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第二章 生まれながらの悪役令嬢

15、物語の強制力……なの?

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早速シモン王子とアルバートは騎士道精神の先生に連れられて、教室となっている部屋に向かいました。
我が家の中をキョロキョロしながら歩く王子はまだ幼く、可愛らしく、わたくしは自然と笑顔になりました。
わたくしは今のシモン王子ならば如何様にも変わっていけるように感じております。
物語の中の自己中で、我が儘で、俺様で、おバカな王子はやはり教育に問題があったのです。
今の時点であれだけ教師に不信感を抱いていれば、授業で教わる事など身につくはずも無いのです。
わたくしはひとまず山を乗り越えた事に頷いて、新たな山に向かいました。
そう、コーデリアでございます。
いくらレオポルト様のお許しがあっても、我が家に王子がやって来たのです。
しかも、自分の婚約者ですわ。
ご挨拶くらいはしなくてはなりません。
まるで物語の悪役令嬢そのままの行動をする真理子さんにも一言言わなくては!と、コーデリアの部屋に向かいました。
「コーデリア? いるのでしょう?」
わたくしはドアをノックするとさっさと開けて中に入りました。
すると、窓際に椅子を置いてその窓から外を見つめるコーデリアがおりました。
「コーデリア?」
わたくしが近づいて、同じく窓の外を見てみるとそこにはシモン王子とアルバートが体操している姿が見えました。
きっと騎士道精神の先生は授業の前に少し体を動かす事にしたのでしょう。
「コーデリア、気になるのなら、きちんとご挨拶くらいはすれば良かったでしょう」
わたくしの言葉に視線は外に向けたまま答えてきました。
「だって、引っ張られそうなんだもの……」
「引っ張られる?」
「うん、そうなの。王宮での事を何度も思い出してみたのよ。そうすると凄く不思議なの。私はお母様と約束もしたし、物語の後の世界の為に王子とは仲良くしようと思っていたのよ? 実際王様たちには、きちんとした態度だったでしょう?」
「ええ」
「それが可笑しいのよ。確かに初対面で失礼な態度だったのはあの王子様よ!! でも、私はにっこり笑って受け流す予定だったの! 信じてくれないかもしれないけれど、ビンタしようとは思っていなかったのよ」
「え?! そうですの?」
するとコーデリアはやっと外を見るのはやめて、わたくしの顔を見つめて来ました。
「なんだか……夢の中にいるみたいだったの。そうしたら、体が勝手に動いてしまったのよ。お母様に止められるまでは止まれなかったわ」
そういうとコーデリアは深いため息を吐きました。
その姿は三歳には、似つかわしくありませんが本当のことだと思わせてくれました。
「では、シモン王子の側だと意志とは関係なく悪役令嬢っぽい言動をとってしまうということかしら?」
「そうね。そう思うわ。窓から見ても私は私のままだから距離が離れれば平気みたいだけど、また近づいたらどうなるのかわからないの」
「つまり‥…強制力が働くという事?」
「あら、お母様もそんな事を知っているのね? お仲間で嬉しいわ。多分その通りね。だから、お母様の計画通りに王子と仲良くするためには会わない方がいいのよ」
「でも、会わないとそれこそ仲良くなる機会がないわ。だってミアに心を奪われないようにコーデリアがガッチリと心を掴む予定じゃない?」
「それはそうなんだけど、マイナスになるよりはいいのかなと思って。それにお父様はお母様の言う通り私が死んだら大変そうだし……」
そういうとコーデリアは考え込んでしまいましたわ。
わたくしは会わなくても仲良くなる方法を考えなければならないようですわ。
これまた、前途多難です。
「ねぇ。コーデリア」
「なあに?」
「あの、ビンタは強制力として、王子自体はどう思って?」
「今はまだ、可愛いわ。顔は大好きなのよ。それに、あの俺様が泣いたのかと思うと何だか意外で……そういうギャップは大好物よ」
「だから、コーデリアは窓から王子をみていたのね?」
わたくしが指摘すると顔を真っ赤にして否定しました。
「ちょっ! そ、そんな事ないわよ! 偶々覗いたらいただけよ!」
「ふふふ、そういう事にいておきましょうね」
「も、もう! 本当よ!」
「はいはい。それではわたくしは会わないで仲良くなる方法を考えますわ! 王子も実はとても良い子みたいですし、これからの教育が楽しみですの」
わたくしはそういうと、まだ少し顔が赤いコーデリアに先程のエントランスでの出来事を話して聞かせました。
「……というわけで、あの物語の愚かな王子様は大人の裏切りが作ったと言っても過言ではないと思うわ。でも、だからこそ治せると思うの」
「どうやって?」
「まだ、三歳ですもの。足りない知識は増やし、足りない愛情は与え、足りない信頼は育てるわ。そうすればきっと真理子さんの理想に近づくはずよ?」
わたくしがそういうと、コーデリアは再び窓の外を見てから言いました。
「ふ、ふーん。楽しみにしているわ。お母様」
もう既に王子は部屋に入っていたらしく、誰もいなくなった庭を少し残念そうにコーデリアは眺めていました。
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