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第2章 クローディアとサオリ

34、わたくし、混乱しています

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クローディアは気分転換も兼ねて薔薇園を散策していた。本来なら夕食後に予定していたがどうにも考えが煮詰まってしまったので仕方がない。そう自分に言い訳しながらもゆったりと薔薇園の中を歩いていた。
鼻をくすぐる薔薇の香りに知らず知らずに力が入っていた肩から少し力が抜けた。

「ふぅ、、。やっぱり薔薇の香りは素敵だわ。落ち着くもの。」

なんやかんやいっても幼少から通ったこの庭園はクローディアのお気に入りだった。その思い出は思い出したくはないが、、。

カサリ

クローディアの背後で物音が聞こえたかと思うと、あっという間に黒尽くめ男達数名がクローディアを取り囲んだのだった。

「何者ですか?!誰の差し金なのです!」

クローディアは冷静に男達を見据えて誰何した。

「・・・・・。」

男達は目だけをギラギラさせながらも何も言わずにスルリと剣を構える。
クローディアは護衛を待たなかった自分を呪いながらも今の状況を打開すべく周りを見回した。
男は四方に二人ずつクローディアから三メートルの距離を保ちながらジリジリとその距離を縮めていた。
クローディアは少しずつわからないように膝を折って自らのドレスの裾をたくし上げていた。
いつもクローディアは足の脛にナイフを忍ばせているのだ。それさえ取れれば護衛が来るまで何とか持ちこたえらると思っていた。

「答えなさい!わたくしは王太子クローディアですよ!!知らないとは言わせません。」

精一杯虚勢を張りながらもしっかりとした声で男達を睨みつけた。
その内の一人がサッと片手を上げた。
そして、その手が下がる時を見計らってクローディアはドレスを掻き分けてナイフを取り構えた。それと同時にクローディアに剣が振り下ろされたのだ。
クローディアは軽い身のこなしでその剣を避けると今指示を出した男を正面にナイフを構えた。
その身のこなしを見てその男は少し目を見開いてから眇める。
そして、男は先程と同じように片手を掲げた。

(不味いわ!護衛はまだなの?!)

クローディアは一人で次の攻撃を回避できるか不安にかられながらも四方から距離を縮める男達を見回した。
そして、男がその手を下に降ろした。
クローディアはその瞬間リーダーと思われる男に向かってナイフを突き出して距離を詰めるように一歩を踏み出した。他の三方からも剣が振り下ろさせる。

(殺される!!)

その時、、、クローディアの体がふわりと空中に浮かんだ。

「え?!」

クローディアをしっかりと支えた腕はそのままクローディアを小脇に抱えて背後に庇う。反対の手には剣が握られてクローディアが一矢報いようとした男の首元にピタリと押し付けられている。

「去れ!」

クローディアを抱えた男が一言述べると黒尽くめのリーダーがまたしても手を挙げると自らの後ろに手を振った。その合図で突然現れた騎士然とした数名の男達から剣を引いて音もなく立ち去ったのだった。その間数分、クローディアは漸く自分を守るように抱える男の顔を見た。

「ビ、ビクトル王子?」

初めて近くで見上げたその整った顔は自分を嫌っているはずのビクトル王子その人だった。
クローディアの思考は混乱の渦に沈んで暫し呆然と立ち尽くしていたのだった。



「何!?クローディアが薔薇園に?」

ビクトル王子は思ったよりも早くクローディアが薔薇園を訪れたと聞いて、慌てて薔薇園に向かった。

「クローディア、、、。」

報告通りクローディアは薔薇園を歩いていた。心なしか顔色は優れず少し疲れた顔をしていが、その頼りない雰囲気も新鮮でビクトル王子の視線を釘付けにしていた。

「ビクトル殿下、少しよろしいでしょうか?」

普段は決して話しかけてこない特殊組織の者が話しかけてきた事に驚きながらも頷いた。

「なんだ?」

「アッカルド王太子の周りに曲者が潜んでおります。」

「クローディアの周りか?」

「は!いかが致しましょう?」

「無論、助ける!」

そういうとビクトル王子はクローディアの方に一歩を踏み出そうとした。その時カサリという音と共に黒尽くめの男達が飛び出したのだ。
男達の手には剣が掲げられており中々近づけない。
ビクトル王子は自身も剣に手をかけてジリジリと様子を見ていた。

「何者ですか?!」

クローディアの声が響く。そして、黒尽くめの男達の第一波の攻撃が始まった。ビクトル王子の駆けつけようとした足が止まる。なぜならクローディアの華麗な動きがあまりに美しすぎた。
クローディアは身を屈めて隠していたナイフを取り出すとリーダーと思しき者に向け軽い身のこなしで剣を避けたのだ。その動きには全く無駄もなく、助けに入る隙もなかった。その鋭い視線と剣舞のような身のこなしにビクトル王子は一瞬呼吸を止めた。

(美しい!!)

しかし、次の瞬間クローディアを第二波の攻撃が襲う。流石にこれは避けきれないと判断したビクトル王子は十メートルの距離を一気に縮めてクローディアの腰を掴むとふわりと持ち上げて背後にかばったのだ。その手には長剣が握られていた。ビクトル王子に続いて部下達も飛び込んで黒尽くめの男達を取り囲んでいる。

「去れ!」

ビクトル王子の声に我に返ったかのように男達が去り、残されたのはクローディアを抱えて庇ったままのビクトル王子とクローディア自身、そしてビクトル王子の部下達だけだった。

「ビ、ビクトル王子?」

クローディアの不思議そうでいて信じられないという声が響く。その声にクローディアの距離の近さを感じたビクトル王子の心臓がドクンと高鳴った。
ビクトル王子がゆっくりとした動きで剣を仕舞うと背後に庇ったクローディアの方を見下ろした。

「ク、クローディア殿、だ、大丈夫か?」

クローディアはビクトル王子が話しかけてきたことに驚愕の表情を浮かべながらもコクコクと頷いた。その小動物を思わせる動きと先程見せた剣舞のような護身術の動きが違いすぎてビクトル王子はフッと笑ってしまった。

「え?」

「な、なんだ?」

「いえ、すみません。あ、あの、助けて頂きあ、ありがとうございます。」

そういうとクローディアは深々と頭を下げた。

「あ、ああ。し、しかし、護衛も連れず何をしている?自分の身を守る事も王太子の役割だぞ。」

クローディアは最もな進言にしゅんとうなだれた。

「はい、本当に申し訳ございませんでした。そして、、本当にありがとうございました。」

そう言ったクローディアの体が小刻みに震えている事にビクトル王子は気付いた。
すると、思わず手が伸びてクローディアの手を引くと一気に抱き寄せたのだ。

「もう、大丈夫だ。安心せよ。」

その言葉にクローディアは一瞬呼吸を止めてから一気に脱力した。そのままビクトル王子の胸に顔を埋めると嗚咽が漏れたのだった。ビクトル王子はクローディアが声を立てずに泣くことに胸が締め付けられた。少しでも安心できるようにと優しく抱きしめてその頭を撫でる。

「ず、ずみまぜん。」

「よい。恐怖は誰もが持つ感情だ。泣いて流してしまえ。」

思いがけない言葉に更にクローディアの涙がビクトル王子の胸を濡らした。
その様子に普段の毅然とした態度とのギャップを見てビクトル王子の胸が熱くなる。
そして、心臓がドクドクと高鳴りその腕に力が入る。

(守りたい!!)

ビクトル王子はその瞬間恋に落ちたのだった。
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