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ルート確定

29.運命

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「そうね……。フルールさん、私が予言のお話をしたことは覚えていて?」
私は家を抜け出した後の馬車での会話を思い出す。
「はい」
「その予言では貴女と殿下が好き合うと出ていたの」
「え?」
「わたくしが殿下のことを好きになると……そうね。貴女を邪魔ものとして排除していたかもしれないわ」
「そんな……」
「自分が好きになった方が蔑ろにされて黙っているような方ではないのよ。殿下は……」
アレクサンドラ様はふぅと息を吐き出した。
「だから、わたくしは殿下との関係が悪化しないように初めから貴女に勧めていたの」
私は首を傾げる。
「あのそれではアレクサンドラ様のお気持ちは……」
「……そうね。今まではその危険性があったからわたくしは一歩も二歩も殿下から気持ちを引いて過ごしていたわ」
「それでは……あの」
「フルールはマルセルルートに入ったし、マルセルルートのようないじめ倒す小姑になるつもりはないし、怒ったマルセルに殺されることもないでしょう」
「え?」
「ああ、こちらの話よ。そうねぇ。もう気持ちを抑えなくていいのかもしれないわ」
そう言ったアレクサンドラ様はそれはそれは美しい笑顔で笑う。
「ありがとう、フルールさん。今世の失敗はもしまた来世があるのならその時に生かすわ。でも、今世のゲームはこれで終わりね。今世は……殿下と過ごすわ」
アレクサンドラ様は顔を真っ赤にして囁いた。
その様子が可愛らしくて私まで赤くなる。そして、アレクサンドラ様は私の顔に顔を寄せる。
「実は殿下が一番の推しでしたの」
「え?」
「ふふふ、この事は殿下やマルセルには秘密ね。わたくし、これから最大限に恋を楽しみたいの」
アレクサンドラ様があまりに嬉しそうに笑ったので私も釣られて笑顔になった。
「はい、アレクサンドラ様」
「フルール、もうわたくしのことはお姉様と呼んで頂戴」
その言葉に私はハッとする。
「……はい。あの……お姉様」
「きゃーー。可愛いわ!! 本当に可愛いわ。やっぱり貴女が嫁いで来るまで家にいようかしら?」
「姉さん、それ本当にやめてください」
突然マルセルくんの声がドア近くから響く。
「あら、マルセル。立ち聞きなんて良くないわ」
「遅いから迎えに来ただけですよ。本当に迷惑ですからさっさと王宮に上がっちゃってください。もうすぐ殿下や姉さんは卒業なんですからね」
「そうねぇ。でも、可愛いフルールを愛でる権利はわたくしにもあってよ。姉妹ですもの」
マルセルくんが心底嫌そうな顔をする。
「姉さんが愛でるとフルールが減ります」
ブスッとした顔はきっと私には見せない顔。
「私はお姉様ともっと色々お話ししたいです。マルセルくんの小さな頃のことも聞いてみたいですわ」
「いや、フルール、それは恥ずかしいよ。それにこの人はタチが悪い。殿下の気持ちに気付いてものらりくらりと煙に巻いて蜘蛛の巣にかかった獲物を絡めとるようですよ。こんなの真似しちゃダメだ」
マルセルくんは憮然として首を横に振った。
「ほら、姉さん、殿下がお待ちですよ」
「そうね。では、フルールさん、ゆっくりお休みになってね」
「はい。ありがとうございます。あの殿下にも色々ありがとうございますとお伝えください」
「わかったわ。マルセルも一緒に帰るのよ。いいわね」
「わかりましたよ。でも、少し待っててください」
ガタリ
アレクサンドラ様は椅子から立ち上がると私に微笑んだ。そして、ドアに向かう。マルセルくんとすれ違う時に「五分よ」と言ってから部屋を退出していった。
マルセルくんはふうっと息を吐き出すと再びベッドサイドの椅子に腰を下ろす。
「フルール、姉さんにいじめられたりしなかった? 大丈夫?」
「大丈夫です。ふふふ、マルセルくんだって本当はアレクサンドラ様がそんなことをする訳がないとお思いでしょう?」
するとマルセルくんは真っ赤になる。
「まぁ、そうですね。あの人は変わってますがそんな卑怯な真似はしません」
そう言い切ったマルセルくんの自信たっぷりの様子にわたしの胸がチクンと刺さる。
もしかしたら、一番のライバルはアレクサンドラ様に対するマルセルくんのシスコンかもしれない。
私はようやくわかった胸の痛みに苦笑する。
「どうしたの?」
突然笑い出した私に顔を寄せるとマルセルくんは心配そうに聞いてきた。
「いえ、アレクサンドラ様に負けないように頑張ります!! 私も結構しつこいですし、努力とかは大好きなんです。絶対マルセルくんは百パーセント捕まえて見せます!」
「ん? 何の話だい」
「なんてもありません。負けないけど、そんな(シスコンの)マルセルくんも好きなんですよねぇ」
「僕も大好きだよ」
マルセルくんはゆっくりと私に覆い被さると私の唇にチュッと、キスを落とした。
「おやすみのキスだよ」
私は真っ赤になって頷いた。
「お、おやすみ……なさい」
「ああ、おやすみ、僕のフルール」
そう言ってマルセルくんは軽く手を振ると部屋から出て行ってしまった。
婚約者になるとはいえ、恋はまだまだ始まったばかりなのだ。
フルールは密かに気合を入れるとまずは体調を整えるために目を閉じたのだった。
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