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第一章 悪役令嬢の母

1、転生者……なの?

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わたくしは、サンダル王国における有力な貴族であるバルターク公爵の妻アドリアナ・イル・レ・バルタークでございます。
今の国王はわたくしの従兄弟ですの。
実を言いますと、わたくしは前王の一人娘で、王女でした。
本来ならば婿をとって王位を継ぐはずでしたが、わたくしはこの国でも一、二を争う貴族であるバルターク公爵家の嫡男レオポルト様と恋に落ちたのです。
公爵家の一人息子と王家の一人娘の恋ですわ。
周りもレオポルト様もそしてわたくし自身もわたくしがムコを取って王位を継ぐと思っておりました。
しかし、色々と反対されて、結局はわたくしが公爵家に降嫁して、わたくしの従兄弟が王位を継ぎましたわ。
それはそれは国を挙げての大騒ぎで、王位を賭けた恋なんて言われて、お芝居や物語にもなりましたの。
それももう十年前の出来事です。
それに、わたくしは少しだけホッとしておりました。
だって、わたくしに女王なんて務まると思えませんでしたもの。
ゴタゴタしたのは事実でも、今では王位に名乗りを上げてくれた従兄弟に感謝すらしております。
それに、わたくしは生まれた時からこの世界に違和感を抱いていて、何だか落ち着かないのです。
特に何がというわけではないのですが、ここではない何処かにいるような……夢をずっとみているような……そんな違和感です。
もちろん、わたくしは幸せにでしたし、今現在も幸せです。
旦那様のレオポルト様もお優しく、結婚して十年経っても仲睦まじく過ごしております。
それに結婚五年目にして授かった息子であるアルバートもすくすくと成長して妻としても母としても充実した日々だったのです。
そして、今わたくしの腕の中にはつい先程生まれたばかりの娘が可愛らしい寝顔を見せてくれています。
初めての娘にレオポルト様は大喜びで、今は外で待っているアルバートを迎えに行きました。
わたくしもこの赤子ながらに美しく、可愛らしい娘が愛おしくてたまりません。
「アドリアナ! アルバートを連れてきたよ」
「貴方、お静かに、赤子が起きてしまいますわ」
わたくしが小さな声で注意するとレオポルト様は声を潜めてベッドの側に息子であるアルバートを連れて来てくれました。
「さあ、アルバート。この子がお前の妹だよ」
アルバートは小さな手を産まれたばかりの娘の頭に乗せて、優しく撫でて笑っています。
「どうかしら? アルバートはこの子のお兄様になれそう?」
わたくしは五歳になった息子の頬に手を当てて聞いてみました。
「はい! お母様! 僕はこの子を僕の妹にしてあげます!」
何故か神妙に宣言した息子を微笑ましく見つめているとレオポルト様が小さな声で話し出す。
「アドリアナ、アルバート。私はこの子の名前を今決めたよ」
「まぁ、なんという名前ですか?」
わたくしがワクワクして尋ねるとレオポルト様はわたくしとアルバートの肩を抱いてにっこり笑ったのです。
「この子の名前はコーデリア。コーデリア・ド・バルタークに決めたよ。どうだい?」
「コーデリア……」
「ん? あんまり気に入らなかったかな?」
「い、いえ、そんな事ありませんわ。コーデリア。いい名前ですわ」
わたくしはこの子の名前を聞いて、愕然とした事をなんとか誤魔化して笑顔を作りました。
目の前では息子が娘の小さな手を取ってコーデリア、コーデリアと名前を呼んで話しかけております。
わたくしはその光景を何処かガラス越しに見ている様な感覚を覚えてクラクラしてしまいました。
「アドリアナ? 大丈夫かい? まだ、出産したばかりなんだ。少し休んだ方がいい」
レオポルト様が侍女を呼んでコーデリアを乳母に連れて行かせるとわたくしの額に手を当てて心配そうに目を細めました。
「アドリアナ、君は少し横になると良い」
「ええ、ありがとうございます。貴方」
わたくしは何とか今感じた衝撃を表に漏らさないよう笑顔作るとベッドに横になりました。
レオポルト様とアルバートがわたくしの頬にキスを落とすと少し心配そうに部屋から出て行きました。
わたくしはやっと顔に貼り付けた笑顔を引っ込めるとそのまま上掛けの中に潜り込んで叫んだのですわ。
「まさか、そんな馬鹿な、そんなことってあるの!」
わたくしの口を突いて出た言葉は平民の様な乱暴な言葉。
それでも止まりませんの。
「どうして、こんな事になってるの? 私が公爵夫人……そして、娘はあのコーデリア?!」
わたくしの中で一気に人間一人分の人生の記憶が流れ込んできました。
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