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新しい世界

15.ベルナールの気持ち

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王宮の自室でベルナールはため息を吐いた。
今日のアンケート結果に集計されなかった束はかなりの厚さになっている。
「これほどか……」
どのアンケートにもフルールのことが悪く書いてある。それこそ、自分への告白の倍の厚さはある量だ。
マルセルの仕分けが間に合わなった一枚はフルールに見つかってしまったが本当はもっと沢山のネガティブなアンケート結果があったのた。
確かにこのことはわかっていたはずだ。今までも自分達の中に誰かが入ると必ず誹謗中傷が続く。あのダニエルに対してもだった。ダニエルは宰相の息子だが、身分は決して高くないのだ。ただ、ダニエルは自分の評価でその批判を覆している。
「まぁ、でも、フルールも素晴らしかったな」
アンケートを見て泣くか逃げるか落ち込むかと思ったが、青い顔で気丈にしていたフルールに好感を持ったのは事実だ。
実力でここにいると宣言した姿に何事にも動じない自分の心がほんの少しキュッとなったのも事実。
「これが……恋なのか?」
アレクサンドラの妄言通りに行動して愛だ恋だを経験したいと言っていたが、まぁ、本気ではなかった。自分に恋は向いてないとさえ思っていたのだ。
何しろ今まで何人もの令嬢にアプローチされてきたが心が動いたことなど皆無だった。
「そうなるように動いていたが……ミイラ取りがミイラになった気分だ」
そう言って座っているソファの背に頭を乗せた。
確かにフルールは可愛らしい。アレクサンドラが言っていたようにフワフワした金髪に吸い込まれそうな青い瞳をしている。その便りなさげな風情であの強気発言。そのギャップは中々くるものだった。
多分マルセルやダニエルもそう感じたはずだ。
このままアレクサンドラの言う通りにこうとすれば、自分はフルールに恋するのだろうか?
そして、アレクサンドラと婚約を解消するのか?
ベルナールがふぅと息を吐き出すとドアがノックされた。
「なんだ?」
「シャノワーヌ公爵家のアレクサンドラ様とマルセル様がお越しです」
「わかった。今行く」
ベルナールは一旦思考を止めて立ち上がる。

「待たせたな」
客間を自分の部屋のように寛ぐ二人に苦笑が漏れる。
「これだろう?」
ベルナールはアンケートの束をテーブルに置いた。
「ええ、そうですわ。中身を拝見してもよろしくて?」
「ああ、これもゲームにあったのか?」
「いえ、でもこの中身によっては……」
そういってアレクサンドラはアンケートを確認し始める。
「マルセル、お前はどうなんだ?」
「え? 僕ですか?」
「お前も攻略対象なのだろう? アレクサンドラの言うところの」
「まぁ、そうですね。確かにフルールのことは気になってます。本当に癪に触りますが姉さんの言った通りに」
「僕はどうだろうな。まだわからんが友人にはなったな」
「ははは、では僕の方が進んでいるかもしれませんね」
「まぁ、やめてちょうだい! マルセルルートに入ってしまったら、殿下との婚約は解消できないじゃない?」
「でも、姉さん。これは仕方がないよ。心までゲームようにはならないだろう?」
アレクサンドラはグッと言葉を詰まらせるとベルナールに迫る。
「殿下! マルセルなんかに負けないでくださいませ!」
「なんかってなんですか? たまには弟の幸せとかも考えてくださいよ」
仲の良い姉弟の喧嘩に飽きてみていたベルナールはふと思ったことを口にする。
「なぁ、アレクサンドラ。これもあの強制力というやつなんじゃないか? いくら僕がイベントを横取りしてもフルールへ気持ちが動くのはしょうがないと思う」
「……確かにそうかもしれませんわ」
小さく呟くとアレクサンドラが立ち上がった。
「そうですわ! 殿下はハイスペックですもの! 正々堂々と戦ってもフルールさんをゲットできますわ!」
アレクサンドラの訳のわからない応援と信頼に頬が引き攣る。
この世界のどこに婚約者の浮気を自信を持って進める令嬢がいるものか。
いやここにいるか……。
「まぁ、そうだな。これからはフェアに行くか」
ベルナールはマルセルに向かって親指を立てた。
「そうだ。アレクサンドラ、もうイベント無視でいいんだな?」
「んーー、そうですわね。一応出会い関係のイベントは一通り終わりましたし、あとは誰のルートに入るかによりますわ。ただ、一番危険なルート存在しなそうですから大丈夫です」
「危険なルート?」
「え? 姉さん、聞いてないよ。そんなルート」
「わたくしも、よく知らないのよ。発現条件も複雑で……。ただ、教師が攻略対象だったの。それで名前とか容姿とかで全員確認したけど該当者がいなかったわ。だから、安心して頂戴」
ベルナールはふぅと息を吐くとアレクサンドラの頭をコツンと叩いた。
「そうであっても、危険があるかもしれないのなら一人で行動するな。お前は昔から無鉄砲だぞ」
「はいはい。わかりましたわ。では、殿下、今日はこれで失礼しますわ。明日から全力でのアタックを楽しみにしております」
そっ言ってアレクサンドラはにっこりと微笑んだ。一瞬その笑顔を目を奪われたがグッと堪える。
「……ああ、任せておけ!」
二人が去った部屋でベルナールはふぅとため息を吐いた。
「確かに、確かにフルールに心は惹かれているが……これが恋となるのか?」
とにかく明日からはフルールをかけてのサバイバルだ。
多少の疑問を残したまま、ベルナールは自室に戻ったのだった。
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