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13 私を守る者

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 日が暮れてしばらく経った頃、松明を持った近衛騎士隊達が先頭に立ち、出発の準備を整えてる。

「皆! 日も暮れてきた、直ちに出発をするぞ!」
「「「おぉう!!!!」」」

 リオラルド様が号令をかけると、多くの騎士隊が返事を返す。
 私とソフィアも先頭を歩く近衛騎士隊の後ろをついていく。

「はぁ……まったく、夜だと言いうのに元気なものね。それに松明って……肌が乾燥しちゃうわ」
「……ソフィアお嬢様、わがままを言わないでください。これも聖女の力を持つ者の役目です」
「……はぁ、それなら私は聖女の力なんてなくていいのに」

 近くで小言を呟くソフィアはレイモンドに任せる事にして、私は傍にいるポールに視線を向ける。

「ポール、一気に制圧してしまいましょう。そして侵略されている区域を魔物から奪取するのよ」
「えぇ! 私も精一杯善戦したいと思います」
「期待しているわよポール。……サポートは私に任せて頂戴ね」
「はい!」

 しばらく進むと農地区域に入り、至るところに黒ずくめの魔物がうずくまって眠っているのが確認出来た。
 すると、先頭集団の近衛騎士隊の弓矢を取り出し、リオラルド様が手を上げる。

「構え――」

 リオラルド様の手が勢いよく降ろされる。

「――撃っ!!!!」

 すると、数多くの弓矢が魔物の集団に降り注ぎ、一網打尽に仕留めていく。
 打ち損じた魔物がすぐさま目を覚まして辺り一帯に赤い瞳孔が光り輝き始める。

 ――予想以上に、魔物が多くいたのだ。

 ……だが、そんな事は近衛騎士隊から話は聞いていたので、私は集団から飛び出し次の作戦に入る。

「皆さん! 目を瞑ってください!」

 私の号令で皆が手で目を塞ぐ。
 皆を見渡した後、私は魔物達に右手を向けて――

『フラッシュ!』

 ――手のひらから光り輝く球体を魔物の集団に放ち、魔物達の視覚機能を一時的に奪う。

「グゥッ!!」

 光に目が奪われた魔物はその場にうずくまる。
 光が収束したのを確認した後、私はすぐに声を上げる。

「今です! 一斉に畳みかけてください!」
「「「「おおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 私は号令と共に近衛騎士隊に右手を向けーー

『フルブースト・アクア!』

 ――ポールにかけた防御魔法の全体魔法をポールも含めた近衛騎士隊全員に施した。

 

 グシュッ……グシャッ……ズバァァンッ!!!

 それからは見るまでもなく近衛騎士隊達の圧倒的な有利な状況を作り出し、瞬く間に占領されていた農地区域の奪還に成功した――と誰しも思ったその時、上空から何モノかが舞い降りてくる。

 ――ズシィィンッ!
 ひときわ大きな足音が鳴り響き、大きな翼を生やしたドラゴンが姿を現した。

「ギシャアァァァァァッ!!!!!!」

 耳がおかしくなる程の咆哮と共に、口から火球を何発も放ってくる。
 その一つが私に向かってものすごい速さで迫ってくる――

「えっ!」
「……っ! アリエルお嬢様、危ない!!」

 ポールは私を守るように抱きしめてくる。
 次の瞬間――

「グアアァァァッ!!」

 ――私を強く抱きしめるポールの断末魔にも似た声が耳元で鳴り響く。
 私とポールは強い衝撃で吹き飛ばされ、後方にあった大きな樹木にぶつかって地面を倒れ込む。

「痛っ! ……ポ、ポールっ!?」

 私はポールに守られて軽傷で済んだのだが、私を守ったポールは私にもたれかけてくるように脱力する。

「……うぅ……あ、アリエルお嬢様、ご……ご無事ですか?」
「ご、ごめんなさいポール! 私を守る為に……一体何が起きたのよ」

 周りを見渡すと、他の火球による被害は出ていないようで、すぐさま近衛騎士隊は姿を現したドラゴンの対応を初めていた。

「しばらくは持ちそうね……ポール、背中を見せてみなさい!」

 私はポールに視線を戻すと、ポールを樹木の物陰に移してうつ伏せに寝転がせる。

「……痛っ……うぅ……」
「……これは……酷いわね」

 背中の鎧は貫通し、ポールの背中からは骨が見えており血が噴き出している。
 私の防御魔法が無かったら一撃で即死モノだったでしょうが……それでも致命傷とも言える程の傷をポールは負っていた。

「ど……どうしよう……どうすればっ!」

 混乱する私は、ひとまず深呼吸をして落ち着かせる。

「……ふうぅ……」

 ……以前ポルンに魔法を使った時、脳裏に流れ込んできた呪文の中で私は今、使えそうな魔法を探し出す。

 ――――――これだっ!

「……ポール、今治してあげるわ」

 私は、血だらけのポールの背中に両手を添える。
 両手が血だらけになるのも気にならないぐらいポールの温もりを感じながら私は目を瞑り――

『リザレクション!』

 ――両手が光り輝き、私の手をつたいポールの体が光に包まれる。
 最上位の治癒魔法だけに、眩しくて目が開けてられず私は再び目を瞑る。



 光が収まると、私は目を開ける。
 すると、ポールの背中の傷は塞がっていた。

「やった! ポール、もう大丈夫よ!!」

 私の声に反応するかのように、ポールはうつ伏せだった体をムクッと起こして手で背中をさわる。

「……ほ、本当だ! 致命傷だとおもったのに……アリエルお嬢様、ありがとうございます!」

 いつもの笑顔を向けてくるポールに私は思いっきり抱き着く。

「よかったっ! ……ポールゥっ!」
「わわっ!」

 ポールは驚きながらも優しく受け止めてくれる。
 ……だけれど、ポールはすぐに私の肩に手を置く。

「アリエルお嬢様。……まだ、終わってはいない様です」
「……えっ」

 顔を上げるとポールはドラゴンの方に視線を向けており、未だにドラゴンは猛威を振るっていた。

「行きましょう、アリエルお嬢様!」
「……そうね。ポールを傷つけたのだもの。懲らしめてやらないと!」

 ポールは微笑みを浮かべながら剣を持ち、凛々しい顔に変わり私と共に前線に駆け出した。



「ギシャアァァァァァッ!!!!!!」 

 相変わらずドラゴンは、耳がおかしくなる程の咆哮を鳴らしながら近衛騎士隊に猛威を振るっている。
 あのソフィアもさすがに負傷者の治療をしているので、ホッと安堵しながらドラゴンを睨みつける。

「ポールをあんな目にあわせるなんて……絶対に許さないんだから!」

 私はドラゴンに向かって右手を向け――

『アブソリュート・ゼロ』

 ――私からドラゴン目掛けて一直線上に絶対零度の氷河を作り出し、瞬く間にドラゴンの口と手足は氷漬けになり体の自由を奪う。

「今よポール! ……それに皆も! 一気に一網打尽にしてやりなさい!」

 私の掛け声で、リオラルド様や周りの近衛騎士隊は一斉にドラゴンに剣を向けて襲い掛かり――

 ――ズバズバズバズバァァァァァァァァァッ! 
 数多くの剣がドラゴンに降り注ぎ、身動きができないドラゴンはその場で絶命する。

 パリィィィン!
 ドラゴンの体の自由を奪っていた氷は勢いよく割れて散っていく。

 ――ドシィィィィンッ!
 体が自由になったドラゴンはその巨体を地面に叩きつけるように倒れた。



 ――シーーーーンッ
 あたりに静寂が訪れる。

「「「「「うおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 そしてすぐさま近衛騎士隊の歓喜の声が辺りにとどろく。
 私はその場に座り込み、喜ぶ騎士隊を眺めていた。

「……終わりましたね。アリエルお嬢様」

 すると、私に近寄ってきたポールは座り込む私に微笑みを向けてくる。

「えぇ、そうみたいね。……ポール、ご苦労様だったわ。……それと、さっきは私を守ってくれてありがとう」
「私は当たり前の事をしたまでですよ。……私はアリエルお嬢様を守る騎士ですからね」

 ――ドクンッ
 剣を握る凛々しいポールの顔を見て、何故か胸が高鳴る。

「……そうだったわね」

 自分の身をていして私を守ってくれたポールに、私は不思議な胸の高鳴りを感じながらも心の底からポールに感謝の笑顔を向けるのだった。
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