそも旅の仲間であるゲームヒロインとの恋愛はどうなってるの? だから待ってよ、どうしてせっかく教えてあげた恋愛イベントをスッ飛ばす!? 私の思惑をよそに、幼馴染は攻略本を駆使して超スピードで冒険を進めていくのであった……。 *ヒロインとの恋を応援したいモブ少女&応援なんかされたくない(そして早く幼馴染のところに帰りたい)勇者のお話です

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

四季折々に揺蕩う、君に恋焦がれる物語。

柚月 なぎ
BL
春は君に出会い、夏は君に焦がれ、秋は君を憂い、冬は君と――――。 春夏秋冬、君を想う。 これは孤独な神と、それに触れた者の物語————。 ✿❀✿ 春の章。 桜の木の下で、誰かを待ち続ける美しい青年。桜の模様が描かれた羽織を纏うぼんやりとした美しい青年は、首に包帯を巻いており、言葉を紡ぐことができない。そんな声を失った青年の前に現れたのは、春を告げる神だった。 青年が誰を待ち、なぜ声を失ったのか。 桜の蕾が花開く時、青年の瞳に映るモノとは――――。 ❀✿❀ 夏の章。 村の悪しき風習により、龍神の贄に捧げられた少年。 恵みの雨を降らせるため、村の皆のため、少年は谷の底へと落ちていく。 次に目を覚ました時、見たこともないような美しい青年が傍にいた。 彼こそが谷に棲む龍神であり、この地に水を齎す存在であった。 しかし龍神が存在していながら、なぜ村に雨が降らないのか。 その理を知る時、少年は本当の意味で龍神の想いを知ることになる――――。 ✿❀✿ 秋の章。 とある地の領主の領土内。鎮守の森と呼ばれる、聖域があった。そこには白の神と呼ばれる守人がおり、この地を守護しているという言い伝えが、遠い昔、古の時代からあった――――。 赤や黃、混ざりあった色とりどりの色彩が豊かな季節。秋。 狩りを禁止されているはずの鎮守の森で、罠にかかって弱っている白い毛の狐がいた。従者とともに森の見回りをしていた、この地の若き領主である桂秋は、この地が崇めている森への信仰心から、その珍しい白い狐を罠から逃がしてやるのだった。 ❀✿❀ 冬の章。 山神様の花嫁。 それは、男でも女でも関係なく、極月に生まれ、ある"印"が身体に現れた子が番として選ばれる。 親以外はその顔を見てはならない。 触れてはならない。 声を聞いてはならない。 故に、屋敷から出さず、人に晒さず、その時が来るまで幽閉される決まりがあった。 そして十五歳の誕生日、少年は山神様の花嫁となるため、用意された籠に乗り、山の頂へと運ばれて行く――――。 ◆この作品は、カクヨムさん、小説家になろうさんでも掲載しております。

アマチュアでもつけられるWeb小説の表紙と挿絵

冴條玲
エッセイ・ノンフィクション
アマチュアでもつけられるWeb小説の表紙と挿絵。 本文も挿絵も、商業作品に勝るとも劣らないクオリティだったりするアマチュア作品が、世の中には、人知れず、ごろごろしています。 個人でも無料からできる電子出版。 個人でもできるイラストの有償依頼や自費出版についてのノンフィクションです。 人気があった方がお金がかからないけど、 人気ゼロでも有償で依頼すれば、あなたのWeb小説に素敵な表紙と挿絵をつけることは難しくありません。 どこで、どうやって、誰に依頼すればいいの? どれくらいかかるの? 時間は? 費用は? 作業工程は? 実例を並べて解説していきます。

超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻
ホラー
心霊、エロ・グロ、都市伝説、不条理、SF、パロディ、ブラックジョーク、何でもありのショートショート集です。 1話50字~1000字程度ですから、すぐ読めます。 よろしければ、お手すきの時にでものぞいてみてください。 ※時々、連載ものが挟まることがあります。

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

処理中です...