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プロローグ
発端・2
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2
ごろん。
もやが霧散し、そこには代わりに、少女がうつ伏せで転がっていた。
淡く光を帯びているように見える、美しく波打った長い金髪が背中を覆う。左側頭部だけ金髪をかき分けるように、尖った耳がぴょこんと飛び出していた。
下半身に視線を移していくと、革製のローファーを履いている小さな足が目に入る。そこから黒いタイツが伸びて細い足を覆い隠していた。
なぜ服の記述が無いのかは、簡単に想像がつくと思う。
「…………命令だよ。服を着て」
すぅ、と少女の白い裸体を覆い隠すように、白と黒を基調とした、いわゆるゴシックロリータ趣味のワンピースが現れた。
それでも微妙にいたたまれなくなって、ふと、少年はちらりと後ろを振り返る。
(親父……)
彼の父親は、そこで生ごみになっていた。赤と白が目に映える。鉄パイプの刺さったその屍体はある意味、芸術的とも言える見事な――、
「うっ……お゛え……」
努めて冷静にいるつもりではあったが、そのあたりが限界だった。手近な瓦礫の陰に走り込み、うずくまる。胃の中身が逆流し、口から吐き出される。新しい池が一つ、造り上げられた。
黄色い、酸っぱい液が喉を焼く。
「ぜっ、は――――ッ、はっ! はぁ、はぁ……」
動悸がおかしい。呼吸が上手く出来ない。肺に息が入らない――、次第に、酸欠になってくる……、
「助けて……」
「全く、声に出すのが遅すぎる。落ち着け」
だが、少女の声一つで、それは全て正常に戻った。
「ぜっ、は……。何が――、いや、そうか、『命令』として処理したのか……」
「不愉快な事だが、お前が口に出さなければなにも力を使えないんだ。これくらいの融通を利かせるのは許して貰いたいものだな」
少年が振り返ると、彼女はうつ伏せのまま、嘲笑していた。――もちろんそれは、ふがいない彼女自身に向けてだろうが。
少し赤みのさした頬、薄いさくらんぼ色の柔らかそうな唇、小さな鼻がちょこんとついている。前髪が軽くかかった細い眉毛の下に、エメラルドグリーンに輝く大きめの瞳。今は死んだ魚のような目をしているという事実は、この際置いておこう。
「しかし参ったな……。これは矢島も使わなかった手だぞ? 完全にやられた。……私が人の前にこの姿で顕現するなど、矢島を例外とすれば一体何年ぶりだ。はぁ……」
そしてそのまま、自虐するように言葉を吐き出している。身体も声も少女然としていたから、妙な言葉遣いは少年に違和感を覚えさせた。
ごろん。
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淡く光を帯びているように見える、美しく波打った長い金髪が背中を覆う。左側頭部だけ金髪をかき分けるように、尖った耳がぴょこんと飛び出していた。
下半身に視線を移していくと、革製のローファーを履いている小さな足が目に入る。そこから黒いタイツが伸びて細い足を覆い隠していた。
なぜ服の記述が無いのかは、簡単に想像がつくと思う。
「…………命令だよ。服を着て」
すぅ、と少女の白い裸体を覆い隠すように、白と黒を基調とした、いわゆるゴシックロリータ趣味のワンピースが現れた。
それでも微妙にいたたまれなくなって、ふと、少年はちらりと後ろを振り返る。
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黄色い、酸っぱい液が喉を焼く。
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動悸がおかしい。呼吸が上手く出来ない。肺に息が入らない――、次第に、酸欠になってくる……、
「助けて……」
「全く、声に出すのが遅すぎる。落ち着け」
だが、少女の声一つで、それは全て正常に戻った。
「ぜっ、は……。何が――、いや、そうか、『命令』として処理したのか……」
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「しかし参ったな……。これは矢島も使わなかった手だぞ? 完全にやられた。……私が人の前にこの姿で顕現するなど、矢島を例外とすれば一体何年ぶりだ。はぁ……」
そしてそのまま、自虐するように言葉を吐き出している。身体も声も少女然としていたから、妙な言葉遣いは少年に違和感を覚えさせた。
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