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第三章 王子改造計画
18、シモンという王子(シモン視点)
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シモンは馬車に乗ると今おば様事、公爵夫人から受け取った手紙を見つめていた。
そして、目の前に座る護衛兼側近のハーモンにポイッと投げ渡した。
「ハーモン、これ読んで内容を教えてくれる?」
シモンは今までの公爵家での態度とは全く違う人に命令する事に慣れた口調で話し始めた。
「はぁ、わかりました。しかし、この手紙はどなたからですか?」
窓枠にもたれかかったままシモンが面倒くさそうに答える。
「ああ、あの、なんだったっけ? コーデリア? 僕を初対面でぶっ叩いて来た令嬢からだよ」
すると手紙を無造作に持っていたハーモンが掲げるように持ち直すとシモンの方を恨みがましげに見つめたのだ。
「シモン殿下! これは殿下宛の女性からのお手紙ですよね? しかも、御婚約者様からの!!」
「まぁ、そうかな?」
「そういう物はご自分でお読みになってお返事をお書き下さい!」
「でもなぁ、僕は興味ないんだよねぇ。彼女は我が儘そうだったし、気も強そうだったし……」
「それでもです! マナーはお守りください!」
ハーモンのその一言にシモンは投げやりに頷いた。
初めて公爵家に行くことになった二年前は、どんなに拒絶しても行かされた公爵家であり、いい子でいろ、婚約者と仲良くなれと散々言われたのだった。
一週間ゴネてみたが結局は無理矢理連れて行かれたというのが現実だった。
ただ、両親も兄達も護衛に側近からも、お前の為だから公爵家とは仲良くしろと命じられていたので、その通りにしていたにすぎなかった。
現王家は先の王位継承時に前王から殆どクーデターのように王位を簒奪したと考えるものも多い。
その経緯に反発する前王派という派閥もあるくらいなのだ。
それはまだ五歳のシモンにも容赦なく向けられている。
それでもシモンがコーデリアと婚約して、今は午前中だけでも公爵家に通っているという事実が、はっきり言って救いとなっているのだ。
前王の娘に敬意を示していると感じた前王派からの風当たりが和らいだりもしている。
シモンの気持ちとは別に、だからこその婚約であり、公爵家通いが二年も続いている理由でもあったのだった。
三歳の時は理解できなかったそんな事情を、今はしっかりと自覚して、なるべく公爵家で気に入られるように行動しているシモンだった。
そんなシモンの演技には全く気づく事なく、可愛がってくる公爵家の面々はシモンにとって、とても扱いやすい人達だった。
そんな公爵家での異質な存在がコーデリアなのだ。
二年もの間全く接触をしてこなかったのだから、シモンが演技している事に気付いているのかもしれない。
だからこそのお手紙なのか?
怪しいし、奇妙だ。
そんな気持ちを抱えつつシモンはコーデリアからの手紙を胡乱げにつまみ上げると表と裏を確認してから胸ポケットに仕舞い込んだ。
「シモン殿下、もう直ぐ王宮に着きます」
ハーモンの言葉に頷いてから、公爵家で見せる子供らしい表情を全て覆い隠して、王宮での第三王子シモンとしての表情となった。
常に厳しい目を向けられる王宮においては隙を見せる事は絶対に出来ないし、その様に厳しく教育されているのだ。
両親が三歳まで甘やかしていたのにも理由があった。
この国の王族では、三歳までは両親の保護下で守られるが、それ以降は教育係や側近が周りを固めるのだ。
その為、両親は別れるその日まではシモンを自由にさせていた。
公爵家に通い始めると、シモンは両親の暮らすエリアを離れて一人王子宮で暮らし始めた。
その後、側近や教育係から自分の置かれている現状や国の内政、現王家の立場を厳しく教えられたのだ。
それに伴って公爵家の大切さを理解してのあの猫被りの態度に変化していった。
公爵家の人々は、性格矯正と言っているが、どちらかというと完全なるリスク管理の言動といっていい。
そんな中での一番の面倒が婚約者であるコーデリアだった。
今まで通り会いも話しもしなければ、問題なかったのに今更仲良くと言われても困るという感じだった。
もし万が一、コーデリアに嫌われても、逆にシモンが嫌いになっても前王派を刺激してしまうと言われている。
「今のまま、好きでも嫌いでもなく、当たり障りない関係が一番いいんだけどな」
シモンの独り言が、誰もいなくなった馬車の車内に響いていた。
「ハーモン、僕はこのまま王子宮に戻るよ」
馬車から降りると早速ハーモンに話すとシモンはスタスタと歩き出した。
「シモン殿下! 今日はこの後国王夫妻との謁見がございます」
「ああ、それか……疲れたからキャンセルしてもらえるかな? ほら、コーデリア嬢からの手紙を読んで返事を書かないと折角繋いだ公爵家との絆が壊れちゃうからね」
「は、はあ」
「父上だって、今は公爵家とことを構えることは出来ないだろう? どちらを優先させるべきかはすぐわかるよ」
それだけ言うとシモンは急ぎ足で部屋に向かった。
今はコーデリアからの手紙に何が書かれているのかが気になってしょうがないのだった。
そして、目の前に座る護衛兼側近のハーモンにポイッと投げ渡した。
「ハーモン、これ読んで内容を教えてくれる?」
シモンは今までの公爵家での態度とは全く違う人に命令する事に慣れた口調で話し始めた。
「はぁ、わかりました。しかし、この手紙はどなたからですか?」
窓枠にもたれかかったままシモンが面倒くさそうに答える。
「ああ、あの、なんだったっけ? コーデリア? 僕を初対面でぶっ叩いて来た令嬢からだよ」
すると手紙を無造作に持っていたハーモンが掲げるように持ち直すとシモンの方を恨みがましげに見つめたのだ。
「シモン殿下! これは殿下宛の女性からのお手紙ですよね? しかも、御婚約者様からの!!」
「まぁ、そうかな?」
「そういう物はご自分でお読みになってお返事をお書き下さい!」
「でもなぁ、僕は興味ないんだよねぇ。彼女は我が儘そうだったし、気も強そうだったし……」
「それでもです! マナーはお守りください!」
ハーモンのその一言にシモンは投げやりに頷いた。
初めて公爵家に行くことになった二年前は、どんなに拒絶しても行かされた公爵家であり、いい子でいろ、婚約者と仲良くなれと散々言われたのだった。
一週間ゴネてみたが結局は無理矢理連れて行かれたというのが現実だった。
ただ、両親も兄達も護衛に側近からも、お前の為だから公爵家とは仲良くしろと命じられていたので、その通りにしていたにすぎなかった。
現王家は先の王位継承時に前王から殆どクーデターのように王位を簒奪したと考えるものも多い。
その経緯に反発する前王派という派閥もあるくらいなのだ。
それはまだ五歳のシモンにも容赦なく向けられている。
それでもシモンがコーデリアと婚約して、今は午前中だけでも公爵家に通っているという事実が、はっきり言って救いとなっているのだ。
前王の娘に敬意を示していると感じた前王派からの風当たりが和らいだりもしている。
シモンの気持ちとは別に、だからこその婚約であり、公爵家通いが二年も続いている理由でもあったのだった。
三歳の時は理解できなかったそんな事情を、今はしっかりと自覚して、なるべく公爵家で気に入られるように行動しているシモンだった。
そんなシモンの演技には全く気づく事なく、可愛がってくる公爵家の面々はシモンにとって、とても扱いやすい人達だった。
そんな公爵家での異質な存在がコーデリアなのだ。
二年もの間全く接触をしてこなかったのだから、シモンが演技している事に気付いているのかもしれない。
だからこそのお手紙なのか?
怪しいし、奇妙だ。
そんな気持ちを抱えつつシモンはコーデリアからの手紙を胡乱げにつまみ上げると表と裏を確認してから胸ポケットに仕舞い込んだ。
「シモン殿下、もう直ぐ王宮に着きます」
ハーモンの言葉に頷いてから、公爵家で見せる子供らしい表情を全て覆い隠して、王宮での第三王子シモンとしての表情となった。
常に厳しい目を向けられる王宮においては隙を見せる事は絶対に出来ないし、その様に厳しく教育されているのだ。
両親が三歳まで甘やかしていたのにも理由があった。
この国の王族では、三歳までは両親の保護下で守られるが、それ以降は教育係や側近が周りを固めるのだ。
その為、両親は別れるその日まではシモンを自由にさせていた。
公爵家に通い始めると、シモンは両親の暮らすエリアを離れて一人王子宮で暮らし始めた。
その後、側近や教育係から自分の置かれている現状や国の内政、現王家の立場を厳しく教えられたのだ。
それに伴って公爵家の大切さを理解してのあの猫被りの態度に変化していった。
公爵家の人々は、性格矯正と言っているが、どちらかというと完全なるリスク管理の言動といっていい。
そんな中での一番の面倒が婚約者であるコーデリアだった。
今まで通り会いも話しもしなければ、問題なかったのに今更仲良くと言われても困るという感じだった。
もし万が一、コーデリアに嫌われても、逆にシモンが嫌いになっても前王派を刺激してしまうと言われている。
「今のまま、好きでも嫌いでもなく、当たり障りない関係が一番いいんだけどな」
シモンの独り言が、誰もいなくなった馬車の車内に響いていた。
「ハーモン、僕はこのまま王子宮に戻るよ」
馬車から降りると早速ハーモンに話すとシモンはスタスタと歩き出した。
「シモン殿下! 今日はこの後国王夫妻との謁見がございます」
「ああ、それか……疲れたからキャンセルしてもらえるかな? ほら、コーデリア嬢からの手紙を読んで返事を書かないと折角繋いだ公爵家との絆が壊れちゃうからね」
「は、はあ」
「父上だって、今は公爵家とことを構えることは出来ないだろう? どちらを優先させるべきかはすぐわかるよ」
それだけ言うとシモンは急ぎ足で部屋に向かった。
今はコーデリアからの手紙に何が書かれているのかが気になってしょうがないのだった。
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