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第1章 悪役令嬢の帰還
7、カーティスの誤算
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「くそ!なんだってあの侍女長はローレンスが引き払った後の王太子宮の手入れをしていなかったんだ!あり得ないだろう!」
カーティスは早足で廊下を歩きながらもぶつぶつと愚痴っていた。今日は散々な日だった。クローディアはやって来るし、ローレンスは使えない、クローディアを追い返す事もできず、準備も整わず、そして、今からあのクローディアに頭を下げに行かねばならないのだ。
「はぁ、、。なんだってこんな事になったんだ??」
カーティスにとっても誤算だらけだった。クローディアが王太子としての来るのはその前に送った使者から王位継承権は放棄しないと聞いてから考えていた。しかし、カーティスは人間は変わる、成長するという事を考慮に入れていなかった。
十年前のクローディアならあの謁見内容で逃げ出したはずなのだ。あの様に大勢の前で恥をかかされることが何より苦手だった少女はもういなかった。
毅然として言い返し、王太子としての権利と権力を振りかざすとは思わなかった。
それがカーティスの敗因だ。
これからは昔のクローディアではなく、今のクローディアを観察して策を考えなければならなくなった。
カーティスは今まで自分が策に溺れていたのだと初めて気付いたのだ。
そして、今後の対策を考えた。
「当面はクローディアの世話をするフリをして観察だな。その上で、、また、、効果的な方法で追い出してあげよう!!」
カーティスはそう言った後、一旦目を閉じて十年前のクローディアを思い浮かべた。そして、今まで浮かべていた表情をガラリと変えて陶酔しているかのように天を仰いだ。
「、、、、、、。
クローディア、君がまたあの屈辱に満ちた表情を見せるのかと考えるだけでゾクゾクするよ。いやあの頃よりも今の方が美しいかもしれない。」
その瞬間にカーティスの顔には恍惚とした歪んだ感情が浮かんでいたのだった。
ローレンスでさえカーティスのクローディアに対する嗜虐的な欲求には気づいていないだろう。
カーティスは一旦立ち止まると直ぐにいつもの飄々とした表情に戻してからコホンと咳払いをするとクローディアがいるであろうエントランスに向かった。しかし、そこには既に誰もいなかった。
「一体どこに行ったんだ?」
すると二階の客間の方から人が出入りする音が聞こえてきた。カーティスが不審に思って様子を見に行くとそこには探していたクローディアの側近であるバーナードが使用人に次々と指示を出していた。
「バーナード?」
カーティスは懐かしい顔を見つけて思わず名前をが口に出た。
バーナードとカーティスはカーティスがクローディアのフォローをしている時からの顔なじみだった。
「カーティス様、、。」
バーナードの顔があっという間に無表情になり、慇懃無礼に頭を下げた。
「ご無沙汰しております。カーティス様。この度は王太子殿下の側近として参内いたしました。お見知りおきください。」
バーナードの言動、それだけ見ても当時から決して仲の良い間柄ではなかった事が伺える。
「バーナード、クローディア王太子殿下はどちらだ?」
「少々お待ちください。」
バーナードがススっと動いて部屋の中に吸い込まれていった。
カーティスはその後ろ姿を見て、相変わらずだなと考えた。
確かクローディアが社交界にデビューする時に不安そうなクローディアを見かねたローレンスから頼まれたのがきっかけだった。クローディアが十六歳になる前だから既に十二年以上が経っている。
色々あったがその過程でバーナードには嫌われてしまったのだ。きっと自分がクローディアに感じている嗜虐的な感情がなんとなく伝わってしまったのではないかと踏んでいる。
その後のサオリ絡みのゴタゴタでお互い話しかける事もなく過ごしたが、、、実はバーナードには一度だけ頭を下げられたことがある。
言わずと知れたあの事件の時だ。
ローレンスがサオリに夢中になりクローディアを蔑ろにし始めた時に突然バーナードが訪ねて来たことがあった。もちろんバーナードの願いはローレンスを止めて欲しいというものだったが、当時は王命でもあったし、そこにほんの少しはカーティス自身の趣味が含まれていなかったとは言わないが素気無く断ったのだ。
それ以来の会合だった。
暫く待たされた後、バーナードが戻ってきた。
「カーティス様、大変申し訳ございません。クローディア王太子殿下は貴方様にお会いになるお暇はないそうでございます。」
「な、なんだと!?私はわざわざ執務室の用意を伝えにきたのだぞ!確かに王太子宮の準備には少し時間がかかるが、それだってこの様に足を運んで謝ろうとしているのだぞ!」
カーティスの如何にもやってやっているという態度にバーナードは眉を寄せた。それに気づいたカーティスはハッとして言葉を改めた。
「バーナード殿、大変失礼した。クローディア王太子殿下もお忙しいのに先触れも出さずにお訪ねして申し訳ないとお伝えして頂けないだろうか?」
カーティスが漸く自分の非礼に気付きバーナードにもそれ相応の対応をとって頭を下げた。そうなのだ。もうクローディアは王太子でバーナードは王太子の側近なのだ。もちろんカーティス自身は王の側近なのでバーナードよりは地位は上になるが非礼をとっていい相手ではなかった。つい昔のように接してしまっていた自分自身をすぐに見直した。
これが出来るからカーティスは今の地位まで上り詰めたのだ。
突然態度を改めたカーティスを苦々しげに見つめたバーナードはそれでもにっこりと微笑んで頷いた。
「はい、承知いたしました。カーティス様。お手数ですが執務室については明朝補佐の方と共にお越し頂けますでしょうか?」
「わかりました。それでは今日の所は失礼いたします。」
そう言ってカーティスは内心湧き上がる一方的に日時を指定された不愉快さを感じさせずにバーナードの前から立ち去ったのだった。
カーティスが持っていた書類はぐしゃりとつぶれていて見る影もなかった。
カーティスは早足で廊下を歩きながらもぶつぶつと愚痴っていた。今日は散々な日だった。クローディアはやって来るし、ローレンスは使えない、クローディアを追い返す事もできず、準備も整わず、そして、今からあのクローディアに頭を下げに行かねばならないのだ。
「はぁ、、。なんだってこんな事になったんだ??」
カーティスにとっても誤算だらけだった。クローディアが王太子としての来るのはその前に送った使者から王位継承権は放棄しないと聞いてから考えていた。しかし、カーティスは人間は変わる、成長するという事を考慮に入れていなかった。
十年前のクローディアならあの謁見内容で逃げ出したはずなのだ。あの様に大勢の前で恥をかかされることが何より苦手だった少女はもういなかった。
毅然として言い返し、王太子としての権利と権力を振りかざすとは思わなかった。
それがカーティスの敗因だ。
これからは昔のクローディアではなく、今のクローディアを観察して策を考えなければならなくなった。
カーティスは今まで自分が策に溺れていたのだと初めて気付いたのだ。
そして、今後の対策を考えた。
「当面はクローディアの世話をするフリをして観察だな。その上で、、また、、効果的な方法で追い出してあげよう!!」
カーティスはそう言った後、一旦目を閉じて十年前のクローディアを思い浮かべた。そして、今まで浮かべていた表情をガラリと変えて陶酔しているかのように天を仰いだ。
「、、、、、、。
クローディア、君がまたあの屈辱に満ちた表情を見せるのかと考えるだけでゾクゾクするよ。いやあの頃よりも今の方が美しいかもしれない。」
その瞬間にカーティスの顔には恍惚とした歪んだ感情が浮かんでいたのだった。
ローレンスでさえカーティスのクローディアに対する嗜虐的な欲求には気づいていないだろう。
カーティスは一旦立ち止まると直ぐにいつもの飄々とした表情に戻してからコホンと咳払いをするとクローディアがいるであろうエントランスに向かった。しかし、そこには既に誰もいなかった。
「一体どこに行ったんだ?」
すると二階の客間の方から人が出入りする音が聞こえてきた。カーティスが不審に思って様子を見に行くとそこには探していたクローディアの側近であるバーナードが使用人に次々と指示を出していた。
「バーナード?」
カーティスは懐かしい顔を見つけて思わず名前をが口に出た。
バーナードとカーティスはカーティスがクローディアのフォローをしている時からの顔なじみだった。
「カーティス様、、。」
バーナードの顔があっという間に無表情になり、慇懃無礼に頭を下げた。
「ご無沙汰しております。カーティス様。この度は王太子殿下の側近として参内いたしました。お見知りおきください。」
バーナードの言動、それだけ見ても当時から決して仲の良い間柄ではなかった事が伺える。
「バーナード、クローディア王太子殿下はどちらだ?」
「少々お待ちください。」
バーナードがススっと動いて部屋の中に吸い込まれていった。
カーティスはその後ろ姿を見て、相変わらずだなと考えた。
確かクローディアが社交界にデビューする時に不安そうなクローディアを見かねたローレンスから頼まれたのがきっかけだった。クローディアが十六歳になる前だから既に十二年以上が経っている。
色々あったがその過程でバーナードには嫌われてしまったのだ。きっと自分がクローディアに感じている嗜虐的な感情がなんとなく伝わってしまったのではないかと踏んでいる。
その後のサオリ絡みのゴタゴタでお互い話しかける事もなく過ごしたが、、、実はバーナードには一度だけ頭を下げられたことがある。
言わずと知れたあの事件の時だ。
ローレンスがサオリに夢中になりクローディアを蔑ろにし始めた時に突然バーナードが訪ねて来たことがあった。もちろんバーナードの願いはローレンスを止めて欲しいというものだったが、当時は王命でもあったし、そこにほんの少しはカーティス自身の趣味が含まれていなかったとは言わないが素気無く断ったのだ。
それ以来の会合だった。
暫く待たされた後、バーナードが戻ってきた。
「カーティス様、大変申し訳ございません。クローディア王太子殿下は貴方様にお会いになるお暇はないそうでございます。」
「な、なんだと!?私はわざわざ執務室の用意を伝えにきたのだぞ!確かに王太子宮の準備には少し時間がかかるが、それだってこの様に足を運んで謝ろうとしているのだぞ!」
カーティスの如何にもやってやっているという態度にバーナードは眉を寄せた。それに気づいたカーティスはハッとして言葉を改めた。
「バーナード殿、大変失礼した。クローディア王太子殿下もお忙しいのに先触れも出さずにお訪ねして申し訳ないとお伝えして頂けないだろうか?」
カーティスが漸く自分の非礼に気付きバーナードにもそれ相応の対応をとって頭を下げた。そうなのだ。もうクローディアは王太子でバーナードは王太子の側近なのだ。もちろんカーティス自身は王の側近なのでバーナードよりは地位は上になるが非礼をとっていい相手ではなかった。つい昔のように接してしまっていた自分自身をすぐに見直した。
これが出来るからカーティスは今の地位まで上り詰めたのだ。
突然態度を改めたカーティスを苦々しげに見つめたバーナードはそれでもにっこりと微笑んで頷いた。
「はい、承知いたしました。カーティス様。お手数ですが執務室については明朝補佐の方と共にお越し頂けますでしょうか?」
「わかりました。それでは今日の所は失礼いたします。」
そう言ってカーティスは内心湧き上がる一方的に日時を指定された不愉快さを感じさせずにバーナードの前から立ち去ったのだった。
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