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28 二人の救世主

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俺はエイルがラミリアの体に起きた異変を解析している中、シャルロッテに視線を向ける。

「シャルロッテ、先にエリナベル軍をネルド村に向かわせるように指示を出しておいてくれないか?」
「……そうですね。分かりました! アーノルドは?」
「俺はアラバスト軍に自国へ戻ってもらうように言ってみる」
「えっ!? 言う事を聞いてくれるでしょうか……」
「……まぁ、俺に任せてくれ!」
「わかりました。それでは私はエリナベル軍の兵士の方達に指示を出してきますね。また後で会いましょう」
「あぁ」

シャルロッテと別れた後、俺は先ほど取り込んだアラバスト軍がいた何もない荒野の方に視線を向ける。
そして、誰もいない空間に右手を向け――

『ホーリーゲート・リバース』

――先ほどと同様に内側が純白な輪っかを出現させ、瞬時に大きな輪っかへと変わっていく。
そして中から先ほど取り込んだアラバスト軍を地面に吐き出す。

「うぅ……ここは……そうか、私達は進軍を……だが、私たちは何で進軍をしていたんだ……?」
「……分からない、早急にアラバスト王国に帰り確認しなければっ!」

悪意が浄化されたアラバスト軍の兵士達は自分たちが行っている事に懐疑的かいぎてきな状態となっていた。
そんな兵士達を横目に――

「……おい、レオナード、俺の声が聞こえるか?」

――悪意が浄化された糞レオナードに俺は話しかける。

「うぅ……アーノルドか……我は一体……」
「お前達はエリナベル王国に侵略を開始したんだよ。いい加減、アラバスト王国に帰ってくれないか?」
「何と……我らがそんな事を……急いでアラバスト王国に戻り、今回の侵略の是非を確認しなければ!」
「そうだな。ついでにお前の親父のギルガスにも言っておけ。もう二度とエリナベル王国に関わるなってな」
「……わかった。我からも進言しておこう。ではアーノルド……いずれまた会おう」

そうレオナードが呟くと、兵士達に指示を出しアラバスト王国へと向けて進軍を始めた。



遠ざかっていくアラバスト軍を眺めていると、シャルロッテが駆けつけてくる。

「アーノルド! アラバスト軍が引き返していますが……要望に応じてくれたのですか!?」
「ん? ……あぁ、アラバスト王国に帰ってくれたぞ。それと、もう二度とエリナベル王国に手を出さないようにも釘を刺しておいた」
「なんと……あの大軍を説得するなんて……さすがアーノルドです!!」

俺と言うか魔法のお陰なんだけど、説明するのも面倒なので特に指摘しないでおこう。

「それはそうと、エリナベル軍も移動し始めたみたいだな」
「はい。ネルド村にカンク帝国とエラルド公国が攻め込んでいる旨を伝えたので、すぐにネルド村へと向かってくれるとの事です」
「そうか……間に合うといいが」

正直、ここからネルド村に向かうとなるとある程度の時間はかかる。
エイルはラミリアの身に何かが起きたと言っていたが……大丈夫なんだろうか。
俺が思考を巡らしていると――

≪……やりました! アーノルドさ~ん! 解析をした結果、ラミリアさんの体には外部から体を制御できる術式が刻まれているようです~!≫

――甲高い声が脳裏に響く。

(……体の制御だって? ……あまりいいモノじゃなさそうだな。エイル、その術式を壊すことはできないのか?)
≪もちろんできますよ~! ですが~、その為には私がラミリアさんの元へ移動しないといけないんです~。なのでその間、ちょ~っとだけアーノルドさんの体に負担がかかっちゃうんですよ~≫
(あぁもう! 俺の体の事はいいから早くやってくれ!!)
≪わっかりました! それじゃ私がいない間、体が辛いと思いますが頑張ってくださ~い!≫
(あぁ、頼む!)

エイルの声が聞こえなくなった次の瞬間――

「……ぐぅっ!」

――俺の体にものすごい疲労感が襲ってきた。

「……っ!? だ、大丈夫ですかアーノルド!?」

俺はその場に膝を付き、地面に手を突く。

(……なんだこれ。いままで感じたことのない不快感だ)

体からエイルがいなくなった事で、本来の状態に戻ったというのか。
おそらく、今日はいろいろ無茶をし過ぎて体が既に悲鳴を上げていたのだろう。

(……このままじゃ……意識が途切れてしまいそうだ)

俺は襲い掛かってくる眠気に耐えていると、俺の中にエイルが戻って来た感覚を得る。

≪ふぅ~お待たせしましたアーノルドさ~ん! 私がいない間、体は大丈夫でしたか~?≫

エイルが体に戻ってきた事で、体の疲労感は綺麗さっぱり消えていた。
子供の頃からずっと一緒だから気づかなかったが、俺はこの能天気な女神に守られていた事を知る。

(……あぁ、お陰さまでな)
≪良かったです~! ラミリアさんの体を制御していた呪縛は私が壊しておいたので、もう大丈夫だと思いますよ!≫
(……そりゃよかった)

俺はエイルの声を返答しつつ立ち上がり、シャルロッテに視線を向ける。

「……すまんシャルロッテ、ちょっと眩暈めまいがしただけだ」
「そうですか……何かあったかと心配しました」

安心した表情を浮かべるシャルロッテを見つつ、俺はエイルに問いかける。

(……それで、ネルド村はどんな状況だったか分かったか?)
≪あ、そうです~! ラミリアさん越しにネルド村を見たのですが、多くの家から火が上がってて大勢の兵士から襲われているようでした~!≫
(……はっ!? ……マジかよ)

予想以上にネルド村の状況は深刻なようだった。

(……エイル! すぐにネルド村に帰る方法はないのか?)
≪すぐにネルド村に行く方法ですか~……あ、それならアーノルドさんがネルド村に転移すればいいじゃないですか~?≫
(……は? 転移ってなんだよ)
≪私がさっきしたみたいに、瞬時に遠くへ移動する事です~!≫
(そんな魔法……俺には刻まれてないぞ?)
≪ふっふっふ~転移は女神である者にしか扱えない魔法なのです。エッヘン!≫

無駄に威張るエイルにムッとしてしまう。

(それは早く言え! それでエイル、転移ってどこにでも移動することができるのか?)
≪それが、私と精神を繋げた方の所しか行けないんです~! なので、ラミリアさんの元でしたらすぐに転移することが出来ますよ! よかったですね~あらかじめラミリアさんと精神をつなげておいて~!≫
(あぁもう!! 御託ごたくは良いから早く頼む!)
≪もう、そんなに焦らせないでくださいよ~。それではいきますね。じっとしていてくださ~い≫

俺はエイルとのやり取りを済ませると、シャルロッテに俺が今から行う事を簡単に説明する。

「それじゃ、シャルロッテ。俺は魔法で先にネルド村に戻れるみたいだから戻るな」
「……えっ!? ネルド村に?」
「あぁ、細かい説明は後でするから、後で合流しよう!」
「……はい、アーノルド! ネルド村をお願い致します。私も後で駆け付けますね!」
「よろしく頼むな!」

俺はシャルロッテに微笑みかけながら、手に持つ剣を強く握りしめる。
足元に魔法陣が浮かび上がったと思うと、視界が次第に光り輝き俺は光に包まれる――



――視界の光が収まったその瞬間、俺の目の前には以前ネルド村を襲ってきたイスラが剣を振り降ろす寸前だった。

(……っと、うわっ!!!!)

――ガキィィィン!
俺は手に持つ剣でなんとかイスラの剣を受け止める。
剣を持っていなかったら俺は死んでいたぞ。

(おいぃぃ!! どこに転移させてんだよ、このバカエイル!!!)
≪わわ! ラミリアさんの位置情報を元に転移したらこんな場所に……すみませ~ん!≫

エイルの言葉を聞いて後ろを振り向くと満身創痍まんしんそういのラミリアとリーシアがいた。
……どうやら最悪の状態にはなっていないようで安心する。

「ふぅ……どうやら、間に合ったみたいだな」

二人は俺の見つめると、驚きを通り越した表情を浮かべ――

「……あ、あ……アーノルドぉ!!!」

――リーシアに抱きかかえられているラミリアが俺の名前を叫びながら涙を流し始める。
村に入ってきていた兵士は全員倒れているし、リーシアは体中傷だらけだが大事が無いようだ。
俺はホッと胸を撫でおろしながら視線を前に戻す。

「お前……覚えてるぞ。確か、前にこのネルド村に来たイスラってやつだな」
「……ふふ、また会ったなアーノルド! ……だが、どうやって我の前に現れたのだ!」
「転移魔法さ。……残念だったな、俺が来たからにはこのネルド村を好きにはさせない!」

俺はそう言うと、イスラの剣を思いっきり弾く。

――キィンッ!
イスラは少し後方に下がり、体勢を整える。

「ふん、まぁいい。もうしばらくしたらカンク帝国もこのネルド村に到着するのだ。どちらにしてもお前達のネルド村はもう終わりなのだよ!」
「……はぁ、勝手に終わりにしないでくれるか? こいつらを治してやらないといけないし……早く終わらせよう」

俺はそう呟くとイスラに右手を向け――

『アストラルウェイブ!』

――超絶強力な神聖魔法を放ち、二人を危険な目に合わせたイスラに向かって巨大な蒼白い衝撃波を放った。

「ヒィッ!」

――バゴゴォォォォォォンッ!
イスラは勢いよく後方に吹き飛ばされ、外壁に勢いよく激突する。

「……グハッ!」

そのまま地面に倒れ込み、動かなくなる。

「……ふぅ……ごめんな。俺の判断ミスでこんなことに――」

俺は一息いれながら、後ろに控えている二人に謝罪をしながら振り向くのだが――

――ギュッ!
振り向いた俺に二人は思いっきり抱き着いてくる。

「うわっ!」

――ドスンッ!
二人が飛びついてきた勢いで俺は盛大に尻もちをついてしまう。

「痛てて……もう、なんだよ急に」
「うぅ……アーノルド!!」

俺にめちゃくちゃ顔をこすってくるラミリアは好きにさせるとして、リーシアは涙を流しながら俺を睨んでくる。

「……もう、遅かったじゃない!!! もう少しで死んじゃうところだったんだから!」
「ごめんって!! ってか、お前めちゃくちゃ傷だらけじゃないか。特に足とかヤバいな……」
「えっ! ……あぁ……ちょっとね」
「……イスラにやられたんだろ、酷いなこりゃ」
「そ、そうね。……でも、ラミリアさんが私やネルド村の皆を守ってくれたのよ!」
「おぉ、そうか!」

歯切れの悪いリーシアを横目に、俺にしがみ付いて離さないラミリアの肩を掴み強引に剥がす。

「俺がお願いした通りネルド村とリーシアを守ってくれたらしいな。よくやったラミリア、偉いぞ!」

俺は優しくラミリアの頭を撫でてやった。

「ん~……♪ ……ウン! 私、頑張っタ!」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃのラミリアの笑顔を見ながら俺はラミリアの体を見渡す。

「ラミリアは……特にケガとかはないな。……よし、リーシア。すぐに傷を治すから見せて見ろ」

こうして俺は大切な二人の女性を守る事が出来たのだった。
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